1.目覚め
前回のあらすじ
偽仁羅祭:黒月は、雄司の部下を名乗り奪った仁羅祭の能力で空を赤くし攻撃を仕掛ける
その高高度攻撃は誰も手が出せず、飛んで向かった隼も能力を奪われてしまった
降り注ぐ隼大旋風、堕悪達が時間を稼ぎ風属性を僅かに有する久と優がその力を共にし飛び立つ
勝てないと考えた黒月は自爆と見せかけ龍槍刃を奪う算段を立てるも奪うことはできない
黒月は心まで奪えない、その事実を突きつけられ絶望するも、自らの心が前の仁羅祭より優れていたことからこれまで通り仁羅祭を続けることとなり
久はついに久でありながら雄として優に接し、優もそれを肯定したのだった
〜政府国・某所〜
「うがあ、はああふがぁぁぁぁ」男は吠えた
自らの胸ぐらをつかみあげ見上げる男に向かって
「きひぃ…。」周囲には歪な形へと変えられた仲間が倒れている
男は考えた。何故?と
薄暗い政府国の一角、荒涼としたこの場の雰囲気に似つかわしくない、清廉で艶やかな女と思い仲間と共に飛びついたと思えば
その本質は、狂気でしかなかった
「ぐ、うわぁぁがぁ」男もまた、歪な形へと変えられその場に横たわった。眼前に狂気が映る、ただでさえ痛みを伴っている体に恐怖が重くのしかかる…だが、去りゆく狂気を見つめるうちに心の内では安堵が浮かぶ
(ふ、ふ、よかった…) 落ち着きを取り戻していくと同時に男の心には邪念が浮かぶ
(へっあいつ…トドメを刺さなかっただと?くふっこの政府国貧民街でそんな甘いやつは足をすくわれるって知らねーようだなぁ、幸いどこも折れてねえようだし再生さえしちまえばこっちのもんだぜ!)
だが…待てども待てども、男の体が本来あるべき姿へと戻ることはなかった
(ははぁははぁははぁははぁ…) 男に再び恐怖が訪れる、その歪さのせいか…発声器官が封じられ声を出すこともままならない
(は、は、は、は、は、は、は、はっぶうあああがああああああああああ) 絶望の叫びが恐怖で染まりきった心に虚しく響き渡った…
〜カセイ国守官管理所〜
「緊急で呼び出し?」
「そ、政府国から」毎度のごとく居間に伝永家の面々が集い久の言葉に耳を傾ける
「何があったか知らないけど、急ぎだから来るなら即断即決で。」
「はいはーい!俺は久さんについて行きます!ここんところ出番ないんで!」
「あ、なら私も…」
「一応、保護者はもう1人必要だろ?俺も行くぜ!久。」
隼、光、堕悪を確認し、残った者に目をやる…
「っ心配しなくても、俺と赤根で留守番は大丈夫だ!今日ここにいない優ちゃんと夜暗さんの分までしっかりやるからよ!」
「どうぞ、ご心配には及びません!」頼もしい2人と挨拶を交わし政府国へと向かった
〜政府国・国守官管理所〜
「来て、くれたか」「ようこそ、政府国へ」
かつての暴君、宇元将軍と参謀・佐元が出迎える
「挨拶はいい、さっさと本題に入ってくれ」
「へっ相変わらず慌ただしいやつだ…まあいい、話すとしよう佐元!」「はい」
佐元がファイルを取り出し、こちらに手渡した
「これは?」
「政府国連続殺人事件の概要だ」
息を飲んだ
「知っての通り、政府国は治安の悪い国として有名ですがこのようなケースは稀で、イレギュラーに対応するため国守官に要請がかかるのです。」
「…ん?国守官なら既に宇元がいるだろ?
