太田の推理
太田と小林は捜査員の聞き込み情報を整理しながら監視カメラの映像を確認する。
小林がリモコンを操作し太田に説明を始めた。
「ご覧ください、4月2日の店内の様子です」
「……畑中克典は調理、容子も給仕をしているな」
太田は顎をさすりながら不鮮明な映像をじっと見る。
「はい、店員や客にも聞き込んだところ2人が店で働いていたと証言しました」
2人は監視カメラの時刻を確認する。……正午過ぎ
調査済みだがもちろんカメラを加工した後はない。
2日に山岡が犯人に会っていた午後12時頃には2人とも都内から車で1時間はかかるこの店で働いていたことになる。往復で2時間はかかる計算だ。
アリバイは実証されたとみていい。
……しかし太田はどこか引っかかる。
従業員はシフト制で男3名、女5名のアルバイトを抱える。
顔写真や経歴などを追いなから太田はふと頭をよぎることがあった。
「もう一度あの店にいってみるよ小林くん」
「何か思い付かれたので?」
訝しむ小林に太田は頷く。
「……うん ちょっとしたことだがね」
「はなや」のカウンター席で軽食をとりながら太田は従業員の様子や客も確認する。
今晩は畑中夫妻は休みを取っているらしい。
従業員の1人に太田は声をかける。
「ああ、君こちらにビールを追加お願いするよ」
「はい、喜んで。確か刑事さんとか伺いましたが飲酒してもいいんですか?」
男性の従業員がにこやかに太田に応対する。
「今日は仕事できたのではないのでね。大丈夫だよ。君はここは長いのかね?」
じっとその若者を見つめながら太田は容貌を観察する。
彼の名は確か…多田昌也
ここで働いて長い。バイトリーダー的な男だ。
畑中容子の従兄弟だったので覚えている。
「ええ、もう3年くらいここで働いてますね。ねえ、刑事さんはオーナーのことを疑っておられるのでしょう?」
「はて何のことですか」
とぼけた様子の太田に多田は淡々と問いかける。
「こうしてまたウチに来ているのが何よりの証拠じゃないですか。いいですか、オーナー夫妻はフラフラしてた僕のことを拾ってくれた恩人でいい人たちだ。絶対に殺人事件になんか関わっちゃいませんよ」
「まあ、そんなに凄まないで。一杯付き合わんかね」
多田は顔を顰め渋々と言った様子で太田の隣に腰掛ける。
ここは要望があれば店員も飲むバーなのだ。
「……少しなら」
「オーナー夫妻にはお世話になったとか。君は容子さんの親戚らしいね」
頷きながらチビチビと多田はビールを啜る。
「……学校を中退してフラフラしてた俺をみかねてこの店で雇ってくれたのが俺の従兄弟である容子さんだ。そして克典さんも俺を受け入れてくれた。だからアンタに協力することなんてない」
「君は背格好が畑中克典さんに似てますね」
唐突な問いに多田はグラスを持ったまま表情を消した。
「……」
太田は多田を見つめながら続ける。
「店の不鮮明な監視カメラで遠目から見れば見分けが付きません。ここ数日カメラを確認しててそう思いました」
「何が言いたいんです?」
不機嫌そうな多田に太田はにこやかな表情で問いかけ続ける。
「いえね、もし、もしですよ。畑中さんのふりをしながらあなたがこの店で働いていたとすれば4月2日に畑中夫妻が山岡を連れ去ることは可能になるな、と思いましてね」
多田がグラスを勢いよく机に置く大きな音が鳴った。
「……ハハッ! バカバカしい! アンタの話は何の裏付けもない妄想に過ぎない! お客にもオーナーがこの店にいたって聞いたんだろ?」
「はい残念ながら」
多田は明らかに苛立っている。
太田はグラス片手に注意深く男を観察し続ける。
「それに容子さんと入れ替わっていたのは誰だ? 俺は男だし1人しかいないぜ? 本当にバカバカしい推理だぜ!」
「もう1人…… 従業員の中に協力者がいれば?」
太田の言葉に多田の表情が引き攣る。
太田は更に従業員の女性の1人を指さした。
「例えばあの子、とか。容子さんによく似た背格好ですね。マスクをしていれば遠目には見分けがつかない」
拳で机を叩きながら多田は立ち上がる。
「バカバカしい‼︎ いい加減にしろ‼︎ ヘボ刑事が‼︎」
そして多田はこちらを気にするお客や従業員に構うことなく怒った表情で太田に言い切った。
「お代は結構なので帰っていただけますか? あなたのやってるのは営業妨害ですよ」
「気が触ったのなら申し訳ない。でもお代はもちろん払いますよ」
太田は領収書を掴み椅子から立ち上がった。




