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第七十一回 ミニマムーン(4)

「そっか、うん……やっぱり、ちゃんとねなくちゃ、駄目だよね……」


 顔面をしわだらけのジャガイモのようにしながら、ミニマムーンは俯く。その表情は暗く、まるで、雨が降り出す数分前の空のようだ。


 そんなミニマムーンを見ていると、少し申し訳ない気持ちになった。


 明るい表情のミニマムーンはとにかく愛らしく、非常に魅力的だった。

 それだけに、僕の発言によって彼を暗い顔にさせてしまったということが、辛い。


「ミニマムーンさんはあまり寝られないのですか?」

「……ううん。ねようと思ったらねられるんだ。でも……つい夜更かししてしまって……」


 僕もそう。同じだ。


 ミニマムーンの発言に、僕は大いに共感した。


 今でこそそれなりにきちんとした生活ペースを築くことができている。が、ここで働き始めるまでの僕といったら、一般の人たちとはまったく違う時間帯での暮らしをしていた。それこそ、午前中に寝て夜の始まり頃に起きるだとか。


「まぁ、それは仕方ないことですよね」

「うん……でも、背をたかくするには、ねなくちゃ……」

「意識するだけでも変わりますよ、きっと」

「……そっか、そうだよね。ぼく……頑張る」


 ミニマムーンは人間ではない。それゆえ、人間と同じくらい成長するのかは不明だ。栄養を摂ったり、質の良い睡眠をとったりしたからといって、背が伸びるという保証はない。それらは、あくまで、人間の場合だからだ。


 だがそれでも、諦めるにはまだ早いだろう。


 自分の願いを信じ、その成就のために努力を続ける。そうすれば、願いはきっと叶う。いつかはきっと、望み通りになるはず。


「ありがとう……ぼく、勇気が出てきたよ……」

「良かったです」

「……じゃあ今日は、このあたりで……」


 ミニマムーンは表情を少し柔らかくして言った。


「……椅子から降ろしてほしいな」

「あ、はい!」


 相談が終わったので、僕は、椅子から立ち上がりミニマムーンの横まで移動する。そして、両手を使ってミニマムーンの体を持ち上げた。


「じっとしていて下さいね」

「……うん」


 こくりと頷くミニマムーン。


 やはり可愛い。

 今すぐ抱き締めたい衝動に駆られるくらい、愛らしい。


「では降ろします」


 抱き締めたい衝動を振り払い、ミニマムーンを床に降ろした。


「これで問題ありませんか?」

「うん」


 一時はしわだらけのジャガイモになっていたミニマムーンの顔が、太陽に戻る。


「じゃあ……さようなら」

「さようなら。またいつでも来て下さい」

「ありがとう……ございました」


 こうして、マスコットのように可愛らしい怪人ミニマムーンは、部屋から去っていったのだった。



 個室に一人残された僕は、何の音もしない部屋の中、ミニマムーンの可愛らしい振る舞いを思い出す。


 そして、つい、にやけてしまった。


 小動物のように愛らしい外見。控えめな物言い。まろやかな声。穏やかで愛嬌のある振る舞い。

 そのすべてが、ミニマムーンを魅力的に見せる要素になっている。


 ミニマムーンは、甘いお菓子のような魅力を持っている怪人だった。

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