なんでわざわざ俺を呼びつけたのかの理由になってないぞ」(カセイ存亡の危機でもなければ複数の国守官が共に行動することなんて…)
「佐元。」「はい、こちらが十件の被害者15人になります」佐元がスクリーンに写真を映し出すとそこには…
「はっ」「うっ」「キャーーー」そこには歪な形へと変えられた人間達の姿があった
「…」「お前!なんてもん見せやがるんだ!」堕悪が佐元に掴みかかる
「失礼、国守官に同行する者ならばこの程度の覚悟はできているものと思っておりまして」「てめえ!」
「うぅ…」「大丈夫だよ、光、大丈夫だから…」
そんな4人を他所に、久は目の前の光景に釘付けだった、その様子を見てか宇元が口を開く
「久気づいたか?いや、お前は言うまでもなくこう考えたはずだ…誰がやったのか?と」
「ああん?んなもん快楽主義の殺人鬼に決まってんだろ!クソッ」堕悪の拳が佐元の顔に迫るも…
「違う…違うんだよ堕悪、宇元!政府国の種族割合はどうだったか?」
「ああ、政府国は人族8割、カセイ族2割と人族の割合だけでいえば本国以上だ」
「あ?何が言いたいんだ?」
「堕悪つまり、カセイ族はただでさえ少なくしかもこの死体、消滅していないということは…」
「はい、厳密には死体ではなく核機能はそのままに肉体の形を変えられているということになります」
「堕悪、そんなことができるやつはカセイ族の中でも稀、いやいないかもしれない」
「久、それってまさか…」
「そうだ、やつはこの世に産まれてしまったイレギュラー中のイレギュラー、無族だ!」
「無族!????」
「我々は生命として誕生してから、驚異的な知能により目にも止まらぬ速度で科学を発展させてきました。しかしそれでも唯一未だに解明できていないもの"無属性"があります。
無属性は個体差が激しく、時に人知を超えた力を得ることがある。それこそが無族なのです」
「全く難儀なことだが、これに対抗するには人の力だけでは及ばない…だから久、とその仲間達。お前達を呼んだ、人外の強者の力に縋るため…どうか力を貸してくれ。この通りだ」宇元、そして佐元が深々と頭を下げた
「はっ人外の…強者か、いいぜ!やってやろうじゃねえか」
「俺達に頼んで正解だったな、すぐに片付けよう」
「任せてください!」(俺も久さん達に負けないように頑張らないと!)
「うぅ…」(もう、帰りたいな…)
「こちらが犯人の個人情報になります」
「えっ?」
「…なにを驚いているのですか?この程度、政府国1の男の弟として当然です」
「がはははぁいいこと言ってくれるじゃねえかあ」
「前はただの暴君だったというのに…」
「何言ってんだ、お前に散々教えて貰ったから今こうなっているというのに」
「本当に、久様には感謝しかありませんね」
「そうか、久はいいやつだな」
「あん、自分で自分をいいやつ?って何言ってんだ?がっはっはっはっは」大声で嘲笑する宇元、少し笑みの零れる佐元、少し寂しげな久を横目に堕悪は声を張る
「えーと犯人は上闇常繁、精神年齢不明、肉体年齢30代、住所不定無職って…全然わかんねーな」
「問題ありません、貧民街の一角にある廃墟に同じく不明の女と共に住んでいることがわかっています、近隣住民からの情報では時折子供の泣き声がすると…典型的な"タブー破り"ですよ」
「タブー破り?」
「おっと、これは失礼」佐元が口を噤んだ
「なんだ?タブー破りとは」
「なんでもありません、どうか聞かないでください」しかし聞くなと言われれば聞きたくなるのが人間である、さらに追求しようとすると
「その辺にしておいてくれ久、タブー破りってのはその意味を知ること自体もタブーになるんだ。どうか勘弁してくれ」
「ん?お前らはタブー破りの意味知ってんのかよ!」
「タブー破りを取り締まる立場としては意味を知っておく必要があるのです、カセイは知りませんがこれはどの国でも密かに決められているものなのです」
「わかった、この話は終わりでいい」不服そうな堕悪を宥める形でタブー破りの話は閉じられた
