箸休め ダイヤモンドは砕けモース① ホープダイヤはカルティエ製?
番外編です。
今回は硬さの指標として使われている鉱物たちを紹介しています。
「亡霊葬稿シュネヴィ」内で語られた通り、石英(水晶)は鋼鉄に傷を付けられるほどの硬さを持っています。しかし世間一般的に、水晶が硬いと言うイメージはあまり浸透していません。むしろ占い師がよく使う水晶玉には、落としただけで割れる印象があります。
事実、水晶は強く叩いただけですぐに割れてしまいます。そして呆気なく砕け散ってしまうのは、水晶に限った話ではありません。最近は有名になりましたが、世界一硬いダイヤモンドはハンマーで簡単に割ることが出来ます。
本当にダイヤモンドが硬いなら、人の力で破壊することなど出来ないはずです。果たしてダイヤモンドが世界一硬いと言うのは、都市伝説なのでしょうか。
正解を言うなら、ダイヤモンドが世界一硬いと言うのは誤りではありません。ただし、ここで言う「硬さ」とは、多くの人が想像する「頑丈さ」とは異なります。ダイヤモンドが他の物質より秀でているのは、「傷の付きにくさ」と言った意味での硬さです。
世界には幾つか物体の耐久力を示す尺度があり、その一つに「モース硬度」と呼ばれる単位があります。モース硬度はドイツの鉱物学者フリードリッヒ・モースの考案した尺度で、引っ掻かれた時にどれだけ傷が付きにくいかを現しています。
モース硬度は指標となる10個の鉱物と、対象の物体を擦り合わせることで算出されます。
例えば硬度4の鉱物で擦っても傷が付かない場合、対象物は4以上の硬度を持っていることになります。この後、硬度5の鉱物で擦って傷が付いた場合、対象物の硬度は4.5と判定されます。つまり4以上の硬度は持っているが、5には満たないと言う意味です。
シンプルで判りやすいモース硬度ですが、細かい数値を導き出すことは出来ません。この方法で導き出せるのは、どの鉱物より硬く、どの鉱物より軟らかいかだけです。
また硬度4.5と判定された物質が二つあったとしても、双方が同じ硬さであるとは限りません。ただ硬度5の物質に傷が付けられないだけで、片方の物質のほうが硬い可能性もあります。特に硬度9の指標となる鉱物と、硬度10の鉱物の間には大きな開きがあり、範囲が広いことで知られています。
そしてこの硬度10の指標に使われているのが、何を隠そうダイヤモンドです。
鉱物界随一の硬さは古くから知られていたようで、古代ローマの人々はダイヤモンドを既に工具として利用していたと言います。当時「アダマス」(ギリシア語で『征服しがたい』の意)と呼ばれていたダイヤモンドは、他の宝石に彫刻を施すために使われていました。
神秘的な輝きを放つダイヤモンドは、幾つもの伝説を生んできました。例えばアメリカのスミソニアン自然史博物館が所蔵する「ホープ」は、所有者に呪いをもたらす宝石として知られています。
ホープは深い青色のダイヤモンドで、45.5カラット(9.1㌘)もの大きさを誇ります。採掘地は判然としませんが、一説にはインドで発見されたと言います。アメリカの宝石商ハリー・ウィンストンによってスミソニアン博物館に寄贈されたのは、1958年のことです。その名は1800年代前半にホープを手に入れた銀行家、ヘンリー・フィリップ・ホープに由来します。
呪いの宝石ホープは、持ち主に次々と不幸をもたらしたと伝えられます。フランス革命で処刑されたマリー・アントワネットやルイ16世も、ホープの持ち主だったと言います。
とは言え、フランス王家の人々がホープを所有していた証拠はなく、その他の話も眉唾物だと考えられています。一説には1909年にホープを購入したピエール・カルティエが、宝石に箔を付けるために怪談話をでっち上げたと言われています。
現にスミソニアン博物館にホープを寄贈したウィンストンは、82歳まで生きています。また彼の名を冠したブランドは、現在も最高級のジュエリーブランドとして認知されています。
長くなってきたので、今回はここまで。次回はモース硬度の指標として使われる、10種類の鉱物を紹介していきたいと思います。
参考資料:魔導具辞典
山北篤監修 (株)新紀元社刊
ダイヤモンドの科学 美しさと硬さの秘密
松原聰著 (株)講談社刊
徹底図解 鉱物・宝石のしくみ
宮脇律郎監修 (株)新星出版社刊




