受付嬢のその後(完結)
――数ヶ月後。
少し肌寒さを感じるようになった秋の某日に、産休に入る一子ちゃんの激励会が開催された。
招待客はリタさん家族とテオさん。そして何故か愚弟とサリ様である。後はまぁいつもの受付のメンバー。
会場となった受付部屋のダイニングテーブルだけでは足りず、事務室から借りてきた会議机の上にもご馳走がたくさん並べられていた。
ホテルのケータリングにも負けないくらいの綺麗かつ本格的な料理を作ったのは、料理が得意なアルさんで、今も備え付けのキッチンで腕を振るっている。
嫁(一子ちゃん)が口にするものを俺が作らないでどうする! 的な顔で当然のように料理の材料を持ち込んで来たのは今朝のことだ。
招待客も多いし、ドラゴンは基本よく食べるということで、多い分にはいいかとお任せしたのだけれど、これがまた用意していたケータリングより美味しい。
妊婦さん仕様で高たんぱく低カロリーだというのに、ほっぺたが二つも三つも落ちるお味。現役コックさんであるリタさんの旦那さんも頻りに感心していた。
いやぁ、アルさん唯一の羨ましスキルだよね。
こっそり覗いたキッチンの中、一切の無駄も見せない動きは手伝いますよ、なんて言い出せるレベルじゃなかった。
そしてちらりと見えたあの鍋の下の火力は絶対に家庭用じゃない。まさかこんな所でドラゴンブレス的なもの使ってないと思うけど、あれはおそらくプロパンガスだ。そういう事にしておこう。
四人は横に座れそうな広々したソファには私と一子ちゃんだけが座っていて、真後ろにガザ様が立っている。リタさん夫婦は私達の斜め向かいのソファで料理を抓みつつもガザ様を鋭い目で見張って……いやいや、見守ってくれている。
「サリ、離してってば。食べにくい」
「嫌ですわ! トーマ様は目を離すとすぐにどこか行ってしまいますもの!」
そして相変わらずサリ様を腕にくっつけている斗真。おじさんの牧場の契約期間を終えて一週間程前から改めてこちらに戻って来ていた。さすがにサリ様をくっつけて牧場では働けないので、居場所は内緒にしていたらしい。
故に戻って来た時からこんな感じだ。
今回幸いなことにサリ様はあの際どい衣装ではなく、肩見せ足見せ程度のギャル服。
レダ君とイトちゃんも来てくれているので、二人の情操教育に良くないのではとこっそりと気を揉んでいたので、ちょっとほっとした。
そして顔見知りだったらしく笑顔で世間話をしているテオさんとトモル君。
まぁ大きな意味で上司と部下だし、この辺は連携が取れてないと逆にまずいのかもしれないけど。
そして残る五條さんは出来上がった料理を運んだり空になったお皿を下げたりして忙しく働いている。
実はこの激励会の言いだしっぺは五條さん。
従業員同士の福利厚生云々って言ってたけれど、五條さんなりに一子ちゃんが職場に戻りやすいようにっていう気遣いもあるのかな?
随分前に言い出したので、最初からパーティーのホスト役に徹するつもりだったのかもしれない。意外に気遣いの人なのだ。
ちなみにこちらも手伝う、と、申し出てみたけれど『あなたが動くとガザ様も張り付いてきて邪魔になります』とピシャリと断られてしまった。
とまぁそんな感じで結構な人数での激励会となってしまったのだけど、肝心の一子ちゃんが楽しそうなので良しとしている。
斗真とサリ様なんて顔見知りでもないのに、一子ちゃんから勇者さんに会えるなんて滅多にないから是非、と言ってくれたのだ。
ちなみに今はこの受付部屋の結界は、五條さんとトモル君の手によって一時的に消されているらしく、みんないつもより快適そうである。
一子ちゃんが大好物だというパイの包み焼き(中にめちゃくちゃ柔らかい牛肉が入っていた)に、舌鼓を打っていると、同じものを抓んでいた一子ちゃんが「あ」と何か思い出したように顔を上げた。
「そうだ。前から聞きたかったんですけど、まりもさんはあたしが産休から戻ってきたら受付辞めちゃうんですか?」
「え?」
思いも寄らなかった質問にちょっと戸惑って、一旦お皿の上にフォークを置く。
……そういえば私一子ちゃんの産休だの育休だの言いながら自分の『この先』の話って話した事なかったっけ?
