第十七回 ネーオン(1)
モグリトエハの対応を終え、由紀が入れてくれたハーブティーを飲んで時間を潰すことしばらく、次の客がやって来た。
「ハロー」
一目見て、すぐに分かった。
女性だと。
「あ……こ、こんにちは!」
しかし、分かってしまったがために、僕は落ち着きを失ってしまう。怪人とはいえ女性は女性、話すのは緊張するのだ。
「アーラ、今日はお兄さん?」
「は、はいっ! 研修生の岩山手と申しまっすっ!」
彼女は、金属で造られたような体をしてはいるものの、その形は人間の女性に近いものがあった。特に体のライン。滑らかな曲線を描いているあたり、かなり女性的である。
「ネーオンよ。よろしくね」
名乗りながら、彼女は堂々と椅子に腰掛けた。
その時の太ももの艶かしさといえば、もう……いや、違う。そういうことを考えている場合ではない。
「ネーオンさん……ですね。よろしくお願いします」
「うふふ。こちらこそ」
直後、ネーオンが急に、何かに気がついたような顔をした。
「……アーラ」
一瞬、僕が彼女の太ももをちら見してしまっていたことについての指摘かと焦る。
だが、そうではなさそうだった。
というのも、ネーオンの視線は僕ではなく床に注がれていたのである。
少し残念な気がしないこともない。が、僕のやや不潔な心に突っ込まれなかったことは、救いとも言える。そんなことを突っ込まれた日には、あまり強くない僕の心は滅茶苦茶になってしまう。
「何か落ちているわよ」
彼女は椅子から腰を浮かせ、床に向かってしなやかな腕を伸ばす。
何だろう? と思いつつ見る。
少しして起き上がってきた彼女の手には、一枚の小さな紙切れ。恐らく写真と思われるものが握られていた。
「アーラ、これは犬ね」
拾った紙をじっと見つめた後、ネーオンはそう漏らした。
「犬? 何ですか?」
「確か……シーズーとかいう」
ネーオンの紫の唇が、色っぽく動く。
「お兄さんの大事な写真?」
彼女はそう問いながら、拾った紙切れを差し出してきた。
犬の写真。
確かに、毛の長い犬が写っている。
「いえ、僕のものでは——あ!」
言いかけた瞬間、突如思い出した。
モグリトエハの書類に、犬を飼っているといった内容の文章が書かれていたことを。
「何かしら」
「少々お待ち下さい!」
僕はモグリトエハの書類を取り出す。
やはりだ。
今僕が思い出したことは、間違いではなかった。
「判明しました!」
「そうなの?」
「恐らく、先ほどのお客様の落とし物です! 受け取っておきます!」
僕はネーオンから写真を受け取ると、机の横にある小さな棚にそれをしまった。
「拾っていただき、ありがとうございます!」
愛犬の写真だ、きっと大切なものに違いない。もしなくなったりなんかしたら大事だろう。ネーオンが見つけてくれなければ、モグリトエハが悲しむところだった。
「いいわよ、気にしないでちょうだい」
色気があり、機械的な材質。それらの要素が揃っているだけに、悪女だろうと思っていたが、彼女は意外にも善人なのかもしれない。
……いや、善人は言い過ぎかもしれないが。
「役に立てて良かったわ」
「ほ、本当にっ……ありがとうございます!」
「ノー。お礼なんていいのよ」
落とし物の一件で時間を取ってしまった。少しばかり申し訳ない気分だ。だが、モグリトエハのための時間だから仕方ない。
「じゃあ早速、本題に入ってもいいかしら?」




