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3月30日

ドリームランドから。




 目の前にはマーリン、シバッカル。

 そしてレーヴィ。


「今度はレーヴィか」

『お邪魔してます』

『君がレーヴィを心配してるから、連れて来ちゃった』

《良いお子だのぅ》


 すっかり誰も彼も受け入れているシバッカルの宮殿、本人も気にしていない。

 スパ上がりなのか、全員がバスローブでゆったりしている。


「なんて事を」

《我は構わんぞ、人が来てくれるのは楽しい》

『伝令も伝えないとだしね、助かるよ』


「サブハブかよ」

『まぁまぁ、リフレッシュも兼ねてるんだよ。どうだい?レーヴィ』

『楽しいですね、のぼせないのがまた良いです』


「湯舟入る文化が無くても楽しいものか」

『はい、でも欲を言うならプールが欲しいですね』

《広いのが良いのぅ》


「お、やっちゃうか?」

《頼むマーリン》

『まぁ、大丈夫でしょう』


 司令官から許可も得られたので、流れるプール2本に波の出るプール。

 水槽の様に横から眺められるプール、競泳用のレーンのあるプール、飛び込み台のプール、そして3本程のスライダーを設置した。


「どや」

《愛してるぅ》

『凄い、全部シオンが?』

『そう、少し行ってみよう』


 各々が好きな水着に着替え、スライダーを体験し、そのまま飛び込み台へ。

 ビビりもせず飛び込んで行く、作った本人ですら怖いのに。


「良く行けたなー」

『作っといて怖いなんて、ヒレでも付けたら?』


「そうしとく」


 魚のヒレを付けると、不思議と恐怖心が薄れた。

 そのまま飛び込むと、着水までもがスローモーションで流れた。


 水は適温。

 透明度は抜群。


『すっかり上手になりましたね』

「練習してるから」

『もう泳げる様になったんだ』

《次はアッチじゃー》


 次は穏やかな流れるプール、レーヴィとシバッカルは隣の激流プールで楽しそうにしている。

 そしてマーリンは浮き輪に乗っかりながら日傘を差し、ジュースを飲んでいる。


「話しは何」

『え、勉強はどうかなって』


「分かってるでしょうに」

『欲を言うと、もう1割は取って欲しいかな』


「歴史に疎くてね」

『調べた限りだと、他の国の問題も構成は変わらないよ。どうにか覚えた方が良い』


「はぁ、歴史の本か、マティアスに借りないと。1、2日で何とかなるかね」

『ふふ、頑張って』


「頑張るから、老人の膝を治しちゃダメか?」


『それなら、子供を治して欲しいな。先ずは小児病棟を空にしようよ』

「そこまでは、良いの?」


『医学の発展の阻害?その程度で本当に阻害されるの?』


「奇跡的に生き抜けた本人が、その兄弟が、新薬や検査の開発に行くかも知れない。亡くならないと、開発しようと思わないかも知れない」


『再発する病気なら、亡くならなくても開発するんじゃ無い?』

「再発しなければ開発しないかも知れない。吐き気止めも、鎮痛剤も、良い薬がコレから先で出るかも知れない、原因が突き止められるかも知れない。下手に手を出して、本来有るべき事象が消えるかも知れない」


『なら、それは膝を治すのも影響するんじゃない?薬って、思わぬ作用が出るじゃない』

「だから相談してる、些細な事でも大きく動く事もあるだろうから」


『それでも、本人や家族は治して欲しいだろうね』

「治療薬の開発が遅れる事になっても、今の苦しみから逃れられるなら何だってするだろうね」


『なら、それを条件にしたら?自分が関わった薬や医療へ貢献出来る人だけ治す』

「余り選別したく無いんだけど」


『妥協点だと思うよ、将来医者や科学者、研究者になりたい子、兄弟がそう思ってる子でも良い、その子と約束して、今だけ治す。お年寄りもだよ、献体や治験に参加する人を治す。選ばせないで誰も救われないより良いと思うんだけど』


