4月10日
『おはよう』
「ん、もうか、まだ眠いのに」
『今日は朝食も向こうだから準備して』
まだ外は真っ暗、シャワーを浴び乾かして貰い、着物を着付けられ、教会へと向かった。
今日の髪は降ろしたまま、貰った着物だし少し安心。
そして、差し入れで朝食を済ませる。
悪意があろうと、悪戯であろうともびくともしないし、全くの無傷であると言うアピールの為らしい。
そして、その差し入れをした者が既に判明しているからこそ、出来る事でも有る。
ミカちゃんも本当に気苦労が堪えない、まさか関係者が悪意を持って仕込むとは。
めっちゃ詰め寄ってる。
《味が変だそうだが、味見はしたか?》
《あ、はい、した筈なんですが。申し訳ございません、今下げますので》
《食べてみろ》
《いえ、コレは特別に用意したも》
《食え》
普通の人はこの威圧感で失神しそうなモノだが、流石ラフィーちゃん推しの信徒。
失神しないで食べたが、違う事で意識が飛んでしまった。
そしてミカちゃんは尋問へ、コチラはようやっと治療を開始する事が出来た。
《神の怒りがあそこまで恐ろしいとは思いませんでした》
「先生も居ましたし、控え目だったと思いますよ」
《まだ上があると》
「はい」
お昼休憩の合間にルミ先生と雑談を交わしていると、目の端で何かが光った気がした。
【狙撃銃、後方800㍍先】
致命傷を避けつつ当たりたい。
【了解】
ソラちゃんに腕を引かれ背中に衝撃を受けると、熱さと痛みが入り混じった感覚が広がる。
『何で避けなかったの』
「だって、被害が無かったら罪に問えないでしょ。それに避けたらルミさんに当たってたかもだし」
《僕が居たとは言え、余り無茶はしないで欲しい》
「死なない程度に当たった筈でしたが」
《確かに即死は免れたが。全員肝を冷やしたんだよ》
「ご心配をおかけしましたが、犯人は」
《すまない》
「あら」
『捕まえたけど死なれた、ごめん』
「よし、生き返らす実験だ」
別室に寝かされた犯人の遺体を癒し、魔力を注ぎ、少しの恨みを持って心臓を叩く。
着物を汚された恨みを全力でぶつけていると、ようやく犯人が生き返った。
『手、大丈夫?』
「もう殺さんでくれよミカちゃん」
《あぁ、任せてくれ》
《驚いた、禁じ手を使えるなんて》
「罰ありますかね」
《この地では今の処は無いと聞いているが》
『無いと思う。それに理由が理由だし、大丈夫じゃないかな』
「日本だと有りますか」
《オモイカネにお伺いを立て、黄泉の女王が許した者のみ可能であって。罰は無いが、蘇生はさせられない筈なんだけど》
『もしかしてロキの系譜だからかな?』
「ヘルか、仲良くしてくれたけど」
『居ない筈だから大丈夫だろうけど、でもちょっと心配だよね』
《あぁ、その気配を辿りロキが来るかも知れない。今日は中止しよう》
「今度は髪型と着物変えて続けましょう、それこそココで引いたら負けを認める事になる」
『良いの?また狙われるかもよ?』
「やる、コレは意地と根気の勝負」
《すまない、負担を増やしてしまう結果になった》
「いえ、意地張るのは得意。頑張りましょう」
ソラちゃん、狙われたらコレからもこの方法で。
ただし、気を失うのは控えめで。
【了解】
そうしておばさんに着物の事を謝罪し、軽くシャワーへ。
白と黒の訪問着に着替えさせて貰ってから、髪を結い上げ。
教会へと戻った。
ルミ先生は何も信じられないと言った顔を一瞬しながらも、別人であるとの説明を素直に受け入れ。
再び神々への畏怖を募らせてしまった。
そうして夜となり、今日の治療は終わった。
銃撃があった為に、一時的に訪問が減ったものの、死傷者が全く居ない事から来訪者は絶える事無く、この村での治療は完遂する事が出来た。
「先生、先程の者は忍術で事なきを得ましたので、ご安心下さい」
《本当に私、見たんですよ、血が》
「本当です、明日には現場復帰されますから。だからどうか神様を余り恐れないで下さい、ああ見えても無暗に恐れられると少し寂しく思うかと」
《撃たれるのが、恐く無いのですか》
「ココで引いては屈したと認める事になりますから、志願させて頂きました」
《そうですか、でも、本当に彼女は》
「戻って参りますとも、なんせとても軽症で、かすり傷ですから」
《例え嘘でも、信じますから、どうかお元気で》
「えぇ、伝えておきます」
大使館へ戻り、先ずはシャワー。
部屋に戻ると、まるで何事も無かったかの様に綺麗な着物が掛けられていた。
凄い。
そしておばちゃんは心配だったのか、ずっと待っていてくれたらしい。
「傷は、本当に大丈夫なの?」
「神様達が居ましたし、運良く貫通したので、ほら」
「まぁ、赤くなって。スクナヒコナ様にちゃんと治して貰わないと」
「コレも証拠なので、敢えて残してあるんです、名誉の勲章みたいな感じ」
