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ストレンジ・レジデンツ ー奇妙な住人達による微妙な日常ー  作者: 川寄海弥
ダイスロール・クッキング
11/15

狛島のターン

この話の登場人物


狛島萌 (こまじまきざし)

神也の助手兼同居人兼親友。今回の主役。


黒木神也 (くろきしんや)

怪異専門の探偵。今回はアドバイザー。


尾田マリア (おだまりあ)

現役女子高生怪盗。今回は脇役。


リーン・L・カーター (りーん・るぐらーす・かーたー)

ボスの手下。今回はモブ。


ニャルラトフィス (にゃるらとふぃす)

ニャルラトホテプの化身の一つ。今回はゲラ。


灰村ナイア (はいむらないあ)

ニャルラトホテプの化身の一つ。今回は天の声。

 カランッ。軽い音とともにダイスは転がると、9の目を上にして止まった。

「9だ。9は…、何だこれ?“カレー入れるアレ”?」狛島が材料表を確認しながら首を傾げていると、調理台の上に器が一つ現れた。

 それは銀色の金属で出来ており、縁の一部が注ぎ口の様に細長く変形していた。更に持ちやすいように取っ手も付いている。

「あ、知ってるこれ。カレー屋さんで見た事ある。カレールー入れるやつよね。…何て名前だっけ?」マリアは“カレー入れるアレ(仮)”を手に取り眺めた。銀色の、恐らくステンレス製であろう器には傷一つ無い。

「確か、グレイビーボートとかいう名前の食器だったな」神也が材料表を見ながら言った。

「へー、そんな名前だったのね」マリアは“カレー入れるアレ”改め“グレイビーボート”を調理台に置くと、「よっし、次!次!どんどん振ろう!!」狛島にダイスを手渡した。

「次はクリームか…」狛島は再びダイスを振った。

 出た目は1だった。

「1は…、“ホイップクリーム”。良かったまともだ」狛島がほっとしながら言うと、目の前に絞り機に入ったホイップクリームが現れた。

 どこからか微かにつまらなそうな舌打ちの音もしたが、多分気のせいだろう。

「次はソース、っと」

 狛島がダイスを振ると、4が出た。

「4は、“キャラメル”…。よし、まともなパフェが出来そうな気がしてきたぞ」狛島が安心したような笑顔を浮かべると、白い陶器製のミルク入れのような入れ物に入ったキャラメルソースが現れた。

 またしてもどこからか微かに、しかしさっきより若干大きな舌打ちの音がした。小さいながらも確実に音は聴こえているはずだが、狛島は気のせいにする事にした。人を陥れる事が大好きな邪神がつまらなそうにしているということは、平凡かつ安全で(参加者にとっては)正解に近い完璧なパフェが出来てきているということだろう。狛島は満足そうに頷くとトッピング①を決めるためにダイスを振った。

 10が出た。

 某TRPGなら最大値はファンブルになるのだが、ここでも似たような結果になった。

「10は…、“スポンジ(台所用)”。…台所用?」狛島が眉を顰めると、調理台の上にスポンジが現れた。

 それは紛う事なくスポンジだった。淡い黄色のふわふわな長方形のスポンジで、とても軽い。先程現れたキャラメルソースをかければきっとよく染み込むだろう。

 ただし、食欲は一切湧かなかった。何故なら…。

「食器洗う用のスポンジじゃねーかっ!!」狛島はスポンジを握りしめて叫んだ。

 そう、スポンジはスポンジでも、卵や小麦粉ではなく合成樹脂で作られた、台所などによくある食器洗い用のスポンジだったのだ。

 狛島はスポンジを投げ捨てた。

「パフェの、トッピングに、スポンジッ…!ふっはは!」ツボにハマったのかフィスは盛大に吹き出すと、腹を抱えて大笑いしだした。

「一瞬カステラ的な物かと思ったけど、ケーキが付かない方のスポンジかぁ…」と、乾いた笑いとともに呟くマリア。

「これ美味しくないの?」カーターは狛島が投げ捨てたスポンジを拾い上げ、鼻に近付けて匂いを嗅いだが「食べ物じゃない」横から神也に取り上げられた。

 そして頭上からは、フィスの笑い声に重なるようにナイアの笑い声が響いていた。同じニャルラトホテプなだけあって笑いのツボも近いのだろう。

「あっはははは!!スポンジ!冗談のつもりで入れたのに、まさか本当に引く人が現れるなんて!!あっはははははぁぁっお腹痛い!!」どうやらフィスと同じく腹を抱えて大笑いしているようだ。この様子だと、おそらく床の上を転げ回っていることだろう。

