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第六十二回 バナーメ(4)

 女の子に声をかけたら出入りを禁止された。その話を聞き、僕は「でしょうねー」と言いたい気持ちでいっぱいだった。けれど、さすがにそんな心ないことは言えない。だから、心の中で言っておくだけにした。


 それから僕とバナーメは、ゲームセンターの一番奥でやっと見つけたプリクラに入って、写真を撮ることになった。


 陶器のような肌の女性が描かれたプリクラ機。デザインや色遣いが可愛らしく女性的なので、男二人で入るというのは少々抵抗があった。が、「仕事だから」と自分に言い聞かせ、躊躇することなく入る。


「おぉ、こんな感じなんだねー」


 垂れ下がる幕のようなものを潜り抜け、中へ入る。

 そこには、独特の雰囲気が漂っていた。


「岩山手サンは慣れてるねー」

「いえいえ。僕も、プリクラなんて初めてに等しいですよ」

「えー、ホント? よく来てそうに見えるけどなァ」


 どういう意味だ、それは。


「えーとえーっと……お金を入れてー……?」


 機械に設置されている画面に表示されている説明を参考にしながら、バナーメは準備を進めていく。


「これでー、えーっと……撮影モード? ん? 岩山手サン、ここ分かる?」

「こちらのモードは肌が綺麗に。そちらのモードは目が大きく。それぞれ特徴があるみたいですね」


 僕とて詳しくはない。だから、僕ら二人で撮る場合どちらのモードが相応しいか、というのは分からない。画面に表示されている情報を読み取るのが限界である。


 ……由紀がいれば少しは詳しく分かっただろうか。


「ま、こっちでいいかな。はいっ」


 バナーメはよく分かっていないようだったが、そのまま『通常モード』という部分を押した。


 その後、いくつかの項目を選べば、早速撮影だ。


 バナーメと並んで指定の場所へ立ち、カメラを見据えると、胸の鼓動が速まる。写真はあまり得意でないのだ。カメラを向けられると、いつも、「良い顔をしなくては」と変に力んでしまう。


「岩山手サン、表情固いヨ!」


 今日も変わらず力んでしまっていた僕に、バナーメが声をかけてくる。

 隣に立っている彼から見ても、僕の表情は固いものだったようだ。


「は、はい……」

「もしかして、写真とか苦手だったァ?」

「……実は」

「うそ! ごめん! ごめんごーめん!」


 彼は真面目さの欠片もない謝り方をしてくる。


「いえ、気にしないで下さい。それより、撮影始まりますよ」

「あっ! ホントだ!」



 その後、撮影した何枚もの写真の中から、欲しい写真を選んだ。

 時間制限があるから、じっくり選ぶことはできないけれど、極力バナーメの望みが叶うような選択をした。


 それからさらに、写真をデコレーション。


 画面に表示されている、先ほど選んだ写真に、文字を書き込んだりスタンプを押したりすることができるようだ。


 こちらも時間制限があるため、ゆっくりはしていられない。


 僕もバナーメも、こういったことには慣れていないので、どんどん減ってくる時間を見て焦り。その焦りのせいで、まともにできず、スタンプを連打したり急いで書いたかのような汚い文字を書き込むくらいが、関の山だった。



「いやー楽しかった!」


 帰り道、バナーメは満足げに漏らす。


「プリクラ、ついに挑戦できて嬉しかったヨ! やっと願いが叶ったなァ。あ、岩山手サンも嬉しかったー? 一緒に撮れて嬉しかったよね? ねー。おらも!」


 いや、正直疲れた。

 もちろん口から出したりはしなかったけれど、それが僕の本心だ。


 慣れないことをするというのは疲れるもの。しかも、そんなに親しくない人とだから、なおさら疲労感がある。


「今日は付き合ってくれてありがとう! 岩山手サン!」


 ただ、色々と苦労しながらも、感謝された時だけは嬉しくなる。それはいつものことだ。怪人たちの「ありがとう」というその言葉が、僕を「また頑張ろう」という気にさせてくれるのである。


「いえいえ」

「お支払はちゃんと後からしておくから、安心してヨ!」


 こうして、僕の仕事がまた一つ終わった。

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