「その手が使えるのって1回だけだよな、広まったら嘘吐きが出るかもだし」


『誰かに言ったら終わりだって言うしか無いよね、そもそも言い触らされては困るんだし』

「子供に出来るだろうか」


『そこは親だよ、幼い子には薬が良く効いたって事にして、親に何とかして貰うしか無い』

「親や兄弟に託すのか」


『勿論、物心が付いてるんであれば本人にも託す。君は選択肢を提示するだけ、そして医療の進歩を止めるかどうかは、この現地の人間が選べる。良いと思うんだけどなぁ』


「屁理屈っぽいな、少し考えたい」






 目を覚まし、窓の外を見る。

 レーヴィの車は既に出て行った様子。


 ともかく、容量チェック。

 中域。

 少し不安なので、エリクサーを飲みながら下に降りると、マティアスが珈琲を淹れていた。


《おはよう、これから出勤なんだけど何か要る?》

「歴史の本」


《あ、それならあるよ》

「もっと早く言っとけば良かった」


《そんなにギリギリなの?》

「いや、余裕が欲しいだけ」


《そう?他には?》


「無い、大丈夫。行ってらっしゃい」

《行ってきます》


 盛り合わせで朝食を済ませ、蒸留器と鍋、氷をセット。


 そして歴史の勉強開始。


 最初の世界の歴史は知らないが、ココには石器時代からフィン人とサミー人が居たんだと。

 宗教で周りと揉めて、バラバラだった民族が結束、ある種の一揆が起きた。

 農民が内乱を起こす、一揆魂はココにも有るらしい。


 そして次は両隣と揉めて、時に併合されたり独立したり、国境線が良く動いていた。

 総合的に見て、歴史的に緩衝地帯的国の働きをし続けていたらしく、これからもその立場で行くらしい。


 近代に入ると、学校での銃乱射事件未遂が世界で初めて起きた事。

 ITで途中までは発展したが、環境も有って国内のネット普及率は低い。


 因みに、イギリスや日本はかなり普及しているらしかった。


 休憩にストレッチや鍋の見回りをして、本の続き。

 年表を暗唱。


 鍋も蒸留も終えたので入浴、そしてストレッチ。


 気分を切り替えても、どうも年代が、数字が頭に入ってこない。


 エリクサーからの再びストレッチ、そして休憩に絵本。




【飛び梅】


 とても優しい城主の庭に、1本の立派な梅の木が生えていました。

 それは異国の木で、寒い国でも育つからと譲られた木でした。


 その木は暖かな春には可憐な花を咲かせ、夏には大きな黄色い実を付けます。

 花も実もとても良い匂いで、城主は大切にしていました。


 所がある日、有能な城主は妬まれた事が原因で、汚名を着せられ僻地へ引っ越しを余儀無くされます。

 ですが次の家はとても遠く、急ぎでもあったので梅の木を一緒に連れて行く事が出来ません。


「すまない、どうか元気で居ておくれ」


 城主は泣きながら梅の木に詫びると、遠くへ行ってしまいました。


 それからと言うもの、何年経っても梅の木は咲かずのまま。

 いくら新しい城主が面倒を見ても咲かず、かと言って樹医が見ても、病気では無いと言います。


 そしてとうとう元の城主が亡くなった事を知った梅の木は、小枝を折り、風に吹かれます。

 亡き城主の傍へ。


 そして城主の墓の傍へ植わると、満開の花を咲き誇らせ続けましたとさ。


 おしまい。




「ユスラウメ、琴線に触れたか」

《堪らぬな、気持ちが痛い程分かる》


 手の甲でポロポロと泣くユスラウメ、梅杏ズも着物で顔を隠しているものの、泣いている様子。

 スズランも少し神妙な面持ちながらも、何処か解せぬらしい。


《御使いは、どこで関わっているのでしょうか》

「それな。推測としては、御使いシリーズじゃ無いと売れないからか、梅の贈り主が御使いか、妥当そうなのは城主が御使い、意表を突くのは梅が御使い」


《梅の木を御使いとしますか》

《うぅ、そうなるとお主と同様に東洋の者かも知れぬな、ズズッ》

「それでも、結局は出版社の意図が分からん、撒き餌にしか思えんのだよ。だが、撒き餌するだけの何かを持ってるのかも知れんけど、ただの知りたがりの可能性もあるし、警戒しないとだよね」