「それちゃんとパフェに使ってくださいよあっははは」ナイアの笑い声が途中でプツリと切れた。多分音声をミュートにしたのだろう。

「まだトッピング②と③が残ってるのに…、先行きが不安だ…」狛島は暗い表情でダイスを手に取った。

「しかもトッピングは各2回振らないとならないから、下手したらスポンジおかわりの可能性もあるぞ」神也の言葉に再びフィスが吹き出したが、神也は無視した。

「出てしまったものは仕方がない、さっさと次を振るんだ。終わらなくなる」

「分かったよ…」神也に急かされ、狛島は他のトッピングを決める為に渋々ダイスを振った。

 狛島がダイスを振っている間に、マリアは天井を見上げナイアに呼びかけた。

「ねぇ、ナイア」

「んー?何ですかぁ?」若干笑いを堪えているような声でナイアが応えた。

「1個のダイスをちまちま振るのも面倒だし、一遍に纏めて決められるように何個かダイスを増やして欲しいんだけど、出来る?」マリアは右の掌を差し出した。

「あー、いいですよー」ナイアが軽い調子で答えると、マリアの掌に色の違う10面ダイスが3つ現れた。狛島が振っているものと色違いの、赤,緑,黄色のダイスだ。

「わぁお」マリアは少しだけ目を丸くすると、掌でダイスを軽く転がした。

 狛島が何かを投げ捨てた音がした。続いてフィスの笑い声も。

「おやおや?また何かヤバめな物でも引いちゃいました?」ナイアが嬉しそうな声で言った。

 投げ捨てる音とフィスの笑い声にマリアが振り返ると、狛島が皿ごと投げ捨てたと思われるものを、神也が慎重に皿に戻しているところだった。皿はプラスチック製だったらしく割れてはいなかった。ただ、皿の上からは謎の白い煙がもわもわと湧き出ては床に流れ落ちている。

「何それ?」マリアは神也が持つ皿を覗き込みながら聞いた。

「振り忘れていたアイスだ」神也はそう言うと、煙を散らすように軽く息を吹きかけた。

 皿の上にあったのはドライアイスだった。

「アイスじゃないわよこれッ!?」マリアは叫んだ。

「残念ながらアイスなんだよ、ほら」神也は片手で皿を持つと、もう片方の手で材料表をマリアに見せた。確かに、アイスの8番に“ドライアイス”と書いてある。

「ねぇ、馬鹿なの?」

「多分、馬鹿なんだろう」

 マリアと神也は誰がとは言わなかったが、天井を見上げて呟いた。

「一応聞くけど、狛島先生のパフェの材料ってどんな感じになったの?」

「あんな感じだ」神也は調理台の上を指差した。

 調理台の上には次の物が並んでいた。


 ・カレー入れるアレグレイビーボート

 ・ホイップクリーム

 ・キャラメルソース

 ・ドライアイス

 ・スポンジ(台所用)&シリアル

 ・イチゴ&リンゴ

 ・ブラウニー&チョコスティック


「アイスとトッピング①の1回目以外はびっくりするくらいまともね…」

「あと器もだな。…まぁ、まだ食器なだけマシか」

 そう言うと二人は狛島の方を見た。

 狛島は眉間に皺を寄せて考え込んでいた。パッと見はまともなパフェが出来そうに見える材料だが、スポンジ(台所用)とドライアイスをどう処理すればいいのか。自分で食べねばならないという事もあり、狛島の脳はかつてない程にフル回転していた。

 狛島がそのままの状態で5分程固まっていると、神也が見兼ねた様子で狛島に近寄り、短く何かを耳打ちした。狛島が驚いた顔で神也を見ると、神也はニヤリと口元を歪めて意地の悪い笑顔を浮かべた。

「なるほど…、その手があったか!」

 狛島は表情を明るくすると、パフェを作り始めた。


 まず、調理台の下の引き出しから小さめで丸いステンレス製のトレーを取り出すと、その上にグレイビーボートを置いた。

「トレーとか使うのアリなんだ?」フィスが天井に向けて言った。

「アリですよ」天井からナイアの声が返ってきた。「他にも探せば色々ありますよ。ちょっと凝ったデザインのスプーンとか、材料を炙って焦げ目を付ける用のガスバーナーとか。器の変更はできませんけど」

