ヰ131 エピローグ《最終回》
「それでね、それでね。もう怖かったのなんのって……。この町、ホントもーイヤ!本当にここは日本なの?!いくらなんでも治安が悪すぎでしょ?!」と設楽居睦美が、興奮して身振り手振りを交えながら説明していた。
「そうでしたか。赤穂さんて、怖いですね…」と金髪ギャルの飛鳥めいずが言う。「私も、昨日あの方にスポーツジムで絡まれました。」
「めいずちゃんもかあ……。あれは噂に聞くヤンキーよ、ヤンキー。スケバンよ。」
「透けパンとは……?」と、めいずが、また新たな日本の風習に怯えながら聞いた。
「昭和の悪習よ。」と睦美が顔をしかめながら答える。
「……悪臭ですか……」とめいずは、もうだいたい話の展開が予測出来たので、話題を変えようと努めて明るい声で「そろそろ庭園会の季節ですね。」と言った。
「庭園会?……ああ、あの宍戸家が主催するお花のお祭り?私達庶民には関係がないわ……」と睦美が言う。
「でも、宍戸家の方から肥料はおすそ分けされましたよね?」とめいずが言う。「園芸を愛する地域の人々へ…、とか何とかおっしゃられて、宍戸かぐや様から秘伝の有機質肥料が、各家庭に配られましたよね?」
「ああ、あれね。お母さんがあれを使ってお庭でミニトマトの種を撒いてたわね。臭かったわ……」
「……肥料が多すぎると窒素過多になるので、野菜に対しては控えめにするそうですよ。葉っぱばかりに育つそうです…」と、めいずは、また話題が悪臭に戻ってしまったのを感じながら静かに言った。
「もしや、めいずちゃん、アナタの家は庭園会に招待されてるの??」と睦美が立ち止まって大きな声を出す。
「あ、はい。少し前から宍戸家のお庭に入らせてもらって、庭園作りをしております。向井様も出入りして少しずつお庭を仕上げていますよ。」
「うはーっ……、出たよ富裕層……。そうか…アナタ達、庶民のふりして実はお金持ちだったわね……。あの超、超、大富豪の宍戸家のご子息、ご息女が公立の小学校に通う習わしだから、……あんたらみたいなお嬢様、お坊っちゃんも、それにならって星明小に来ていたんだったわ……。忘れていた……」
「飛鳥家の資産なんて地味なものですよ。」とめいずが言う。「あ、そういえば明日の卒業式の在校生代表のあの子、凄くお派手な美人さんでしたよね?」
「ウ……そ、そうね。5年3組、さわやか3組触らぬ神に祟りなし……赤城衣埜莉。リハーサルでも美少女オーラがヤバかったわね。……卒業式の主役は私達よ……。あれは反則だわ……」
「宍戸家のお嬢さまや、あの方が今度は6年生になるのですね。星明小学校も春から派手になりますね……」とめいずが感慨深そうに言った。「美化委員も引退です。後輩にバトンタッチです。」
「……美化委員……そういえばそうだったわね……その設定、忘れていたわ……。」
「睦美~~」と後ろから声がして、パタパタとデッキシューズで地面を蹴りながら、白装束の少女、三浦詩が駆け寄ってくる。
「見て見て~!3月31日をもってガラケーが終了するから、私もアンドロイドになったわーー!これでお揃いね!」
その後ろから近藤夢子も歩いてきて、「私もアンドロイドになったわ。晴れて私もラブドールの仲間入りね!」と言ってきた。「にしても三浦詩?女子で折り畳みスマホにした人、初めて見たわ………おっ惨みたい………」
夢子の横には、身長差のある5年生、土田優茉が並んでいて、
「センパイ方!明日はいよいよご卒業ですね!マコトにおめでとうございます!」と唾を飛ばしながら叫んだ。
「ところで三浦センパイ!6年生が卒業した後は科学特捜部はどーなるのですか??あと、なぞなぞ倶楽部も?」
「もちろん廃部よ!」と詩がピシャリと言った。
「……そうでありますか……では廃部になる前にツチダから、最後に科特部へ依頼がございます!聞いていただけますか??」
