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ストレンジ・レジデンツ ー奇妙な住人達による微妙な日常ー  作者: 川寄海弥
ダイスロール・クッキング
12/15

カーターのターン

この話の登場人物


リーン・L・カーター (りーん・るぐらーす・かーたー)

ボスの手下。今回の戦犯。


尾田マリア (おだまりあ)

現役女子高生怪盗。今回は保護者。


狛島萌 (こまじまきざし)

神也の助手兼同居人兼親友。今回の被害者その1。


ニャルラトフィス (にゃるらとふぃす)

ニャルラトホテプの化身の一つ。今回の被害者その2。


黒木神也 (くろきしんや)

怪異専門の探偵。今回は傍観者。


灰村ナイア(はいむらないあ)

ニャルラトホテプの化身の一つ。今回も天の声。

「次!カーターの番!」

 カーターは元気良く挙手するとダイスを手に取り、勢いよくブン投げた。ダイスは壁まで一直線に飛んで行くと、カッと短く硬い音を出して跳ね返った。

「わぎゃっ!?」

 そしてフィスの後頭部に直撃した。

「何してんの!?」

 後頭部を押さえながら涙目で振り返ったフィスに、カーターは投擲後のポーズのままドヤ顔で言い放った。

「投げすぎた!」

「馬鹿!」

「何やってんの二人とも…」マリアは呆れつつカーターが投げたダイスを見た。

 ダイスは1の目を上にして止まっている。

「カーターちゃん、1だよ」

「1ってなんだっけ?」カーターが首を傾げると、調理台の上にスープ皿が現れた。

 そこそこな大きさでやや浅めの、白くシンプルなデザインのスープ皿だ。とくに高級そうでもないが安っぽい印象も受けない。

「食器だし、まだセーフだな」

「セーフティーラインが徐々に下がっている…」

 神也と狛島が、同じ様に腕を組み並んでスープ皿を眺めていると、その隣に“チョコクリーム”“チョコレートソース”“コーヒーアイス”が次々と現れた。

「わっ!?」

 狛島が驚いて振り向くと、カーターがマリアから色の違う3つのダイスを受け取り、再びブン投げようとしているところだった。

「投げ過ぎるなよ」神也が言ったが遅かった。

 カーターは遊園地で遊ぶ子供のような、キラキラした笑顔を浮かべながら3つのダイスを真上へ放った。例えるなら、秋頃によく見かける「集めた落ち葉を両手で真上へ投げ再び散らかす小学生」のようだった。

 ただしこちらはプラスチック製の10面ダイス。落ち葉のように軽くも柔らかくもなく、落下速度も速い。

「痛っ!?」「あたっ!?」「危なっ!?」

 そして当たると地味に痛い。

「何で真上に投げるんだよ…」

「またダイスかよぉぉ…」

 落下してきたダイスが直撃し蹲る狛島とフィスをよそに、間一髪で避けたマリアは床に転がっているダイスの出目を確認した。

 赤いダイスは4、緑のダイスは10、黄色のダイスは1だった。

「何色がどのトッピングなの?」

「えっと、黄色が①で、緑が②で、赤が③だよ」

 カーターがそう言うと、調理台の上に更に3種類の材料が現れた。

 トッピング①の材料“シリアル”、トッピング③の材料“マシュマロ”、そしてトッピング②の材料“福神漬け”。

「福神漬けで台無しじゃないか」神也が顔を顰めた。

 ちなみに神也は福神漬けが嫌いで「あれさえ無ければカレーはもっと完璧な料理になった筈だ」と常々口にしている程である。

「食べ物なだけまだマシでしょ」フィスがダイスが当たった箇所を手で押さえながら言った。

「そうだぞ、僕の時なんかスポンジだったんだから」狛島がフィスと同じ様なポーズで言った。

「これって美味しいの?」カーターが福神漬けが入った小鉢を見ながら言った。

「味見してみれば?」

「んー」

 マリアに言われ、カーターは福神漬けを少しつまんで口に入れた。ポリポリと控えめな咀嚼音をさせながら、神妙な面持ちで味を確かめるように口の中の福神漬けを食べ終えると、再び小鉢に手を伸ばし、先程より少し多めにつまみ口に入れた。どうやらお気に召したらしい。

