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第4話 カワイイは正義! 異論は認めない

「大丈夫ですか~?」


 っ痛……。目が覚めると目の前に女神様がいた。そうか、また死んだのか。短い転生期間だったが、前世と同じでろくでもない人生だったな。


「ちゃんと入口の注意書き読みました~? 『神の(ほこら)。信じるものは救われる。さあ、中にお入りなさい。(注:悪魔とアンデッドが侵入すると天罰が下ります)』って書いてたんですけど?」

「あ、そうだったんスね。自分、転生間もなくて、こっちの字が読めないもんで」

「なるほど~。転生者の方ですか?……って転生して悪魔って前世でどんな悪行を……」


 若干引き気味の女神様が一歩後ずさりながら言う。


「サザ○さんのカツオ並みのイタズラしかしてないつもりですけどね。悪徳企業の社員だったけど、人(だま)すのがイヤで売上0だったし。自覚なく悪行重ねてたのかな。転生に備えて、災害の時はポイントで寄付もしてたんですけどね」

「何言ってるのか全然分からないですが、私の知らない世界から来たことだけは分かりました」


 むー。神様のくせに知らないとは。全知全能ってわけではないのな。しかし、エムエルも美人だったが、この女神様はレベチだ。身長は150cmちょい位の小柄な体系だが、チャップマンの剛球並みに他を圧倒する、美少女アニメの主役といった顔立ち。白いふわふわしたワンピースを着ていて、金色の髪はまばゆく発光している。


「……なんで土下座してるんですか?」

「いや、あまりの神々しさに体が勝手に」


 女神様はまんざらでもなさそうに、クスクス笑い出した。


「悪い人ではなさそうですね。ひょっとしてゴッドエラーかもしれません」

「ゴッドエラー?」

「たまにあるんです。死者が立て込んでいる時に、間違えて転生させてしまうことが」


 この女神様、とんでもないこと言ったぞ。ていうか神様なんだろ、間違えんなよ。

 顔に気持ちが出ていたのか、女神様は慌てて両手をパタパタさせた。


「まだ、そうと決まったわけではありませんから! 今から調べて見ますから、ちょっと待っててくださいね」


 そういうと、女神様はオレの頭に右手をかざし、目を閉じた。その瞬間、体が黄金色のオーラに包まれて温かくなる。


「……。善人レベル7ですね」

「善人レベル?」

「善人レベルは10段階で、レベルが高いほど高貴な者に転生できます。レベル7は天界に転生するような善行は積んでないけど、悪魔に身を落とす程の悪行はしていない。この世界に転生するなら、そこそこ良家の貴族か裕福な商家に転生できるレベルですね」

「つまり……」

「ゴッドエラーです。すみません」


 女神様がウインクしながら、てへぺろした。カワイイ。可愛すぎる。可愛くなければ神をも恐れぬ怒りのこぶしを顔面に叩き込んでいたところだ。やはり、カワイイは正義の伝説はまことであった。


「間違いってことが分かったんで、サクッと真人間に再転生をお願いします」

「ごめんなさい。それは出来ないんです」


 申し訳なさそうに、女神様は頭を下げた。真剣な顔で謝るところ、冗談ではなさそうだ。


「ゴッドルール7条によると、一度転生したものは、その生涯を閉じるまで再転生できないとあります。加えて、悪魔が真人間に再転生するとなると、相当な善行を積まないと難しいかと」

「いやいや、ちょっと待ってください。あなたに言ってもしょうがないですけどね。他に言う相手がいないんで、言っちゃいますけど」

「はぁ」


 キョトンとする女神様。


「あってはならないミスで、僕はこんな理不尽な状況に(おちい)ったわけです。そりゃ、ミスは誰にでもあります。神様がミスるなんてどうなんだってところはありますが、それは置いといて。大事なのは失敗した後の対処だと思うんです。ミスって力のない悪魔に転生させられた上、悪魔のくせに善行積まないと来世がないとかあんまりじゃないですか? これは、個人の問題ではなく、神様組合としての組織の問題じゃないんですか?」


 悪徳企業で(つちか)った社会人トークで詰めると、女神様はみるみる顔色が青くなった。


「ごめんなさい! でも、来世が無いわけではないんです! ただ、善行を積まないと次は虫とか…」


 とんでもないこと言っちゃたよこの人! いくらいじめられっ子ベテランのオレでも怒るぞ。さすがにマズい気配を感じたのか、女神様が両手を横にブンブン振りながら言った。


「再転生はできませんけど、救済措置はあります! ゴッドルール7条但し書きによりますと、誤転生が判明した際には、その発見者の神から恩恵を与えることができるとあります」

