4月11日
『起きて、急いで、寝間着で良いから家に戻るよ』
「は、え、なんで」
『運送屋の正式書類郵送されたって情報入ったの』
「どこから」
『例のお兄さん、協力者になった』
「あー、お嬢さんにほの字だったものね」
『そうそう、だからほら、行くよ』
「おう、待って」
クマを持ちマーリンの空間移動で家に戻ると、珈琲を淹れるマティアスと鉢合わせた。
つまりレーヴィはまだ帰って来て無いと。
《おはよう》
『おはよう、配達人は?』
《え、今日はまだ誰も来て無いけど》
『良かった』
「運送屋の書類が来るかもって」
《あ、それで。カフェオレ飲む?》
「飲む」
『じゃあ私は向こうに連絡してくるから、受け取るまで待機してて』
「あい」
《はい、どうぞ》
「ありがとう、狙撃されました」
《ん?狙撃?》
「撃たれました、ワザと、ほれ」
《何で、どうしてそんな》
「犯人捕まえて検挙するには撃たれた方が良いかと、因みに怪我は表面だけで中は無傷です、犯人はミカちゃんが尋問してる」
《痛みは?》
「もう無い」
《跡は治さないの?》
「証拠だから」
《それでも続けるの?》
「うん、意地の張り合い。引いたら負ける勝負だと思ってる」
《それを聞いた私が、もう止めて欲しいって言うと思わない?》
「思ったけど、事実はかすり傷だから我慢して欲しい。後、マーリンから既に説教されてるから、説教は免除して欲しい」
《学校の宿題じゃ無いんだから》
「お願い、一般人を驚かせないって約束もしたし、免除して」
《無茶じゃ無くて、驚かせないなのね》
「今回のは無茶ですら無いと言ったら、そうなった」
《普通は無茶だよ》
「普通じゃ無いもの」
《普通じゃ無くても、傍からみれば無茶だよ》
「傍からだからでしょ」
《怒ってる?》
「いや、そんなつもりは無いんだけど。犯人には怒ってるよ、着物汚したから」
《汚れって》
家のドアがノックされた。
玄関の脇の窓から外を見ると、見慣れぬ制服を着た人物が立っていた。
「出て良い?」
《うん、国の配達員だよ》
「どうも」
《国の配達物ですので、身分証をお願いします》
「あ、はい」
《失礼致します…確認できましたのでサインを》
「はい、どうぞ」
《はい、では失礼致します》
「ありがとうございました。凄いな国家公務員は、ビシッとしてて」
《ほら、万が一不合格だったら恐いから早く開けて》
「はいはい」
玄関先に置いてあるペーパーナイフで封を開け中身を確認、デカい封筒からデカい紙が出て来た。
上等で丈夫な紙には運送管理部門の偉い人の名前と、登録番号。
そしてラウラの名前。
《良かったね、おめでとう》
「ありがとう、狙撃が無ければ素直に喜べたのにな、複雑」
《本当に、心配で運送屋の仕事させたくないもの》
「ラウラが狙われたんじゃ無いだろうし、大丈夫でしょ」
《こう言う時に心配性が出て欲しいなぁ》
「それは無理だ、あ、保険か」
《登録はヘルシンキだね、今日から混むんだろうなぁ》
「トール様の力で何とかならんかね」
《マーリンにでも相談してみたら?》
「何か得体の知れない計略に組み込まれかねん」
《狙撃もまさか》
「それはどうだろ、聞いてない」
《嘘でしょ》
「知らん、もうどうでも良い」
《ほら、機嫌悪そう》
「コレが素、眠い」
《そっか、ごめん。夜遅かったの?》
「いや、6時間は寝れてるが、足りない」
《寝る子だものね、そんなに忙しい?》
「そこそこ、もう戻るね」
《うん、いってらっしゃい》
大使館に戻り、マーリンの部屋を訪ねた。
そこではトールにレーヴィ、スクナさんにミカちゃんと勢揃い。
「進歩どうですか」
『それよりそっち、名前合ってるか確認した?』
「した、けどはい、レーヴィ」
『はい、確かに』
『なら、先に登録に行かせるか』
『だね、爺やに』
「それも爺やか」
『大勢が集まる場所にラウラは連れて行けないもの』
「なに、狙われたのはラウラか」
『念の為』
「話せないか」
《ラウラが悪い御使いだとアイツの派閥が思い込んでいるらしい、まして黒髪の日本人の容姿としか伝わって居ないからこその、今回の狙撃》
『それが真相。だから増員した、大使には黒い妖精の治療師になって貰う』
「危ないし、少数精鋭はどうなった」
『何、軍を動かすワケでは無いんだ、コレでも少数精鋭な方だぞ』
「トールさんが言うなら、まぁ」
『大使には治療じゃ無くて休暇の行動をお願いしてる、勿論レーヴィとトールも付くよ』
「なら爺やは」
『私と天使さん』
「じゃあ花子にはスクナさんだけ?スクナさんを守れる自信が無いのだけれど」
『謙虚は良いが、お前なら大丈夫だろう』
『ね』
《そうだな》
《信じてるよ、桜木花子》
「はい、がんばります」
朝食と仙薬もそこそこに、狙撃されたお気に入りの着物を着て、教会へと向かった。
