ヰ120 楽しいバス旅行
「星明小学校6年2組の皆さん!おはようございます!
本日、社会科見学に向かう皆さんのバス旅をご案内させていただきます、わたくし舘科 芽楼 と申します!
どうぞ、私達の心からのおもてなし、または、裏あり、をご堪能ください!よろしくお願い致します!」
レトロな藍色のジャケットと白いスカートの組み合わせ。上着の色に合わせた帽子。白い手袋。黄色いスカーフをリボン結びした首もとが可愛らしいバスガイドが、四角いマイクを持ちながらペコリとお辞儀をすると、
早速、子供達から「裏があるのかよ!?」と笑いながら突っ込みが入った。
「はい。皆さんが大きくなったら、またうちの観光会社のツアーに申し込んでいただくことをアテにしております。…まあ、それは冗談ですけどね?」と言って芽楼 は、ペロリと舌を出し、………よし!掴みはオッケーよ!と心の中でガッツポーズをした。
「本日、皆様を安全、快適にお運びいたしますのは、運転手の藤堂三鶴さんです。…この方は、日本国内ではほぼ全く役に立たないと言われている、けん引二種免許を取得しております。
とても運転がお上手な方なので、乗り物酔いをする方も、どうぞご安心ください!まあ、でも多分、藤堂さんの能力でしたら、もっと高給なところへ転職されると思いますので……皆さんは、この貴重な最後のフライトを存分にお楽しみください!」
「舘科 さん?ホントはスチュワーデスになりたかったって言う本音がダダ漏れしてますよ?!」と運転手の藤堂さんが笑いながら言い、
クラスの子達からドッと笑い声が上がった。
よし!!
芽楼 は再び、心のガッツポーズを取る。
「どうぞよろしくお願いいたします!」
彼女は、深々とお辞儀をすると、いったん運転席横の補助椅子に腰掛けた。
「……面白いし、可愛いバスガイドさんだね」
と、美少年、向井蓮が、隣に座る設楽居睦美に声をかける。
睦美は、つまらなそうな目で窓の外を見、
早速リュックから取り出したイカの足の袋を開け、ニッチャニッチャと口に含め始めた。
「……む、睦美ちゃん?そんな消化の悪そうなもの食べて大丈夫……?」
バスの中をお菓子の匂いが充満するなか、
一番後ろの席に座った、担任の廣川満里奈は、
……日本酒が飲みたいわね……と密かに考えていた。
え~っと、いち、にい、さん、し………。満里奈は、もう一度生徒達の数をかぞえ、……なんか足りない気もするけど、ま、いっか。と考える。
……確か補助席も使うはずだったけど、違ってたかしら?まあ、出席者の数は合っているから間違いないか。
印象より、数が重要よ。私達は数字が全ての社会に生きているんだからね。
……ちなみに本日、五十嵐葉南は、社会科見学を欠席していた。
急ピッチで進められる豊子キッズビルの改装に対して、セキュリティのスーパーバイザーとして、彼女には学校に行っている暇などなかったからだった。
向井蓮の席から離れたところに座る、韓流ファッションのカーリーヘア少女、赤穂時雨は、朝からブー垂れた顔をして、腕を胸の前で組んでいる。そのすぐ後ろの座席には
科学特捜部の三浦詩と、近藤夢子が並んで座り、通路側に座った詩は、前の方に見える睦美の席を心配そうに見つめていた。
「……落ち着きなさいよ。」と夢子が言う。
「……で、三浦詩さん?設楽居睦美にオムレツは渡せたの?」「………」「……駄目だったの?」「………」
詩は、リュックを漁り、密閉式ビニールに入った薄水色のものを取り出した。
