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ストレンジ・レジデンツ ー奇妙な住人達による微妙な日常ー  作者: 川寄海弥
ダイスロール・クッキング
10/15

ダイスロール・クッキング②

この話の登場人物


黒木神也 (くろきしんや)

怪異専門の探偵。ダイスの出目は比較的良い方。初期値成功が多い。


狛島萌 (こまじまきざし)

神也の助手兼同居人兼親友。ダイスの出目はあまり宜しくない。ただしファンブルは少ない。


尾田マリア (おだまりあ)

現役女子高生怪盗。ダイスの出目の落差が激しい。どちらかと言うとクリティカラー。


リーン・L・カーター (りーん・るぐらーす・かーたー)

ボスの手下。かなりのファンブラーだが窮地になるとクリティカルが出る。多分神に愛されてる。


ニャルラトフィス (にゃるらとふぃす)

ニャルラトホテプの化身の一つ。出目は自分で操作する。神はダイスを振らない。


灰村ナイア (はいむらないあ)

ニャルラトホテプの化身の一つ。シークレットダイスは振る。だってKPだもの。

「ニャルラトホテプ!?」


 突然聞こえた声に五人は思わず頭上を見上げたが、そこには白い天井があるだけだった。スピーカーのような物も見当たらない。

 しかし、再び声がした。今度は五人の目の前で。

「げぇーっ!本当だ!しかもニャルラトフィスじゃないですか最悪!…いや、フィスならむしろ無害だし大丈夫ですかね?」

 五人が正面を向くと、いつの間にかそこには顔を顰めた一人の男性が立っていた。年齢はおよそ二十代前半。白いシャツに赤いロングジレベスト、ベージュのチノパンを履いている。毛先に少しだけ赤いグラデーションの入った砂色の長い髪を後ろで一つに纏めており、恐ろしく整った顔立ちをしている。

 そして、その顔はそっくりとまではいかないが、“ニャルラトフィス”と呼ばれた赤いTシャツを着た男性によく似ていた。

「ナイア…、またお前か…」神也はうんざりした様な、本当に、心の底から、これ以上無い程にうんざりした様な声で言った。


 この突然現れた男性、灰村はいむらナイアと神也は知り合いだ。ついでに言うと、神也経由で狛島も知っている相手だった。ただし、神也とナイアがいつ頃知り合ったのかは狛島は知らず、どこで出会ったのかも知らない。神也に尋ねた事も何度かあるが、返ってくる返事はいつも「夢の中で会った」の一言と、苦虫を噛み潰したような表情だけだった。ただ、ナイアとの出会いについてはあまり語らない代わりに、ナイア自体については色々と話してくれた。

 神也の話によると、どうやら灰村ナイアという人物は人間ではないらしい。正体は“ニャルラトホテプ”と呼ばれる邪神だという。狛島はその邪神の名前を神也の本棚にある本で見た事があった。それによると、ニャルラトホテプは千種類もの様々な姿を持っており、他の邪神達のメッセンジャーを務めているらしい(狛島は流し読みしたため、メッセンジャーとして彼らが何をしているのかあまり把握していないので、適当に邪神の郵便配達員的な存在か何かだと思っている)。この灰村ナイアも様々な姿のうちの一つで、神也曰く「本当は鉤爪が凄くて脚が三本ある。あとなんか頭から触手が生えてる」らしい。


「やあやあ、久し振りですねシンヤ。三日ぶりくらいでしょうか?ところで、いくら僕がメッセンジャーだからって神様をパシるなんて、ちょっと恐れ知らず過ぎやしません?僕は伝書鳩じゃないんですけど」ナイアが軽い調子で手を振りつつ、やや苛立ちを含んだ笑顔で言った。オリンピアグリーンの瞳が一瞬だけ赤く光った気がした。

「それについては反省している。今度からはもっとまともな奴に頼む事にするとも」神也は適当に手を振り返しながら言うと、ニャルラトフィスを指して言った。「ところでこいつはお前の系列なのか?」

