第十六回 モグリトエハ(4)
モグリトエハから受け取ったゲーム機を、両手で包み込むようにして持つ。そして、先ほど彼が見せてくれたステージを再び立ち上げる。今度は僕が挑戦するからだ。
「お、押し付けるような形になってすみませんー……」
僕がゲームを始める姿を見てか、モグリトエハは申し訳なさそうな顔をした。
「いえ。お気になさらず」
「くだらない相談ですみませんー」
「いえいえ。少しでもお役に立てるなら、そんなに幸せなことはありません」
とはいえ、ゲームの相談はさすがに驚いたが。
「岩山手さん、善い方ですねー。優しいですー」
モグリトエハは嬉しそう。
怪人たちの相談内容には、いつも少々驚かされる。けれど、皆、根っからの悪人ではなくて。今のように笑顔を見せてくれるから、僕は、もっと頑張ろうと思えるのだ。今はまだ研修生だけれど、いつかきっと、一人前になってみせる。
決意を新たにしつつ、ゲームを続ける。
——それから数十分。
僕はようやくクリアした。
「よっし!」
思わず歓喜の声をあげてしまう。
思ったよりは時間がかかってしまった。見ていた時に感じたより、意外にも難しかったのだ。最初は内心二三回でクリアできるだろうと推測していたのだが、結局、十回くらいは繰り返すことになってしまった。
「クリアしましたよ!」
「うわぁー! ありがとうございますー!」
モグリトエハの四つある瞳からは、涙が溢れていた。
僕と彼は手を取り合い、ステージをクリアできた喜びを分かち合う。そこにはもう、種族の壁なんて存在しない。
きちんとセーブし、僕は彼にゲーム機を返す。
「本当にー本当にー……ありがとうございましたー!」
よほど嬉しいのだろう。
モグリトエハは、ゲーム機を大事そうに抱え、涙していた。
僕はたいしたことはしていない。ただ、ゲームをやっただけ。にもかかわらず、彼はこんなに涙を流している。しかも、嬉しげな涙を。とても不思議な光景である。
その後、彼はゲーム機の電源を切って巾着袋へと戻し、椅子から立ち上がる。
「ありがとうございましたー!」
「いえいえ」
僕でもクリアできる難易度のもので良かった。
「困った時には、また来させていただきますー!」
いや、できればご遠慮願いたい。
しかしそんなことは絶対に言えないので、苦笑でごまかしておいた。
こうして、僕の仕事がまた一つ終わった。
「はーい。お疲れ様っ」
モグリトエハが部屋から出ていって数分後、由紀がやって来た。
彼女の手には、ティーカップの乗ったお盆が持たれている。
「あ、お、お疲れ様です」
「飲み物持ってきたよ」
言いながら、由紀は、お盆に乗っていたティーカップを僕の前にそっと置く。
ふわり、と甘い芳香。
心が安らぐ。
「こ、これは……?」
ティーカップには、黄色っぽい液体が入っている。湯気が立っていることから察するにホットの飲み物なのだろうが、それが何の飲み物であるかまでは、僕には判別できない。
「カモミール!」
「飲み物の一種ですか?」
「そりゃそうよ。飲み物でないものを出すなんて、おかしいでしょ」
確かに。
馬鹿みたいな質問をしてしまったことを、後から悔やんだ。
「それ飲んで、次も頑張って」
なんと!
由紀に励まされてしまった!
……いや、落ち着け。平常心平常心。