私がここに就職した理由……というか原因は、面接の時に壊した(正確にはそう仕向けられた)扉の修理費の為だ。
一年働けば社員と認められて保険が下りるから、とりあえずその間まで、って話だった。
勿論今はそんなの私をここに留めておきたかっただけでもう嘘だと分かっているから、別にどうしてもここにいなきゃいけないって事はないのは分かっている。
改めて腕を組んで捻る。
「……調子良い話なんですけど、今は辞めたくないんですよね。こんな条件の良い会社他にある訳ないし、それにこれから何があるか分からないでしょう。働けるだけ働きたいんですよね」
「めっちゃ分かります!」
一子ちゃんがテーブルに取り皿を置いて、がしっと両手で私の手を握りしめてくる。
なんかキッチンの方から『余計な事言いやがって』的な怨念めいた冷気が流れてくるけれど、無視だ無視。
働いて分かった。このドラゴンツーリストという職場の快適さ。
仕事を始めてから受付業務は勿論なんだけど、最近はそれだけじゃなくて、渡航不可になって憤るドラゴンをどこまでセダムを呼ばすに説得出来るかとか、五條さんとシステムのブラッシュアップについて意見を交わし合ったりとなかなか充実しているのである。
そうなってくるとやり甲斐も感じる訳で。
「……」
最初は散々辞めたいって言ってたくせに自分でも呆れるくらいの変わり身の早さ。
土日祝日お休みの定時終わり、好待遇の高給料、年に二回のボーナス付きで昇給も有給もあり。そんな素敵な職場を辞めて、何度も涙を吞んだ中途採用戦線に今更飛び込むなんて思い出すだけでゾッとする。
そんな私の言葉に、声を上げたのは質問した一子ちゃんではなく、キッチンからキッシュの乗った大皿を持ってきた五條さんだった。香ばしいチーズの香りが鼻を擽る。
「何を仰っているんですか、まりもさん」
「えーガザと結婚してドラゴン国に来ないのー?」
テオさんと話していたトモル君まで、私が座るソファに寄ってきた。
相変わらずショタ色が濃い。くりんくりんのお目々に艶々の肌。……これがドラゴン最長齢とか言うんだから、ドラゴンの人間型ってアテになんないよね。
「まぁ……。あ、もしかして、私が居残ると新しい人が求人に引っ掛かっても入れられない、とかあります?」
それならさすがにちょっと考えなきゃいけない。
私や一子ちゃんのように魔力無しの女の子は少ないものの存在する。受付が若いドラゴンの出逢いの場になってるのは勿論なんだけど、突発的に攫われたりしないように保護するという側面もあるのだ。
うーん。受付が駄目なら五條さんの補助とか事務枠が空いてないだろうか。
「受付はここだけではありませんので、いくらでも派遣先は用意できますが、そうではなく、基本的には正式に番……婚姻を結んだ二人はドラゴンの世界に行きますから」
「あ、私ガザ様と結婚してもドラゴンの世界には暫くは行きません。多分五十年くらい」
私の言葉に双子ちゃん達とガザ様以外を除く全員が一斉に私を見た。
……うわ、みんな思ってたより反応が大きい。
居心地の悪い視線に首を竦めて後ろを振り返ると、さっきよりもすぐ近くにガザ様が立っていて、ぽふっと頬がガザ様の硬いお腹にぶつかった。
「マリの母親が亡くなるまでは、こちらで生活する約束をした」
「……え、ええ!? ガザはそれでいいの!? こっちじゃ常に人型でいなきゃいけないし強いドラゴンを探して暴れる事だって出来ないよ!」
沈黙が落ち、最初に叫んだのはトモル君だった。
ええ、ガザ様、普段そんな事してんの……まんま少年漫画の主人公なんだけど。
