第八十五回 巡る、季節
ヒーローショーは無事終了したらしく、後日、リッタータンはお礼を言いに事務所へやって来た。そして僕たちは、彼から焼き菓子がいくつか入った小さな箱を貰った。彼は丁寧に「少しですが、お茶でもしていただければ」などと言ってくれて。嬉しかったが、丁寧過ぎて、僕は彼が怪人だと思えなくなってしまったのだった。
そんなことをしているうちに、暑い夏も終わりに近づいていく。
正直なところを言うなら、僕は夏が好きでない。夏そのものに罪はないと分かっていても、あの溶けてしまいそうな暑さを好きになることはできないのだ。
ただ、夏の終わりは嫌いではない。
休暇が楽しい夏。空が晴れ渡る夏。生命活動が盛んになる夏。
それらは終わりに近づき、どことなく寂しい秋が近づいてくる。
そんな時期が、僕は好き。
静寂が一歩一歩迫ってくるような感覚が、どうも堪らない。
そして訪れる、秋。
街路樹の葉はところどころ赤みを帯び、夏が終わったということを視覚から感じさせてくれる。
個人的に好きな季節だ。
だが、昨年の秋と今年の秋では、僕を取り巻く環境が大きく違っている。
昨年までは、秋色に染まり始めた世界を家の窓から眺めるだけだった。窓から外を眺めて「良い季節だなぁ」と思いつつも、わざわざ外出することはなくて。ただ、他人事のように見つめるだけだった。
しかし、今年は違う。
今年は『悪の怪人お悩み相談室』での仕事があるから、例年より外出が多い。また、仕事によって家から出ることに慣れたというのもあって、それ以外の時にでも街へ出掛けることが増えた。
だから、これまで以上に、秋を肌で感じている。
朝夕は少し温度が下がることや、時折ひんやりとした風が吹くこと。風に煽られ木から葉が舞い降りることがあるということ。
これまでは知らなかったことを、今年の秋には色々と知った。
家の中は楽園だ。苦しみも悲しみもなく、不快感を覚えることもない。家にいれば、自分の部屋で寛いでいれば、僕はそれだけで幸せ。
——そう考えていたけれど。
もう、そんな風には思わない。
家の中は気楽だが、外には外の良さがある。季節を感じるには、街へ出掛けるのが一番。
今の僕は、そう思っている。
そんな秋は驚くほど早く過ぎ、冬が訪れた。
葉が落ちて幹と枝だけになった街路樹が並んでいる光景は、心の温度を下げてしまう。
とはいえ、街路樹はたくさんあるから、見ないわけにはいかない。街路樹を一本も目にしないように生活するなど、不可能だ。
だからそこは我慢するほかない。
僕は別の方法で暖をとる。
厚みのある生地のセーターを着て、発熱素材が含まれているマフラーを巻き、ウールのコートをしっかり着用する。さらに、マスクと耳当てとニット帽を使い、なおさら暖かくなるよう工夫。もちろん手袋も忘れずに。
そのくらい対策をしていれば、冬の寒さが酷くとも、そう易々と負けたりはしない。
帰宅時には必ず手洗いとうがいをする。体が温まる食材を多く食べる。そして、風呂にはしっかりと浸かり、全身を温めながら疲れを消す。
僕は、それらを意識しながら、毎日を過ごしている。




