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第三十九回 オーグイヤー(1)

 待つことしばらく、オーグイヤーはやって来た。


「いやー! どーもどーも!」


 オーグイヤーは意外と陽気そうな怪人だった。本人としてはおちょけているわけではないのだろうが、おちょけているかのような声色だ。


「おはようございます」

「おぉ! おはよう! 朝早くからごめんなー」

「いえいえ」


 五百ミリリットルのペットボトルのような体は、全体的には白で、ところどころに赤や緑の線が描かれている。顔と思われる辺りには、プリンを縦に切った時の断面を二つ横に並べたようなデザインのサングラス。唇は二本のたらこ。そして、頭の一番上の部分には、ナポリタンの麺を数十本貼り付けたかのような髪が生えている。


「朝早くから申し訳ないとは思ったんやけどなー、今日昼からは用事があってん」

「大丈夫ですよ」

「いやー、ホンマ助かるわー」


 言いながら、オーグイヤーは椅子に座る。


 彼は少し座りにくそうにしていた。

 恐らく、足が短い構造になっているから、人間用の椅子には座りづらいのだろう。


「それで、相談事なんやけどなー」

「はい」

「ワシ、実は少食なんや」


 ナイフのような先端になっている右手を頭に当てつつ、オーグイヤーは打ち明けた。


「そうなんですか」

「ワシ、オーグイヤーいう名前やん? せやから、大食いと勘違いされがちやねん。でも、ホンマは大食いちゃうねん」


 そんな悩み? と思ってしまった。


「けど、ワシのこと大食いやと思ってる人が多くてなー……ファンからのプレゼントとか、いっつも食べもんやねん」


 正直言うと、プレゼントが食べ物であることより、ファンからのプレゼントがあることの方が驚きだ。

 怪人にもファンはいるのか。


「なるほど。ですが、プレゼントが食べ物なくらい問題ないのでは?」

「普通の量やったらええねん。でも、大量に送ってこられる時が多いから困んねん」


 ……確かに、食べきれないくらいたくさんの食べ物を貰うと、困るかもしれない。


「では、大食いではないとはっきり公言すれば良いのでは?」

「いやーそれがなー……今さら言えへんねや」


 気まずそうに俯くオーグイヤー。


「なぜです?」

「いや、だって……今さら少食やて言ったら、今まで食べ物くれた人たちに悪いやん……」


 オーグイヤーは、意外と、ファン思いなのかもしれない。


「なんか、『嫌やけどしゃーないから受け取ってたんやで』て言うみたいで、みんなに悪いわ」


 気遣いは素晴らしいことだ。


 でも、今言わずともいつかは言わなくてはならないことのはずだ。

 それなら、今のうちに言っておいた方が良いのではないだろうか。


「気遣いは素晴らしいことと思います。ただ、先になればもっと言いづらくなるのではないですか?」


 僕はそう言ってみた。

 すると、オーグイヤーは困り顔になる。


「それはそうやけど……」

「時間が経てば経つほど、言いづらくなってしまいますよね?」

「まぁ、せやけど……言う勇気がないんや」


 最初入ってきた時、オーグイヤーは活気に満ちていた。だが今はそうではなく。元気がないような声になってしまっている。

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