作法の国
色風が撫でる綿毛の髪。
日向でおめかしした頬。
男は夢を見る。
夢に咲く甘美な雛花。
芳香に誘われる蝶々。
オパンティヌスもその一匹。
夢の名残に心が応える。
鼓動が想い遣り奏でる。
男は現を見る。
恋い焦がれるほどの瞳。
恋い慕うまでの微笑み。
オパンティヌスは愛を知った。
もこ「もうええわ!」ぱたむ!
ぽん「大事にして。そのポエティ、オパンティヌスさんがくれた国宝なんだよ」
もこ「ポエティて何、ポエムやろ。て、どうでもいいっちや」
ぽん「まあ。確かにどうでもいいけど」
もこ「じゃ捨て」
ぽん「国宝なの!」
もこ「今どうでもいいっち言ったやよ」
ぽん「そだけど、お宝はお宝だから」
もこ「ふーん」
ぽん「次は、とっておきのお宝見せてあげる」よいせ
もこ「どうせまた変なのやよ」
ぴょん「そ、それは!」セタップ!
ぽん「世界に一つだけの、僕だけのビーバー人形さんです!」どやあ!
もこ「いいなあー!」きらきら
ぴょん「絶妙にブサイクな顔に!」
もこ「素敵な花のドレス!」
ぽん「誕生日の国でプレゼントにもらったの。今度もらえるように紹介してあげる」
もこ「やった!」
ぴょん「よし!」
なのり「なのり!」
ぽん「あ、そうだ。ちょっと待っち」がさごそ
もこ「真似せんで」じとー
ぽん「じゃかじゃん!」
もこ「これと同じ花のドレス!?え、ほんもん!?」
ぽん「そうだよ。花の国の女王様、エリスリナさんがくれたの」おきがえ
もこ「いいな!いいな!」おててぱたぱた
ぴょん「素敵だ」ばっちぐー
ぽん「でしょ?」くるりん!
もこ「他には他には!?」ときとき
ぽん「これ以上はプライベートだから」のんのん
もこ「はあ?」
プライバシーのことでしょうか。
ぽん「ということで、僕のお部屋から出てって下さい」
もこ「なんよ、自慢したかっただけっちや」
ぽん「これあげよっか」ちら
もこ「!?」
ぴょん「眩しいくらい美しい鍵だ」
ぽん「グラサンしてるのに?」
もこ「なんよこれ!ねえ!ねえ!」ゆさゆさ
ぽん「星尾の鍵。星の国の国宝、始まりの星から作った鍵だよ」やめてー
もこ「また国宝?うそくさ」真顔
正真正銘の本物ですよ。
価値は、この星に相当するでしょう。
もこ「この星に!?は!?はあ!?」
ぽん「うるさー」みみふさぎ
もこ「やばっちやそれ!」
ぽん「うん。そんなに凄いものだったんだね」
もこ「で……くれんの?」ちらみ
ぽん「いいよ」はい
もこ「やや、冗談やよ!そんなの貰えんち!」
ぽん「いらないなら、それでいいけど」
もこ「ください!」おねがい!
ぽん「はい」
もこ「え?なんで?」
ぽん「どっち!」
もこ「そやなくて、なんでこんな大事なもんを」
ぽん「もこちゃんより大事で大切だけど、もこちゃんだしいいかなって」
もこ「はあ?それどういう意味よ」じとー
ぽん「もういいから。大事に大切にしてね!」
もこ「うん!ありがとう!」にぱー!
ぴょん「ふっ」
和やかなところ失礼。
みなさん、作法の国が近くにありますよ。
ぽん「作法の国?」
各家庭が小国家として認められ、各家庭ごとに取り決めたそれぞれの礼儀作法が独立した法律として適用される国です。
わかりやすく説明すると、お家のルールを守りましょうの国です。
ぽん「ほーん」
ぴょん「降りよう」
ぽん「なんで?」
ぴょん「作法という心掛けは人を豊かにする。だから勉強しよう」
ぽん「勉強は嫌です」いやいや
もこ「そう言ってもや、ぴょんぴょんが聞いてくれたことある?」
ぽん「ない。いつも勉強攻撃してくる」
もこ「あきらめ」かたぽん
やだー!そにっくぶーむがー!やなのー!
ぴょん「到着」
ぼんぼり「こんにちはだねー!」
ぽん「がおっしゅだねー!」がおー!
ぼんぼり「もしかして、作法を学びに来たのかな?」
ぽん「違います」
ぼんぼり「え」
ぴょん「学びにきた」
ぼんぼり「どっちかな?」んー?
