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擬人化の国

見晴らしのいい丘から景色を眺めると、とても大きなお城が眼下に見えました。


ぽん「おっきなー」


雲ひとつない青く澄んだ空から舞い降りた天使のような風が、広い芝原をそよそよと吹き抜けて、ウェディングケーキのように丸くて綺麗なお城の上に備えられた旗を、悪戯にハタハタと揺らしました。


ぽん「到着」


もこ「遠かった……」くたー


このお城は大きな町でもあり、沢山の命が生きています。

町には高い電信柱が短い感覚でいくつも立っていて、それには虹色の電線が連なって結ばれています。


ぴょん「とても綺麗だ」


また、どの建物にも風鈴が幾つか垂れていて、町はいつも清らかな音色で包まれています。


ぽん「うん。いい感じ」


ところで、坂道の多いこの町で、元気に風と駆けっこする女の子が一人います。

彼女の名前はファクシミリア。

ファクシミリアは幼いながら手紙の配達を頑張っています。


ぽん「誰さん?」


間もなく出会うでしょう。


ぽん「このお姉さんなんですけど。そろそろ教えて」


ぴーたん「あたいはジェノスピータンだよ」


ぽん「え……えー!?」びっくり!


ぴーたん「ここはデータによると擬人化の国。そうだね」


そのとおり、ここは擬人化の国です。


ぽん「ぎじんかのくに」


この地に限り、大地から大空へと舞い上がるエレネアパルスという未だ謎多き特性電粒子がありまして、それによって情のこもった無機物が有機体へと変化し、こもった情から主に人の姿となるのです。

これを擬人化と言います。


ぽん「ふーん」


ぴーたん「あたいにこもった二人の愛情のおかげで、あたいはこうして生命を得られた」


ぽん「本当にジェノスピータンなの?」


ぴーたん「そうだよ」


ぽん「やったー!」むぎゅー!


ぴーたん「嬉しいね」なでなで


ぽん「ちょーうれしいんですけどー!」すりすり


もこ「わっ!」よけっ


ファクシミリア「おとと!ごめんなさい!」


もこ「町中でそんなに走ったら危なっちや」


ファクシミリア「大事なお手紙をお届けしないといけないので急いでいるのです」ぺこ


もこ「てことは、おまたんがファクシミリア?」


ファクシミリア「あらよくご存じで!そういうあなた方は人ですね!まあ珍しい!」


ぽん「がおっしゅ!ぽんちゃんだよ!」がお!


ファクシミリア「がおっしゅ!ファクシミリアだよ!」がお!


ぴょん「君、大事な手紙を届けなければいけないんだろう」


ファクシミリア「そうでした!」


近衛兵ドン「姫様ー!」たたっ


ファクシミリア「どうしたポイントカード」


近衛兵ドン「ぜえーはあーほおーはあー!」


ファクシミリア「休んでよろしい。落ち着いて話せ」


近衛兵ドン「すっー……はっー……」


ファクシミリア「何事か申してみよ」


近衛兵ドン「ぜえーはあーほおーはあー!」


ファクシミリア「こらー!だらしないぞー!」ぷんすか


近衛兵ドン「運動……不足でへえーはあー!」


ファクシミリア「姫は急いでおるのじゃ。あなたとてわかっておろう」


近衛兵ドン「すんません。あのですね、はふーひー、えー、国王陛下と女王陛下共に直にお帰りになるそうで」


ファクシミリア「なんじゃと!それは本当か!」


近衛兵ドン「まことの報せにございます」


ファクシミリア「うーむ」


近衛兵ドン「さ、はやくお迎えに」


ファクシミリア「しかし、大事なお手紙があと三通残っておる」


ぽん「ねえ。それってそんなに大事なお手紙なの?」


ファクシミリア「この国にとって、とても大事な所へ届けるお手紙です」


ぽん「三つなら僕が届けてあげる」


ファクシミリア「それは……いけません!大事なお手紙ですから!」


ぽん「無くしたりしないから大丈夫だよ」


ファクシミリア「しかしですね」


近衛兵ドン「ねえねえ任せちゃおーよ」


ファクシミリア「ばかばかおばか!そんなことしたら姫が二人に怒られるではないか!」ぷんすか


ぽん「無理なら仕方ないか」


ファクシミリア「あー待って!あーでも!」


ぽん「どっち!」


ぴょん「ぽん太」かたぽん


ぽん「ぽんちゃんです」


ぴょん「彼女はお姫様で、大事な手紙を届けることは、彼女が任された重要なお仕事なんだ」


ぽん「じゃあ無理なんだね」


ファクシミリア「任せます!」


ぽん「任せるんだ」


ファクシミリア「だって仕方ないんだもん!久しぶりに会えるんだもん!お仕事してたら会える時間が減っちゃうしまたすぐ出掛けちゃうかも知れないしだから仕方ないんだもん!」


