第9話 森牛はちょっと臭みがあるので、良く加熱していただきます
「デス! デスデス!! デスデスデスデース!!!!」
バッファローのような魔獣の群れにレベル5デスをかけまくる。数十頭のうち、3頭程がバタンと倒れた。不穏な空気を悟った他の魔獣たちは逃げるようにその場を去っていった。
あれから、食料になりそうな獲物を求めて森を彷徨っている。最初はゴッドグラスで相手のレベルを確認していたが、そもそも5分の1の確率なので、なかなか適当な相手がいない。そこで群れを作っている団体さんを見かけると、手あたり次第レベル5デスをかけまくる作戦に変えてみた。ちなみに、デフォだと倒した相手が土くれになってしまうので、討伐後は美味しくいただけるという都合の良い条件を付している。おかげで、大抵の獲物はごちそうなのだ。今回の3頭の魔獣はデンキチさんがリヤカーに乗せてくれた。もちろん、リヤカーはメイドインデンキチである。
「すみませんねぇ。大工のデンキチさんにこんなことまでお願いして」
「アサメシマエヨ」
デンキチさんとはなんだかんだで打ち解けた。でかすぎるマイホームは、室内が黄金の茶室ばりに金ピカで落ち着かなかったけど、欄間の細工の丁寧さを褒めると、デンキチさんの目がピンクに光り、
「オマエ、ナカナカミルメアル」
とフレンドリーになった。意外とちょろいぜデンキチさん。そんなこんなで仲良くなったデンキチさんは、次の仕事が決まるまでここにいてやるから、何か他にやることないかと言ってくれたので、今は一緒に狩りをしている。とはいえ、食べるのはオレ1人(デンキチさんのエネルギー補給源については今だ不明)なので、余った分は保存食に加工するか、エミリーヌが来た時にエルフの兄ちゃん達に持って帰ってもらっている。こんな調子で不定期に貢物をしているので、エルフの皆さんにも一定の信用をしてもらった。
今回はオレの分は1頭で十分なので、2頭分はエルフにおすそ分けしよう。これは結構な量なので喜んでもらえるんじゃないかな。よし! これを手土産に遅まきながら、村長に挨拶に行くとしよう。
そんなわけで、魔獣2頭を手土産に村長へご挨拶しにエルフ村を訪れた。エルフの村はオレの住んでいるところから、東に歩いて半日足らずのところにある。村の中にはキノコみたいな屋根のかわいい家が数十件建ち並んでいる。家の数から察するに、人口は百数十人といったところだろう。村長は村の入口まで出迎えに来ていた。
「やあやあタナトス君、はじめまして。わしが村長のモーリスじゃ。いつもすまないねぇ」
「はじめまして、村長さん。いやいや、大したことではないですよ」
「アサメシマエヨ」
今までの貢物効果か、他のエルフの皆さんも好意的な目でオレ達を見ているのが分かる。村長は貢物の魔獣を見ると歓喜の声を上げた。
「なんと! これは立派な森牛ではないか! しかも2頭!!」
「森牛って言うんですか? 一応、血抜きはしときましたんで。なんなら解体もやっときましょうか? といっても、やってくれるのはデンキチさんですが」
「アサメシマエヨ」
「おぉ! 何から何まですまないねぇ。森牛のステーキなんて、何十年ぶりのことか。しっかりウェルダンに焼いていただくとしよう。いやはや、さすがエミリールが見初めた男だ!」
「ふふん。そうでしょう! ……って何言ってんのよ、おじいちゃん! そんなんじゃないから!」
「ホッホッホ。照れるでない。グフフ。よいではないかよいではないか」
「言い方がヤラシいんだよ!」
エミリールが顔を真っ赤にしながら、村長の胸ぐらをつかんで上下に揺らしている。仲良きことは美しきかな。ん? エミリールって村長の孫だったのな。
「タナトス君。君の今までのエルフの民への尽力、そして今日、実際に君と接して悪しき者ではないことが良く分かったよ。これからも、隣人として仲良くお付き合いいただきたい」
「ありがとうございます。では、あの森にしばらく住んでも……」
「もちろん! ところで、孫娘は若干性格に難ありだが、見てのとおりルックスは良い。エルフ族との友好のしるしに……」
「孫をモノ扱いしてんじゃねーぞ、ジジイー!!」
またしても顔を真っ赤にしたエミリールが、おじいちゃんからジジイに降格した村長の首を絞めている。喧嘩するほど仲が良いとはこのことだ。微笑ましいなぁ。