第32話 どんぎつねは油揚げの化身らしい
社名で身バレするタナトス・ファーマーズは内部秘とし、農産品は統一ブランド『ディア&ディアー』で売り出すことにした。収穫したピヨカンは、見栄えする木箱に、エミリールの落書きを元に作った鹿印の焼き印を入れて、ウォールダム王始めサンバルトン各地の有力者に献上している。評判は上々で、『ディア&ディアー』の農産品はピヨカン以外も高品質に違いないとの風評が立ち、他の野菜やくだものも完売御礼となっている。そのため、農地のさらなる拡大が急務となってきた。さっそく、サナエちゃんが焼畑農業に手を付けようとしたのをなんとかなだめて、現在、エルフの皆さんが突貫工事で、森を開墾している。その作業のためエルフ族の移住が進み、このたび正式に、タナトス城のふもとに第2エルフ村の設立が宣言された。以来、初代村長に就任したエミリールが、『私が村長』という紅白タスキを掛けて張り切っている。
「村長、ご相談が……」
「何度言ったら分かるの! 村長じゃなくて、村長よ! このおバカ!」
どっちだっていいだろ。おバカにおバカ呼ばわりされる他のエルフの皆さんが哀れだ。そんなアンポンタン村長は、以前オレとサナエちゃんにガン無視された花の栽培を始めるそうだ。メグミーヌも、花は好きだし化粧品の香料にも使えるからと協力している。なんだかんだで、この2人は気が合うらしい。ついでに、ハーブ園を作ってくれとリクエストしたら、
「社長! 私と秘密の花園でハーブティーを楽しみたいってことね。任しといて!」
と、ノリノリでOKしてくれた。そのハーブはオレの入浴剤用ということは内緒にしておこう。それから、急増したエルフ族の住環境を整えるべく、ベルハルトに依頼して、ドワーフ開拓団を招聘した。彼らには農業の機械化にも力を貸してもらう予定だ。そんなこんなで最近、タナトス農園はアチラコチラでトントンカンカンと作業音が鳴り響き、活気づいている。オレはといえば、デンキチさんの温泉採掘に期待しつつ、ベルハルトと素敵なスーパー温泉計画を検討していた。
「というわけで、ジェットバスの吹き出し口は2か所ないし4か所が、オレの前世ではデフォでした。しかし! このタナトス・ウルトラ銭湯では、8つのジェット水流により、クビからお尻まで隈なく極上の癒しを提供したいと思うのです!」
「うむ。数が大いに越したことはないぞ。あと、メグミーヌのエステを併設するのはどうだ?」
「リゾート&スパですか⁉ それも良いですね。さらに、オーベルジュ的要素をプラスすれば、富裕層相手にガッポガッポ! って、いや、しかし……」
「ん、どうした?」
「いや、悪魔の分際で、今更良い人ぶるつもりもないんですけど、風呂に関しては、みんなが気軽に楽しめるものにしたいんですよね。金持ち向けを別に作るのはアリとしても、基本は誰もが気軽に楽しめるスーパー銭湯を作りたいなと」
「お前のそういう甘っちょろいところは嫌いじゃないぞ。どっちも成功させようじゃないか」
こんな巨大プロジェクトは前世ではとんと縁がなかったからね。妄想が膨らんで、なかなか楽しいぞ。一方、メグミーヌはといえば、農作物から加工品を鋭意開発中だ。
「化粧品と健康食品はね、見えないくらい小さく『※効果には個人差があります』って書いとけば詐欺じゃないから。さあ、ジャンジャンバリバリ稼ぐわよ!」
どうも、この人の商売はいずれ手が後ろに回りそうな匂いがプンプンするんだよな。でも、この世界じゃ一応成功者だし、とりあえず、好きにさせておこう。さすがに人体に害のあるものは売らないだろ。……売らないよね?
そんな風に、コマネズミのごとくせわしなく動き回っていたある日、獣人族が集団でタナトス農園を訪れた。動物が進化してそのまま2足歩行しているような者もいれば、おっ、ケモミミもいるじゃないか。
「ちょっと、お尋ねします。獣人鹿男様の領地はこちらでしょうか?」
「えっ⁉ あ、まぁそうですね」
「是非、お取次ぎいただきたい!」
真剣な目で、オッサンのケモミミが訴えかけてきた。まいったな。大体、この土地もエルフから借りてるだけだし、獣人鹿男なんて、そもそもいないんだけど。でも、そんなコトを口にする訳にもいかないので、
「分かりました。私が取り付いできますので、しばらく後に城へお越しください」
そうケモミミに伝えたオレは、猛ダッシュで城へ帰ると、鹿の被り物を装着して、獣人族の来訪を待ち構えた。程なく、エルフの案内人に連れられて、獣人族の皆さんがやってきた。先ほどのケモミミのオッサンが挨拶する。
「鹿男様、どうか我々を配下にお加えください!」
「ブヒッ⁉」
ケモミミがキョトンとしている。あ、びっくりしてブタと間違えた。ゴホン、ゴホン。咳払いで誤魔化す。
「いきなり失礼しました。私は魔王領にある獣人族の里のガステオと申します。現在、我々の土地はやせ衰え、皆ひもじい思いをしております。その上、魔王様への年貢も納めなくてはならず、このままでは、一族みな飢え死にしてしまいます! そんな中です、農業界のシューティング・スター、鹿男様の噂を耳にしたのは! 生きていくだけの食糧をお恵みいただければ、力の限り働きます。同じ獣人のよしみで、どうか我らをお救いください!」
「ケーン」
確か、鹿の鳴き声はこんなんだったかな。さて、面倒なことになったぞ。第1にオレは獣人じゃない。し。第2に魔王国とはなるべく関わりたくない。人手不足の解消にはなるし、見るからに難儀している獣人族を哀れに思う程度の人の心は残っているけど……。そうだ、エムエルに丸投げしよう。うん、それが良い。四天王だし、悪いようにはしないだろ。そう思っていると、
「鹿男様! どうか父の願いを聞いてください!」
まぁ、なんということでしょう! 全オスの憧れ、リアルど〇ぎつねさんが、目の前にいるではないか。しかも、その隣にはロリ心をくすぐる、妹らしきタヌキのケモミミ娘までいて、上目遣いに聞いてきた。
「……ダメですか?」
「義を見てせざるは勇無きなり、なんだなケーン」
困っている人を見捨てるわけにはいかないからね。というわけで、獣人族の皆さんも新たに移住することが決まったのだった。
目の前にど〇ぎつねさんがいるなら、仕方ないよね。




