第六十回 バナーメ(2)
「ではゲームセンターへ行きましょうか」
待たされたという苛立ちがすべて消え去ったわけではない。が、お客さんであるバナーメに悪印象を持たれると困るので、笑顔を崩さないよう心掛けつつ接する。
「そうだねー! けど、その前にちょっと飲もうヨ!」
「……え」
バナーメの唐突な提案に、僕は戸惑いを隠せない。
「ジュース! 嫌いかなー?」
「い、いえ。しかしプリクラは……?」
「おら喉が渇いちゃってさー! プリクラは何か飲んでからにしようヨ!」
なんてマイペースな怪人なのだろう。
待ち合わせに遅れておきながら、少しの罪悪感もなさそうにヘラヘラと。
僕とは相性が悪そうだ。
仕事でなければ接することはなかっただろう。
それでも、苛立ちを露わにすることは許されない。これは仕事だからだ。仕事だから、自身の感情を表すことは許されない。
「そうですね。少し休憩しましょうか」
「よしっ! じゃあ行こうヨ!」
こうして僕は、待ち合わせ場所のすぐ近くにあるファストフード店へ、バナーメと共に入ることとなった。
「あー楽しかったァ!」
結局、四五十分潰れてしまった。
バナーメはオレンジソーダ。僕はアイスティー。それらをそれぞれ注文したところまでは良かった。一人が怪人というのもあってか、若干視線が痛かったけれど、きちんと注文できたし早く出来上がってきたから、文句はない。
だが、そこからが問題だった。
ドリンクを受け取って席につくや否や、バナーメは凄まじい勢いで話を始めたのだ。
最初は簡単な自己紹介や十八年間グロッケンを習っている話などが主だったのでまだ良かった。しかし、そこからまだまだ話は続き。段々と話題は妙な方向へ進んで、しまいに、昨年の七月二十日に根源市市民センターで催されたセミナーに参加した時の話なんかが始まった。それがまた非常に長くて退屈で。
正直、走り去りたいくらいの苦痛だった。
「おらは楽しかったヨ! 久々に喋ったなァ。岩山手サンも楽しかったー? 楽しかったよね? ねー。おらもおらも!」
バナーメは妙にテンションが高い。それゆえ、一緒にいるだけでかなり疲れてしまう。彼は、僕がかなり苦手としているタイプなのである。
「よーし、じゃあ、ゲームセンターに行こっかー」
「……はい」
「わーい! 楽しくなーってきたァ!」
植物の蔓のような両手を天に向かって掲げ、それを二本同時に、右へ左へと動かす。波に揺られる海草のように、ぬるりゆらり、滑らかに動かしている。
彼は一人楽しそうにしているが、僕はまったく楽しくない。今僕の頭に浮かんでくるのは、「早く帰りたい」「面倒臭い」といったことばかりである。
「ゲームセンターは初めてだよー。楽しみだなー」
「初めてのところへ行くのは、ワクワクしますよね」
「そうそう! それ! それが言いたかったんだヨ!」
悪人ではないのだろうけど、バナーメのテンションにはどうも馴染めない。
取り敢えず、早く終わらせたい。
そのために今の僕ができること——それは、話をスムーズに進めることだ。
バナーメの話が脇道へそれないような相槌を打つ。少しでも早くゲームセンターへ行く。そして、プリクラで写真を撮ることを済ませる。
「ゲームセンター、おらは楽しみだヨ! でもかなり久々に行くからなァ。あ、岩山手サンも楽しみー? 楽しみだよね? ねー。おらも!」
「はい、そうですね」
彼の言葉を真面目に捉えて返そうとすると、その度に苛立ってしまうから、僕は、あまり考えずに言葉を返すよう心掛けた。