「こいつって何さ、こいつって。俺には“ニャルラトフィス”って名前がちゃんとあるんだけど?長けりゃフィスでもいいけど」ニャルラトフィスは腕を組み眉間に皺を寄せながら言った。

「悪かった、フィス。で、フィスは俺達をここへ閉じ込めたあいつとグルなのか?どうなんだ?」神也はナイアを指差しながら言った。

「いいや」ニャルラトフィスは首を振った。「ナイアと同じくニャルラトホテプではあるけど、共犯じゃないし。むしろ被害者」

「被害者って?よく分からないけどあんた、そこにいるナイアって人と同じニャルラトホテプってやつなんでしょ?何で被害者?」いつの間にか神也の隣にいたマリアが聞いた。

「だって俺、家で寝ようとしてただけだし。で、なんか良い感じにウトウトしてきたから「おっ?マジで?俺睡眠も出来ちゃう?やったー」的な感じで適当に床に雑魚寝して、気が付いたらここにいたワケ」ニャルラトフィスが肩をすくめながら言うと、「文句ならあの馬鹿に言って」とナイアを指差した。

「だ、そうだが?」神也は腕を組んでナイアを睨んだ。

「僕だって不本意ですよ、まさかフィスをこの空間に放り込んでしまうなんて。僕はただこの時間帯に寝ている人間を適当に選んでこの空間に放り込むようにしただけなんですから」ナイアは不服そうに言ったが、実際は自業自得だった。

 まず、ナイアはとある目的のためにこの部屋を作り、次にこの部屋に放り込む人間を誰にするか少しだけ、時間にして約1秒程度悩んだ。一人は決まっている、黒木神也だ。そこには先日自分を使い走りにした事に対する恨みがほんの少しだけ含まれていた。あとは適当に三〜四人程度放り込めばいいや、どうせなら知り合いの方が面白い。と、適当に自分の知っている人間が夢を通じてこの空間に放り込まれるように設定すると、ナイアは神也の夢の中へと出掛けた。しかし、設定したフィルターが甘かった。“自分の知っている人間”が放り込まれるように設定したのだが、あまりに適当だったのか、“知り合いの人間()()()()()”まで放り込まれるような状態となってしまったのだ。その結果、たまたまこの時間帯に睡眠に挑戦していたニャルラトフィスが放り込まれてしまった(フィス曰く「まぁ俺、ニャルラトの中では比較的人間寄りな見た目してるし」とのこと)。

「大体、フィスがこんな時間に寝ようとなんてするからいけないんですよ。何でこの期に及んで睡眠なんて取ろうと思ったんですか?あと、何ですか?そのクソダサTシャツ。どこで買ったんですかそんなの」ナイアはフィスが着ているTシャツを訝しげにジロジロと見た。

「え?何でさ?めっちゃウケるじゃんこれ」ニャルラトフィスはTシャツの裾を少し引っ張りナイアへ見せつけると自慢げに言った。

「めっちゃファラオみ感じるっしょ?」

「ファラオを何だと思っているんですかこのすっとこどっこいは」ナイアは呆れ顔で言った。

「すっとこどっこいはお前もだがな」神也が口を挟んだ。「いいからさっさと俺らを元の場所へ帰せ」

「それは出来ません。今から皆さんには“ちょっした”ゲームをしてもらうんですから」ナイアはニコニコとした笑顔を浮かべながら“ちょっとした”を強調して言った。

「ちょっとしたゲーム…?まさか、ここにいる全員で最後の一人になるまで殺し合うとかそういう…?」狛島が恐る恐る聞いた。

「違いますよ。それも面白そうですけど、今回はそんな物騒な話の予定じゃないんで」

「じゃあ、何なんだ?」

「今回のゲームは…」ナイアがパチンッと指を鳴らした。

 すると、無機質な白い部屋が一瞬で様変わりした。

 白い壁は爽やかなレモンイエローに、床は汚れが落としやすそうな水色のタイル張りに。さらに五人の目の前にはピカピカのシンクがついた広い調理台、大きな冷蔵庫、調理器具一式、様々な食器類が現れた。

  真っ白で何も無かった部屋は、一言で表すならば『料理番組でよく見るキッチンのセット』になっていた。

  「今回のゲームは、ズバリ!“料理”です!!」ナイアが両手を広げ、笑顔で言い放った。

「…料理?」五人は顔を見合わせた。料理でゲームとはどういう事なのか。客のオーダーに合わせて料理を提供し、ハイスコアでも狙えというのだろうか?

