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第二章 11、雨生ヶ池の大蛇様

 叛乱党の奇襲を受けたために行軍がかなり遅れていた。その遅れを取り戻すかのように鍛長(かっちょう)同盟の一行は雨生ヶ池(まごいがいけ)へ急ぎ向かう。


 叛乱党なる集団は大蛇の命を狙っているのか。

 影虎の言葉に言い知れぬ不安が頭をよぎる。何の為に、どうして大蛇を(あな)めなければならないのか。

 その疑問は当然、それぞれの胸中にあっただろう。

 そしてその疑念を晴らすべく直歩(ひたある)く。


 ぐんぐんと山間部を進み、やがて吉ヶ平(よしがひら)地区へと足を踏み入れた。より一層深緑(しんりょく)さを増した最奥の地は広大な湿地帯と、行く手を(さえぎ)るかのような大木で何人(なんぴと)たりとも寄せ付けない神聖さを(かも)し出していた。



 雨生ケ池(まごいがいけ)へと通じる最後の山道に入る手前に中浦家が大蛇を鎮守するために設けた分館があり、そこで少しの休息をとることとなった。

 急斜面を進むによって一行は下馬し、影虎の采配で駐留部隊と行軍部隊とで別けられた。

 駐留部隊の指揮は鬼小島との異名を持つ、小島弥太郎が受け持ち、分館に待機した。行軍部隊は柿崎隊を先頭に、鍛冶ガールを含む影虎隊、山吉隊の順で進んだ。

 いずれの隊も数を十数人に絞り、文字通りの少数精鋭部隊となった。



 時々(ふくろう)の鳴き声がしたり、近くを流れる清流のせせらぎが聞こえ、そこここにはまだイワガラミが小さな花を付けている。群生するクジャクシダや落ち葉を踏みしめながら山道を雨生ヶ池目指して進んでいく。


「はぁ~疲れたなぁ………ねぇ、まだなの? 姫ちゃん。」

「もうすぐですよ!」


 ひんやりとした山道ではあるが、急な傾斜が続く獣道(けものみち)にみな息をきらし、あふれんばかりの汗をかいていた。そのうち全軍が停止し、少し先行していた嵐蔵が戻ってきた。

 どうやら雨生ヶ池にた辿(たど)り着いたらしい。


 湿った土を踏みながらも先へ進むと、緩くなった斜面から唐突に鏡のように反射した池面(いけも)が見えた。

 実に静かで池と言うよりは湖のような大きさであった。たまに鯉だか雑魚がちゃぽんと顔を出しては穏やかな水面を波立たせていた。



「池っていうからもっと小さい感じかと思っていたけど、かなりの大きさね」

「俺もそう思ったっす、会長! まだ奥にも続いてるみたいっすよ!」

「これだけ広い池なんだから大蛇様もさぞかし大きいんでしょ?! 姫子ちゃん!」

「はい、大蛇様はそれはそれは巨大で真っ白な蛇神様(へびがみさま)です!」

「そんなにおっきいの? 何だか怖いわ………」

「へぇ~茜は怖がりだねぇ。軍司に抱き付いてたらぁ?」

「そっそうだぞ、茜! 頼れる男、この小滝軍司に任せな!」

「はぁ………さっきの戦いでは見事に咲良ちゃんに守ってもらった分際で………」


 と、いい顔をしようとする軍司に栞菜は呆れた。


「なにおう!」

()めない! 影虎さんどうします? もっと奥に行ってみますか?」


 軍司と栞菜の(いさか)いを黙らせたまことは影虎に指示を仰いだか。


「無論じゃ! 者共、呉々(くれぐれ)も油断するでないぞ! 何処に叛乱党が隠れておるか分からぬでな。姫子といったな、そなた案内(あない)致せ。巫女であろう」

「分かりました。皆さん私に着いて来て下さい!」


 姫子を先頭に影虎と鍛冶ガールは長尾精鋭部隊に守られるようにして奥へと進む。

 どうやら最初に見えた湖面はほんの一部分でしかなかったようだ。奥は更に開けていてブナが原生そのままに生い茂っている。


 一説によるとブナの大木が湖面に映ったのを見た村人が、巨大な大蛇と勘違いしたと伝わっているのだが。


「ここです。ここが姫子が何度か大蛇様とお会いした場所は」


 姫子の言葉に一行は足を止め、津々(しんしん)と波打つ雨生ヶ池を見渡したが。大蛇の姿は何処にもなかった。


「姫ちゃん、どこにもいないよ?」


 咲良の問いに小さく頷いた姫子は、両手を合わせ目を閉じ祈り始めた。すると水面が一瞬光り、湖面は次第に波立ちはじめ、ゴゴゴゴォと飛沫(しぶき)が広い湖の中心部から立ち上がり始めた。