《接触はせんのか?》

「いずれね、情報があまりに足らんのだ」


 接触したい気持ちは山々なのだが、表立った情報以外に入手出来ないのがネック。

 内情が少しは分れば接触するか検討出来るのに。


《僕が見て来ましょうか?》

「凄い危ない事を提案してるのは分ってる?」


《魔法がありますし》

「神にも隠せるの?」


《完全には無理ですけど、捕まる事は先ず無いですし》

「完全じゃ無いと困る」

《人には気付かれぬのだし、仮にバレたとすれば神である事が分るのだから、却って良いのでは無いのか?》


「それこそロキなら、見付けた瞬間に捻り潰すかもだし」

《ロキとて魔法の掛かった妖精を容易には見付けられぬ筈だが》

《1回だけ、気配も伝わらぬ様に行きますから。お願いします》


「待て待て、相談させてくれ」




 ロウヒへ繋ぐと、昼食を温めていた。

 今日はロールキャベツらしい、良いな。


『おう、昨夜は試したか?』

「レーヴィが帰って来たから試して無い」


『あぁ、そうだったか。元気にしておったか』

「うん、君はフラれた」


『何でそうなる?』

「金髪苦手だって言うから、身近に赤毛居ますよねって言ったら、年下の神様はちょっとって」


『まぁ、普通はそうなるわな。神として接してしまったからな、うぅ』

「どんまい」


『まぁ冗談は置いといて、何か有ったのか?』

「妖精が様子見に行きたいって、例の出版社の所に」


『ほう、良いでは無いか』

「いやいや、気配は分っちゃうんじゃ無いの」


『では、どう情報収集する、探偵でも雇うか?どうせ金で動く程度の人間では、大した情報も得られぬだろう』

「ぐぬ」


『それに、神が関わってるとも限らんのだ。慎重にし過ぎては得られぬモノも得られんだろう』

「死なれたら困る」


『株が生きている限り、妖精は死なんよ』

《はい、もし死んでしまったら、また甦らせて下さいね》


「使い捨ては、死ぬのは痛いでしょうが」


《覚えて無いんですよね、何でどうして死んだかも覚えて無いんです。多分ですけど、妖精女王の加護なんでしょうね》


「呪いでもあるだろうに、何で死んだか覚えて無いと、また同じ事をしてしまうでしょうが」

《だからこそなんです、行かせて下さい。失敗しても、僕なら大丈夫ですから》


『準備を万端にし、ギリギリまで付き添えば良い。例え失敗しても、助けに行く事を誰も止めん。その時の策も、マーリンと共に考えよう』


「そこまでする価値が有るか分らん」

『お前が気にしている以上、調べる価値は有る』


「策は練って欲しいけど、実行はまだ検討させて欲しい」


『試験もあるしな。よし、昼飯にしよう』


 盛り合わせと、ロールキャベツを半分こしながら食べる。


 あんな話しの後でも平然とお菓子を食べ、談笑しているスズランの妖精、全く気が知れない。

 不死は皆がこうなのか。


 こうなると、ロキは覚えてるから辛くて自暴自棄なのか。

 もう死ぬ以外は考えられないのか。


「ロキを殺す方法は?」


『神話同様、相打ちである事が条件だと、トールは考えている』


「死ぬ気なの」

『あぁ、それが自分の役割だと思っている。そしてワシには神の運命は読めぬ』


「他に無いんだろうか」

『どれだけの事を対価に、その運命を変えられると思う、人が栄えた現代で何百万人が犠牲になると思う。それをトールは望まない、切り開く者が望まねば道は無い』


「情報を与えた事で、死地へ送ってしまったんじゃんか」

『小さな糸くずを片手に、閉じこもって居た家から出ただけだ。後はトールの勘だけが頼り、彼は彼が選んだ道を進んでいるだけだよ』


 《僕も、そうしたいです》

「はいはい、追々ね」

『スズランの子や、お前も少しは気持ちを汲んでやると良い、一時的であれ失うのは辛いのだから』


「そうだぞ、命を粗末にする奴は嫌い」

『だそうだ、嫌われては困るだろう?』

《嫌です、困ります》

《うむ、大事にせねばいかんよ》


「命、大事に」

《はい》


 デザートにカボチャマフィンを食べ、昼の会合を終えた。

 そして少しだけお昼寝。






 今日は寝過ぎても困るので、妖精達にオヤツの時間に起こして貰った。

 そしてストレッチをしつつ、再びエリクサー作りを再開。