「料理って何をすればいいの?」カーターが首を傾げながら聞いた。

「よくぞ聞いてくれました!まずはこちらをどうぞ」ナイアは五人に一枚ずつA4サイズの紙を配った。

 そこにはこのような内容が書かれていた。

挿絵(By みてみん)

「皆さんに今から作ってもらうのは“パフェ”です。今配った紙に書いてある材料を使って作ってもらいますが、普通に作っては面白くありません。そこでコレです」そう言うとナイアはポケットからサイコロを取り出した。それはTRPG(テーブルトークRPGの略。電源を使わず、紙やペン、サイコロなどを用いて行うRPGの事)などで使われる何の変哲もない10面ダイス(10面のサイコロの事。一般的に双六などで使われるサイコロは6面ダイス)だった。

「皆さんにはこのダイスを振ってパフェに使う材料を決めてもらいます。試しに、トッピング①を決めてみますね」ナイアはいつの間にか目の前に置かれていたテーブルでダイスを転がした。カランッと軽い音を立てて転がったダイスは“4”の目を出した。

「4が出たのでトッピング①の4番を見ます。4番は“白玉”ですね。はい、これでトッピング①が決まりました。このようにダイスを振って、出た目の材料を使ってパフェを作ってもらいます。ね?簡単でしょう?」

「簡単なのは分かった。だが、トッピング③の所に“無形の落とし子”と書いてないか?これ」神也がトッピング③の下の方を指しながら言った。確かに“無形の落とし子”と書いてある。無形の落とし子というのは、ニャルラトホテプと同じ神話体系であるクトゥルフ神話に登場する、ねばねばとした黒い不定形の生物である。自在に姿を変えるタールの様な生き物と言えば、見た目のイメージは伝わるだろうか。少なくとも、食用の生き物ではない。

「それもトッピングですよ。ああ、そうそう。言い忘れてましたけど、材料はダイスを振り終わった後に出てきますので、今冷蔵庫の中を見ても空っぽですよ」ナイアは恐る恐る冷蔵庫を覗き込んでいる狛島に言った。

「マジか」狛島は少しだけホッとした様子で冷蔵庫の扉を閉めた。

「まあその材料表に書いてあるものは、どんな材料でも必ず出てきますので、無形の落し子なんて出てきた時には大惨事でしょうけどね」

 楽しそうに言うナイアに狛島は顔を顰めたが、抗議するだけ無駄だと思ったのか、小さく首を振るだけに留めた。

「ゲームって、サイコロ振ってパフェ作るだけ?…面白いの?これ」マリアが手元の紙をペラペラと振りながら聞いた。

「面白いですよ、とっても」

 まあ、見てる側にとってはですけどね。と、ナイアは誰にも聞こえないような小さな声で付け加えた。

「パフェを作る事自体がゲームですので、特に勝ち負けとかそういうものは無いです。ただし、作ったパフェはどんなものであっても作った本人に完食してもらいます。お残しは許されませんしね。全員がパフェを作成&完食したら元の場所へ帰してあげますので頑張ってください。それでは」

 気が付くともうそこにナイアは居なかった。残された五人の被害者は、仕方なくダイスを振る順番を決めるジャンケンをし始めた。

 一番手は狛島になった。

次回からいよいよパフェ作りです。

オチ以外は実際にダイスを振って決めます。わくわく。

果たしてどんなパフェが出来るのか…。

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