そこで飛鳥めいずがOzOzと手を挙げ「……では私そろそろお暇させて頂きます。」と言った。
「ではまた明日」
そう言うとめいずは、足元から続く黄色いレンガの道の先を見つめ、手を振りながら去っていった。
睦美は銀色のスニーカーの踵を3回鳴らし、「私もお家へ帰りた~い!」と唱える。「そろそろお兄様がお帰りになっているわ~~!じゃ、まったね~!」
睦美はその場で竜巻のように旋回し、ピュー!と走り去っていった。
「あ、睦美ーー」と詩は手を伸ばしたが、彼女の親友は、もうすでに小さくなっていた。
「センパイ」と土田優茉が再び声をかけてくる。
「ん、なあに?あ、そうそう依頼だったっけ?何よ?言ってごらんなさい。」と詩が、明らかにつまらなそうな表情をしながら答える。
「実はセンパイパイ……我がシンブンブンが存続の危機に立たされているのです。」「また?て言うか常にそうでしょ。」と夢子が言う。
「それが科特部と何の関係があるの?」と詩も半分以上興味を失いながら言った。
「……はい。皆様もご存知の通り……、ツチダの所属する5年3組には、『少年少女秘密探偵団』というものがございまして……。そこが新聞部を『虚偽の情報を流布する反社会組織』と認定してきたのです……。」「そりゃまた何でよ?」と夢子が立派に育ったお無念の前でヨガのポーズ風に合掌しながら言った。
「…はい、実は…」と優茉が辺りを伺いながら顔を寄せてきて、2人の先輩の耳元で呟く。
「学校の七不思議、六つ目。3階の3番目の女子の音入れで、3回ノックすると返される、3回のノック。3度『おじゃまします、光子さん、おじゃまします、光子さん』と唱えると、御手洗光子さんに会えるというやつです。……ツチダはあれは完全なデマであることを暴露する記事を書いたのです。……そうしたら速攻、秘密探偵団がクレームをつけてきて……。その日のうちに東三条先生が新聞部にやってくると、『そういう誤情報を記事にするのは困るよ、』って……。教員業務支援員の橘さんまで来て、新聞部をネットNEWS部にするってのは、どない思います~?とか言ってくるし………、急に周りからの圧力が強くなってきたのです……」
あちゃ~~、と夢子が目をばってんにして、額にペチンと手のひらを当てた。
「それ、一番駄目なやつでしょ?御手洗さんは秘密探偵団のアイデンティティよ?学校の七不思議を解明することを生業とする彼らの、シンボルマークにもなってるじゃない……。アナタ、バカね…なんで奴らに喧嘩を売ったのよ……。半転しの目にあっても知らないいからね……」
「し、しかし、事実を伝えるのが報道機関の責務……。近藤センパイが調査中の理科室の怪の方は…百歩譲ってまだ実体があるから良しとしますが……、御手洗さんには、何の証拠もございません……全て憶測と噂の域を出ないのです。そもそも女子音入れを調査、監視するという検証方法自体、かなりグレーというか、真っ黒なのではないかと、ツチダは思うのでありマス……」と優茉が、正義のペンを振り回しながら早口で言う。
「だからと言って探偵団と争うのは得策ではないわ……あいつらはバケモノよ……構成員に2名ほどトップクラスの美少女がいるし、……アレは全盛期(?)の飛鳥めいずが辛うじて張り合えるレベルの美少女よ。よく抵抗しようと考えたわね?」
「はい……そこら辺は同じクラスなのでよく存じておりますが………真実の報道には変えられませんので……」 「アナタも頑固ね…じゃあ、」と夢子が言いかけた時、
今までじっと黙って聞いていた三浦詩が、「そういうことなら言わせてもらうけど…」と口を開いた。
「御手洗さんは事実よ。」
夢子と優茉が顔をこちらに向ける。
「何よその間の抜けた顔は?」
「え?今、御手洗さんは事実だ、とおっしゃいましたか?」