ぴょん「よし。オレが一緒に城へ向かおう」


ぽん「なんで?」


ぴょん「きちんと話をする。そして必ずわかってもらう」


ぽん「そんなことできるの?」


もこ「ぴょんちなら出来るかもね」


ぴょん「ああ。心配しなくていい」


ファクシミリア「でも、観光客のあなたを連れて行っても……」


ぴょん「どうか信じてほしい」


ファクシミリア「うにゅー……わかりました!なるようになれです!」


ぽん「てけとー」


ファクシミリア「私は子供だから、少しくらい勝手でも許されるのです!」えへん


ぽん「それわかるよ!僕もよくある!」


もこ「よくあっちゃだめやよ」じとー


ぴょん「じゃ、後で合流するから」


ぽん「いってらっしゃーい!」


こうして、お手紙を届けることになったぽんちゃん。

ちゃんとお届け出来るかな?


ファクシミリア「あー!届ける場所がわからないじゃない!」ががーん!


ぴょん「いいナビがついているから平気だ」


ファクシミリア「あ、天の声さんですね」


天の声によるいいナビの案内で、ぽんちゃん達は下層、現代都市へとやって来ました。


ぽん「おーにぎやか」ふらー


ぴーたん「離れちゃだめ」つまみ


もこ「ここで離れたら迷子になっちや」


ぽん「ナレーションさんがいるから平気」


勝手したら容赦なく見捨てます。


ぽん「ひどー」


ぴーたん「ここはどういう町?」


ここはですね、若い擬人化達の暮らすフレッシュな城下町です。

新しい物がたくさん集まっている楽しい所です。


ぽん「なんかめっちゃキラキラしてるね」


ホローニ「こんちはー」おぼろげー


ぽん「ぎゃ!おばけ!」びくっ


ホローニ「ホログラムの擬人化のホローニだよ。町を飾るプロジェクションマッピングは俺が伝えたんだぜ」


もこ「プロジェクションマッピング?」


ぽん「見て!お魚泳いでる!」


ぴーたん「この町の壁、どれも映像で飾られているね」


ホローニ「店舗用テントの下に映写機があんだ」


ぽん「ほんとだ」


もこ「良くできてる」


ホローニ「それよりどこ行くの?君たち観光客だろ?」


ぽん「電気街ってところに行きたいの」


ホローニ「あー、あそこはうるさいところだよ」


ぽん「うるさいの?」


ホローニ「電化製品が集まっていてな。そこにある電化製品がうるさいのなんのってんだ」


ぽん「ふーん」


ホローニ「ここからもう少し先だ。一応忠告しておくけど、インターフォンを間違えて押すなよ」


ぽん「は?」


ぴーたん「消えちゃった」


もこ「ナレーションさん、どういうこと?」


たくさんインターフォンがありまして、その一つがお店の人を呼ぶものなんですけど、もし間違えたらピンポンダッシュ扱いになってしこたま怒られることになります。


ぽん「なにそれうざすぎ」


ピンポンを押し回って逃げる若者が多いためです。

残念な文化として、世界文化詩にも載っています。


ぽん「へえ」


ピンポン押したのは君の気をひくためじゃない。

退屈な人生に刺激を与えるためさ。

そう、それはまるでエレネアパルス。

俺達を明日へ生かす必要な刺激さ。


ぽん「何言ってるの?」


今のが残念な文化を謳った詩です。


ぽん「どーでもよい」


ホローニ「ああそうそう。そこにさりげないバス停があるだろ」


ぽん「びっくりした。急に出てこないで」


ホローニ「そんなことよりほら、さっそくトロッコがきたぞ」


もこ「浮いてる!」


足元に色の違う石が線になって続いていますでしょう。

それは磁石の一種で、あれは磁力で浮いているのです。


ホローニ「この広い現代都市にしかないリニアトロッコだ。それに乗ればすぐだよ」


ぽん「わーい一番乗り!」ぴょこん


ホローニ「楽しんで行ってこい!」


ぽん「ありがとー!」てをふりふり


町を観察しながらのんびりトロッコに揺られることしばらく、電飾が忙しく明滅する大きなアーチを見つけました。


もこ「見て!電気街エレートコて書いてる!」


ぽん「ここだ!降りよう!」ぴんぽーん!


