3.上闇の極意
前回のあらすじ
単独で先行した隼は1人、上闇の魔の手にかかる
国の陰謀によりタブーとされた生殖行為が悲惨な現状にあると訴える上闇は、真の愛を隼に身をもって伝えようとする。それを案じた光は引き返すが時すでに遅し、横たわる隼を前に久と上闇はぶつかり合うのだった
ゴゴゴゴゴゴ キィン キィンッ
流槍刃が上闇の周囲から伸びるコンクリートとぶつかり相殺される
「やはりな…変身もそれも無属性能力の応用なんだろ?」
「変身というより変容だけどね、物質の性質はそのままに形を変える名付けて上闇の極意さ」
「相変わらず意味がわからない…」
(変容の速度は流槍刃に劣っている、しかし如何に素早い攻撃だろうと確実に回避してその後の攻勢に繋げてくる。戦闘能力に長けているなら下手に回避を誘発するのは得策じゃない、が…)
上闇の背後に佐元が回り込み何かを取り出した
「なっ」
「役不足ではありますが、助太刀致します。対無族弾装填、発射。」 ダンッ ダンッ
ガガガッ 上闇の後ろにコンクリートの壁が現れるも弾はそれを容易く打ち砕く
「っ…」 しかし視界の先に上闇はいない、だが久には見えていた上闇が姿勢を低くし次の攻勢に出ようとしているのを ガギィンッ
「きっ…」 流槍刃を重ね速度を落とした弾を弾き、残りを佐元に向けて伸ばす
「間に合え!」 ギュルルルンッ うねりの着いた龍槍刃が平らな面で佐元を突き飛ばした
ゴキバキャッ 僅かにでも触れたのか佐元のメガネが形を変え弾ける
「連続刃!」すかさず佐元と上闇の間に割って入り追撃を阻んだ
ズザザザッ 後方に飛び退き再びコンクリートで流槍刃を防ぐ上闇
「…あなたに援護されても連携できません、役不足なら役不足らしく大人しく援軍を呼んできてください」
「…失礼しました、おっと」 佐元はそこにないメガネを整えようとして額に触れてしまった
(さてどうするか…万が一にでも流槍刃が変容を受ければ手数を失い戦況が不利になる、やはりエネルギー切れを狙いこのまま慎重に攻撃していくか…?)
「隼…!」 懸命に瓦礫をかき分ける光は、ようやく見知った髪色を目にする
「あばっ」 隼の手が視界を被った
「大丈夫?ねえ大丈夫なの?」 驚きつつも、まず何より心配の言葉を優先した
「大丈夫だから、でも見ない方がいい」
「え?それって本当に大丈夫なの?ねえ?手を退けてよ隼…」
「そういう事じゃないんだ、ただ…」
(上瑠璃さんに教えられたこれは、猛烈な羞恥心によって発現する…もし光が俺の裸を見れば同じことが起きる、それは良くない気がする。なら…)
「い、今服着てなくてさ…恥ずかしいから何か着れるもの持ってきてくれないか?なぁ光」
「あ、そっか…わかった探してくる!」
しばらくして、体に服らしきものが被せられた
「はい、これ今私何も見てないから!着れそう?」
「ああ、ありがとう光…あれっ」立ち上がった隼はバランスを崩し光に支えられた
「だ、大丈夫隼?やっぱりどこか怪我して」
「い、いや体は大丈夫なんだけど…」
(そ、そうかこの生殖器重いのか?それでバランスが…いやそれだけじゃない、そうだ限界まで核エネルギーを失ってそのせいか)
「大丈夫じゃないよ!ここは久さんに任せて今は休まないと…」
「うっ、久さん…?あっそういえば久さんが一瞬目に見えて、今はどうしてる?」
「どうしてるって…上闇常繁と戦ってるよ!」
「っ…行かなきゃ!」 「待って隼!力になりたい気持ちはわかるけど今はそれどころじゃ…」
「違う!」バシッ
「えっ?」 隼は光の手を払い除けた
「止めなきゃいけないんだ…」
「連続刃!連続刃!連続刃!」 シュッシュンシュシュシュシュシュッ
ガスガスッ ゴガガッ ドゴドゴッ ググゥン
「上闇の極意!」 空に伸びた3本のコンクリートが自らの支柱を壊し落下してくる
シュンシュンシュンッ ガラガラガラッ
壊した隙をついて前方からコンクリートが伸びる
シュッ 避けた方向にさらにコンクリート…と上闇の手が向かってきた
