第2話 シンジ君、僕は逃げてもいいと思うんだ
「どう見ても悪魔だな、コレ」
鏡に映った自分を眺めてみる。身長は180cmはありそうだ。体系は細マッチョ。肩にかかるセミロングの髪はサラサラ。顔も醤油顔のイケメンである。……顔が青色で角が一本生えてなければ。どうやら、ここは異世界で、悪魔、それもどうやら四天王とやらに転生したらしい。そんでもって、このタナトスという悪魔はあまり有能ではないけど、魔王の気まぐれで最近四天王に抜擢されたそうだ。ちなみに先代の四天王は魔王の妾に手を出して、1ヶ月前に灰にされたとのこと。ドラキュラ風のドキュエルとフランケン風のラトロルの二人はこの100年、灰にされずにずっと在籍しているそうだ。大したもんだ。その辺りの事情を教えてくれたのは、もう1人の四天王で紅一点のエムエルだった。
「それで、どうするのよ? 明日までに村の1つも消さないと、あなたが消されるわよ」
むー。悪魔というか、どっちかというと天使だなこの人。自分より身長は少し低いが女性にしては長身だろう。褐色の肌はマグカップみたいに艶々していて、腰までかかった綺麗な白髪が映える。そして、出るところは出て、引っ込んでるところは引っ込んでいる理想的なボディ。でもって、白い翼まで生えてるし。なんでも、魔王の嫁さん候補だとか。
「よく分からないけど、オレって強いの?」
「この前、人間の村に行って、自警団にタコ殴りにされて、泣きながら逃げ帰ったの忘れたの?」
マジか。なんで、この人四天王になれたんだろ。どうせ、魔王の気まぐれで、エンピツ転がして適当に決めたんだろ。
「……ばっくれるか」
「見つかったら殺されるわよ」
「ですよねー」
異世界に転生して早々に詰んだ。なんだこの無理ゲー。
「まぁ、ダメ元で逃げるなら南ね」
「南?」
「南には神の祠があるじゃない。悪魔のあなたが入れるかは怪しいけど、神様っていうくらいだから、かくまってくれるかも」
「悪魔でも?」
「…………」
黙りやがった。まぁ、力の有無は置いといても、さすがに人殺しはできないし、神様ならまた転生させてくれるかも。試してみるか。
「まぁ、行ってみるよ」
「……そう。幸運を祈っているわ」
「ありがとう。そんなことを美人に言ってもらえて、いい冥土の土産ができたよ」
「あなたって、時々キザなこと言うのよね」
そう言って、少し頬を赤らめながらエムエルは苦笑した。