「…用意してはみたのよ……。超薄型のパソシタイプのオムレツ。これを、設楽居がいつも履いているパソシと同デザインのものに縫い込んでみたのはいいんだけど……これをどうやって履かせればいいのよ?はい、どうぞ。と言ったって睦美がすんなり履いてくれるわけないでしょ……。思わずあの変態転校生の口車に乗せられてしまったけど……。でもね、なんと言うか…、睦美なら有り得そうな話だと思えるところがミソなのよね……あと念のため携帯用災害音入れも持ってきたわ。……でも冷静に考えて、皆が見てる前でこれをバス内で使うのは、いくら鈍感ちゃんの睦美でも難しいわよね……」
「じゃあ、どうするのよ?」と夢子が言う。
「……そうね。私が考えているのは、もし、万一睦美にそういった危機が訪れたとしたら………バス内の全員を眠らせてしまおうかと考えているの。」詩はそう言うと、リュックから白いアロマディフューザーを取り出した。
「これはね、改造して限界までパワーを上げているアロマポッドなのよ。現代社会では、多くの人が睡眠不足や不眠症に悩んでいるからね。これを使えば全員を即座に眠らせることが出来るわ。
……見て?特殊配合でブレンドした精油を使用するの。結構苦労したのよ?まずはラベンダー。リラックス効果と鎮静作用。カモミール、サンダルウッド、ベルガモット、そしてクラリセージ。
この香りを嗅げば、アナタもホルモンバランスバッチリよ!これを車内に噴射したら、数秒のうちに皆は眠りにつくわ。そこで登場するのがこれ!この洗剤用のペットボトルで作った簡易ガスマスクを装着すれば、これで私は自由に動けるわ……。」
「……ちょっと待って。それ1個しかないじゃない……」
「近藤夢子、アナタは諦めて。この計画は私さえ自由に動ければいいの。なんなら睦美も眠っていてもいいわ。処理は私1人でも出来るから。」
「違うわよ!運転手はどーするのよ?あの、藤堂さん?だっけ?彼がいくらプロ級の免許を持ってても、眠らせちゃったら駄目でしょ?!そのまま全員が目の覚めない眠りに付くわよ??」と夢子が慌てたように言った。
「…じゃあ、なによ?そう言うアナタには何かいいプランでもあると言うの?」と、詩が不満を露にした表情で言う。
「……そうね」と夢子は考え込むように額に手を当て、
しばらくするとこう言った。
「……ようは、設楽居睦美が恥ずかしくないよう、YO!が足せればいいんでしょぅ!それなら、こんなのはどーかしら?
……ほら、百歩譲って、その行為を男子に見られなければいいんでしょ?
それなら、私が前の方で、飛びきりのセクシーダンスを踊ってあげるから。
……そのうち男子達が我慢出来ずにポケットに手を突っ込んで、増田ベーカリーショーに夢中になるはずだから……。
それが終わった後の男子は特に、
貝者夕仏というものに突入し、眠気を覚えるらしいわよ?……男子が皆、平和な眠りについた後、そこで設楽居睦美にはいたしてもらえば宜しいんじゃないかしら……?」
「……そんなにうまくイクかしら……そして、そのプラン……控えめに言ってキモすぎるわ。私が今吐きそうよ」と詩は言った。
「……まあ、アナタがそう言うなら別にやんないけど……助けが必要になったらいつでも言いなさい。」と夢子は言って、座席に深く座り直した。
「進行方向、左手にご注目ください。今から私達は目に見えない道路に入ります。」
「「え~~」」と子供達が身を乗り出す。
「透明高速道路です。」
「……なんだよ、ダジャレかよ」と男子の1人が言う。
「ちなみに皆さん?フリーウェイというのは無料の道路という意味ではありません。信号がない道路という意味です。」と、バスガイド舘科 芽楼 は、ニコリと笑いながら言い、
「ちなみに皆さんが今から向かう国会議事堂では、かつて高速道路無料化という、夢のような約束が取り交わされたことがありましたが、
……当初2065年までとされていた高速道路の料金徴収期間を、2115年まで最大50年!も延長し、債務を完済した後も料金を継続する方針となりました!これどうなんでしょうね?!