ぽん「ちが……」ちら
ぴょん「…………」じー
ぽん「そうです……」しくしく
ぼんぼり「私は、ぼんぼり。よろしくね!」
ぽん「ぽんちゃんだよ。よろしくね」
ぴょん「ぴょんぴょんだ。よろしく」
もこ「もこ。あとはよろしく」
ぼんぼり「さ、行きましょう」ぐいー
もこ「なんで!ちょっち離してや!」
ぽん「逃がさないって」くすくす
ぼんぼり「うちのホームステイは楽しいから期待してね!」ぐいー
もこ「やーーー!」ずるずる
ぴょん「待て」ぐい
ぽん「ちっ」
嫌がる二人を力のままに引きずって、陶磁器で作られた庭付き家屋へ。
ぼんぼり「ただいま!」
父上様「おかえり」
あまりの気迫に表情が見えない父上様がお迎えです。
ぽん「ふぇぇ……」びくびく
もこ「かえりますぅ……」びくびく
ぼんぼり「さ、上がってくださいな」
ぴょん「お邪魔します」
父上様「喝!」くわっ!
ぴょん「ごめんなさい!」ひっ
父上様「人様の家に上がるときは図々しく、そして、靴は揃えない!散らかしなさい!」
ぴょん「なっ!散らかすなど出来ん!」
父上様「この家で作法を守らぬものは」ぎろり
もこ「ぎゃあああああ!!」
ぽん「はっ!」ふりむき!
逃げようとした、もこ容疑者、巨大な体躯のタンクみたいな母上様によって捕縛。
もこ「ごめんなさいいい!!」号泣
母上様「ニゲルモノ。ホウリツイハン。キビシイバツアタエル」
もこ「ふぇ?」ひっぐえっぐ
もこちゃん、庭でめいいっぱい大の字にされてハリツケ。
ぼんぼり「あちゃー。ひっぱりだこの刑にされちゃったね」
もこ「ごべんなざいいい!!」爆泣
父上様「作法を守ると約束できるかな」
もこ「うんうんうんうん!!」
もこちゃん、解放。
ぽん「ズルしようとするからだよ」
もこ「うっさい!」
改めまして玄関へ。
ぼんぼり「さ、頑張ってね!」
ぴょん「…………」
母上様「ドウシタ。サホウヲマモレ」
ぴょん「くっ……!」
ぽん「いつも通りにすればいいだけなのに」ぽいぽぽい
ぴょん「ぽん太!」
ぽん「ぽんちゃんです」
ぴょん「まさか裏切るのか」
ぽん「ごめんね」
ぴょん「……」
ぽん「僕は、とってもお行儀が悪いんだ」ふっ
いけない子。
お姉ちゃんに言いつけます。
父上様「卑怯者は黙っていろ!!」
ええ……。
ぽん「さ、はやくしたら」
ぴょん「おのれ……!」
もこ「…………」ぽいっ
ぴょん「もこちん!」
もこ「ん、つけんで!」
ぴょん「君まで裏切るのか!」
もこ「仲間になった覚えはなっち。おちは初めから敵やよ」すたすた
ぴょん「またひとりに……」ぼそっ
ぽん「じゃ、頑張ってね」すたすた
ぴょん「それでもオレは戦う!」ぐっ!
父上様「ほほう。見上げた根性だ」
母上様「タタカウコトヲミトメル」
ぴょん「なら、いくぞ!」
ぴょんちゃんは皆の靴を綺麗に揃えてみせる。
そして、改めて元気よく挨拶を行った。
父上様「よもや、皆の靴まで揃えるとはね」
ぴょん「当たり前のことさ」すたすた
母上様「キケン。キケン。キケン」
父上様「わしが、なんとかしよう」
リビングに集まり、新たな戦いへ。
ぽん「お菓子とかないの?」ちょいちょい
ぴょん「なんだと!」
父上様「清々しいほどの図々しさだ。偉いぞ」
ぽん「えへへ」てれ
ぼんぼり「なかなかやりますね!」
もこ「ちょっち、これ牛乳やない」指とんとん
母上「モンダイアルカ」
もこ「パインジュースくれ」ふんぞり
ぼんぼり「テーブルに足を乗せた!?」
父上様「その上、なんたるふてぶてしい態度!」
ぽん「極悪人だね」ごくごく
もこ「ふん!」ぷいっ
ぴょん「助かるためなら手段を選ばないということか」
もこ「なに?悪い?」ちうー
ぼんぼり「ううん!素晴らしいよ!」
もこ「やろ?」
ぽん「よーし!僕だって!」
でたっ!必殺の指ぺろぺろ!
ぴょん「みんなと食べるときはしないと感心していたのに!」くっ!
ぽん「このクッキーぷち微妙」
ぼんぼり「ママの手作りクッキーを微妙だなんて!ああ、すごいよあなた達!」
父上様「それに比べてお前ときたら」ためいき
ぴょん「美味しいです。あっさりしているから牛乳と合いますね」
母上様「グオオオン!」ガタゴタ!