エレートコはチャイムの音がえれーところ。


ぽん「ピンポンうるさー」耳ふさぎ


ぴーたん「電化製品もうるさい」


ヽ(♯`Д´)ノコリャーッ


ぽん「なんですか?」


ヽ(♯`Д´)ノ「インターフォン押したろ!」


ぽん「押してませんけど」


ヽ(♯`Д´)ノ「ここはエレートコの出入口。逃げるにはもってこいのどっこいしょとお前たち若者がよく言ってるだろ!」


ぽん「知りません」


もこ「言ってません」


ヽ(♯`Д´)ノ「嘘つけよ!私は防犯電灯の擬人化だからわかるよ!ほら見てみろ!店前に設置した防犯電灯のセンサーが反応してずっと光っているだろ!これは誰かが来た証!このセンサーは動きにも温度の変化にも反応するんだ!」


ぽん「もううるさい!僕たち押してません!」おこだよ!


ヽ(♯`Д´)ノ「センサー見ろ!」


ぴーたん「ここは人の往来が特に多い。気持ちは察するが誤解だ。あたい達は、今日初めてこの町へ来た観光客なんだ」


ヽ(♯`Д´)ノ「帰れー!」


ぽん「ええ……」


ぴーたん「行こう」


ぽん「うん」


ヽ(♯`Д´)ノマテーッ


ぽん「なに?」


ヽ(♯`Д´)ノ ≫('.')≪


ぽん「なにこれ」


≫('.')≪「やあ」


もこ「ひっ!」びくっ


ぴーたん「おもちゃかな」


ヽ(♯`Д´)ノ「こいつに呼んでもらえば、ピンポンダッシュと間違えられない!お詫びだもってけ!」


ぽん「いりません」のんのん


(( ≫('.')≪ ))


もこ「飛んだー!」びくびく


ぴーたん「おいで」


ぽん「ぴーたんの頭に乗っちゃった」


もこ「なんかやだ……」


ぴーたん「ありがとう。せっかくだから頂きます」


ぽん「もらうんだ」


良いものを貰いましたね。

さあ、節約署まであと少しです。


ぽん「ほんとに少しだった」


もこ「ここ?ビルなんてなっちや」


下層都市の建物はどれも地下へと続いています。


もこ「へえ」


ぽん「ぴーたん」


ぴーたん「任せて。コロネ、君に決めた」


ぽん「コロネって名前つけたんだ」


≫('.')≪「おーい」


ジャグジー「はいはーい」とたとた


ぽん「出てきた。やるじゃん」


もこ「あの。ここは節約署ですか?」


ジャグジー「そうだよ。ここは国の節約を一手に担う所です。例えば、国で使う電気や水について色々と調べたり様々な情報を集めて、それを参考に、国に節約をアドバイスするのが我々の仕事なんだ」


ぽん「説明ありがとうございます。よくわかんないけど」


ジャグジー「難しい話でごめんね。元説明書付きの擬人化はつい説明する癖があってね。特に大人の女性はうるさいよ。私の説明書をまずは読んでくださいなんて言ってね」


パチコ「あなた、浄水器付属蛇口の擬人化のくせしてお口は常にゆるゆるの開きっぱなしで、それも汚い水がドバドバ出るようね」いら


ジャグジー「ソロバンのパチコ署長!」


パチコ「女性を馬鹿にしたから減点はこれくらいになるかしら」パチコパチコ


ジャグジー「どうかご容赦ください!」ぺこ!


パチコ「お昼、デザート抜きね」


ジャグジー「そんなあ……!」がくっ


パチコ「それにしても、今日は姫様遅いわね。ついに減点しちゃおうかしら」パチコパチコ


ぽん「はいお手紙!お姫様の代わりに、僕たちがお届けに来ました!」


パチコ「あらそうなの。姫様はどうかなさったの」


ぽん「えとね、王様と女王様に会いに行きました」


パチコ「あらまあ。それは加点ね」


ぽん「かてん?」


ジャグジー「点数あげあげ、だよ」


ぽん「どうして?」


パチコ「私たち国民はいつでも姫様の幸せを願っているからよ。姫様とお二方はそれはもう家族みたいに仲良しでね。でも、お二方は忙しくてよく国外へ出掛けてしまわれるの。私たちは寂しいはずなのにそれを隠してまで元気に振る舞う姫様を見るのがそれは辛くて辛くて。だからこうして会える日くらいお仕事はお休みになってと日頃から言っていましたの。ようやく休んでくれたようで安心したわ。あなた達のおかげなのね。ありがとう」