ガゴッ 思わず蹴り飛ばしその勢いのまま後ずさる
「隕土!」 ガッ 突如として飛来したそれが顔面を直撃する
「ぐぅっ」 (視覚を刺激してっ…くっ)ヒュンヒュンヒュンッ
隙を作らないために流槍刃を伸ばす
ゴゴゴッ コンクリートが5本、向かって伸びる
ドガッ 流槍刃で相殺する
「突土!」「があっ」 着地のタイミングで足元に現れたなにかに躓き、完全に姿勢を崩した
タッタッタッタッタッ 上闇が隙をついて迫り
ガシッ 久の足を掴んだ
「きっ」 ザシュッ 龍槍刃で足を切断する
「上闇の極意!」 変容した足が久に絡みつく
シュゥゥゥ それは消えかかっておりベタベタと粘度を帯びていた
ゴォォォ 上闇の左手、そして龍槍刃が同時に伸び…
「待ってください!2人とも!」きる前に止まった
「隼…!」「あ!隼君元気になったんだね〜」
「きっ…」 龍槍刃に力を入れる
「久さん!やめてください戦う必要なんてないんです!」
「なにを言って…」
「久さんはいつも、戦った相手を殺さず和解して仲間にすることを大事にしています!そのおかげで俺も堕悪さんもみんな、今を生きていられて幸せでいられて感謝してるんです!だから俺もそれを見習いたいんです!」
「隼…」 1人残された光には隼が少しわからなくなっていた
「久さん!今回の事件の肝は上闇さんが殺人を犯したことにあるんですよね、なら上闇さんは殺人をしていません!」
「なっ何を言って…」
「上闇さんの能力は変容、改造ではなく変容です!つまり壊すことができるのなら治すこともできるんです!だからなかったことにできます!」
「隼、それは違うよ。起きたことを戻せてもやったことはなかったことにできない」
「そ、それと変容させられた人達は皆タブー破りをしてたんです!調べればわかるはずです!上闇さんは罪を犯した者を裁くために手を汚していただけなんです!」
「た、タブー破り?それはつまり…」
「はい、俺はタブー破りを知ってしまいました。申し訳ありません」
「この短時間で、情報を得られたとしたらまさか?」
「そ、僕が教えたんだよ」 「お前…!」
「久さん!上闇さんは殺人鬼なんかじゃありません…情状酌量があると思います!」
「隼、お前はいいのか?無差別にタブー破りさせられあまつさえその身に恐怖を与えられたんだろ?」
「久さん、上闇さんは愛を求めていただけなんです。久さんが俺たちを家族として愛してくれるようにきっと上闇さんにも愛を与えてあげられると思うんです、それが出来れば俺に悔いはありません!」
「家族の…愛か、へへへ」
「…」久は上闇を見つめる
「にひっ」 相変わらず不敵な笑みをしている
「っひとまず…佐元達が来るのを待って話を付けてみる」
「ほ、本当ですか?」「ただし結果はまだ分からないぞ、これは元々政府国の問題なんだからな」
「なるほど、確かに被害者達は皆重度のタブー破りで治安への影響も見られますね情状酌量は認められるでしょう」佐元は復活したメガネを整えた
「それなんだが、隼がタブー破りをしてしまったようで罪に問われるだろうか?」
「ふむ、そうですねタブー破りをしたものの責任としてタブー破りについて重要な教育を数十日に渡って受けてもらう必要があるでしょう」それを聞いた隼は頭を悩ませた
「はいはーい!その教育!僕が代わりにやってあげるよー」
「あなたには情状酌量を加味しても拘留期間があります、それは叶わないでしょう」
「それなんだが、カセイ国守官の私が監視するという名目でどうにかできないだろうか?」
「あなたねえ…はぁともかく全ては被害者の体を元に戻してからですよ!」
〜政府国国守官管理所〜
「上闇の極意!」 ゴゴゴゴゴゴゴ
被害者達の身体がたちまち元の形状へと戻っていく
「うおおお助かった!ってお前はぁぁぁ!」
ドガッバコッ
そうして戻ったと同時に上闇の顔を見て殴りかかろうとした男達は政府国職員に取り押さえられ部屋を後にした