「なるほどー」

 ナイアとフィスが話している間にも狛島のパフェ作りは進んでいた。

 狛島は調理台下の収納扉を開くと、扉の内側に収納されていた包丁とまな板を取り出し、リンゴを賽の目切りにしだした。半分ほどの量を切ると、グレイビーボートにシリアルを少し入れ、その上に切ったリンゴを入れ、その上からキャラメルソースをかけた。

「なんかもう既に美味しそう」マリアが言うと、隣でカーターがブンブンと首を大きく縦に振った。

 狛島はさらにその上に一口大の長方形に切ったブラウニーを二つと、ヘタを取ったイチゴを二つ縁に並べるように置くと、中心にホイップクリームをソフトクリームのような形に絞った。

「本当はあそこにアイスが乗ったんだろう」神也が言うと、フィスが笑い出すのを堪えるようにフヘッと小さく変な声を出した。

 ホイップクリームを絞ると狛島は残ったキャラメルソースをその上から掛け、空いている場所にチョコスティックを刺し、調理器具の入った引き出しから木槌を取り出した。

 そしてドライアイスを布巾で包むと、木槌で砕き始めた。

「おおっ!?」「なっ!?」「えっ!?」「おー!」

 フィスと神也とマリアとカーターの驚く声を気にもせず狛島はドライアイスを砕くと、それをトレーの上にばら撒いた。白煙に包まれるグレイビーボートに盛り付けられたパフェという異様な光景が出来上がった。

 最後に狛島はトレーの傍にスプーンとスポンジ(台所用)を添えると天井を見上げた。

「完成だ!どうだナイア!」狛島は天井へ向けて大声で叫んだ。

「ちなみにタイトルは?」天井から興味深そうなナイアの声が返ってきた。

「え、タイトル?そうだな…」狛島は少し考えた。「『インドと神秘のパフェ』…とか?」

「なんか映画のタイトルっぽい」とマリア。

「インド要素は入れ物にしかないけどな」と神也。

「でもおいしそう」とカーター。

「確かにびっくりするくらいまともだけどさ、そのスポンジどうするの?まさかそのまま食べたりしないっしょ?」

 フィスが聞くと狛島は「まさか」と小さく言うと、スポンジを手に取った。

「これはだな…」

 狛島は小さく間を置くと、キッパリと言った。

「食後用だ!!」

「「「「食後用!!??」」」」

 神也を除くその場にいた全員(ナイア含む)の声が揃った。

「パフェに使っていれば良いんだろ?なら()()()()()()()()に使っても良いはずだ。材料を使ってパフェを作れとは言われたが、誰も「全部パフェに入れろ」とは言わなかったし、これならパフェに使った事にもなるだろ。そもそも食品じゃない物を使わせようとする方が悪い」

 狛島の言葉に神也は頷いた。というのも、この考えを狛島に吹き込んだのは神也だったからだ。

 パフェを作り始める前の、スポンジ(台所用)とドライアイスの使い方に悩んでいた狛島に神也はこう言った。

「これを使ってパフェを作れとは言われたが、「必ずパフェに入れろ」とは言われてないぜ?」

 神也が言いたかったのは、ダイスで出た材料は使用してさえいれば、必ずしも食べなくてはならないという訳ではないのではという事だった。確かにナイアは材料を使ってパフェを作れとは言ったが、材料を全部パフェに入れろとは言っていない。

 いつだったか、誰かが言った言葉に「片付けまでが料理」というものがあった。ならば、パフェを食べた後の食器を洗って片付けるという工程までを含めて“パフェ作り”としてもいい筈だ。…ドライアイスの使い方だけは予想外だったが。

「という訳で、これが僕のパフェだ!」

 パフェを完食した狛島は使った調理道具と食器を洗い終えると、ドヤ顔で天井を仰いだ。ちなみに、ドライアイスはパフェを食べている間に全部溶けていた。

「もっとしっかりとルールを決めておくんだったな!馬鹿め!」神也は非常に楽しそうな笑顔で天井を見上げた。「それで、キザシのパフェ作りはどうなんだ?ちゃんと材料を使って作ったし、完食もしたぞ?」

「ぐぬぬ…」ナイアが低く呻いた。「あーもう良いですよ!合格です!コマジマはクリアです!!脱出権獲得ですおめでとうございますっ!!!」

「よっしゃあああっ!!」

 ナイアの悔しそうな声と狛島の歓声が部屋中に響いた。

狛島のパフェ…結構美味しそうだな…。


Next turn → カーター

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