父上様「どうしたポンコツ!」
母上様「ミルク、マッチ、クッキー、イェイ」ガガガ!
ぼんぼり「まさか、牛乳に合うクッキーを用意して、それをわかって貰えて嬉しいんだね!そうなんだね!」
(((o(*゜∀゜*)o)))
ぼんぼり「ママ……!」ショック!
父上様「もてなしの心。罪悪感はないのか」
母上様「ワカラナイ」
父上様「そうか。しかしどうあれ、すまないね」
母上様、庭で卍にハリツケ。
ぴょん「ごちそうさまでした」
父上様「まったく動じないとは。しかし、褒められたことではないぞ」
ぴょん「それでもいいさ」
ぼんぼり「どうして?戦わずに済む方法があるのに」
ぴょん「戦わなければ生き残れない。オレの故郷はそういう国だった」
ぽん「ポテチうま」さくさく
ぴょん「それでも、正しいことをするために戦う人は少なかった。力がある人が恐かったからだ」
ぼんぼり「恐いのは当然だし、それから逃げることも当然じゃないかな」
ぴょん「それが当然だとしても、オレは正しく生きたい。そのために戦うし逃げない」
ぽん「やめといた方がいいよ。そのうちケガするよ」ぺろり
ぴょん「心が痛いのが一番嫌だ。だからオレは戦うんだ」
父上様「ならば、本気を出してみなさい」
ぼんぼり「そうね。そこまで言うなら、あなたの正しさを是非見せてほしいな」
ぴょん「ぽん太!」
ぽん「はい!」びくっ
ぴょん「指を舐めると、バイ菌が体に入りやすいからやめた方がいいですよ」
父上様「体への心遣いというアプローチできたか」むっ
ぴょん「それと、もう少しテーブルに近づいて食べなさい。ほらこぼれてます」
ぽん「後で掃除するし」
ぴょん「ここは人様のお家。逆に考えてごらん」
ぽん「……ぷち嫌かも」
ぴょん「そうでしょう。この家でお掃除するのはこの家の人なんです」
ぽん「うん。ごめんなさい」せっせ
ぴょん「掃除は私がしますから、君は手を洗っておいで」
ぽん「はーい」とたとた
ぼんぼり「そんなに丁寧に拾ってくれなくても、あ、謝らなくていいんだよ」
ぴょん「ご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした」深々
ぼんぼり「つむじが見えるくらい頭下げないで!もうやめて!こちらこそ、ごめんなさい!」
父上様「喝!」くわっ!
ぼんぼり「あらら……そうだね」
父上様「まったく、ママもお前も」
ぼんぼり「ごめんね、パパ」
父上様「パパは情けない。ああ、なんと恥ずかしい」
ぼんぼり、庭で く の字にハリツケ。
父上様「やれやれ」
ぴょん「もこち、君のこと信じていたよ」
父上様「これは!」
もこ「ふんっ。お皿洗いくらい、当たり前のことやっち」しゃかしゃか
父上様「は、はは……ははははは!自分でお皿を洗うなんて、逆に気を遣わせることになるぞ!」
もこ「ごめんなさい。でも、これくらいさせてください」ぺこ
父上様「ぐうっ!」がくっ
ぽん「あの、ゴミ箱はどこですか?」
父上様「ゴミならそのままにしといてくれ。わしが捨て……」はっ!
ぽん「どうしたの?」
父上様「家族を相手にしているような居心地の良さに気を許すばかりか、遣ってしまっただと!このわしがかあ!」
ぽん「誰かを想うことはいいことだよ」
父上様「しかしだね」
ぽん「お行儀悪いことより、お行儀良い方が気持ちいいよ。そうでしょう」
父上様「確かに今、わしは気持ち良いと感じている」
ぽん「僕もいっしょ!」にこっ!
父上様「ふっ……そうか」にこっ
父上様、庭に出て8の字にハリツケ。
ぽん「本当にいいの?」
父上様「自分達で決めたルールだからね。それに、これが最後だ」
ぼんぼり「パパ」
父上様「お行儀良いって、いいもんだね」
もこ「雨降ってきたよ!」
母上様「センタクモノ、オネガイ」
ぽん「いいけど、あなたさん達は!」
父上様「これでいいんだ」
ぽん「そう」
ぼんぼり「元気でね。みんな」
ぴょん「どうか、風邪をひかないように」
父上様「ありがとう。お前はお姫様みたいな気遣い上手だね。いや本当に参りました」
もこ「はやく!はやく!洗濯物!」おててぱたぱた
ぽん「そうだった」
ぴょん「行こう」
ヤバーイ!木がとんできたよー!パパがー!
ぽん「れりごー!」
彼女達の心の旅は、まだまだ続きます。