「全く、品位の欠片もない…」 汚れ物を見るかのような目をしていた佐元の表情が、ようやく落ち着いた
「さて、上闇常繁の処遇ですが…」
「…」久、隼は別室に隔離された上闇に目を向け息を飲んだ
「まあ大丈夫でしょう、兄さんに言わせれば久には俺に学を教えてくれた借りがあるからな!それぐらいのこと受け入れて…」 「聞きづてならねえな佐元!」
「兄さん…!いや宇元将軍、それはどういう」
「佐元!上闇常繁は無族だ!タブー破りを罰したとはいえ無族の強行許容した前例を作る訳には行かん!いくら久に借りがあるからって久と国の未来を天秤にかけたりはしねえ!」「…」 その言葉に佐元は佇むばかりであった
「久!てめえなにかと甘いんじゃねえのか?邪族戦争はどうしたよ?なんで邪眼族をロウ国に渡しちまったんだ?自国の利益にできたはずだろ?」
「…上闇常繁の処遇は?」 宇元に言い返すことはなく久はただそう聞いた
「死罪だ、それが政府国のやり方だからな…だが」
「!!」 何かを言おうとした隼、そしてそれを制した久はその後の言葉に目を丸くした
「お前には借りがあるからな…特別に国外追放としてやろう…ただしもし次、上闇が政府国に1歩でも入った時は即刻死罪だ」
「わかった」
「な、なんだ結局佐元さんが言った事と同じでしたね…少し驚きましたが」隼は胸を撫で下ろした
「上闇…行くぞ」 「は〜い」 佐元に鍵を開けられ相も変わらずの態度で出てきた、そして部屋を後にしようとした時
「久、言っておくが…これで貸し借りは無しだからなっ!」 その言葉は、やけに重く感じた
「国外追放処分かぁ〜」
「寂しいのか?祖国を去るのは」
「寂しくなんかないよ、だってほらー私にはもう愛すべき人がいるんだから〜」 ギュムッ
「うぇっ!?じょ上瑠璃さん!?なんでまたあぼあぼあぼー」そうして隼は押し潰された
「たださ、もう二度と自宅に帰れないってなると僕にも思うところがあるんだよ」
「…そんなもの、引っ越したってことにすればいいだろ…」
「へぇ…それはいいねぇ」
「そ、そういえば光はどうしたんですか?色々あって有耶無耶になってたんですけど」
「そういえば、か…引き返した堕悪と共に今度こそ帰ったぞ、まだ気分が治らないみたいだな」
〜車内〜
「堕悪さん」
「なんだ、光?」
「手を握っても、らえませんか?」
「はっダメに決まってるだろ、少しでも接触ダメージで痛みはあるんだ」
「ほんの、ほんの少しでいいんです不安感でどうにかなりそうで…」光の目は涙ぐんでいた
「仕方ねえな…」 仕切りをずらし、手を伸ばす
1、2、3…10秒も立たないうちに光は手を離した
「うっなんかすごいチクチクしますね…」
「だから言っただろ…ハリマンボンでも撫でていた方がマシだ」
〜カセイ国守官管理所〜
「というわけで、新しい家族の上闇だ」
「よろしくーってええーみんな超可愛いじゃーんめっちゃタイプ〜」
「かわいい?やったー」
「か、かわ…?うぅ」
「ほほぅ随分と見る目があるな!」
「赤根が可愛いのは当然のことだ」
「ふふ、改めて言われると照れちゃうよ」
「おい、久大丈夫なのか?あいつ」
「ああ、ひとまず隼が懐いているし心配はいらないだろうが…万が一の時は気をつけてくれ戦闘能力だけなら私に匹敵する…」ピクッ
その言葉にピンポイントで聞き耳を立てていたのか、江美が前に出る
「ほう、そこまでの腕の持ち主とは恐れ入った。是非私と戦ってくれないか?そしてゆくゆくは…」
「待て江美早とちりするな、それに上闇は女だぞ」
「ん?何を言ってるんだ久」
「くるりんパッ!」謎の掛け声と共に上闇が上瑠璃へと変容した ボフンッ
赤根の目にそれが釘付けとなる
「な、なぜこの世界にボインが…負け、た(死)」
「赤根えええええ!」倒れる赤根を抱き抱える毒闇
「ワァァ」 「こ、これはうっ」 「巨刀…じゃないっな、何を言ってるんだ久殿!戦う者に性別なんて関係ないぞ!」
「そうなのか?だって江美、ゆくゆくはケッコ」「あああーあああーなんでもないやっぱりなんでもないんだ…」ガバッ
