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第29話 動物のはく製は金持ちの家あるあるだよね

 散々飲んだくれた挙句、スキンヘッド乙女の恋の導火線に着火してしまったタナトスさん(悪魔)。そろそろお開きのようです。

「私も一応売れっ子だから、スケジュール調整しないと急には動けないの。でも休暇が取れ次第、そちらに向かうわね。ちなみに、嫁入り道具はざっと見積もっても馬車5台分はあるけど、ご自宅に入るかしら?」

「メグミーヌさん、ただの農場見学ですからね。身軽で来てください」

「あらあら。私としたことが。さすがに先走り過ぎたかしら、オホホ」


 オホホと言いながら、目が血走っているのが怖いぞ。とりあえず、この場からさっさとずらかろう。


「お邪魔しましたー」

「ちょい待ちっ! 顔がア〇ターのままよ!」

「あっ、そうでした。危ない危ない。また、落ちないファンデを塗って……」

「バカね! 私がいないのに、どうやってそのメイク落とすのよ。そうだ、いいものがあるわ」


 メグミーヌがそう言って、壁に飾ってあった鹿の頭を持ってきた。


「いや、逆に目立つでしょ」

「大丈夫よ、獣人だと言い張れば。私もお忍びで下町に行くときに被ってるんだから。ほら、お揃いの(ひづめ)もあるわよ」


 なんでこの人の変装は鹿なんだ。うん、考えるだけ疲れるのでやめよう。とりあえず、鏡に映る鹿になった自分を観察してみる。若干雑な感じは否めないが、フロラのカモフラ魔法もまだ効いているはずだし、まっ、大丈夫だろう。そんなわけで、獣人鹿男に変身したオレは、リヤカーを引いて王城を後にした。城門をくぐる際に、門番に何か言われるかと思ったが、拍子抜けするほどスルーだった。王様、セキュリティ脆弱(ぜいじゃく)過ぎませんかね。


 そんなこんなで、ウォールダム王国を後にし、途中立ち寄ったフロラの(ほこら)では、お土産がないとプンスカされたりして、3日後の夕方、やっと愛しのタナトス城に戻ってきたのだった。


「あー、疲れたー」

「タナちゃん。お帰りだわさ」


 農業ゴーレムのサナエちゃんが出迎えてくれた。久しぶりに我が家に帰ってきたぞ。さすがに、ちょっとくたびれた。


「サナエちゃん、とりあえずお風呂に入りたいんだけど」

「それなら外に出るといいべよ」


 外? サナエちゃんに言われるまま、城の外に出てみると、小さいながらも立派な露天風呂が出来ていた。


「Wao! ワンダフル! どうしたのこれ?」

「ワシガツクッタ」

「デンキチさん! お帰りなさい!」


 建築ゴーレムのデンキチさんが帰ってきていた。


「ケイムショノヘイ、デキタカラ、タメシニツクッテミタ」

「お試しレベルじゃないのが、デンキチさんですね。つうか、アレは、刑務所ではないんですが」


 どことなく、ドワーフ温泉の岩風呂に似ているのは、きっとあっちもデンキチさんが作ったからに違いない。さっそく湯船につかれば、目の前には夕日に映えるタナトス城。なかなか良い眺めだ。


「う~ん、絶景かな、絶景かな。これで温泉だったら言うことないな」

「ソウイウトオモッテ、イマ、サイクツシテイル」

「マジっすか!? 温泉でてきたら、いっそスーパー銭湯始めてもいいですね。実は、銭湯の番台に憧れてたんですよ」


 温泉同好会のオレの頭脳とデンキチさんの技術があれば、最高のスーパー銭湯ができそうだ。この辺一帯、温泉観光地として開発しても、おもしろいかもしれない。久しぶりに童心に帰ってワクワクしながら、その晩は旅の疲れもあって、ほどなく爆睡したのだった。


 すっかり寝過ごして昼前に起きた次の日。あくびをしながら、ピヨカン農園を訪ねてみると、見上げるほど高い塀に囲まれたソレは、要塞と化していた。隙間なく並べられた黒い板塀は5mはあるだろうか。四隅にはサーチライトのようなものが設置され、正面には物々しい両開きの正門が鎮座している。その右の柱には木製の看板が掲げられ、達筆の日本語で「ピヨカン刑務所」と書かれていた。むー。内容も使用言語も全て間違っているぞ。


 「すみません、デンキチさん。看板の文言(もんごん)は後で書き直してもらえますかね」


 そうおれが(つぶや)いた時、正門の上に設置された物見やぐらから、聞き慣れた甲高(かんだか)い声が聞こえた。


 「そこっ! ピース助、ちゃんと水浴びしなさい! 水分補給しないとシワシワになるわよ!」


 見上げれば、エミリールがメガホンを持って叫んでいた。そういや、昨日見かけなかったな。


「おーい。エミリール。何してるんだ?」

「あっ、社長! お帰りなさいっていうか、24時間監視しろって言ったの社長でしょ! おかげで、ずっとこの監視所で缶詰状態なんだけど!!」


 そんなこと言ったっけ? あぁ、何かそんな感じのこと言った気もする。『エミリール君、君を24時間監視マシーンに任命する。これは、おれの故郷では選ばれた上級国民しか得られない称号だ。誇りを持って任務に励みたまえ』とか、なんとか。


「悪い悪い。交代するから、休憩するといい。長時間労働は美容に大敵だぞ」

「助かるわ! 徹夜続きで、もう限界だったのよ!」


 監視所に上がってみると、農園が一望できた。園内は工事中らしく、土木作業員と化したエルフの皆さんがせっせと働いている。どうやら、校舎や遊具らしきものを作っているようだ。塀の内側では、別のエルフが虹や動物などのファンシーな壁画を描いている。外から見る印象とは真逆だな。そんな中、ピヨカン達は、元気に園庭を跳ね回っていた。


「脱走防止の塀の設置と併せて、ピヨカン小学校の設置基準を満たすように、中もデンキチさんに監督してもらって、建設中だべさ。これで、出荷の際には、ちゃんとピヨカンの名称が使えるべ」

「基準を満たしてないと、ピヨカン名乗れないの?」

「その場合はピーピー8号って名前で売らないといけなべさ。ピヨカンの半値くらいになってしまうべ」


 ふーん。異世界にもJAみたいなのがあるんかな。しかし、デンキチさん、相変わらず仕事がマッハだな。オレ、数日家開けただけだけなんだけど。工事に合わせて移住してきたのか、エルフの皆さんの数も増えてきた気がする。なんだか、大所帯になってきたな。これから、忙しくなりそうだ。

 いよいよタイトルが、『百姓悪魔』とか『ムッツリスケベ悪魔の建国記』とかの方がしっくり来る展開になってきましたが、この先どうなることやら。

 次回更新は5/23(金)の予定です。

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