ガザ様が戦闘大好きドラゴンだと言う事は皆知っているの。特に親であるトモル君は、きっと誰よりもその喧嘩っ早さを知っているからこその反応だろうとは思うんだけど、他の人も一子ちゃん以外はほぼ同じ反応だった。
テオさんは訝しげな視線をガザ様に向けていて、リタさん夫婦は不安顔。
……むしろその視線はガザ様よりも私の方に刺さってくる訳で。
二人で話あった結果ではあるけれど、こちらの世界で生活したいと言うのはやっぱり私の我が儘が勝ってるかも、と思う部分が多い。
それに向こうの世界で生活すれば、私もガザ様も周囲に合わせてわざと姿を老いさせていく、なんて面倒な事をしなくても済むのだから。
ついでにいうと斗真も魔力が高過ぎる弊害で、下手するとドラゴンよりも長く生きる事になるかもしれないらしい。だからある程度は付き合ってあげられるんじゃないかと思ってる。……何というか、こうなってくると結局私がドラゴンという伴侶を得たのは、必然だった気がするのだ。
「百年もない短い間だ。オレが暴れたくなったら向こうの世界に戻れば良いだけの話だ」
別にパスしたつもりはないけれど……私の代わりにガザ様がちゃんと答えてくれた。うん、これで二人でちゃんと話し合って決めた約束だと分かってくれたらいいけど。
「それはそうですが」
答えを聞いた五條さんは少し迷ったように言い淀み、トモル君と視線を交わした。
こくりと頷いたトモル君が、笑顔を消して口を開く。
「……ガザさぁ、普通僕達って番が見つかったら即行巣穴に連れ込むくらい独占欲強いじゃない。働くのもOKで、しかも不特定多数の人間のオスと嫌が応にも接触しなきゃいけないこっちの世界をメインに暮らすなんてそれでもいいの?」
先程までの軽さが嘘のように、トモル君は諭すように淡々と言葉を紡ぎ最後には心配そうに眉を顰める。
何だか初めてトモル君はガザ様のお父さんなんだな、って初めて思えた一瞬だった。そうだよね。親はいつまでも子供が心配なものだ。どんなに頑丈でも、ううん、頑丈だからこそ心の機微を大事にするのかもしれない。
答えようとしたガザ様を振り返って視線を押し止める。そして今度は私が口を開いた。
「私がそういうの嫌って言ったんです。なんでもかんでも番だからって自由奪われるの。安全に守るって言ったって結局はずっと不自由な選択を迫られ続ける未来しか見えないし」
一方的に庇護されたり、盲目的に守られるなんて、今までの私が許さない。私らしく生きられないなら、大袈裟だけどそんなの生きてる意味ある?
……前も思ったけど、なかなかドラゴンの常識に喧嘩を売るような話だと思う。一子ちゃんに仕事をさせているアルさんだって相当の変わり者だって言われるらしいから、きっと私達が決めた事はドラゴンにとっては信じられない事なのだろう。
「オレは、マリが傍にいてくれるのならば場所には拘らない。マリに寄りつく男は気になるが過剰な嫉妬が番の本能だと言うのなら抑えてみようと思う。マリは番以外の絆を望んでいるし、オレはそんなマリの願いを叶える。――違う。叶えられる事が幸せだ」
しんと部屋が静まり返る。
ガザ様が放った言葉はそれくらい真面目で真摯だった。
「……番の絆を超えた献身、という事でしょうか」
五條さんかポツリとそう溢せば、一子ちゃんがぱんっと勢いよく手を合わせた。そして私に向かってにっこり微笑む。
「それってつまり――私達の世界で言うところの『愛』ですよね?」
「……え……!?」
なんか私のこれまでの人生とは縁の無い恥ずかしい単語を聞いたんだけど!