「あー気絶している場合じゃなかった、カセイ人なのに乳房が発達している…この事実をいち研究者として追求しない手はない!」
「赤根ー無事だったか!」
「ズバリ!その胸の由来は!?」
〜しばらくして〜
「なるほど〜お母さんが地球に住んでいたことがあったんですね、それで愛を感じるのに最適なのがそれだったと…理由はわかりましたが、暮らしていたというだけでそうなるわけがありません!それはなんなんですか?」赤根が目を輝かせている、いったい何を考えているのだろうか
「それは変容だろ?」至極当然であるかのように答える久に赤根は目を丸くする
「そうだね、こんなふうに自由に形を変えられるよ」上闇は自身の胸を小さくして、大きくしてみせた
「うわぁちょっと!それ以上大きくしなくていいですってばぁ!」
「くふっあはっあはははははっ」その光景を見てか優を皮切りに皆笑いだした
「なにがそんなに面白いんですかー!」
「いいね、みんな賑やかで楽しそうでこれが家族か…」静かな笑みを浮かべる上闇を皆見つめた、上闇がなにかを言おうとしているその言葉を受け止めるために…
「じゃあ…ヤろっか?」
「は?は?は????」慎重に、慎重に久が最初に口を開いた
「やるって、なにをやる気だ?」
「肉体強化」 …再びの沈黙が訪れる
「わかるよ僕は、来たばかりでまだ完全には信用されてない。僕はそれでもいいけど君達の邪魔をしてまでこのままで居たいとは思わない、だから僕は君達に強化を施す。それで信用が得られるかは分からないけど…」
「強化とは具体的にはなんだ?」
「核に触れて、僕の土属性を加える」
「土属性!?」
「そう、知らないのも無理はないよタブー破り同様隠されてきたものだからね」
「待て、核に触れるって信用していない人間にそんなことをさせると思うか?」
「そうだろうね、それにその過程でタブー破りもしないといけないオマケ付きさ…ただこれ以外で何かあげられるものはない、ごめんね」上闇は苦笑いを浮かべた
「土属性を得れば何が変わる?」
「久!」「堕悪…頼む、今は」
「…土属性はエネルギー効率に優れていてコスパがいいし攻撃補助に優れているけど…」上闇は久の目を見据え、最も聞きたいことを導き出した
「うん、強くなれるよ確実に」
「わかった、やろう」
「い、やるのか…久」
「ああ、強くなるためには必要なことだ…」久の視線は江美へと向けられる
「うっわ、私は遠慮しておこう…」
「ん?いいのか?強くなるチャンスだろうに」
「うーん、既にタブー破り済みだと気まずいこともあるもんよ〜」 ギグッ 上闇にそう言われた江美はそそくさとその場を去った
「よし!久がその気なら俺もやってみせる!」
そう意気込む堕悪を上闇は見つめた、そして堕悪の隣にいる光を見つめ、また堕悪を見つめた
「うーん君はだめだよ」「は?な、なぜ」
「生理的に無理」 「は?」
「だそうだ、諦めろ堕悪」
「あははーそれなら仕方ないですね堕悪さん」
「うんうん」 久、赤根、毒闇はわかったかのように頷いた
「俺!俺は大丈夫ですか?」 隼がすかさず問う
「ごめんね〜隼君、残念だけど単属性はやらない方がいいんだ」
「単属性?」
「属性が一色のことだ、そうは言ってもそれが普通だがな。下手に属性増やすと属性能力の出力が下がるんだ、つまり俺と久以外はシンプルに不可能ってことになるが…」毒闇が知ったような口を聞く
「なるほど、それで江美も俺も無理ってわけかややこしい言い方をしやがって…」
「言っておくが俺はやらないぞ」
「わかってるって、お2人で仲良くね〜じゃ、行こうか久君」「ああ…」
そうして久(雄)は死ぬほど後悔したのであった
次回予告!
伝永家の新たな家族として迎えられた上闇
彼?いや彼女?を歓迎するためユウトピアへと出向く一行
しかしそんな中、上闇はなにかを企んでいて!?
次回 第4章 4.〇〇しないと出られない部屋!?