「でもねぇ、体は傷付けるもんじゃ無くて大事にするものなんだから。じゃあ、事が済んだら消して貰う様に私からもお願いしとくわね、うん、そうしましょ」
「ありがとうございます、すみませんでした」
「良いのよ、貴女が無事なら」
おばちゃんにひとしきりハグと言うか、抱き締められ。
解放された頃、夜食が到着した。
「負傷されたと聞きましたが」
「コレ、かすり傷です」
「あ、はい、あの、痛みは」
「皆無ですんでお気になさらず、ご心配お掛けしました」
「あの、そこまで無理なさらなくとも」
「してないですけど、今は無理のし時なんです、無理をします。それともし本当に無理になったら、ちゃんと逃げ出しますから安心して下さい」
「僕に何か出来ませんでしょうか」
「普通にして下さい、昨日と同じ様に、普通をお願いします」
「はい」
そして無難な雑談を終え、1人の食卓に没頭する。
今日は白米。
疲れた時には納豆丼が1番だと話したので、納豆とネギトロ、そしてわかめの味噌汁が用意された。
そしてスクナ印の仙薬も。
先ずは仙薬を一気飲みしてから、味噌汁でリセットし、納豆丼を食べる。
凄く安心する味。
ソラちゃん、どうやったの。
【今回は皮膚に食い込んで直ぐにストレージに収納し、的確な落下位置に弾丸を排出しました】
天才、ありがとう。
一息つき、のんびりしていると聞き慣れぬノック音が響いた。
『入って良い?大丈夫?』
「大丈夫、貫通したフリだから」
『ごめんね、ありがとう、先生のフォローまでしてくれて』
「いや、先生が一般人なのを忘れてショックを与えたのは自分だし」
『もうやめてね、失神したんだし』
「熱くて痛かったから、防御反応じゃないかな」
『痛覚切れば良かったのに』
「あー、そこまで頭早く回らんよ。気付いたのは撃たれる直前だったし」
『避けるとか知らせるとか』
「君が最初に平気だと知らしめるって言ったんだぞ」
『時と場合による』
「えー、怒る?」
『違うよ、命を大事にして欲しいだけ』
「はい」
『容量測った?』
「まだ、これから」
マーリンに見守られながらの計測。
変わらずの中域。
『逆にビックリ、低値にはなってないんだね』
「外傷の方が使うかも、流し込むのはそうでも無い」
『やっぱりあの犯人、服毒?』
「だと思う、内臓がやられてたから」
『やっぱり止めない?他の方法にしようよ』
「えー、だって邪魔されるのムカつかないの?」
『別に、問題が解決する方が大事だし』
「それも邪魔されたらムカつくじゃん、向こうに良い様に動かされるのは癪に障る」
『直情的』
「おう、馬鹿だから実力行使で捻じ伏せたい派。強いは正義」
『無茶しないなら続ける』
「今回のは無茶の範囲に入ってないが」
『入る』
「えー、バカだからなぁ、ちょっと理解に時間かかるなぁ」
『弾丸どうやって操作したの?』
「秘密」
『精霊を信頼してるんだね』
「君も信頼してるよ、だからマティアスには言うなよ」
『えー、マティアスに言おうかなぁ』
「君も困る事になるが宜しいか」
『死なれるよりマシ』
「死なんよ、死にかけてもいないんだし」
『死にかけたじゃない』
「そこからか、死んだフリだっつの」
『それもダメ、ケガでもギリギリなのに』
「過保護、甘やかしだ」
『仕方無いでしょ、マティアスに頼まれたし、ティターニアにも頼まれたんだから。それに勿論、私も無傷で帰したいと思ってる』
「本当に根本が違うのな、保護者感が凄いよね。向こうは好きにおしって感じで、戦闘とか魔法とか覚えてたけど、コッチは本当に甘やかし、過保護」
『だって、人間を見守ったり助けたりが神様でしょ?』
「向こうもそうだよ、だけど、その神様から頼まれた」
『具体的には』
「凄いの来るけど神の介入に限度あるから、すまんけど頼むって話し」
『だけ?』
「どの時点で起こるかは知らないけど、何かが起きる予定だった。だからココでも下手したらデカい事が起こるんじゃないかと心配してる、災害か戦争か、それ以外の何か。だからかすり傷で騒がれても困るって話し」
『ずっとその覚悟してたの?だから先を、未来を心配してたの?』
「おう、役目ってなんだろってな。だから別に平気、まだやれる」
『皆には?』
「気配が無いのに不安を煽るのは悪手かと」
『今は』
「今も何も気配無し、向こうではあったけどコッチでは、最初だけだった」
『少し安心した』
「じゃあ過保護やめれ」
『そこまでは安心して無い』
「じゃあどうしたら良い」
『周りが驚く事禁止、少なくともルミ先生基準。一緒に回ってるんだから』
「ぐぅ、はい、努力しますぅ」
『全力で努力して』
「善処します」
『それと、マティアスの事、ルミ先生から伝わるかもよ?』
「あ、あー」
『うん、一緒に怒られよう』
「よろしく」
『うん、じゃあ寝ようか』
「そこは一緒に寝るのね」
『マーリン』《ミカちゃん》《ルミ先生》《スクナさん》「大使館員のおばちゃん」「日本大使館員」