ぶわぁっと顔に血が集まって慌てて顔を背ける。しかし不幸な事に視線の先には、サリ様とイチャイチャしている斗真がいて、盛大にほっぺたを膨らませていた。斗真のこんなあからさまに子供っぽい顔を見るのは小学校以来かもしれない。
「……ねぇちゃん、じゃとりあえずは、こっちにいるんだよね? じゃあトモル。オレもそっちには行ーかない!」
サリ様に野菜スティクでほっぺたをツンツンされながら、斗真がちょっと生意気な口調でそう言えば五條さんがくわっと目を剥いた。
「困ります! 斗真様に協力して貰いたい事案がいくつも……」
「それはお前達の都合だろう」
鋭い声で五條さんの言葉を遮ったのはガザ様だ。
思わぬ援護に斗真が驚いた顔をしたけれど、多分これは斗真の為じゃなくて、私の為だ。
私が斗真関係で利用された事に誰よりも早く気付いて憤ってくれたからこその反応なのだろう。
でもこれに関しては散々言いたい事も言ったし、結局は斗真の方にも問題があったので、自分的にはもう気にしていないのだけど。
「ガザ様、ストップ。そうやってすぐ喧嘩腰にならないで下さい」
ソファを超えようとしたのか、背もたれに置かれた手に自分の手を被せる。
「でも嬉しいです。ありがとうございます」
ヒュウヒュウっと下手くそな口笛を吹いたのは双子ちゃん達だ。リタさん夫婦もニヤニヤしていて、私は気まずくなって視線を逸らした。話題も変えてみる。
「で、代わりと言ってはなんですが」
わざとらしくにっこりと笑う。
きっとさっきの一子ちゃんみたいな爽やかな笑顔じゃなくて、腹に一物抱えているような邪悪な笑顔に違いない。
「トモルさん、この馬鹿弟セダムで雇ってやって下さい」
にこり、と笑ってそう伝える。
勿論お世話になった酪農家の叔父さんには、お詫びの電話と菓子折を送っておいた。それなりに向こうでは斗真も頑張っていたらしく、引き止められた事に驚いてしまった。
で、仕事を終えてちょっと逞しくなったような気がする斗真の様子と、以前と同じように、否、私が加わった事でいっそう賑やかになって、嬉しそうなお母さんを見て私は真面目に考えたのだ。
「……えっマジ!?」
斗真はソファから起き上がって目を剥いた。
「うん、マジ」
目が合って、こっくりと頷くと、本気だと気付いたのか、その場にそっくり返り、手足をバタバタさせた。
「いーやーだー! ねえちゃんの側はいいけど、トモル超こき使うもん~」
五條さんは私の提案に、普段の冷静さを取り戻し、ふむ、と頷いた。くいっと上げた眼鏡が反射する。
「悪くないですね」
でしょ、とあくどく笑った私に、斗真は拒否権はないと悟ったらしい。
がっくりとソファの肘掛け部分に突っ伏した。
お姉様に逆らおうなんぞ、百年早いわ。
何故なら斗真は私に借金を返さなきゃいけないのである。
サリ様の借金は確かに頂いた宝石から回収できたけれど(勿論残額は返したよ!)
少し考えてちょっとした利子分を斗真に払って貰うことにした。
借金を背負った経緯は分かったし、事情も分からなくはないけれど、後先考えずに破滅するのはよくない。普通の人なら共倒れにしかならない。
二度と借金なんかしないようにお灸を据えつつ、それを貯めて――斗真が本当に独り立ちした時用の貯金にしてやる。
まぁお母さんも斗真から貰った生活費は貯金してるらしいし、それにいくらか足す感じになるだろう。
ああ、もういい姉すぎるな私!