 エリクサーを飲みつつ、歴史の本を朗読して貰う。






《シオン?》

「あれ、今何時」


《もう18時だけど、夕飯どうする?》

「なー、また寝ちゃった。いつ帰って来たの?」


《今、電気付けても反応無いから声掛けたんだけど》

「もうそんな、もー、すまんな、飯はどうする?」


《盛り合わせをお願い出来る?》

「おう」


 今日は缶のスープと共に盛り合わせを頂く、夜食はパンケーキを焼いてくれるらしい。


《筋肉痛はどう?》

「昼にはあったんだけど…あー、ほぼ無いわ、これのせいか」


《筋肉モリモリも近いね》

「モリモリは嫌だな」


《ラウラもモリモリになるのかな》

「なんで?なるんじゃ無いの?」


《ある意味別個体になってるのかと思ったんだけど、そこは同じなのかな?ラウラの体に変化は無いの?》


「ちゃんとはして無い」

《した方が良くない?当日に問題有ったら困るんだし》


「今日は溢れさせる実験再開しようと思うのだが」

《眼鏡貸してくれる?》


「おう」


 夕飯の片付けとパンケーキ作りを終え、妖精達を中庭へ出す。

 シオンのまま、エリクサーを1口づつ飲む事から実験が始まった。


 5口目のエリクサー摂取で魔素が拡散。


《良い匂い、体の中心からっぽいね》

「嗅ぐな」


《つい嗅いじゃう》

「体調は、どんな感じよ」


《少しフワフワする》


「今回は長期曝露の実験だから、面倒そうになったら中止な」

《うん》


 普通に本を読もうとしても、集中出来なさそう。

 そして暫くすると眠気が来たらしい。


「眠そう」

《お腹いっぱいじゃ無いのに、満腹で眠い感じ》


 暫く微睡むが、眠るまでには至らない。


「足すか、嫌な感じは無い?」

《うん、大丈夫》


 一応マティアスの全身を確認してから、再びエリクサーを飲む。


 放出されるのも見ていて楽しいらしい。


「二日酔いとかにならんかね」

《そしたら治して。でも、お酒で酔ってる感じとも違うんだよね、気持ち良く眠れる前みたいな、そうやって起きた後みたいな感じ》


「微睡みか、ワシは何も無いのよな」

《蛇って自分の毒は効かないって言うし、シオンも自分のフェロモンは効かないんじゃ無い?》


「毒からフェロモンに変わってるワケだが、ワザと?」

《フェロモンに匂いを付けて、可視化させたらこうなのかなって》


「向こうでもフェロモンって言われたな、ラウラの方だけど」

《そこは同じなんだろうね》


「それでも出方が違うから、別個体って思う一因?」

《うん、だって考えてもみてよ、鷹から女性へ変化するとして、同じ筋肉量なら女性ムキムキだよ?》


「発想はヤベェけど、思考は確かに正常だな」

《そう、それ、麻酔薬や睡眠薬みたい、それなのに過集中しちゃう感じ。お酒の逆だ》


「良いなぁ」

《ヤバいよコレ、危ないお薬ってこんな感じなのかな》


「危ないお薬って、最初の所では兵士のトラウマ治療に使うか論争中だったな」

《あー、コッチでも同じだね。トラウマの性質とか本人の性格にもよるから、まだ認可されてないけど。コレなら良いのかも、平穏な時間を何の薬も無しで過ごせるんだから》


「試したいけど」

《医療の進歩の妨げになる可能性ね》


「それな、選ばせれば良いって言われたけど。妨げにならない事を条件に、治すのはどうかって」

《医者を目指す病気の子だけ治す、とかって事?》


「そう、そんな感じ」


《良いと思うんだけど、何で悩むの?》

「その子が死んで初めて薬の開発に着手するかも知れない医者が居たら、開発されないかもなんだよ」


《その逆で、その治して貰った子が優秀だったり、開発の糸口を掴めるなら同じじゃ無い?救えるし、開発の妨げにもならないかも知れないのに?》


「良い子ならね、悪い子だったら?いずれ大虐殺を引き起こす子だったら?ナチュラルサイコパスなら?親がそれを隠してたら?」


《それは、社会の責任じゃない?サイコパスの人の論文があるんだ、自分がそうと知らずに自分を研究してて気付いて。周りが良い環境で悪い気を起こさないで済んだから、サイコパスだと誰も気が付かなかった、良い人に恵まれたからこそ大切にしたいって、マトモなサイコパスも居るって、示したいって》