ぽん「ぴーひょろろ……」すやすや


パチコ「ちょっと、もしかして寝てる?」


もこ「起きてます」


ぽん「どうして言うの」ぱちくり


もこ「うっとっちい」じとー


パチコ「お礼にこれをどうぞ」


ぽん「なにこれ」


パチコ「最先端、小型VHS再生装置超薄型よ」


ぽん「テレビでやってた新しいやつだ!」


ぴーたん「そろそろ換え時だったから丁度いい」


パチコ「録画に再生だけじゃなく、今までの中型VHSを小型VHSに移すこともできるのよ。あとこれオマケにいる?」


ぽん「なにこれ」


パチコ「はとぽっぽのグルメ旅。貰い物だけどいらなくて。これ、子供向けのグルメレポートになっててね、立派な鳩胸のろけっとぽっぽっていう鳩がグルメの国で美味しいものを食べ渡る内容なんだけど……いる?」


ぽん「いります!」きらきら


パチコ「そう。ならどうぞ」


ぽん「やったー!」


もこ「一日中繰り返し見るんやろね……はあーあ……やだぁ……」


ぽん「ぴーたん、これしまえる?」


ぴーたん「任せて」ぱっくんちょ


ぽん「おー!食べちゃった!」ぱちぱち


ぴーたん「これも」あーん


≫('.')≪「ギィアアアアア!!」


もこ「ひいっ!」びくびく


パチコ「ねえさっき、私があげたの小さくならなかった?」


ぴーたん「収縮くらい自由に出来る」


パチコ「最先端ね!あなた加点よ!」


ぴーたん「どうも」


ぽん「さ、次のお手紙さっさと届けちゃおー!」


ぽんちゃんは思っていた。

はやく帰って立派な鳩胸を見るぞと。


ぽん「ふんふんふーん!」るんたった


しかし、この時の彼女は知るよしもなかった。

鳩が鳥肉を口にして瞳に溢れんばかりの情を湛えるという、心を捻り涙を絞る感涙のドキュメンタリーが待っていることを。


ぽん「大きくて広いエスカレーターだなー」


それはさておいて。

一向は大型エスカレーターに乗って、中層、未来都市へとやって来ました。 


ぽん「未来っていうけど、下の方がにぎやかだったよね」


もこ「うん。ここは落ち着いてるやよ」


ここは未来に向けて、世界各国と連携して研究や発明をする都市です。

図書館といった勉強をするための施設が多いのが特徴です。


ぽん「嫌なところだ」


ぴーたん「後で図書館へ寄ろうか」


ぽん「意地悪!」


ぴーたん「ごめんちゃい」ぺろ


ぽん「もう!」ぷんぷくー


もこ「でも次の目的地、図書館やよ」


ぽん「えー」


もこ「えーて、絵本とかもあっちや」


ぽん「れりごー!」


もこ「調子いいやつ」


と、ここで木漏れ日さんさんと瞬く緑地公園で小休憩。


ぽん「直せるの?」


ぴーたん「フォアグライドは妹みたいなものだから」かちゃかちゃ


ぽん「ぴょんちゃん喜ぶだろうな」


ぴーたん「よし出来た」


修理を終えたら、公園内にある国立マナベイ図書館へ。


ぽん「この木何の木?」


もこ「気になる気になる」おててぱたぱた


それは、この国の発展を願って植えられた楽園の樹です。

中に部屋のようなたくさんの空洞が出来ることからそう名付けられました。


ぽん「じゃあこの木が図書館だ」


そうです。


ぽん「ぷちわくわくかも」わくわく


もこ「うきうきやよ」うきうき


ぴーたん「さあ二人とも、探検に出発だ」


ぽん「わーい!」とたとた!


