第六十七回 ストレス発散していたら怒られた
僕の脱出から十分ほどが経過した頃、ナヤは由紀と共に部屋から出てきた。
ナヤは由紀をすっかり気に入ったようで、デレデレだ。僕に接していた時のような厳しさをまったく感じさせない、間抜けとも言えるような顔をしているナヤを見ると、少し笑えてしまう。
他人にはやたらと注意するくせに、自分は女性にメロメロじゃないか。
上機嫌なナヤは、現金での支払いを済ませると、名残惜しそうに由紀を見つめながら出ていった。
「お疲れ様です、由紀さん」
ナヤが完全に去ったことを確認してから、僕は由紀に声をかける。
「フォローしていただいてしまって、すみません……」
「いやいや! 気にしないで!」
由紀は笑顔を崩さず言葉を返してくれる。
「こっちこそ、厄介な怪人を任せちゃってごめんねー」
「いえ……」
「あの人、あたし相手だと善いおじいさんだから、岩山手くんでも大丈夫だと思ったんだけどねー」
そういうことだったのか。
異性には優しいが、同性には厳しい——ということなのかもしれない。
「由紀さんには優しい方なんですね」
「そうなの!」
「けど……僕の仕事だったのに……任せてしまってすみません」
由紀は優しい。だから僕を責めたりはしないだろう。それは分かっている。が、分かっているからこそ、罪悪感がある。
「いいっていいって! 困った時はお互い様!」
由紀はそう言って笑う。
でも、申し訳なさは消えない。
「そうですか……」
「真面目だねー、岩山手くん。そんな重く考えなくていいんだよっ」
「でも……何だか自分が情けなく思えてきてしまいます」
すると、由紀は歩み寄ってきて、僕の肩をぽんと叩く。
「情けなくなんてないよ」
それだけ言って、彼女は自分の机の方へと歩いていった。
その日、僕は、家に帰ってからゲームをした。
リモコンを握りつつ動くことでスポーツをしている気分になれるゲームを、である。
家に帰ったのはまだ明るい時間だった。しかし、気づけば日は沈んでいて、窓の外は暗くなっていた。
それでも、僕はゲームを続けた。
テニスやら、ボーリングやら、カヌーやら、ロッククライミングやら。選択肢は色々あるので飽きない。だから、いつまででも続けられる。
……もっとも、日頃ならそんな長時間ゲームを続けることなんてないが。
ただ、今日は違った。
ナヤに理不尽に叱られたストレスを発散したかったから、ひたすらにゲームを続けたのだ。
その結果どうなったかと言うと……母親に怒られた。
母親は寛容な人だ。それゆえ、小さなことでは怒らない。僕がまだ幼かった頃も、母親が厳しく怒るのは「本当に駄目なことをした時」だけだった。
そんな母親だから、今日も、ゲームをしていることに怒ったわけではない。
「少しは休憩しなさい!」
そう言われてしまったのである。
無我夢中でゲームを続けていた僕は、母親の言葉で正気を取り戻し、すぐに休憩を挟んだ。
でも、一度休憩すると再びやる気にはならなくて、僕はそのままベッドに入り眠った。その夜は、運動したからか、よく眠ることができた。




