109 のんびりとお風呂
迷宮を攻略して帰って来た翌日は、起きた時にはすでに日が高くなっていた。
朝食兼昼食を食べてから狩人組合へと出向いて素材の多くを買い取ってもらった。
虫の魔物は主に甲殻や羽、爪に牙などが素材となった。
他の魔物は鱗に皮と毛皮、牙に骨と角、なんといっても肉も思った以上に回収できていた。
他にも薬草に毒草、果実に茸と色々と採取もしていたのだった。
それらのうちで、自分達で消費する分を残して買い取りを終わらせたのだった。
「魔法鞄の中がすっきりしたねー」
「ん。さすがに一杯になってた」
「ほんとだよねー。梨の多さにはちょっとびっくりしたけど」
「うちのおかげで回収できた素材も多いんだからなー」
「レーアのおかげだって解ってるの。鍛冶組合に登録に行けばいいの」
そう言えば忘れてたと、リアーネに図面の作成を頼み始めた。
「はい、みなさんお疲れさまでした。これからどうするのですか?」
「雨季の前に中級迷宮のある街に行く!」
「ん。雨の中移動するのは大変」
「えーと……雨季の前に、ですか。この辺りはしばらく前に雨季に入ったばかりですよ?」
「「「そうなの!?」」」
困惑気味の受付嬢の言葉にラウリー達は驚きの声を上げるのだった。
ラウリー達は出身地の季節観しか持っておらず、別の土地へ行けばその土地ならではの季節があることを知らなかった。知っていたリアーネにしても実感したことは無かったのだ。
「そうよ。日に何度かまとまった雨が降るけど、気付かなかった?」
「そうだったかも? でもラーリ達ほとんど迷宮に居た」
「だよね。たまたま雨の日に当たってたのかと思ってた」
「そっかそっか。まだ雨季に入ってしばらく経ったばかりだから、あんまり気にする必要は無いわよ」
雨が多くなりこれから涼しくなると教えられて、夏はどこへ行ったのかと五人は疑問に包まれた。どちらも低緯度とは言え赤道の北から南へと移動して来たので気付かぬうちに季節が反転していたのだ。
「んー……、でも、魔導具のこと考えると早く移動したいかな」
「そうなの。未攻略の迷宮でこそリーネの魔導具が必要になってくるの」
「リーネは錬金組合に頼まれてるもんねー」
雨が避けられないならば移動を渋る理由にはならないと、早いうちに次の街へ移動すると決める。
「では、みなさんの次の行き先は決まっているのかしら?」
「ん。メディナトーレの中級迷宮。途中で立ち寄る街には下級か上級の迷宮しかない」
「そういえば、あなた達、中級や上級の違いって覚えてる?」
「階層が深いか浅いかじゃ無いの?」
「そうなの。たしか十層、十五層、二十六層って区切られてるって言ってたの」
「そうね。それ自体は間違ってないわ。でも具体的にどう違ってくるのかってことまでは言ってなかったわね」
「十一層から迷宮の作りが違ったけど、十五層からまた変わってきたりするの!?」
「そうそう! そうなのよー。まず判りやすい違いと言えば、一つの階層の広さが違ってくるわ。そして広い範囲を管理するためだって言われているんだけど迷宮核の複製が現れるのが十、十五、二十、二十三、二十六、二十八、三十層って感じらしいわ。それより深くなると階層毎にあるらしいし、一つの階層に二つ以上なんて報告も読んだことがあるわよ」
受付のお姉さんは人差し指をピンと立てて解説をする。
「「「おぉーーっ!」」」
「深く潜るほど広がって行くんだね!」
「だから迷宮を深く潜る程、探索も大変になるのよ。しっかりと準備していきなさいね」
「「「はーい!」」」
まだ見ぬ迷宮深部に思いを馳せて皆は目をキラキラと輝かせて話を聞いていたのだった。
ゆっくりとお風呂に入りたいと五人は宿に戻って来た。
お風呂に対する不満を解消はできずに、浅い浴槽の縁に頭を乗せて寝そべる様にだらしなく入っているのはラウリーとリアーネの二人であった。
他三人は既に上がって鍛冶組合や消耗品の買い物に出かけていた。
「「はぁーーあぁぁぁーー………」」
「リーネー」
「んー?」
「ちゃんとしたお風呂入りたいねー」
「ん。そうだねー」
「探索中にお風呂は無理かなー?」
「んー……。できなくは無いけど、危険だねー」
「そっかー。じゃあ、やめた方がいっかー」
「ん、やめた方が良いー」
「じゃぁー、バスで移動中はーどうかなー?」
「んー……、宿泊所に泊まれるから大丈夫じゃないー?」
「そっかー。じゃあ、持ち運べるお風呂って要らないのかなー?」
「んーー………。魔物から解放されてない街とか迷宮に行くときは欲しいかもー?」
「おぉー! じゃあ、作っておけば誰かの役に立つんだー」
「ん、そうだねー。何か考えるかなー」
「バス移動って時間ばっかり掛かるもんねー」
「ん。街から街まで遠いから仕方ないー」
「魔物の居た街ってー、家とか使えなくなってるよねー?」
「ん。期待しない方が良いー」
「じゃぁー、家が持ち運べたら便利だよねー。魔法鞄に入んないかなー」
「ん! いい方法思いついたー。ありがと、ラーリー」
「えへへー。どういたましてー」
「んふふー。ラーリ、『いたしまして』だよー」
「えー。ちゃんと言ってたでしょー?」
「んー。まぁいいけどねー」
「えへへー」
「んふふー」
頭の悪い会話が続いている様にも見えるが、リアーネの開発して来た魔導具には、こうしてラウリーとのダラダラとした会話を切っ掛けにした物が三割近くはあるのだった。
すっかり温まった双子がお風呂を出た頃には、出かけていた三人も帰って来ていた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。
1月9日 まで毎日 朝7時 に更新します。