中では、走らない大きな声出さない余計なことしないこと。


ぴーたん「居心地よくて、本当に楽園みたいだね」


ぽん「いいにおーい」くんくん


もこ「そよ風も気持ちいいー」さわやかー


ぴょん「いい風がこの国全体に吹くのは、この国の回りに山があるからだよ」


ぽん「出たな!勉強星人!」


ぴょん「しっー」


ぽん「そうでした」しっー


もこ「どうにかなったん?」


ぴょん「ばっちぐー」


ぽん「何したの?」


ぴょん「きちんとお話ししただけだよ」


ぽん「ふーん。お話し上手なんだ」


ぴーたん「あたいもお話し上手だよ」


ぽん「そうなの?」


ぴーたん「お手紙を届けたら絵本を読んであげる」


ぽん「二人ともお願いします」はい


もこ「ちょっち」じとー


ぴょん「いけないぞ。と、いつもなら言うところだが」


ぽん「お?」


ぴょん「今日はせっかくぴーたんがいるんだ。引き受けよう」


ぽん「やったー!」


ぴょん「しっー!」


ぽん「しっー」


ぴょん「楽しんで」


ぽん「うん。ありがとう」


もこ「仕方なっちや」やれやれ


ぽん「後で絵本読んであげる」


もこ「いいよ。気にせんで」


ぽん「もこちゃんも優しい。二人が友達でよかった」にこっ


なのり「なのり」にこっ


もこ「あっそ」ぷい


ぴょん「素直に喜んだらどうだ」


もこ「嬉しくなっち。いいからさっさと行くよ」


ぴょん「はーい」髪ぴこぴこ


二人を見送り、ぽんちゃんとぴーたんは仲良く手を繋いで子供図書室へ。

背の高い本棚には、子供が危ない目にあわないよう、特殊な樹脂で作られた窓が備えてあります。


ぽん「上の本、どうやって取るんだろう」


台座がありますが、誰か使っているようです。


ぽん「そう」


ぴーたん「ほら」だっこ


ぽん「届いた!」


ぴーたん「なんの絵本を取ったの?」


ぽん「醜いアヒルの娘」


ぴーたん「それは性格の悪いアヒルの娘が更正する話だね。どうしてそれを選んだの」


ぽん「見たことないしアヒルだから」


ぴーたん「そうか。読んであげよう、おいで」


本棚の間を抜けて、二人は鳥の巣をモチーフにした読み聞かせ室へとやって来ました。


ぽん「外だ」


ぴーたん「壁は高いようで何より」


ぽん「登ったらだめかな?」


ぴーたん「やめなさい」


ぽん「はーい」


ぴーたん「さ、読むよ」


ぽんちゃんはぴーたんの足の間に座って、心をときめかせます。


ぴーたん「あるところに、性格の醜いアヒルの娘がおりました。彼女はいつも幼い雛鳥に意地悪をして遊んでおり、彼らの親鳥達からよく怒られていました」


ぽん「わっるいなー」


ぴーたん「そんなある日のことです。醜いアヒルの娘は一羽の美しい白鳥と出逢いました」


ぽん「一目惚れだね」


ぴーたん「しかし、悪い噂の絶えない醜いアヒルの娘はフラれてしまいます」


ぽん「仕方ないね」


ぴーたん「醜いアヒルの娘は三日三晩、湖に映る自身の情けない姿を見ながら雛鳥のようにピィピィ泣き続けました。そこへ」


ぽん「そこへ?」


ぴーたん「一羽の雛鳥がひょっこりとやって来ました。なんの雛鳥かな」


ぽん「んーとね。プテラノドンさん」


ぴーたん「それ鳥じゃないね」


ぽん「じゃあ、えーとおーといーとうーと……あ!」


ぴーたん「言ってごらん」


ぽん「カモノハシさん!」


ぴーたん「それも鳥じゃないね。正解はメジロさんでした」


ぽん「難しすぎ」


ぴーたん「メジロの雛鳥は言いました」


お姉さん泣かないで。


ぴーたん「突然声をかけられて驚いた醜いアヒルの娘はすっかり泣き止みました。メジロの雛鳥は安心した表情で続けて言います」


お姉さん意地悪だけど、羽が綺麗だから素敵だよ。


ぴーたん「その言葉に醜いアヒルの娘はまた泣き出しました。こんなことを言われたのは初めてでした。それに、よく意地悪をしたメジロの雛鳥が自分のことを素敵だと褒めてくれたことを、彼女はとても嬉しく思いました」


遊ぼう。そうしたら元気になれるよ。


ぴーたん「メジロの雛鳥に誘われて、醜いアヒルの娘は日が沈むまで一緒に遊びました。それは今までにない楽しい一日となりました」


ぽん「めでたしめでたし」


ぴーたん「お話はまだ続きます」


ぽん「はやく続き読んで」


ぴーたん「醜いアヒルの娘はその夜、月をぼんやりと眺めながら今日の出来事を思い返しました。するとやっぱり嬉しくて、とても楽しい気持ちになりました」


ぽん「それから?」


ぴーたん「すっかり心を入れ替えたアヒルの娘は、雛鳥たちの面倒をよく見るようになりました。親鳥たちも感心して温かく見守るようになりました。そこへ、一羽の美しい白鳥がやって来ました」


