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第30話 金のためならなんでもするズラ

 いよいよ、恋するスキンヘッドガールがタナトス領に襲来だー!

「今日はマダム・メグミーヌが視察に来る日だ! みんな、粗相(そそう)の無いように!」


 3日前、天守閣のテラスで雲を見ながら歯磨きしていたら、白い伝書鳩が飛んできた。右足に巻き付いた手紙を広げて見れば、『休暇が取れたので、いま、会いに行きます♡』と(しる)され、真っ赤なキスマークが添えられていた。ウゲッ。こんなことする人、ホントにいるんだな。んで、今日はそのメグミーヌが到着する日。酒さえあればご機嫌なのは分かっているが、酔った勢いでまたズラを投げ捨てて、ア〇ラ100%ばりの裸芸でも始めたら後の始末が大変だから、酒の用意はやめといた。というわけで、今朝はみんなで手分けして、掃除やら片付けやらをしていたのだが、エミリールが一人憮然(ぶぜん)としている。


「社長。めずらしく、気を使っているけど、そんなに気難しい人なの?」

「エミリール君が可愛く見えるくらい、ヤバイ人だ」

「やだっ! 私の魅力にやっと気が付いたのね!」

「冗談言ってる場合じゃないぞ。下手すりゃエミリール君は解雇だ」

「えっ、クビ!? こんなに献身的に尽くしてきた私を何の権利があって……!」


 とか言い合っていると、メグミーヌが4頭立ての豪華な馬車に乗ってやってきた。御者(ぎゃしゃ)が扉を開けると、その手をとって、彼女が馬車を降りてくる。どうせ、ピンクのフリフリドレスに金髪縦ロールだろうと思ってたら、予想を裏切られた。さらさらストレートロングの黒髪にナチュラルメイク、品の良いシルバーグレーのドレスを身に(まと)ったその姿は、貴族令嬢もかくあらんだ。


「タナトスさん、ごきげんよう。異世界にはミスマッチな純和風ではあるけど、ホントに城持ちなのね。さすが、未来の旦那様」

「マダム、はるばるこのような辺境の地へ、ようこそいらっしゃいました」


 思わず、敬語が出てしまう。


「あらあら。私とあなたの仲じゃない。堅苦しいのは無しにしましょう」

「はぁ。それにしてもですね……」


 オレはメグミーヌの耳元で小声で(ささや)いた。


「キャラ変し過ぎじゃないですか?」

「言ったでしょ。私、空気読む派なの。今日は万人受けするキャラで行くから、そこんとこよろしく」


 メグミーヌが片目を(つむ)って、いたずらっぽく微笑(ほほえ)んだ。この人、今日みたいな清楚系でいると超美人じゃないか。ダメだ、一皮むけば、女小峠(ことうげ)と分かっていても恋に落ちそうだ。落ち着け、オレ。相手はズラだ。ズラズラズラ……。心の中でズラを10回ほど唱えて、なんとか平常心を取り戻したズラ。とりあえず、タナトス・ファーマーズの愉快な仲間をご紹介だ。

 農業ゴーレムのサナエちゃんに建築ゴーレムのデンキチさん。あと、エルフの皆さん。これで、一通り説明できたかな。


「ちょっと、社長! 私、ちゃんと紹介されてないんだけど!」

「えっ? さっきエルフの皆さんって、ちゃんと紹介したじゃないか」

「確かに私もエルフだけど、その他大勢扱いしないでよ! 私、セリフ量的には準主役級のポジションでしょ!」

「タナトスさん。この騒がしいお嬢さんは?」


 メグミーヌが小首を傾げる。


「あ、こいつはエミリール。秘書兼雑用係です。視力8.0が唯一の取り柄です」

「ちょっ! 視力以外にも色々あるわよ! 能ある鷹はナントカっていうでしょ!」

「ふーん。見た目は合格ね。美しいエルフのお嬢さん。これから、一緒にこの農場を盛り上げていきましょうね!」

「はっ、はい!」


 珍しく容姿を褒められて、エミリールがドギマギしている。残念な出会いに始まり、共に過ごした時の中で、さらに残念な中身が露呈したため、まったく魅力を感じていないが、こいつもみてくれだけはA級なんだよな。


「さて、タナトスさん。ピヨカン農場を見学させてもらっても?」

「もちろんです。ささ、こちらへ!」


 なぜか、オレまでドギマギしている。この人、ズラのくせにフェロモン()きすぎて悪酔いしそうズラ。仰せのままに、ピヨカン農場に1名様ご案内。入口の看板はこの前、現地語で『ピヨカン小学校』に書き換えたばかりだ。監視所に上がって、農場を視察してもらう。この日に合わせて、急ピッチで園内を整備し、内側は立派な小学校になっていた。ピヨカン達も元気いっぱい、だいぶ大きく成長している。てか、大きくなりすぎじゃないか? 小玉スイカくらいあるぞ。


「まぁ、丸々と太って! これなら出荷時には、基準をクリアしそうね。あとは味さえ良ければ、ウォールダム王に献上できるわよ」

「王様に献上? そんなことできるんですか?」

「私を誰だと思っているのよ! それなりに王侯貴族とコネは作っているわ。王室御用達の箔が付いたら、後々の売り上げも違うしね」

「へへへ。そうなれば……」

「ガッポガッポよ。ここにジュリアナ作っちゃうわよ!」

「ヒャッハー! そしたらミラーボールを回して、サタデー・ナイト・フィーバーっすね、姉御(あねご)!」


 意気投合したオレ達は、ステイン・アライブを口ずさみながら、仲良くボックスステップを踏んだ。当然、エミリールがジト目で見ているが、構うものか。踊る阿呆(あほう)に見る阿保(あほう)、同じ阿保(あほ)なら踊らな損損♪

 サタデー・ナイト・フィーバーって、タイトルからパリピ映画と思われがちだけど、何気に社会派ドラマだよね。

 次回更新は、5月31日(土)の予定です。

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