「ええ、言ったわ。」
「ど、どういうことでしょう……」
詩は大袈裟に肩で溜め息をつき、「今から話すことは門外不出よ。新聞部のアナタがそれを誓えるのなら、事実を教えてあげましょう。アナタ、これを記事にしないと誓える?」
「いえ、それは、……その、なんとも……」
「じゃあ、教えないわ。ただこれだけは言っておく。学校の七不思議その六は、真実に基づいている。これは秘密探偵団も辿り着けていない答えだけど、……嘘や空想ではないわ。
そして彼らに喧嘩を売るのはお辞めなさい。
『せ』いじつに、『い』じめのない、『め』いわくをかけない、『い』しきたかいけいの小学校。私達、星明っ子は、みんな仲良くがモットーよ!」
三浦詩は、そう高らかに宣言すると、
……かつて3階の3番目の乙女淹れで、
3年3組、出席番号13番の設楽居睦美が鍵をかけ忘れ、
禅羅で琴を致しているところを学校の誰かに目撃されたことがあったのだ……、と遠い目をして考えていた。
そして設楽居睦美は、当時親友だった三浦詩に泣きながら相談してきたのだ。
詩は素早く対策を講じ、
この噂がひろまる前に、設楽居改め、架空の御手洗さんの情報を学校中にばら撒いた。
つまり、誰かが「知ってる??3年3組13番のしたらいが、3階の3番目の乙女淹れで…」と言おうものなら、「え?その話題ヤバくない?御手洗さんに呪われるよ~」と、御手洗さん伝説に会話が持っていかれるように仕組んだのだった。
実際、設楽居の禅羅音入れの件が子供達の間で話されることはなかった……。それとは逆に御手洗さんの不思議は、その完成度の高さから、瞬く間に学校中にひろがり、
最終的には設楽居睦美本人が、「3階の音入れのお化けの話、怖いよね~」と言い出す始末だった……。
……これが学校の七不思議その六の真相。もう時効かと思っていたけど、……やはりこの秘密は墓場まで持っていこう……。
三浦詩が、「…御手洗さんは実在するわ。それは間違いない。でも呪われるからあんまり話題にしない方がいいわよ。」と言うのを聞くと、
夢子と優茉は、……どこら辺が科学的なんだろうか……と、
この科学特捜部部長の青白い横顔を眺めたのだった。
****************
ここは広大な敷地面積を有する、とある邸宅の庭。
区画を分けて目の前にひろがるスパニッシュブルーベルの青い絨毯が、風に揺れている。
白いワンピースを着たストローハットの少女が、長い黒髪を靡かせて、離れた所にある色鮮やかなチューリップ畑を見つめる。
「…今年はあの、ハニーグリーンな香りがしないのね。」と少女が言う。
話しかけられた初老の庭師が、「いえ、あれはイングリッシュブルーベルの方です。4月の中旬頃には咲き揃うと思いますよ。」と答えた。
「春が来るわね。」
「承知しております。」
「寒いわ港川。もう行くわよ?」「はい」
黒髪の人形のような少女、宍戸さやかは、スカートについた綿毛をパンパンとはたくと、
少し歩きにくそうに柔らかい土の道を踏みしめ、空気中に満ちたペトリコールの香りを胸一杯に吸い込んだ。
『Epilogue/Final episode』
これにて『おやすみ少女ロボトミー・フェスティバル』は放送終了致します。
評価とブックマークしてくれた4人ばかりの方、ありがとうございました!
面白かったですか~?
睦美ちゃん達に会いたくなったら、何度でもこの連載を読み返してみてください!彼女達はいつでもここにいますよ~。前作、『さよなら少女壊滅戦争』の方も宜しくお願い致します!
現代の落伍者の為の落語制作者、カレイドスコープ先生の次回作にご期待ください。
先生への世の中の評価が上がればまた新作を考えるかも♡
いつかどこかでお会いしましょう。バイバ~イ
4人のお友達に幸あれ!