ぽん「お?」


ぴーたん「白鳥は言います」


君は美しくなったね。


ぴーたん「アヒルの娘は、美しいのはこの子達の心です、と答えました」


やっぱり君は素敵だよ。


ぴーたん「アヒルの娘は、お尻を愛らしく振って照れました。白鳥は羽を折って丁寧にお辞儀をするとこう言いました」


僕と結婚してください。


ぽん「めでたしめでたし」


ぴーたん「あと少しだよ」


ぽん「はーい」


ぴーたん「こうしてめでたく結ばれたアヒルの娘は、たくさんの雛鳥たちに囲まれて、いつまでも幸せに暮らしましたとさ」


ぽん「めでたしめでたし!」


ぴーたん「めでたしめでたしだね」


ぽん「面白かった!」


ぴーたん「良かった。それじゃあ、そろそろ行こうか」


ぽん「えーもうひとつ読んで」


ぴーたん「時間がないからまた今度ね」


ぽん「ぶーぶー」


一方その頃。

もこぴょんの二人は、迷路のような幹の中を歩いて、ひたすら上を目指していました。

エレベーターなんてものはなく、ちょっぴり疲れたけれどなんとか頑張って、最上階にある枝の先、大きな葉でくるまれた部屋の前へとやって来ました。


もこ「外見て、いい景色」


ぴょん「丘の上から見るのとはまた違った良さがあるな」


もこ「町がキラキラして素敵」


シオリン「あのーどちらさんかな」


葉っぱの扉をめくって、こんにちは。


ぴょん「こんにちは。お手紙をお届けに来ました」


シオリン「おや、ファクシミリアちゃんは?」


ぴょん「家族が帰ってきまして」


シオリン「それはハッピーなことね!はじめまして、あたしは図書委員長のシオリンよ」


ぴょん「はじめまして。ぴょんぴょん・ネーデルミントです」


もこ「はじめまして。おちは」


シオリン「アイドルのもこちゃん!」


もこ「そうです。こんにちは」ぺこ


シオリン「指紋もらっていい?」


もこ「はあ?」


ぴょん「もこち」


もこ「別にいいですけど」


シオリン「やたっ!さっそく中へどうぞ!」


ぴょん「お邪魔します」


もこ「葉っぱ。本棚も机も葉っぱ葉っぱ葉っぱ」


ぴょん「おもしろいな」


シオリン「さ、どうぞそのソファーへかけて」


もこ「やわらか?」すとん


ぴょん「ふわっとしているな」ぽふぽふ


シオリン「この栞に指紋をください!」


もこ「サインやなくていいの?」


シオリン「コアなファンならやっぱり指紋でしょう!」


ぴょん「そうなのか?」


もこ「知らん」じとー


シオリン「ぺったんして!はやくはやくー!」


もこ「こんな感じかな」ぺったん


シオリン「マイもこー!」きらきら


もこ「大切にしてください」


シオリン「写真もいいですよね?」


もこ「いいですけど」


シオリン「はいうれぴーす」かしゃ


もこ「落ち着いてください」


シオリン「ごめんなさい。お紅茶いれて落ち着きます」ぎゅ


もこ「ハグはだめですよ」


シオリン「今日という日に栞を挟んで繰り返せたらなー!」るんるん


もこ「聞いてないし」ぷくー


ぴょん「それだけ嬉しいんだよ。愛されて良かったじゃないか」


もこ「まあね」


シオリン「やばっ!燃え移った!ふーふー!」


もこ「こんなとこでマッチ使うから」


ぴょん「恐くなってきたかも……」


シオリン「おまたせー。ミントティーよ」


ぴょん「やった!」


シオリン「おや、あなたもミントティー好きなのね」


ぴょん「この香……!」髪ぴこ


シオリン「そのキスをするような飲み方、あなたまさかのティープロね」


ぴょん「この味……!」髪ぴこぴこ!


シオリン「ティープロなら何のミントかおわかりよね」


ぴょん「これはウラミハラスメントですね」髪しゃきーん!


もこ「なんよそれ」じとー


シオリン「正解よ」


もこ「うえー……」


ぴょん「うえーとはなんだ!」


シオリン「もこちゃん!これはいいミントよ!」


もこ「ねえ。この味」


ぴょん「ああ。オレがいつもいれているミントティーと同じだ」


もこ「うえー……」


ぴょん「だから、うえーとはなんだ!」髪ぴーん!


