ループ ザ エンド
キングサイズのベットの上。
俺は拘束されていた。
辺りを見渡すとなかなかに広く高級そうな家具が置かれている。
この部屋の持ち主はセレブみたいだ。
そこでふと思い出す。
俺は…誰だ。
ここは何処だ。
何故かここは俺の部屋じゃないと思った。確信している。
何故拘束されている。
両手の手錠。鎖に繋がる首輪。足枷。
…自分の家で拘束されているやつは、珍しいだろうな。
これくらいなら自分でやれなくもないが。
と…と…と…
「?」
物音が聞こえた、気がした。
軽い足音のような。
とんとんとん
近付いてくる、音。
何故か懐かしいような、泣きたいような気持ちになる。
カチャ…
「ああ、起きたんだね…ユウカ。」
「…誰だ。」
覚えている。何処かで会ったことがある。
なのに、目の前の男の名前が出てこなかった。
案の定、悲しそうな顔をされる。
「俺は……シュウヤ。終わりに夜って書いて、終夜。」
終夜。
その名前には聞き覚えがなかった。
*
終夜は優しかった。
拘束は解いてくれなかったけど、大抵傍にいてくれて話をしたりゲームで遊んだりした。
話と言っても俺はほとんど何も覚えていなかったから、テレビの話とか一緒にやってるゲームの話とかしかできないけど。
例えば、今日はニュースでやってた一家殺人事件の話をした。下らない、つまらない受け売り。
それでも終夜は楽しそうに聞いてくれた。
ご飯はリクエストにできるだけ沿って作ってくれる。
嫌いな茄子は一度も出てこなかった。
隣の部屋にユニットバスがあって、行きたいと言えば首輪以外は外してくれた。
部屋は他に3つあったがそこまで鎖が届かなかったので入れなかった。
「シュウ!このゲームしようよ!」
「ユウカはこれ得意だからなあ。負けねえぞ!」
楽しそうにカセットを入れる男の背中を見つめる。
この状況を素直に受け入れているのは、隙を見極める為だ。
俺はこの状況が好ましいとは思えない。
最悪ではないがおかしいと言えるくらいにはまともだと思う。
しかし頭の中で冷静になれと叱責する自分がいる。焦ってはいけない。
とても嫌な予感がするのだ。
もう1つ不可思議に思う事がある。
自分の名前だ。
俺は男だ。…付いてるし。
名前はユウカ、祐佳と書くらしい。
女の子みたいな名前だ。
漢字を見ればまあ男っぽくなくもない…かな。
「始まるよ!」
キラキラした屈託ない笑顔。
「…うん。」
それでも、俺はここを出なくちゃ。
*
「祐佳、夜は何食べたい?」
「鍋。」
「分かった。ちょっと待ってね~。」
行ってくる、とばかりに手をヒラヒラさせながらドアの外へ行く。
パタンと音がして独りになった。
あれ、キッチンって何処だ。
ふと感じた疑問。
俺は5つある扉のうち2つしか開けられない。
他のドアの先は全く分からない。
…盲点だった。
隙をようやく見つけて逃げようとしたときにどれが玄関か分からない。
この家の5つのドアは全て木製の様だった。
このドアとその隣1つと、出て左の壁に2つ。真っ直ぐ行った突き当たりに1つ。
左の2つのドアは鍵が付いていたと思う。
奥…がキッチンか?
キッチンに鍵はいらない。
とんとんとん、足音が近づいてきたので思考を止め笑みを作る。
「ごめん、ちょっと材料を買ってきていいかな。すぐ戻るから。」
「…うん。」
少し項垂れる。
「…ごめんね。すぐだから待っててね。」
よしよしと頭を撫でる手は酷く優しかった。
終夜が部屋を出て、数秒後にまた何処かのドアから外へ出る音を確認した後に俺は行動を開始した。
この前終夜が忘れていったピンで首輪と手錠の鍵を外した。
すぐ外して逃げなかったのは、足枷がベルトみたいな拘束具で鍵が難しそうだったからと準備が終わるまで鍵を外した事を悟られない様にする方法がなかったからだ。
しかし昨日ある程度の長さのガムテープをゲットした。
終夜がいない間に部屋の中を探索していると、机と壁の間に貼ってあった。
…もしかしたら、俺の前にもここに監禁されていた人がいたのかも知れないとうすら寒い気分になったが感謝した。
罠の可能性もあるわけだが。
取り敢えずさっさと鍵を外す為に鍵穴にピンを押し込む。
カチャ
あっさり鍵は開いた。
開けるのには鍵が必要だが着けるときはいらないヤツみたいなので、後でつけ直せるかもと思ったくらいだ。
ドキドキしながら、でも時間がないので焦りながらドアを開ける。
一応音は極力たてない様にと、ほふく前進してソロソロと進む。
まずは左の手前の部屋。
キイ…
寝室だった。
青が基調のシンプルな部屋。
家具は一通り揃っているものの、ポスター等の飾りは一切ない。
終夜は大体一緒に寝る。でもたまにお休みーと言いながら別の部屋へ行く事もある。
ここで寝てたのか?
