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第五十七回 デルフィー(2)

 デルフィーが今より涼しく夏を過ごせるために必要なのは、夏に適している服装をすること。だが、服を買いに出掛けることは難しいようなので、ネットショッピングを勧めてみた。それなら簡単だし、好きなだけ時間をかけてじっくり選べるからだ。また、怪人であっても気軽に買い物ができるところも、優れていると思う。


「し、しかし……わたくしは、ネットとやらは使えないぞよ?」


 ネットが使えない、か。

 今この時代にネットが使えないとは、正直驚きだ。


 だが、その程度の問題なら、僕でもあっさりと解決することができる。


「では、僕が、ネットショッピングのお手伝いをしましょうか」

「おぉ! 良いのかね!?」


 デルフィーの瞳に輝きが宿る。


「はい。……と言っても、僕は昔ながらの携帯電話なので、あまり役立たないかもしれませんが」


 言いながら、僕は携帯電話を取り出した。


 可能なら、パソコンかスマートフォンがあってほしいところだ。というのも、携帯電話でネットショッピングとなると、色々とややこしい部分があるのである。


 だが、携帯電話であっても、買えないことはない——そんなことを考えていた時。


「ちょーっと待つぞよ!」


 デルフィーが唐突に叫んだ。

 僕は視線を、携帯電話の画面から、デルフィーへと移す。


「わたくし、携帯電話なら持っているぞよ! わたくしの携帯電話が使えるかもしれないぞよ!」


 言いながら、デルフィーは上半身をごそごそと漁る。ガウンの内側や、ベストの下などを。


 待つことしばらく。

 下半身から、水色の携帯電話を取り出した。


「あったぞよ!」


 ひと昔前によく使われていた、二つ折れの携帯電話だ。

 色は爽やかな水色。あまり使っていないのか、ボディはつるつるで、指紋一つついていない。


「もし可能なら、わたくしのを使ってほしいぞよ!」

「あ、はい。では少しお借りしても構いませんか」

「もちろん! もちろんぞよ!」


 デルフィーは水色の携帯電話をあっさりと渡してくる。


 個人情報が入っている携帯電話を他人に渡すとなると、誰しも、多少躊躇いそうなものだ。しかし、彼には躊躇いはなかった。


 もしかしたら、仕事用なのかもしれない。


 僕はデルフィーから受け取った携帯電話を操作し始める。

 僕の使っているものと比較的似たデザインのものだったため、操作することに関する苦労はさほどなく。わりとスムーズに操作することができた。



 ——数分後。


 幸い、ミスなくネットショッピングのサイトへたどり着くことができた。


「画面にたどり着くことができました」

「おぅおー! 現代人ぞよ!」


 デルフィーは椅子に座った体勢のまま、パチパチと拍手を贈ってくれた。


「では、赤と黒のチェックのベストを探してみますね」

「助かるぞよ!」


 正直なところを言うと、このような展開になっていくとは予想していなかった。しかし、これはこれで楽しいかもしれない。


 また、デルフィーは陽気で盛り上げてくれる質だから、楽しく仕事ができそうだ。


「わたくしに相応しいベスト! あるぞよあるぞよ?」


 僕は携帯電話の画面を見つめながら、購入できそうな赤黒チェック柄のベストを探す。一応色々表示されはするのだが、デルフィーに相応しいと思われるものはあまりなく、なかなか難しい。


「予算はありますか?」

「んんー? 予算ー?」

「はい。いくらくらい、というものはあります?」


 僕が問いを発した数秒後、デルフィーはきっぱりと「ないぞよ!」と答えた。

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