「シャーーーッ!!」


 甲高い雄叫びと供に、水縹(みはなだ)に輝く霊気を帯びた巨大な大蛇がついにその姿を現した。



「デ、デッケェ………」



 今日(こんにち)、下田地域で毎年(もよお)されている大蛇祭りでは頭部500キログラム、全長は60メートルもある木製の大蛇を担ぎ、下田内を練り歩くという。

 目の前に現れた大蛇は、その大きさに勝るとも劣らない容貌(ようぼう)であった。

 影虎は精鋭隊を指揮する山吉と柿崎に付近を充分警戒するよう指示し、姫子に近付いた。


「影虎様、普段通りにお話下さい。大蛇様は理解出来ますから」


 姫子は影虎にそう言うと、感慨深い面持ちで大蛇を見詰めていた。


「よし……雨生ヶ池の(ぬし)、大蛇殿よ! 我が名は長尾影虎なり! いま混迷を極めるこの地域を救う為にそなたの偉大な力を貸してもらいたい! 我らと協力し、この地に再びの平和を取り戻そうではないか!」


 景虎の尊大(そんだい)な口上をよそに、鍛冶ガール一行はヒソヒソと会話をし始めた。



「こんなにおっきいなんて想像してなかったわ! 大蛇さんが味方になってくれたら心強いですよね」 


 と、茜はまことに言うと、まことは同調し、姫子を褒めたか。


「そうね。それにいくら馴れているからって、やっぱり鎮守の巫女だけあるわね姫子ちゃん! さすがだわ」

「だけどなんだろ? 大蛇の波動っていうか霊力っていうの? 物凄く弱まってるような気がすんのよね、あたし」

「はぁ? 波動? 霊気?! 咲良、なんだかお前変だぜ? いつからエスパーになったんだよ! 俺には超デケェな大蛇にしかみえねぇよ!」

「いや、咲良が申す通りじゃ。酷く衰弱しておる。どうゆうことじゃ? 巫女よ」



 影虎に問われた姫子は両手を胸に当て、心で大蛇に語りかけた。共鳴し合うように大蛇と姫子は青い光に包まれる。

 そして、これまでの大蛇の記憶が鮮明に姫子の脳裏に映った。


 大蛇は大地震を食い止めるために幾度となく震源地へ霊力を送り、鎮めようとしていたのだ。しかし一向に収まる気配はなく、己の霊気を使い果たし、それに加え執拗(しつよう)な叛乱党からの攻撃もあり、満身創痍(まんしんそうい)となったのだ。


「大蛇様はご自分の霊気を振り絞り、数多(あまた)の地震を食い止めようとなさっていたようです。それに加えて叛乱党が大蛇様を攻め立てて………弱っているのはそのせいです………」


 姫子は悲しそうに心で見た大蛇のこれまでを皆に伝えた。

 人々は災いの元凶どころか逆に身命をとして地震を食い止めようとしていた大蛇を見ると自責の念に駆られ、叛乱党への怒りが込み上げたか。

 そんな人間達を見て、穏やかな目をした大蛇はその重い口を開いた。



「姫小百合の巫女と人間の皆さん、そのように悲しい顔をしないで下さい。私は私の使命を果たそうとしたにすぎない。長尾影虎と言いましたか、どうやら私の力一つではどうにもならぬと悟りました……いいでしょう、人間全てを信用したわけだはありませんが、あなた方は信じる価値がありそうですね。我が力を託しましょう」



「やったねぇ! これって神様が力を貸してくれるってことっしょ!? ここまで来た甲斐があったね!」

「そうね! 見物どころじゃないわ! まさか大蛇さんが力を貸して下さるなんてね!」


 咲良と茜が抱き合って喜んだ。

 そんな姿を穏やかに見詰めていた大蛇は、池の奥、闇に(うごめ)く輩に気付くと姫子に言った。


「しつこい輩が来たようだ。ここ数日この池の周りで虎視眈々(こしたんたん)と我が生命を狙っている。どうやら地震を止めようとする私の存在が邪魔なようだ」

「えっ!? またあいつらかよ! 影虎さん!」

「ウム。みなの者よいか! 叛乱党を迎え撃ち、何としても大蛇殿を救い、三条城に帰るぞ! よいなっ」



 影虎軍と鍛冶ガールは傷付いた大蛇を守ろうと決意したが、人間の本来の優しさに触れた大蛇は一同の心に呼びかけた。


(敵の数が多すぎます。ここで戦えばあなた方の身に危険が及ぶ。ここはひとまず私の最後の力を持って君達を逃がします)


 その呼び掛けに全員が大蛇を見やると、水縹に輝く霊気は深い鉄紺(てつこん)に色を変化し、湖水が激しく波立ちだした。


「大蛇様! 何を!?」

「みなさん息災にて、また逢いましょう………」


 青い光の中にいるはずの大蛇が姫子には違った姿に見えた。


(び、白夜(びゃくや)様!?)

 

 鉄紺の霊気は突如激しい津波となって一行を包み込み、人々を散り散りに遥か彼方へ吹き飛ばしたのだった。


「みんなぁーー!!」


 咲良の悲鳴に似た叫び声だけが(こだま)するのであった。



 次回 12、それぞれ ~茜と軍司編~ 祠はペガサス幻想!


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