「材料なくなっちゃうよ」

「あ、そうだった」

 マリアに制されてカーターは福神漬けに伸ばした手を止めると、代わりにダイスを手に取った。

「それっ」今度は控えめに床へと転がした。

 3つのダイスは床の上をコロコロと少し転がり、赤いダイスは6、緑のダイスは2、黄色のダイスは4の目で止まった。

「確か、黄色が①で、緑が②で、赤が③だから…」

 マリアが材料表を確認しようとした瞬間、調理台の上に“白玉”“イチゴ”“プリン”が現れた。

「なんてまともなんだ!!」

「なんでまともなんですか」

 狛島の驚く声とナイアのつまらなそうな声が重なった。

「凄い…、福神漬け以外びっくりするほどまともじゃん…。なんかもう、入れ物とかどうでもよくなるくらいまともな材料じゃん…」

 フィスが信じられないといった顔でカーターを見ると、カーターはドヤ顔でVサインを作った。

 その様子を見ていた神也は渋い顔で、誰にも聞こえないような小さな声で言った。

「まともな材料からとんでもない物を作り出すのがカーターなんだがな…」 

 材料が揃い、いよいよカーターのパフェ作りが始まった。


 カーターのパフェ作りが終わった。

 一瞬の出来事だった。

 調理前のカーターの手元には、余程の事がない限り食べるのには支障のないパフェが出来る材料が揃っていた。

 揃っていた筈だった。

「これ…何…?」

 マリアは地球外生命体の解剖標本を見るような目で、調理台の上にある“それ”を見た。

「パフェだよ?」

 カーターは不思議そうな顔で首を傾げながら、スープ皿ごと“それ”を持ち上げた。

 “それ”は異様な代物だった。

 溶けたコーヒーアイスかチョコレートソースか、はたまた別の何かか。明らかにチョコレートソースとは別物の、粘性を持った黒い液体がスープ皿の底に溜まっている。黒い液体は沸騰している訳でもないのに泡が沸き立ち、パフェと言い張るにはあまりにも刺激的過ぎる異臭を漂わせていた。

 黒い液体の中、スープ皿の中心部には奇妙なオブジェの様な物体があった。

 全体的に細長いそれは、人のようにも、ボロ布が掛かった枯れ木のようにも、あるいは異教の神を象った人形のようにも見えた。オブジェの様な物体には、恐らくイチゴだった頃の名残であろう、種のような粒が辛うじて僅かに見て取れる。マシュマロやプリン、白玉といった他の材料の名残は微塵の欠片も無い。

 それはまるで、渦巻く深淵の闇から混沌の神が這い出ているかのような、見る者に得も言われぬ恐怖と嫌悪感を抱かせるものだった。

 少なくとも、パフェではない。

「何だこの…何だ…?」狛島は目の前の物体に理解が追いつかず、言葉に詰まった。

 あの材料からどうしてこうなった?そもそもこれはパフェなのか?というかこれは食べられるのか?様々な疑問と感情が狛島の脳内を駆け巡ったが、それらが口から出ることはなかった。

「分かってはいたが、またとんでもない物が出来上がったな…」神也は眉間に指を当て首を振った。

 実を言うと、神也がカーターの作った料理を見たのはこれが初めてではない。

 以前、商店街にあるバーに立ち寄った時、他に客が居ないのをいい事に知り合いであるバーのマスターが新しく買ったワッフルメーカーを自慢してきた事があった。その時たまたま、カーターが『ボス』と称する人物と共に来店し、せっかくなのでみんなでワッフルを作って食べようという事になったのだ。