もこ「なんてもん飲ますんよ!」おこ


シオリン「ウラミハラスメントなんて物騒な名前をしているけれど、それだけ、まるで恨みを晴らした後みたいに爽やかになれるというだけよ」


もこ「うーん……」


ぴょん「美味しいだろう!」


もこ「美味しいけどや」


ぴょん「けどけどって!そういうのよくないぞ!言いたいことがあるならハッキリ言え!」


もこ「うっさい!ウラミハラスメントとか恐すぎやよ!おまたん何考えてんの!」


ぴょん「……昔の話だ」セタップ


もこ「何考えてたんよ!」


ぴょん「聞くな。昔の話だ」


もこ「シオリンは?」


シオリン「元彼を」


もこ「…………」


シオリン「聞かないで。昔の話よ」


もこ「なんかやあ……」びくびく


ぴょん「昔の話だって」かたぽん


シオリン「あなたは恨みを晴らしたい人とかいないの?」


もこ「昔はなのりの元気を恨んでたけど、もっと元気でうるさいのがいて、なのりもいい子だってわかったし……今はない!」


ぴょん「乾杯」かちゃん


もこ「なんで?」


それから時計の針が半周する頃。


ぴょん「どんどん飲もう!」


もこ「なんか気分良くなってきたー!」


シオリン「マイナスイオンのおかげよー!」


ぽん「なにどんちゃか騒ぎで楽しんでるの」


もこ「あ、元気星人」


ぽん「は?」


ぴーたん「ところで二人とも、手紙が一通残っているのを忘れてない?」


ぴょん「…………」


もこ「…………」


ぽん「まあいっか」


ぴーたん「良くない。急ぐよ」


ヒヤッとするほど長い長い滑り台で下に降りた一行は、上層、懐旧都市へ急ぎます。


ぽん「とっても静かだね」


ここは歴史と趣が深い都市です。


もこ「お年寄りばっかりやよ」


ぴょん「建物も昔のままみたいだ。壁にコケが生えている」


曖昧だけれどグッとくる雰囲気を楽しみながら歩いて、オコチシ博物館へとやって来ました。


ぽん「なんだこれ」


落ち着いた赤に金を走らせた厳かな装飾のエントランスを通って、子供一人分の幅しかない通路を抜けると、まずはボタンコーナーがありました。


ぽん「ぷちいいかも」


もこ「ボタンて、色んなのがあるんやね」


ぴょん「このボタン、貝で出来ていたのか」


ぴーたん「三人はゆっくり見るといいよ。あたいが館長に会ってくる」


ぽん「かんちょーするの?誰に?」


ぴーたん「誰にもかんちょーしないよ。館長ていう、ここの一番偉い人に手紙を届けてくる」


ぽん「お願いね」


ぴーたん「任せて」


三人は子供一人分の幅しかない通路を抜けて、次にリボンコーナーへとやって来ました。


ぽん「こういうのマニアックて言うんだよね」


そうですね。

おもしろい展示品が並ぶ博物館ですね。


もこ「太いのも細いのも、あーどれも可愛い」


ぴょん「これなんて君に似合うんじゃないか」


もこ「うん、似合うかも」


ぽん「僕はどれが似合うかな」


もこ「このスパンコールついたの」


ぽん「コテコテやないか」ぺち


ぴょん「リボンで作る漫才用の蝶ネクタイまであるとは、これはマニアックだ」


三人は子供一人分の幅しかない通路を抜けて、次にオルゴールコーナーへとやって来ました。


ぽん「これ回していいって」


もこ「おっきいやよ。回せる?」


ぽん「んーしょ!」くるくる


もこ「おーいい音色」


ぴょん「二人とも」


ぽん「なに?」


ぴょん「こっち来て」ちょいちょい


ぽん「なになに?」


もこ「ふみふみオルゴール?」


ぴょん「ペダルを踏むと空気で回るらしい」


ぽん「三つあるね」


もこ「それぞれ音色が違います。三つ回すと一つの楽曲になります、やって!」


ぽん「いくよ、せーの」


もこ「かたっ」


ぽん「はっはっはっ!音がズレてるよ!」


ぴょん「しっかり合わせないとダメみたいだな」


三人は子供一人分の幅しかない通路を抜けて、次に中央に位置する資料室へとやって来ました。


ぽん「紙芝居だ!」


ぴーたん「読んであげよう」


ぽん「おかえり」


ぴーたん「ただいま」


三人は座敷に座って紙芝居を楽しみにします。


ぴーたん「それでは始まり始まり」


ぽん「わーい」ぱちぱち


昔、この辺りの山々には人が暮らす小さな村がいくつもありました。

ある日のことです。

一人の女性が赤子を授かったのですが、可哀想なことに、赤子は生まれて間もなく亡くなってしまいました。


ぴーたん「夫は今にも消えてしまいそうな妻の弱った姿を見て、一体の女の子の人形をプレゼントしました」


妻はそれを本当の娘のように大事にして、いつか、人と変わりなく接するようになりました。