無謀な事をしない為の策略なのか、手薄を狙わせる為なのか、純粋に分散を狙ってかは分らん。
《君と同じく、こう見えても僕は強いから大丈夫、そう気を張らないで》
「ピリピリもしますよ、手薄感があるんですから」
《君の親衛隊が付いてるんだ、ほら、少しは安心したろ?》
レーヴィの隊のシモン達だ。
自分以上にピリピリしている、自分より手練れだものな、確かに安心だ。
「ですね」
《うん、ほら、来たよ》
ルミ先生に手を振ると、少し目を潤ませた後に言葉を詰まらせながら挨拶をしてくれた。
メンバーが少ない事もあって、かなり緊張が解れている様子。
《御無事でしたか》
「はい、ご心配お掛けしました。もう先日の様な事は無いとは思いますが、余り心配なさらないで下さいね。なんせスクナヒコナ様が居りますから」
『そうだけれど、余り驚かせる事はイケナイよ』
「はい、承知しております」
『うん』
《良かった、余り無理なさらないで下さいね》
「はい、勿論です」
適当に嘘をぶっこきながら、治療を開始。
差し入れは変わらず、ただ軍人が3倍に増えたのにも関わらず。
和気藹々とした雰囲気でスムーズに治療が進む、何でだろうか。
《どうしました?》
「やけにスムーズだと思いまして」
《あぁ、この街には基地がありますから。都市部程、軍人さんが多いと安心感が増すんです》
「そうでしたか」
差し入れで昼食を賄い、治療を再開。
そして夜、何事も無く今日の治療が終わり、ミカちゃんの迎えで大使館へと戻った。
軽食のお稲荷さんをつまんでから、着物を脱いで掛ける。
『お疲れ様』
「スムーズ過ぎ」
『コッチは大変だったよ、ラウラが狙われて』
「爺やは無事?」
『うん、ずっとつけ狙われて、苛立つ天使さんを抑えたり、君らしく振舞う爺やに振り回されたり。あ、コレどうぞ、爺やがラウラとして買った品物ね』
「おぉ、爺やのチョイス素晴らしいな」
『人の好みを覚えるのは誰にも負けないからね、爺やは』
「良い才能なのに前半戦で無駄使いを」
『本当に』
「大使は?」
『平気だったみたい、後で大使からもプレゼントが来ると思う』
「お金は」
『お誕生日プレゼントに?』
「ぐぬぬ」
『名目が無いと受け取らない君が悪いんだよ』
「くそ、どうしてくれよう」
『快く受け取るだけで大丈夫』
「だな、御使い貯金を作らないと」
『違うよ、桜木花子にだよ』
「勘違いするからやめれ、御使いで無かったらただの石ころなんだから」
『例え君がココで生まれてても、有能だったと思うよ』
「素は馬鹿で運動音痴なのに」
『それは、向こうで病弱だから勉強も運動も遅れただけでしょう、それも膜が原因なんだし。でもその君の素の素養が、今の君が評価されるんだよ。もし御使いじゃなくてココで生まれてたなら、もっと重用されて大変だったかもよ?』
「楽天家」
『元々の素の土台が魔力容量を多く貯められるんだもの、トールなんかは自分と同じ雷の素質がある筈だって言い張ってるし、スクナヒコナ神も手元に置きたがってる。それは御使いだからじゃ無くて、素の能力を評価しての事なんだから』
「自分の親から出て来ないと自分とは違う生き物なワケで、つまりソレは自分じゃ無い」
『本当に理屈抜きで考えるの下手だよねぇ、仮に同じ親から生まれても行政も環境も違うんだもの、当然違う人格にはなったかも知れないよ。けど素の、魂とか素養の話だよ。ココで君がどんな引き籠りだったとしても、能力に誰かが目を向けて引っ張り出すと思う』
「鍛錬のお陰で容量増えてるんじゃ?」
『それもあるけど、それも素養。似た膜を持ってても、君みたいに食べれる人間は多く無いんだよ』
「ほぉ、すごいね」
『実感無さそう』
「評価なんてほぼされた事無いし、有っても偶々だし。向こうでは本当に普通以下だったんだもの」
『魔法が無い世界の場合でしょ』
「でもだ、なんか素直に呑み込めない」
『はいはい、そうだね、お風呂の準備出来たよ』
「ありがとう、ちょっくら浴びてくる」
マーリンは優しいから、戦意高揚か何かの為に言ってくれてるんだと思う。
別に良いのに、今の待遇で何も不満は無いんだし。
『ちょっと良い?』
「だめ」
『いやね、どうせ社交辞令か何かとして受け取ってるんじゃ無いかなと思って』
「許可を求めた意味皆無。質問の回答拒否」
『ほら、やっぱり思い違いしてる』
「そうだとしても、別に問題無いと思うが」
『まぁ、焦らないで待つけど。個人として評価されてるって事は頭に入れといてね』
「はいはい、しっし、あっちいけ」
今夜はリゾットの様な雑炊。
キノコのクラムチャウダー雑炊と言った所だろうか、最高に美味い。
『歯磨きは?』
「した、綺麗だろほら」
『あ、虫歯』
「嘘つけ」
今夜もマーリンを背に就寝。
『マーリン』《マティアス》『レーヴィ』『トール』《ミカちゃん》《スクナさん》《ルミ先生》