 ただ単にワッフルを焼きその上にアイスやフルーツなどを乗せるだけの、本当に、乗せるだけの簡単な作業の筈だった。

 何故か名状しがたい暗黒物質ダークマターのようなものが出来上がった。

「ワッフルといいこれといい、何故食材を乗せるだけの簡単な調理で合体失敗を起こすんだお前は」

「ワッフル?」

 マリアが聞くと神也は「なんでもない」と短く言った。

「なんと言うか…、非常に冒涜的なパフェ…ですね…」ナイアの声が天井から降ってきた。

 意外にも、あまりお気に召してはいない様子だった。

「どうしたナイア?こういうパフェが見たかったんだろ?」神也が聞いた。

「僕が見たいのは人が試行錯誤した末に出来た残念なパフェですので、こうも自信満々に堂々とダークマターを出されてもリアクションに困るんですよ」

「でもあれ、お前に似てないか?」

「僕はあんなにドロドロしてませんーっ!!」

 ナイアが叫んだが、神也は「いや、化身によってはドロドロしてる時もあるだろ」と思いつつ、口に出すと面倒くさいので黙っていた。

「そのパフェ(?)のタイトルは?」

「タイトルは…」

 フィスが聞くと、カーターは自慢げに胸を張り、


「『ボス』!!!」

 ひときわ大きな声で答えた。


「あんたのボスそんなにドロドロしてんの!?」

「俺はてっきりニャルラトホテプを作ったのかと思った…」

「君のボス何者!?」

「カーターちゃんのボスって沼地か何か…?」

「彼そんなドロドロしてましたっけ?」

 五人から驚愕と困惑の混ざった感想が次々に飛んできた。

「違うよー!」カーターは頬を膨らませて否定した。「ボスはこの真ん中の!まわりのこれは…、えっと…、部屋?」

「自分でも分かってないじゃないですか」ナイアの呆れた声がした。

「っていうかカーターちゃん、それ本当に食べるの?…食べられるの?」マリアがカーターのパフェ(?)を指差した。

 パフェ(?)は黒い液体からボコボコと謎の気体を噴出し続けており、刺激的だが全く食欲をそそらない香りを漂わせている。

「食べられるよ」

 カーターはそう言うと、ボスを象った物体を手に持ち、バリバリと食べ始めた。

「うわぁ…」

 誰のものとも分からないが、明らかにドン引いているであろう声が五人の中から漏れた。

 しかしカーターは気にせずパフェ(?)をバリバリと食べ続けている。時々、フライドポテトにケチャップを付けるかのように、ボスを象った物体に黒い液体を付けてながら食べ進める。

「…美味しい?」狛島が心配そうに聞いた。

「食べられるよー」カーターは口にパフェ(?)を含んだまま答えた。

 そのままカーターは黙々とパフェ(?)を食べ続け、完食ついでにスープ皿を洗うと、満足気な顔で天井を見上げた。

「食べたよ!」

「えぇ…」

 ナイアは一瞬言い淀んだ。

「それ…、美味しかったんですか?」

「食べられたよ」

「あの、味とか…そういう…」

「食べられるよ」

「…カーターさん?」

「食べられるものだったよ」

 ナイアがどれだけ聞いても、カーターは味について一切口にしなかった。

「ねーねー、カーターは合格?クリア?」

 カーターは母親に問い掛ける子供のように、無邪気に天井を見上げて首を傾げた。

「えっ、あ、えっと…。完食したし、クリアでいい…です…。ハイ」

 ナイアは尻すぼみにそう言うと押し黙った。

 カーター恐るべし…。

 その場にいたカーター以外の全員がそう思ったが、誰も口には出さず、室内に妙な沈黙が降りた。

ちょっとガラル地方まで旅に出てましたが、ようやく更新出来ました。

次回でパフェ作りはラストです(話はあと2話くらい続きます)。


Next turn →神也

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