「では、行くとしましょうか…あぁ縋るとは言いましたが発見した際はくれぐれも交戦は避けてください。こちらにもこちらの立場がありますので、あと兄さんは別行動になります」
「わかったわかった、さっさと行こう」佐元の態度にも慣れてきたか、適当に返事をする堕悪
同調して皆も歩こうとすると
「ちょちょっと待って、ください…」光が怪訝な顔でもじもじと言葉を連ねた
「どうした光」
「ごめんなさい、さっきのでしんどくなってしまって…」光の変によそよそしい様子を察してか佐元が距離をとった
「具合が悪いのか?」「だ、大丈夫かよ光…」
「はい、だから帰ったり…」
「わかった。堕悪!張り切ってるところ悪いが、光と隼を連れて帰ってくれここは俺一人で充分だ」
「え?」「わかった!あとは任せた、こっちも任せてくれ」
「ま待ってください!俺も行きます久さん」
「え?隼、行くの?」
「ああごめん光、俺もそろそろ直接的に久さんの役に立ちたいんだ。一緒に行けないのは残念だけど俺、1人でもやってみせるから」
「あ、そそうなんだ…隼は来てくれないんだ」「ん?」今度は意図的にか、はたまた偶然か、またしても隼は後半を聞き取ることはできなかった
「じゃあ、行ってくる」
「うん、じゃあね」ピキッ
「いいのか?光は」
「まあ心配ですけど、堕悪さんもいますし俺は大丈夫です!」
「いや、そうじゃなく光は隼にいて欲し…」
(まあ1度くらい、なんとかなるか)
「話は以上ですね、では行きましょうか」
「ああ」「はい!」
〜政府国・貧民街〜
(しゃあ!1人で任せてもらえるなんてラッキー!この好機になんとしてでも犯人を見つけてやるぞー!)
「彼1人に任せてよかったのですか?どう見ても肉体、精神年齢共に彼は…」
「大丈夫だ、隼は強いからな…」
「そうですかでは我々も、行動を開始すると致しましょうか」
「しっかし、俺ってこの任務に最適だよな!風属性なら移動は速いし、狭い路地も気体化でちょちょいのちょい!いやあこれならすぐに犯人見つけられるかも…」調子に乗っていた隼は目の前の大男に気づきもしなかった…そして
「どけガキ!」ガーン
「ぐわっ…ぐぅぅいってえなんなんだよ全くぅ」振り返ると大男が立ち止まっている
「なんだ?喧嘩でも売ってくるつもりか?今は他のことで忙しいんだ!これ以上突っかかってくるつもりなら、容赦はしないぞ!」隼が攻撃の構えをとる
「うぐっいぎうんひゃひゃぎひゃひゃふぁだ」突如、大男が奇怪な声をあげ…そして
バキッゴキッガキィグゲゲゲガガガガゴッチーン
大男は歪な形へと変えられた
「おっと…」声の主、すなわち殺人鬼 上闇常繁と目が合った
ズザザザザザザザザ
そう思うや否や一目散にかけ出す殺人鬼
「あ、まっ待て!」逃げるなどと本来こちら側が逃げるのではないのかと自分の愚かさに悔しがる余裕もなく、ただただひたすらに追い続けることに力を注ぐ
角を曲がり、坂を下り、配管を抜ける
何故殺人鬼も気体化した自らと同じように狭い通路を通り抜けられるのか、そこに疑問を抱く暇はなかった
そして先程と同じような路地裏に出る
(あの角を曲がれば一直線だ、攻撃を当てて怯ませれば!) ドガッッッ
「ぐわっつーいってえ」自らも角を曲がろうとした瞬間、なにかに衝突し地面を転がった
「はっ」急いで立ち上がる隼
「だ、大丈夫君?」「あうっ」隼は目の前にあったなにか柔らかいものに顔を突っ込んだ
「あはっ元気ねぇ」ガバッ
「ま、待って」慌ててそれから顔を抜き当たりを見回す、当然ながら殺人鬼の姿はなく…目の前には銀髪の、美しい女性がいた
「あ、あの!俺もう行かないとなんで!」(しくじった)と言いたいところを抑えその場を後にしようとするも
「ちょっと待って!君、すっごい怪我してるじゃん全然大丈夫じゃなかったじゃん」
そう言われ、顔に手を当ててみれば手が体液でびちゃびちゃになった
「あれ?」(痛みの割になんでこんなに怪我してるんだ?)