みんなはもう授業で習ったかな??」と歌うように説明した。
「ガイドさん??政治的発言はご遠慮いただけますか?!」と廣川満里奈が後部座席から叫ぶ。
「あ、先生?ごめんなさい♡では、話題を変えて……皆さんは授業で教えてもらったかも知れませんが、
……国会議事堂こと「白亜の殿堂」は1936年に建てられました。高さ約65m。
白亜と言えば、みんなは何を思い付きますか?」
生徒の1人が「白亜紀!」と手を挙げて発言する。
「そう。白亜紀。議事堂の中央広間の壁には沖縄の珊瑚石灰岩が使われています。そこでは、なんと!1億年前以上の巻き貝の化石なんかも見られますよー。」
「T-REXは?」「う~ん、私は見つけたことないなあ。そうだ!みんなで探してみたら?その結果を帰りのバスでガイドさんに教えてね?」ウフッと芽楼 は笑い、「そうよねー白亜紀と言えば恐竜だもんねー、でもね、今からみんなが行く国会議事堂の御影石の建築は、とぉっても迫力があるし、天然の博物館とも呼ばれているのよ?」
………はく、はくって、うるさいな……。
蓮は、隣に座る設楽居睦美の横顔を心配そうに見ていた。
さっきまでイカの足を無心に頬張っていた睦美は、今は静かに前を見つめ、心なしか血の気の引いた顔で、いつになく真面目な表情で座っている。
「む、睦美ちゃん?……大丈夫?我慢出来なかったらエチケット袋、あるからね……」蓮がそう言うと、
睦美は、(話しかけないで…)とでも言うように片手をスッと上げ、背もたれに深く体を沈めた。
「おい!倒すなよ!」と後ろの席の男子が睦美の背中側を蹴る。
蓮は慌てて睦美のシートの傾斜を直し、後ろの男子に向かって「ゴメンゴメン!でも蹴らないでくれるかな?」と、優しい声に反して相手を睨み付けながら言った。
「…いや、ホント。我慢する必要はないからね、睦美ちゃん……。Re:Birthするところを見られるのが嫌だったら目を瞑っててあげるから。」
不穏な空気を感じ、蓮はチラッと、睦美のお腹の辺りに目を落とす。
……睦美の脚は、微かに小刻みに震えていた。
「……まさか、まさかとは思うけどさ?ひょっとしたら睦美ちゃん、別なものも我慢したりしてない?」
設楽居睦美は答えず、ガサガサと旅のしおりを取り出すと、旅のスケジュールを確認し始める。
……パーKingエリア:音入れQK
睦美の視線がそこに注がれているのを見て、蓮は「も、もうすぐだから……」と小さな声で言った。
……まずいぞ。……科学特捜部の対策はどうなっているんだ……。
蓮は通路側に体を乗り出し、三浦詩の方を振り返る。
「なんかキダルト君が、こっち見てるわよ。」と夢子が言う。
「駄目ね。やはりあの男には任せておけないわね。」と詩が言う。「アロマポッドを起動しようかしら……」
「ちょっと、アナタ達こっちに頭を出さないでよ!」と前のシートに座る赤穂時雨が、バタン!と座席の背もたれを後ろに倒す。
「うはっ?!」
手に持っていたアロマポッドがひっくり返り、わずかに漏れた精油がピシャリと詩と夢子の体にかかった。
その瞬間、2人の少女はグウ……と眠ってしまった。
「なに?アナタ達眠っちゃったの?寝付きが良すぎない?まあ、静かで助かるわ。」と時雨は言うと、蓮にヤッホー、と手を振り、そのまま自分も、あら?いい香り…グウ……とずり落ちていった。
蓮は、眠ってしまったように見える3人の姿を見て、前に向き直る。
……まずいな……。またしても歴史に備わった修正力が発動しているのかも知れない……。かくなるうえは……。と、蓮は網棚から手荷物を下ろし、
……本当はこれはやりたくなかったんだけどな……。と、青ざめる睦美を横目に見て、ジッパーを開いていった。
『Enjoyable bath time』




