おまけ
両親を、殺した。
親が嫌いだった。
不倫する親父。知っても止めるどころかどうでも良さそうに認め、自分も若い男と不倫するババア。
死んじまえ。お前らなんか。
まずったのは弟が帰ってきた事だ。
本当は犯行はもうちょい早めの予定だったが親父が思ったより遅く帰ってきたのだ。
でも、あいつが遅くまで家を空ける事は滅多にないのでチャンスを不意にはしたくなかった。
「…あ、…あ。」
呆然とこちらを見る弟。俺とは正反対のまともな道を歩いてきたこいつには、キツすぎたようで頭が真っ白になっているようだ。
「…う、じ。」
ババアが呻いた。まだ生きていたらしい。
鉄バットを振り上げる。
ピアノをするこの糞ババアの為に家は防音を徹底した作りになっている。大分叫んでいたが、大丈夫だろう。
―もう、死ね。
ガッ!!
足を掴まれる。
「ッ!!」
糞親父!まだお前も生きてたか!
揃いも揃って生命力強すぎだろ!
「…し!祐司!逃げてッ!!」
「ッ!!」
ドスンッ!!
「糞ババアッ!!」
親父の頭にバットを降り下ろし、すぐさま振り返る。
もう一度振りかぶり母親の頭を狙い、渾身の力で降り下ろした。
「…あ、あああああああああああああああッッ!!!」
当たったのは、弟の頭だった。
*
「で、交渉?」
「…ああ、好きにしてくれ。」
あの後母親にトドメをさして、弟を抱えて家を出た。
頭をバットで、しかもマジで殴った。医者には行けないしな。
そして、向かったのは悪友の城ヶ武智也の元だった。
親は保険のきかないお医者さんをやっている。…闇医者っつうとキレる。
打ち所が良かったらしく、さらにクリーンヒットは免れていたらしく大丈夫だと言われた。
一安心だが、計画が狂った
こいつは巻き込まず、適当に生きて欲しかったのだ。
こいつは悪くない、関係ないから。
貯めてた金じゃ二人はキツいし、現場を見られた以上……一緒に協力しながら生活は難しい。
だから、こいつを見てもらうついでに智也に会いに来た。金持ちなこいつの趣味は人間観察。
こいつのオモチャになる代わりに給料を寄越せと交渉しにきたのだ。
「ならこの子もちょうだいよ。」
このマッドサイエンティスト野郎、とんでもない条件付けやがった!
「あ?……ふざけんなよ?!!」
「ふざけてないよ?
実験はこの子が君と生きられるか。一年ごとにボーナスもあげるよ。部屋もこっちが用意する。」
「…生活するだけか?」
だけ、ねえと智也は笑う。
「そう。それだけの事に君は苦しむだろうけどね。……あと君はバレないようイメチェンしてね。」
*
祐司は記憶を失っていた。
しかし「ユウジ」という名前にとても反応し、怯えるので「ユウ」と呼ぶ事にした。
「ユウ!バイト行ってくるッ!!」
「一夜さん、いってらっしゃーい!」
俺の事は従兄弟だと言ってある。
ユウはフリーターで身一つで上京した際、物取りにあって身分証明のできるもの全て取られたと言った。
胡散臭い、酷すぎるウソだ。
それでも祐司はユウとして明るく暮らしている。それが素直に嬉しかった。
しかし、たった一週間で幸せは終わりを告げる。
バイトが遅くなり慌てて家に帰ると、中は真っ暗だった。
驚なながら電気をつけると部屋の隅で震えるユウがいた。
「ユウ?どう…」
「…兄貴。」
ドガッ!!
思わず、俺はユウを壁に叩きつけた。
二回目はユウキと呼び、一時も離れないようにした。
バイトも同じ職場、何かするときは必ず隣か近くにユウキを置く。
テレビで俺のやった事件の報道も減ってきて、なかなか上手くいっていた。
しかし、3ヶ月を少し過ぎた頃。
また気づいてしまった。俺の正体に。
それから何回も俺と祐司は暮らしなおした。
何回目かに部屋に閉じ込めたほうがいいと気づき、さらに何回目かに甘やかし加減を覚えた。
でも祐司は気づく。事の真相を自ら進んで追おうとする。
何度も心の底から泣き叫んだ。
いつになったらお前は許してくれるんだ。
「一生、許さないに決まってるじゃん。」
智也はそう言って笑った。
*
「…ねえ、一夜。今回で終わらせない?」
提案してきたのは智也だった。
俺はもうボロボロだった。
流石のどSも可哀想になった、らしい。
藁にもすがる気持ちで俺は決断した。
これで終わりにする。決意を込め、終夜と名乗った。
(後で安直過ぎると智也に大爆笑された。)
智也の提案は一ヶ月、祐司が真相にたどり着かずに幸せに暮らすこと。
しかし、今回は頑張れば逃げられるようあえてこっそり手助けをすること。
成功した暁には、智也の監視の元だが幸せに暮らせるよう新しい戸籍や履歴、新しい住まいなど全て揃えた上で一生を保証する。
と智也にしては激甘なこの条件は、何より俺の為のものだと理解していた。
*
「…あーあ。今回も駄目か。」
もう動かない弟を踏みつける。
ミシリ…
「…。」
この一年間は地獄だった。苦しいだけじゃない、後が苦しくて死にそうになるくらい楽しかった。
祐司と過ごす日常はそれまで体験したことが無いくらい穏やかで充実していた。
さっきお菓子を買いに家を出てすぐ、智也から着信があった。
「智也か、どうした?」
嫌な汗がじめっとする。
「…分かってるでしょ。
君達の元の家だから。」
それだけ言って電話は切れた。
「どうしてだろうな…。」
頭を掻く。疲れた笑顔が夕日に赤く照らされた。
その目はどこまでも冷たい光を放っていた。