「あああ、ごめん!私がさっきぶつかっちゃったからぁ…本当にごめん!あ、そうだ私の家この近くだから救急セットとかあるから寄っていって!」
「あっちょっちょっちょっと…!」
急展開に頭が追いつかず、手を引かれるがまま
「来てしまった…」
「ほら、ここ座ってて!すぐ取ってくるから」そう言って部屋の奥に消える女性
「…綺麗な部屋だな」青白い宝石が集まったような壁に、必要最低限の整った家具…
(ってなにを考えてるんだ俺は、こんなことしてる場合じゃないのに!)
しかし一方で、いつまでも流れ続ける体液を前に休むべきだとも考えた
(再生が追いついてないってことは傷が深いってことだよな、そうは見えないけど…まああの時は追うことしか考えてなかったし衝突の衝撃が大きいのも当然か。ん?だとするとぶつかったっていうあの人は…)
「あーもう!傷口触っちゃだめでしょ!」部屋にその声が鳴り響く
女性は手に持っていた液体を隼の顔面目掛けぶっかける
「ぐわーうぅ、すいませんところでえーとあなたは?」
「ん?私?私は上瑠璃常夜、上でも下でも好きな方で呼んでいいわよ」
「俺は隼って言います、ってあのそうじゃなくてぶつかったって言ってましたけど上瑠璃さんの方は大丈夫なんですか?」
「あーどうだろう?」そう言うとおもむろに上着を捲りあげ…
「えっちょっな、なんで下着てちょどわっ」
「ん?あらーまだだったの?えー?うふふ思った通りだわ」
「な、なんなんですかぁ?」
「ちょっとからかってみただけよ、気にしないで怪我はしてないから!」
「そう…ですか」隼が安堵したかのように俯くと
「落ち込んでる?」
「え?」図星だった
「なんで?わかるんですか?」
「うふふ、女の勘ってやつ?」
「…悔しいんです、本来こんなことで時間を取ってる場合じゃないのに…俺は役立たずでそれを挽回しないといけないのに…」
「うんうん、わかるそういうこと、あるわよねー」上瑠璃は席を立つと棚から何かを取り出した
「はい、そういう時はこれよ!」
「ん?」
「これは私のお母さんの故郷のお茶でね〜」
「なんだろうか」
「体に良くて栄養が取れて」
「視界が…霞む」
「精力が付いて興奮して」
〜もうすぐカセイ〜
「うぅぅ…」
「大丈夫か光?頑張れ、もうすぐカセイだ
悪いな…俺には手を握ってやることさえ憚られる」
「大丈夫ですよ、わざわざ敷居までありがとうございます」(なんなんだろ、この胸のモヤモヤ…さっきの気持ち悪さだけじゃない、急になにか…違う、大丈夫、私は…隼を信じてる、隼を愛して…?)
「んん…なんだ?部屋が」目を開けるとさっきまでの青白い光はなく、部屋は薄暗い壁に包まれていた
「なんなんだ!?」ふと、自らの両腕両足がなにかに捕らわれ動かせないことに気づく
そして…部屋の奥に潜んでいた影
「じょ、上瑠璃さん?これは一体…!?」そこにいたのは紛れもなく上瑠璃だった、しかしその眼光は。狂気そのものだった
次回予告!
囚われた隼、狂気!上瑠璃常夜は彼の体を蝕んでいく。彼女の手によって明かされるカセイ人の禁忌、タブー破りの真相をその目に焼き付けろ
次回 第4章 2.妖艶美徳




