第五十八回 デルフィー(3)
予算はなし。
そうなると、多少選択肢の幅は広がる。
ベストと言っても値段は様々で、二千円にも満たないような安価なものもあれば、一万円近いようなものもある。
しかし、デルフィーの場合は予算はないということなので、値段は気にしなくて良さそうだ。
そうなると、重視すべきはデザインだろうか。
「シンプルにチェック柄だけのものが良いですよね?」
念のため確認。
予想通り、デルフィーは頷く。
「うむ! そうだと助かるぞよ!」
デルフィーはあまり気難しい方ではないようなので、コミュニケーション能力が低い僕でもわりと気楽に話せる。
こんな怪人ばかりだったらいいのになぁ。
……少し、そんなことを思ってしまったり。
「では、シンプルなものを選びましょうか」
「うむ! それがいい!」
「えぇと……」
これは良さそうかな、と思う商品を画面に表示して。
「これなんかどうですか?」
取り敢えずの候補をデルフィーに見せる。
「おぉ、確かに赤黒チェック柄」
デルフィーはそう呟いた。
しかし、どうも反応が薄い。気に入ってはいなさそうだ。
「他のものもお見せしましょうか」
「うむ! 頼むぞよ!」
さらりと却下されてしまった。
提案し却下され、提案し却下され。この仕事をしていると、そういうパターンは多い。それだけに、提案したことがさらりと却下されるという流れにも、段々慣れてきた。
却下されたからとくよくよすることはない。
駄目だったなら、次を考えればいいだけのこと。
「あ。これなんてどうでしょう」
紹介文の一行目に書かれている「夏ならコレ!」という文が目に留まったのだ。また、その次の行には「通気性抜群、チクチクしない」とも書いてある。
これは悪くなさそうだ。
そう思って、デルフィーに見せる。
すると、彼は急に椅子から立ち上がった。
「おおぉぉぉぉ!!」
急に立ち上がっただけでも驚きなのに、今度は叫び出す。
「こ、こ、これは……素晴らしいデザインぞよぉぉぉ!!」
ヒレのような両手を天井に向かって掲げ、上半身を後方に向かって四十五度ほど逸らせ、その場でくるくると回転するデルフィー。
「たまらん! 最高!! それにするぞよぉぉぉぉぉぉ!!」
迸る喜びが止まらない、とばかりに、彼はその場での回転を続けていた。
「では注文しますね」
「助かるぞよ! ありがたいぞよ!」
それからしばらく、僕は、そのベストを注文するために操作を続けた。
その間、デルフィーはずっと、同じ位置で回転することを継続していた。たまに回転する方向が変わるが、回転していることに変わりはなく。目が回らないのだろうか、と、僕は少し不思議に思ったりした。
十五分後、注文が完了した。
「注文完了しましたよ。デルフィーさんのお望み通り、代引きで申し込んでおきました」
「ありがとう! 助かったぞよ! これでもう……暑さともお別れぞよ」
デルフィーは何度も頭を下げ、お礼を言ってくれた。
そして最後に。
「お礼と言ってはなんだが、この王冠あげるぞよ!」
まさかの発言が飛び出したのだった。