夫はそれを、良いこととして見守っていました。


ぴーたん「ところがある夜。妻が人形を連れてふらっと姿を消してしまいました。それを村人は誰一人と知らず、気付いたのは仕事から帰った夫一人でした」


夫は山々を渡り歩きましたが、どの村を訪れても、数日経っても見つかることはありませんでした。

しかし、それからすっかりくたびれた夫が、小高い丘の上で心を振り絞って星に祈っていた時でした。


ぴーたん「どこからか妻の声がはっきりと聞こえてきたのです。夫はその声のする方へ駆けて行きました」


すると、丘を下りきった所に、一軒の家がありました。

夫はその家から妻の声を聞くと、すぐに扉を開けました。


ぴーたん「そこには妻と、一緒になって笑う可愛らしい女の子がいました。女の子は夫が妻に渡した人形そっくりでした」


人形が生きた人になるという噂は瞬く間に広がり、世界中から人々がこの地を訪れました。

初めは人形ばかりでしたが、やがて、思い深い品を捧げる人まで現れました。


ぴーたん「それからのこと。人形だけでなく、情のこもった思い深い品まで人の姿となるようになりました。そしてこの不思議な地にはお城が建ち、国が出来ました」


現在、ここに暮らす人の姿はありません。

それでも、現在もこの話は大切に語られています。


ぴーたん「想いが生きる話として。おしまい」


ぽん「どうして人はいなくなったの?」


このお話の真偽は確かではありません。

そもそもそのような事実が本当にあったのか、それは誰にも分からないのです。


ぽん「そう」


ぴーたん「思い深い品をただ捨てるんじゃなく、大切に思いやって、ここに持ってきたからかも知れない」


ぽん「どゆこと?」


初めからここで暮らす考えはないけれど。

伝承を信じて、生きて幸せになってと、思い深い品を捧げた。


ぴーたん「ということ」


ぽん「ふーん」


ぴーたん「あそこの資料に、現在も捧げに来る人が稀にいるって書いてあったよ」


ぽん「へえ」


ぴょん「これからはもっと、物を大切にしないといけないな」


ぽん「もし大切にしなかったらどうなるんだろう」


ぴーたん「呪うよ」


ぽん「え?」


ぴーたん「ぷちね」


ぽん「大切にします」うるうる


ぴーたん「お願いね」なでなで


こうして、改めて物を大切にしようと決めた三人は博物館を後にして、この町の天辺にある居城へとやって来ました。


ぽん「立派だなー」


門番「あ、君たちは姫様のお友達だね。電話かけるから待ってて」


一分二秒後。


ファクシミリア「お待たせしました!」


ぽん「走ってきたの?」


ファクシミリア「ええ、急ぎましたよ!」


ぴーたん「お姫様。お手紙、きちんと届け終わりました」


ファクシミリア「ありがとう!お世話になりました!」ぺこ


ぽん「ねえ、ぴーたん」


ぴーたん「なに?」


ぽん「ここで幸せに生きたら?」


ぴーたん「ここで?」


ぽん「せっかく自由になれたんだし」


ファクシミリア「もしここで暮らすのであれば、私は大歓迎しますよ」


ぴーたん「ダメだ」


ぽん「どうして?」


ぴーたん「ぼんちゃんは世界に空想を伝えなきゃならない。ぽんちゃんは世界に愛を届けなきゃならない」


ぽん「うん……でも……」


ぴーたん「ぽんちゃんはどうしたい?本当の気持ちを教えて」


ぽん「そうしたい」


ぴーたん「そのためにあたいは、ぽんちゃんを乗せて飛ぶ。どこへだっていつだって」


ファクシミリア「そうですね。その方が良いでしょう。ずっと側にいることが出来ますし」


ぽん「ずっと側に」


ぴーたん「いるよ」ぎゅ


ファクシミリア「大切な誰かが側にいること。それは、みんなもよく知る幸せの一つです」


ぽん「それじゃあ、ぴーたん」


ぴーたん「次の国はどんなところか楽しみだね」


ぽん「うん!」


ぴーたんは自らスワンボートの姿へと戻りました。


ぴーたん「れりごー!」


いやー!きゃー!姫様ー!


ポケベルス「大丈夫かい?僕たちのお姫様」


ファクシミリア「ポケベルス様……!」


フィディオ「珍しいお客さんでしたね」


ファクシミリア「うん。約束のお茶会の日が楽しみです」


ポケベルス「それまで手紙を書いて送るといいよ」


フィディオ「彼らならきっと、あなたにとっていい友達になるわ」


ファクシミリア「お友達……人となれるかな?」


ポケベルス「もちろんなれるよ」


ファクシミリア「んふふ!楽しみ!」

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