「セダムへよーこそトーマ! 研修中は時給650円だよ☆」
「やっす! 地方最低賃金以下じゃないそれ!? オレめっちゃ可哀想じゃん!」
「うちの国にそんな条例無いから大丈夫。さ、さっそくメンバー紹介するね!」
「いやだー! むさいムキムキドラゴンばっかじゃん!」
トモル君に引き摺られて遠ざかっていく斗真と、その腰にひっつくサリ様。この際サリ様も一緒に就職したらどうかな。斗真と一緒になりたいならある程度は人間世界に慣れなきゃいけないし、お金持ちといっても最低限お金の概念を覚えてもらわなきゃ、また借金を背負って困るだろう。
「ガザ様、ありがとう」
その様子を生温く見守りながら、コソッとガザ様に耳打ちする。
お付き合いするにあたって何度か話し合って来た事だけど、ガザ様自身がちゃんと、宣言してくれたおかけで一方的な私の意見だけではなくなったのだ。
しかも、愛とか……一子ちゃん凄いこと言うよなぁ。
見上げたガザ様の顔は、やっぱりどこか渋面である。
まぁ本能的な欲求って、つまり私が感じる所の睡眠や食欲、あとは、性欲だっけ……みたいなもので、抑えるのは辛いって事は想像できる。
「……ああ」
それでも素直にお礼を言えば、思わずといったさりげなさで口角が上がる。
強面でゴツイのにすぐ機嫌が良くなる……けどそれを素直に出せないガザ様の不器用さに可愛い……とか思うあたり、もう駄目だなぁ。確実に恋愛末期だ。
「っていうか、ガザ様、気付いてないみたいですけど、今の私の一通りの発言って、結婚に前向きっていう風に取れませんか?」
身体をひっくり返してソファの上に膝をつき振り返ってガザ様に耳打ちする。
ついでにうちのお母さんはガザ様を気に入っていて、時々私抜きでSNSでメッセージ送り合ってるくらいだし、実は私側の障害はあまりなかったりするのだ。
『ふふふ……だって初めて会った時から、万里の事好き好きーってオーラが溢れてたんだもん。お母さん嬉しくなっちゃって、これなら万里の事お任せ出来るって思ったのよ』
確かにお母さんが初めてガザ様と会った時、異様に愛想が良かったのは覚えてる。
『それに身長が高いし体格があるから雰囲気は近寄り難いけど、真面目だし本当は優しいイイ子だと思うのよ』
ころころと笑いながらそう言ったお母さんに、私は面食らう。
真面目で優しい、というのは私が兼ねてから言っていた理想の結婚相手の条件で――なんだかなぁ、と肩の力が抜けてしまったのだ。
殊更声を抑えてそう言えば、ガザ様はパチパチっと目を瞬いた。だけど私の内緒話なんて、耳の良いドラゴン達には筒抜けだったらしい。
「わぁ! まりもちゃん! 結婚したら僕の事『お義父さん』って呼んでね!」
「では結婚式はこちらの世界のやり方にのっとってリゾートタイプにしましょう。阿寒湖のほとりのホテルに伝手があります」
斗真を引っ張っていたトモル君が、ぱああっと顔を輝かせ、五條さんが良く分からない事を言い出す。いや五條さんそんなにマリモ好きなの……。お母さんが持ってたマリモの偽物が入ったボールペン貰ってきてあげようか?
「いや待て。まだ結婚は早いんじゃないか? タチバナはまだこんなに小さいのだし」
「もうテオ! タチバナちゃんは適齢期だって何度も聞いたろう! アンタもタチバナちゃんばかり構ってないで自分の番を探して来なさい!」
「オレだってねーちゃんが結婚すんのなんて認めないからな!」
慌てたように口を挟んだのはテオさんで、それを止めたのはリタさん。トモル君から逃げてきた斗真が私に駆け寄り、ぐっと肩を掴んで揺さぶる。
それをぺいっと押しのけた私は、くわっと大きな声で叫んだ。
「ハイハイ! 今日は一子ちゃんの激励会です! 私の話は終了!」
「えー……カオスで面白いからもうちょっと見てたいような、……」
「いーちーこーちゃーん?」
「あ、冗談です! 源一子、頑張って元気な赤ちゃん産んできます!」
すくっと、立ち上がって宣言した一子ちゃんに、おおっと拍手が起こる。すぐにキッチンからアルさんが飛んできて、そんな一子ちゃんの背中を支えていた。
その後は最後だからと遅くまで騒いでお喋りして、ここにきて短かかったけれどギュッと詰まった思い出話に、花を咲かせたりなんかして楽しい時間を過ごした。
そして。
いつの間にか仲良くなっていた斗真とテオさんが同盟を組んで、私とガザ様とのお付き合いを邪魔しにきたりとか、一子ちゃんの赤ちゃんが可愛くてみんなのアイドルになったりとか――色んな事が起きるんだけど。
それはまた別のお話。
とりあえず、私、橘万里子は、ドラゴンゲートの受付嬢としてまだまだ頑張ります。
おわり
お付き合い有難うございました…!