次は左の奥の部屋へ。
…。ここは開かなかった。
最後。
ごくんと唾を飲み、急いでドアノブに手をかける。
カチャ…
「…え。」
そこにあったのは
階段。
そしてもう1つ下のフロアだった。
*
まさか下があったなんて…。
足枷が外れないのでほふく前進で移動していた俺は、さすがに階段を降りようとはしなかった。
…よく考えてみれば、靴を置くスペースが無かったのは不自然だった。
しかし収穫は十分あった。
まず、階段を降りる必要があること。
下のフロアの存在。
そして、玄関の位置。
階段を降りて真っ直ぐ。
「必ず、ここから逃げ出してやる…。」
「ただいま!」
「…お帰り。」
首輪は案の定つけ直す事ができた。
手錠は鍵が緩くなってしまったが、バレないようにガムテープで補強した。
ピンは少し曲がったもののできるだけ伸ばしてガムテープと同じように隠した。
「美味しそうな肉団子を見つけたんだっ!楽しみにしててよ!」
「わあっ!楽しみだなあ!」
楽しみにしてろよ。
*
ここで目が覚めて2週間がたった。
テレビで日にちが確認できるので間違いない。
外が見たい、と思った。
この部屋には窓がない。
ユニットバスにはあるが上に小さなのが1つついているだけだ。よく見えない。
「シュウ…。」
「なあに?」
一緒にニュースを見ていた顔をこっちに向けられる。優しい笑顔。
「…だ、駄目だったらごめん。……外、見たい。」
「え、いいよ。」
「え。」
いいんかいッ!!…まあ、良かった。人間、全く太陽の光に当たらないとおかしくなるみたいだ。
なんか時間の感覚がなくなるし、生きてる感じがしなくなる。
…うーん、言葉にしづらいなあ。
それに、逃走経路を見れればラッキーかなと思う。
まあ、無理でもいいかくらいだけど。
「俺の部屋に行こう。」
「…うん。」
左の手前の部屋かな。
予想通り、青い部屋に入る。
カーテンを開けてもらいガラスごしに外を眺める。
「…眩し。」
「晴れてるね。」
青空。
カラス達が飛んでいく。
下は大きな交差点、店、ビル、等。
ここはマンションだったみたいで行き交う人達が豆粒見たいに見える。
「何階…?」
「7階だよ。」
思わず呟いた質問に少し笑いながら答えてくれた。
難しい。けど、国内のようだし建物の外まで行けば逃げられる。
「ありがとう。」
満足したお礼ににっこりと笑った。
部屋を出る時、机の上にあった文房具入れに気づいた。
準備はこれでいいだろう。
その日僕は突然甘いものが食べたいと言った。
「…え、好きだったっけ?」
「覚えてないんだ。でも急に食べたくなって…。」
ごめん、と頭を下げる。
因みに本当は普通くらいだと思う。糖分補給として食べるけど無くても構わない程度。
「…俺、甘いもの食べないから適当でいいかな?」
何が美味しいんだろう…と本気で悩む終夜を見て内心ニヤリとする。
この作戦は予想以上に効果的だったようだ。
「俺も何が好きだったか、とかは覚えてないや…。適当でいいからいいかな?」
「うん。少し遅くなるかも、だけど。」
「…ありがとう。」
嬉しくて思わずニコリと笑う。
サヨナラ。
*
行動開始。
ドアを出て階段へ向かったと思われる物音が止むとすぐさま俺は動き始めた。
ピンで首輪を外し、手錠も外す。
カチャン
開いた。ピンは割れてしまった。
なんか捨てられなくてズボンのポケットに仕舞う。
今回も音をたてないようにほふく前進。
目指すは終夜の部屋。
キイ…
机を支えにゆっくりと立ち、その上の文房具入れに手を伸ばす。
そこにはハサミが入っていた。
足枷はベルトみたいな素材で、手こずったが何とか切る事ができた。
急いで玄関へ向かう。
感傷に浸る余裕はない。
そして、
そして。
遂に脱出に、成功したのである。
そして。
気がつくと見覚えのある家の前に立っていた。
立石、と表札が出ている。
立石。
―ズキン
頭痛が、した。
ふらふらとしながら家に入る。
覚えている。確かあの日もふらふらしながら、酔っぱらいながら玄関へ入って。
そうだ、大学の飲み会があったんだ。
二十歳になったばかりで友達とゲラゲラ笑いながら騒いだ帰り。
―ズキン
駄目だ!思い出すな。家に入るな…!
思いとは裏腹に鍵を隠し場所の鉢植えから…
「あれ?…ない。」
鍵は無かった。
「…知りたい?」
「ッ!!」
振り向くと同時に首を押さえられ壁に押し付けられる。
思わず滲んだ視界に映ったのは、終夜だった。
―逃げてッ!!
母の叫び声。
父のうめき声。
そして。
兄の冷たい笑顔。
「逃げて!祐司ッ!!」
〈立石一家殺人事件の犯人である長男、立石 一夜容疑者の行方は1年たった今も足取りが掴めず……〉
大分変わった兄の姿。
たててた金髪も怖い表情も傷だらけの身体も、何もかもなくなっているけど
この冷たい目は変わらない。
「あ、にき。」
「今回も思い出しちゃったか。」
はあーあとわざとらしくため息をつく。
ドンッ!!
「グハッ!!」
鍵を開け、俺を家の中に突き飛ばす。
衝撃に息が詰まって情けない声がもれる。
「…ごめんな。」
「…な、に…ンゴ!!」
口を布で塞がれる。
「恨むなよ。チャンスはいっぱいやったんだ…。」
じゃあな、という声を最後に兄貴は殺人鬼になった。
〈続いてのニュースです。1年前、立石一家殺人事件で行方不明となっていた次男の立石 祐司さんが遺体で発見されました……〉
サーセン。夜中のテンションで書きましたorz
おまけは兄貴視点です。長いです。
黒幕も出ます。
よければ読んで下さると嬉しいです。
あ、今3時33分だ。