「つまり、チート的なものを女神様がくれるんですか?」

「はい!」


 なんだ、それを早く言ってくれよ。無敵のヒーローになれる力があれば、なんとかなるもんな。


「じゃあ、そのチートをお願いします」

「では……。あ、申し遅れました。私はこの世界サンバルトンの南部担当神、フロラと申します。設定年齢は17歳です」

「設定年齢は聞いてませんが、ありがとうござます。私の名前はこの世界では、タナトスだそうです」

「タナトスさん、では改めて……」


 女神様が真剣な顔で右手をかざした。オレは(ひざまず)いて両指を組んで目を閉じる。


「女神フロラに名に置いて命ず。なんじ、誤転生者タナトスに救いを。この者に、レベル5デスの魔法を付与し給え」

「???」


 胸の中が一瞬ポッと温かくなり、そして消えた。フロラがニッコリと微笑(ほほえ)んだ。


「これでタナトスさんにレベル5デスの魔法が付与されました」

「あのー、大体想像つくんですが、一応その魔法の説明をお願いできますか?」

「レベルが5の倍数相手にこの魔法をかけると死にます」

「一応聞きますが、それ以外のレベルの相手だと?」

「ピンピンしてます」

「……」


 オレはひざまずいた状態から両手を着いて四つん()いの体制に崩れ落ちた。いや、全然チートじゃないよね。てか、女神が授ける魔法じゃないよね。


「そ、それだけじゃないです! なんと相手のレベルが分かるゴッドグラスをプレゼントします。この伊達(だて)メガネを掛ければ、相手がレベル5デスが効くかどうか分かりますよ!」

「ふ~ん」

「あ、あとレベル5デスは即死とは限らないです。魔法をかける時、24時間以内で、いつ、どこで、どのように死亡するか術者が選択できるのです!」

「絶対、悪魔が使う魔法ですよね」

「タナトスさんは悪魔なので、ピッタリだと思うのですが」

「この魔法でがんばって善行を積めと」

「……」

「チートチェンジで」

「ごめんなさい。ゴッドルール7条第2項によると一度付与した恩恵は変更できません」

「てんめぇぇ!!!! オレがルッキズムの権化だからって、いつまでも調子に乗ってじゃねえぞ!!! なにがチートだ! なにが神の恩恵だ!! 5人に1人にしか使えないポンコツ魔法じゃねえか~!!!」


 いつもは真冬の弁当のようにクールなオレだが、気が付けば女神の胸倉むなぐらつかんでいた。フロラは大きな目を見開いて金魚みたいに口をパクパクさせている。


「ごめんなさい! ごめんなさい!! そうですよね、分かりやすい圧倒的な力がいいですよね。でも、私、下位の女神なんでそんな力は付与できなくて。それに……」

「それに?」

「ゴッドルール7条但し書きの続きに、付与できる恩恵は誤転生者の現在に相応ふさわしい力に限るとありまして……」

「ゴッドルールの改変を要求するー!!」


 そう、叫んだものの、涙目のフロラを見て、オレは冷静さを取り戻した。こんなカワイイ子を泣かしちゃイカン。あの有名マンガの名犬も言ってたじゃないか。配られたカードで勝負するっきゃないと。

 気を取り直して考える。えーと、とりあえず、相手のレベルが分かるわけだから、勝てない相手は逃げの一択。5分の1の確実に勝てる悪党を見つけて、始末して善行を重ねるって感じか。急に黙ってあれこれ考え出したオレの顔を不安そうにフロラが見上げる。


「……あの、私にできることがあれば、今後もサポートしますので」

「あぁ、ありがとう」

「タナトスさん。生きてくださいね。生きて善行を積んでください。私、ずっと祈ってます」


 目をウルウルさせて、フロラは言った。やはり女神だ。美しいものに美しい心は宿るのだ。


「タナトスさんが善行を積めば、私の女神ポイントも加点されるので」


 前言撤回ぜんげんてっかい。見た目に(だま)されてはいけないということを学んで、オレは異世界で大人の階段を一歩上がった。

 今回は初めて長めのエピソードになりました。これからは、週1程度でマターリ更新していきます。気が向けばお付き合いください。

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