第七十八回 バチャリカ(1)
リッタータンの件は、後は由紀が対応してくれることになった。ヒーローショーを運営している組織と連絡を取り、台本の修正を頼んでみるらしい。
それは、運営側と太いパイプを持つ由紀だからこそできること。
つまり、僕一人であれば絶対にできないことである。
こうして、リッタータンの件から離れた僕は、次の仕事に挑むのだった。
「いやー! きょーも暑かったわー!」
「こんにちは。ここしばらく、本当に暑いですよね」
「そうやんねー! 溶けるか思たー!」
暑い暑いと愚痴を言いつつも元気そうにやって来た女性怪人。由紀から渡されている資料によれば、バチャリカという名前らしい。
「バチャリカさんですね」
「そうそう! バチャさんて呼ばれてるから、兄ちゃんもそー呼んでなー!」
妙に軽いノリが印象的。また、装着しているメタル風の赤いゴーグルのすぐ上——額辺りの汗をハンカチで拭っている動作は、非常に人間的だ。まるで、街中でたまに見かける営業さんのようである。
「承知しました。バチャさん、と呼ばせていただきます」
「よろしくー!」
バチャリカは「陽気なおばちゃん」というような印象の女性怪人だった。
女性ゆえか背はあまり高くなく、平均的な女性の身長より数センチほど高い程度。恰幅はよく、見るからに暑さに弱そうだ。
「ここ、座ってええん?」
「はい。どうぞお座り下さい」
「ほんなら座らしてもらうわー」
バチャリカは赤い小花柄のハンカチで額の汗を拭いつつ、椅子に腰掛けた。そして、ハンカチを握っているのとは逆の手に持っているワインレッドのハンドバッグを、膝の上に乗せる。
「はーっ。ホンマに疲れたわー」
椅子に座り落ち着いてから、バチャリカは大きな溜め息をつく。
どうやら、結構疲れているようだ。
だがそれも無理はない。真夏の強い日差しの中を歩いてきたのだとしたら、疲れるのは当然だ。
「遠くからいらっしゃったのですか?」
「あぁうん! そうよー!」
それにしても、ベージュのチュニックに黒のレギンスというベタ過ぎるファッションが、気になって仕方がない。
「どちらから?」
「隣の市ーよー。ちゃりで来てん」
「自転車で?」
「そうやねん! 移動は大体ちゃりやからー」
自転車だったのか。
それは、疲れるのも当然だ。
「そうなのですね。自転車でいらっしゃる怪人さんは珍しいので、何だか新鮮な感じがします」
「そーなん?」
「はい。徒歩の方が多いですよ」
そもそも、自転車を乗りこなしている怪人なんて、見たことがない。
「あー、ほんなら、歩いてきた方が良かったんやろか?」
「いえ、そういう意味では……」
「ホンマぁ! なら良かったわ!」
切り替えが早い、切り替えが。
「そしたら早速、相談さしてもらってもええかな?」
急に話題を変えてくるバチャリカ。
僕が「はい」と答えると、彼女は、膝の上のハンドバッグから何かを取り出す。
——スマートフォンだった。
灰色に赤のハートがプリントされている柄の、手帳のようなカバーがついている。が、それがスマートフォンであると気づくのに、そう時間はかからなかった。
「これなんやけどねー」




