表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/105

第四十一回 オーグイヤー(3)

 僕は目の前のオーグイヤーをじっと見つめる。


「オーグイヤーさんのファンの方々は、その程度のことで貴方を嫌いになったりはしないと思います。そのくらいで嫌いになるような方なら、そもそもファンにはなっていなかっただろうと思いますし」


 はっきり言いすぎるのも問題かもしれない。が、ここははっきり言わなくてはならないところだと思うから、僕は躊躇することなく心を述べた。


 しかし、オーグイヤーはまだ俯いている。ただ黙って俯いたままで、何も発することをしない。


 逆に弱らせてしまっただろうか?

 だとしたら、申し訳ない。


 けれど、言わなくてはならないことだったから、仕方ない。


「……信じてへん、わけやない」


 僕が言葉を発し終えてから数分が経過した頃、オーグイヤーはようやく口を開いた。


「ワシも、ファンのこと、信じてへんわけやないんや。やけど……ちょっと嫌な思い出があって、そのせいで勇気が、出ぇへん」


 オーグイヤーは、ぽつりぽつりと、少しずつ言葉を紡ぐ。


「嫌な思い出? もしかして、過去に何かあったのですか?」

「……たいしたことやないんやけど」


 どうやら、何かあるみたいだ。


「もし良ければ、話してみてはくれませんか?」


 断られること前提に尋ねてみた。

 すると、オーグイヤーはゆっくりと顔を持ち上げる。


「ワシ、付き合ってた人がおってん。同じ職場の女性怪人やったんやけど……」

「はい」


 意外にも、オーグイヤーは話し始めてくれた。

 断られるだろうと考えていただけに、こんなにすんなりと話してもらえるなんて、と驚いている。


 ただ、こちらとしても好都合。


 事情が分かっている方が、それに配慮しつつ話せる。


「初めて夕食デートをした時にな、『もっと大食いだと思ってた。正直意外。イメージと違いすぎてショック』て言われてしもてん」


 ……なかなかばっさりいく女性怪人だ。


「結構言いますね」

「せやねん。でもまぁ、遠慮ない物言いは知ってたから、そこはえぇねんけどな」


 いいのか、そこは。


「その後、凄い気まずくなってもうて……現地解散にしたんや。いつもやったら、彼女の住んでる宿舎まで……送ってたんやけど」


 プリンに似たサングラスの、下側の隙間から、一筋の涙が流れ落ちていく。


「そんで、彼女は死んだ」

「え!?」


 まさかの急展開に、僕は大きな声を発してしまった。


「帰り道にヒーローに遭遇したらしくてな……やられたんや」

「……怖いですね」

「彼女はワシが少食やったせいで死んでん……」


 悲しいのか悲しくないのか、いまいちよく分からない話だ。


 だが、オーグイヤーにとっては辛い思い出であることは、確かだろう。愛する者を失ってしまったのだから。


 僕は女性と付き合ったことがないから、実際の例に当てはめて考えることはできないけれど。でも、それでも、愛する人を失う痛みというのは想像できる。


「それは辛い思い出ですね」

「……他人事みたいに言うんやな」

「はい。僕は、オーグイヤーの痛みを、簡単に『理解した』というようなことを言いたくはないので」


 僕は彼ではない。

 それゆえ、彼の痛みを完全に理解することはできない。


「……ある意味、誠実やな」

「冷たい人ですみません」

「いや、適当に理解したようなこと言われるよりかは……ましやわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 ポイント・ブクマなど、いただければ嬉しく思います。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