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第45話 昔々、リゾート・ラバーズなる言葉があったそうな

「納得できません! なんで、魔族を私だと勘違いするんですか!」

「まぁまぁ。体型は確かに似てますし、セーレちゃんも可愛いですから」

「可愛くても、セイレーンですよ! 私、神ですよ! 普通、間違わないでしょ!!」


 女神フロラが激おこである。プンスカしてても、安定の可憐(かれん)さはさすがだが。


「でも、みんな感謝してましたよ。『やはり、フロラ様は我々の守護神だ。これからも、フロラ様を信じていけば間違いない!』って」

「いや、信者が増えたことは嬉しいんですけど、みんな、私を水の女神だと思ったじゃないですか!」

「セーレちゃん、派手に消火活動してくれましたからね」

「私、光の女神なんですけど!! しかも、お礼に信者たちが銅像作るとか言ってるじゃないですか。それも、セーレちゃんそっくりの!」

「あー、それは勘違いが既成事実化されてマズイっすね。なんとか阻止しときます」

「頼みますよ! ほんっとに、もう!」


 腕組みして、プク顔するフロラ。セーレの活躍がなかったら、フロラ神社も灰になっていたかもしれないことを考えれば、銅像の1つも建ててもバチは当たらないと思うが、(とう)の女神がお怒りなので、やはりバチが当たるんだろうな。そのセーレはといえば、夏祭り終了後、魔界へと帰っていった。


「鹿男さん、ありがとうございました。最っ高の思い出が出来ました!」

「いや、こちらこそありがとうございますだよ。セーレちゃんがいなかったら、大惨事だったんだからさ。でも、オレの暗殺命令無視したまま、魔王様のところに戻って大丈夫?」

「あはは。魔王様、私にゾッコンだから、大丈夫ですよ~。最初にチャームかけてますから、チョロいもんです。『失敗しちゃった~、テヘ♡』とか、言っときますね!」


 魔王にチャームをかけるとは、末恐ろしい子だ。ていうか、簡単に部下に魔法かけられる魔王って……。他人事ながら、心配だぞ。


「……エムエル様。私のステージ、どうでした?」


 おずおずと聞いたセーレに向かって、エムエルはニコッと笑うと、サムズアップした。その瞬間、セーレは、はち切れんばかりの笑顔を浮かべ、エムエルに抱きついた。


「ウワー! 嬉しいよぅ! エムエル様ー!!」


 涙を流しながら喜ぶセーレに、エムエルはやさしく頭ポンポンしてやる。オレとモーリスが『えー話やー』ともらい泣きして、涙と鼻水で汚い顔になっていた(さま)を、若干引き気味に他のお仲間たちが見つめていた。



「あー、何もやる気がしねー」


 フロラ夏フェスも無事終わり、燃え尽き症候群となったオレが、天守閣でダラダラと横になっていると、


「ちょっと、ダーリン! 耳よりなニュースよ!」


 メグミーヌが何やら手紙を握りしめて駆け込んできた。


「なになに? 宝くじの必勝法でも見つかったの?」

「そんなの都市伝説よ! それより、王女様からパーティーの招待状が届いたの!」

「へー。マダムはウォールダム王国では顔が利くから、そういう社交界のお誘いもあるんだろうね」

「まぁね。で、最近ブイブイ言わしている鹿男さんも是非にと書いてあるわ!」

「あー、そういうのパス」

「なんでよ! 王室とお近づきになる絶好のチャンスなのよ!」

「理屈は分かるんだけど、堅苦しい席は苦手でさ。それにオレ、夏祭りが終わって真っ白な灰になっちゃったのね。つーわけで、マダムに全権委任しまーす」

「なんたる怠惰、怠慢! 日本が衰退したのはこういうクラゲ男のせいね……」


 メグミーヌが呆れて額に手を当てる。そんなこと言われてもねぇ。オレ、日本背負ってないし。第一、ここ異世界だし。


「せっかく、日本で言うところの軽井沢的なエーデル・ヴァレイの王家別宅に招待してくれるのに。ドレスコードもカジュアルでいいから、そんなに肩ひじ張らなくても……」

「え? ひょっとして、会場ってリゾート地なの?」

「ウォールダム王国の富裕層では、夏の避暑地として定番のとこよ」

「それを早く言ってくれよ、マダム! 疲れた心身を癒やすには、リゾートバカンスに限るからね! 行ったことないけど」

「はぁ~。現金な男ね。まぁ、いいわ。2人で夏のリゾートを楽しみましょ!」

「ヤッホイ!」

「ちょっと待ったー!」


 早速、旅行の準備をしようと腰を上げると、エミリールが声を上げた。


「なんだ、エミリール君。君は呼ばれてないぞ」

「そうよ、エミリール。今回は私のターンなのよ。おとなしく、ここでピヨカンのお守りでもしてなさい」

「ちょっ! 2人とも大事なこと忘れてない? 招待されたのは鹿男でしょ?」

「そうだけど」

「パーティーにはファーストレディも同席するものでしょ?」

「あっ!」


 オレとメグミーヌは、顔を見合わせて目をぱちくりする。そうか。忘れてたけど、対外的にはこのエルフ、鹿男(オレ)の嫁さんだったな。


「エミリールにしては、良いところに気が付いたじゃないか」

「ていうか、一応、私妻なんですけど! 忘れるなんてひどくない!」

「フッ。忘れるわけないじゃないか、ハニー」

「……社長」


 うっとりと、目を潤ませるエミリール。もちろん、忘れてました。すみません。


「まぁ、外交儀礼は大事にしないとね。だけど、王室とのパーティーが終わったら、鹿マスクを脱いだダーリンとバカンスを楽しむんだから、その時は私達の邪魔しないでよね!」

「オホホ。仕方ないですわねぇ。ちょっとだけ夫を貸して差し上げますわ」


 なぜか、上から目線のエミリールが正妻ムーブを発動し、それが気に入らないメグミーヌが歯ぎしりしている。せっかくリゾートバカンスと洒落込むのだから、不毛ないがみ合いはやめて欲しいもんだ。そう思っていたら、今度は、エムエルが横から口を挟んだ。


「私も行くわ!」

「だから、あなたはお呼びじゃないのよ!」

「戦闘力0の2人で、タナトスに何かあったらどうするつもり!」


 あー、さすがにエムエルはまともに心配してくれてるんだな。だが、もっともなツッコミにメグミーヌが逆ギレした。


「なめんじゃないわよ! 私が毎朝、日課の太極拳やってるの見てるでしょ!」

「私も良く考えれば、ダーツが特技です!」

「絶っ対!! ついていきます!」


 2人の発言を聞いて、エムエルがきっぱりと断言した。まぁ、そうなるよね。オレも、エムエルがいてくれた方が何かと安心です。


「まぁまぁ、マダム。エムエルにはメイド役でもやってもらったらどうかな?」

「それなら同行できなくも無いけど……。あなた、ダーリンの温情に感謝しなさいよ!」


 メグミーヌがプリプリしながらそう言い放った。という訳で、仲良く4人で慰安旅行に繰り出すことになったのだった。

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