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ねこだん!  作者: 藤樹
110/218

105 蜘蛛の巣と急斜面

 十二層へと降り立って、前方には見上げる様に聳え立つ急峻な斜面が広がり、目指す先は高さだけで言えば十層に届く程もあると思われた。

 この階層は地図を見る限り斜面に複数の洞窟の様な領域(フィールド)を抱えているが、下層を目指すには登り切った先へと行く必要があるようだった。


 ここは確かに十二層と呼べるのだろう証拠に、背後の壁を見上げれば十一層とつながった穴があり、『浮揚』でも使えば移動できてしまう構造になっていた。

 現に七人組の鳥人族がその穴から飛び出して、次の層へと向かうべく斜面を飛んで登って行った。


「ひゃー。すっごいねー」

「ん。リーネ達もああすれば良かったかも。迷宮内で山登りすることになるとは思わなかった」

「上から岩とか落とされたりしないよなー?」

「ルーナ……あんまり不吉なことは言わないでよー」

「そうなの。心配になって来たの」


 飛んで行った探索者を尻尾を揺らしながら見ていたラウリーに、斜面を見上げて憂鬱そうなリアーネが何やらブツブツと考え事を始めてしまった。

 一行の前にある真っすぐは登ることができなさそうな斜面には、申し訳程度につづら折りになった道が整備されていた。


 登り始めてしばらくすると、五人の頭上から落石があった。


「わっ!? びっくりした」

「ん! 魔物!」


 小石がいくつか落ちて来ただけで、それによって被害を受けることは無かったが、魔物の姿をリアーネが捕らえ注意を促した。

 サッと視線を巡らせて捉えた姿は体長五十センチ程の岩棘鼬だ。


 魔獣の岩棘鼬とほとんど変わらぬ大きさであるが、四肢の先端と額に岩の鎧を身に着けて、しなやかな体で細い道でも素早く移動して、高い魔法適正による素早い魔法攻撃をしてくるために、ロクに身動きのできない斜面に居る限りは対処の難しい魔物であった。


 キャッ! キャキャキャキャッ!


 鳴き声を上げ光を放ち石の礫が打ち出される。


「自由な風現れよ、向かい風をもって盾となれ………『風壁』! これくらいはボクだってできるんだよ!」

「ん! 自由な風現れよ、力強き風は我が身を共に空へ運べ………『浮揚』! みんな! 離れるよっ!」

「え? わーーっ。リーネ、急だとびっくりする」

「でも助かったよ」

「ここから反撃なの!」


 ルシアナの張った『風壁』が岩棘鼬の岩礫をそらし、リアーネが全員に使った『浮揚』により離れた位置から射撃と魔法で攻撃を始めた。

 六頭いた岩棘鼬も、状況が不利と悟ったのか散り散りに離れて行くが、四頭までは倒すことができたのだった。


「リーネ、助かったー」

「ん。良かった」

「この鼬、飛ばないで対処するのって難しいだろうなー」

「うち、こんな環境じゃあ、棍も槌も振り回せないって……」

「また集まってくる前に先に進むの!」


 ロレットの意見は最もだと、素材を回収して先を急ぐことにした。



 何度か岩棘鼬を見かけることがあったが、遠くからの狙撃で仕留めて行った。

 (ソウ)山羊は足の踏み場も無いようなところでのんびりとしている姿を見かけたが、襲ってくる様子も無かったので通り過ぎることにした。

 そんな中で厄介だったのは飛んで来る魔物の雷光蜻蛉である。


「ちょっと! いい加減寄ってこないでー!」

「ん。多すぎ」


 そう言いながらも射撃を続け十匹いた雷光蜻蛉を全て撃ち落とした。


「あーー、素材がー……」

「じゃあ、ルーナが取ってくればいいよ」

「万一魔物が寄って来てもここから援護射撃してあげるの」

「いや、行かないし」

「ん!? 何かある」


 リアーネの示した先には空中に捉えられた様な雷光蜻蛉に氷晶蟷螂の姿だった。その周辺をしっかりと見てみれば、網状に張り巡らされた細い糸がキラリと光を反射した様子が判った。


「「「蜘蛛の巣だ」」」

「警戒!」

「魔物の反応五!」

「巣に捕まってるのが……五匹なの!」

「ん! 下からくる!」


 足場の悪い斜面の細い道を進む一行にとっては上下左右どこから魔物が現れたとしても対処が難しく、道の先は蜘蛛の巣に遮られこのまま進むのは困難であり、道を外れると立っていることさえ危険を伴う。


 下を見下ろすと道無き斜面を苦も無く近付いてくる大岩蜘蛛の姿があった。

 岩の様にゴツゴツとした外見の太い脚に比べて小さな頭胸部と腹部には多数の岩が張り付いていた。小さいとはいえ脚を除いた大きさだけで一メートルはありそうな程であった。


「リーネは『浮揚』を、その間射撃!」


 ラウリーの号令で準備を進め、ルシアナとロレットが一撃放てば大岩蜘蛛が飛び跳ねて躱しながらも接近し、前脚を振り上げ攻撃をしようとしたところで、リアーネの『浮揚』によって難を逃れた。


「助かったの! リーネ!」

「さぁ、攻撃だ!」


 リアーネは皆に掛けた『浮揚』の操作に集中し、大岩蜘蛛に接近したり離れたりと立体的な動きで翻弄する。


「「「うわわわわぁあああーーっ!!」」」


 振り回されるのは何も大岩蜘蛛だけではなく、ラウリー達も最初は戸惑い上手く攻撃ができなかったが徐々にリアーネの意図を読み取り、接近に合わせて斬撃などを繰り出せる様になる。


「ハァッ!」

「トーリャッ!」


 パシュッ! カンッ!


 左右の前脚を振り上げる様からは大岩蜘蛛が苛立っている様にも見えた。

 しかし、既にその前脚を含めて数本の脚を切り飛ばされて、満足な行動はできなくなっていた。

 何度目の攻撃かラウリーの斬撃が大岩蜘蛛の頭部を貫いて、ようやく動きが止まったのだった。


「もう動かないよね? 反応消えてる? よっし、狩ったー!」

「これは大物だねー。魔法鞄(マジックバッグ)に入りきるかな?」

「その時はレーアに任せるの」

「うちが!? って、そういやそんなこと言ったっけ……」

「ん。後五匹居る」


 どこが素材として有用かまでは調べていない五人は切り飛ばした足も含めて丸ごとの大岩蜘蛛と、蜘蛛の巣に囚われていた魔物も順番に仕留めて溶け残った素材を回収していった。


「この巣はどうしたらいいかな?」

「ん。焼き払う。焼き滅ぼす炎の力よ、燃え盛る死の領域(フィールド)をなせ………『炎壁』」

「リーネ……。焼くにしても過剰だってそれ」

「まぁ、早くて良いんじゃない?」

「そうなの。こんなところでゆっくりしてられないの!」


 蜘蛛の巣は数秒で焼き払われて、五人は先へと進んで行った。



 その後は魔物と戦闘になることも無く斜面を登り切り扉のある場所へと到達した。


 あけましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いします。


 1月9日 まで毎日 朝7時 に更新します。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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