「居るのか、研究者でサイコパスなのに気付かなかったって」

《見ようとしないと見えないって良い例でもあるよね、元々サイコパスの専門家では無かったんだって。だけど脳の画像で発覚した、興味をそそられて試しにテストしたら高得点、でも問題行動も犯罪歴も無し。共感能力が低くても、学習して普通に過ごせた良い例でも有るよね》


 あぁ、向こうでもドラマになってたな。

 遺伝子も引っ掛かる可能性が有るけど、まだまだ先で、じっくり研究されるべきよな。


「分かった、もしそれを納得して次へ進むとだ。周りも本人も医学を目指さなかったら、治さないつもりなんだよ?」

《そもそも、君が治そうと思ってる病気って、多分だけど再発率高いと思うんだ。でも生きてく中で1度でも問われたら、考えが変わるかも知れないよね。そうなったら芽は増えるんだから、妨げにはならないんじゃ無い?》


「治して欲しい人の理屈を深く考えず鵜呑みにするなら、妨げにはならないってか」


《前の世界は、そうしても妨げになると思ったから神の介入禁止になったんだとしても、ココは状況が違うんだから、一律には考えられないと思う》


「もう少し、理屈とか何かで、捻じ伏せてくれ」


《妹ちゃんが小児がん、急性白血病になったら何をしてでも治して貰う。その代わり、お兄ちゃんも周りも巻き込んで、その奇跡のお返しに、その病気の研究に繋がる様に教育してく、福祉士にも無理矢理公衆衛生とか科学の時間増やさせる》


「妹ちゃんはズルい」


《でしょ、卑怯でズルいんだ、ごめんね、だから口車に乗って》


「君は、医学の遅れや妨げの片棒を担ぐ恐怖は無いのか?」

《無い、目の前の患者が助けられるなら、別に構わないって人が殆どだと思う、それこそ国規模で考えてる人は反対するかも知れないけれど、私達ってあくまでも一市民だし。一時的に治ったからって研究を止める人は、他の何かがあっても直ぐに止めちゃうと思うな》


「よし、やるか」

《お、捻じ伏せられてくれた?》


「おう、捻じ伏せられた。詳細はまた言うかも、言わないかもかも」

《うん、それで構わないよ》


「おう、体調はどう?」

《まだ少しフワフワしてる、ラウラのも比べてみたいな》


「明日な、休みなら試すんだけど」

《じゃあ休む》


「バカ、ズル休み良くない」

《有給溜まってるし、医師が来てくれてるから大丈夫》


「ほー、トールか」

《うん、ラウラが来るまでだけどね。引継ぎも終わったし、今連絡しちゃお》


「ヤク中、魔素中」

《ラウラの為でもあるんだから、ほら離して、ズボン下がっちゃう》


「マジで中毒じゃ無い?」

《繰り返してみないと分らないけど、今は無理矢理にでもエリクサーを飲ませたいとは思って無いよ》


「まぁ、じゃあ、少し覚めてみたら、また試す?」

《うん》


 マティアスが無線機で休暇を申請している間に、お風呂を溜める。

 サウナもマティアス用に温めていると、無事に休暇が取れたのかバスルームへ入って来た。


「お風呂もサウナもまだだよ」

《うん、明日お休み貰えた》


「マジで休みやがった」

《意外と良いお医者さんが来てくれたし、勉強も見てあげたかったし》


「歴史なー、年表が入らないのよね」

《歴史って流れだから、断片を覚えようとすると逆に難しいと思うな。それこそ木でも書いて年表製作してみたら?書いて覚えるパターンもあるんだし》


「そっか、それもそうか」

《一応大人だものね、勉強の仕方忘れちゃった?》


「かも、宜しく頼むよ先生」




 其々にサウナやお風呂へ入り、浴室でストレッチやサウナでアイスを食べる等の好き勝手をし。

 夜食の時間に再び実験となった。


《エリクサーの雫も良いけど、コレも好きだな、ずっと見ていたい》

「そこか、コッチに恩恵が無いのがつまらないよな」


《レジストしてるからじゃ無くて?》

「あ、【レジスト解除】」


 エリクサーを飲んで放出させるが。


 何も無い。


《むすくれて》

「【レジスト】だって、何も無いとかつまらん」


《お酒を避けたり酔うのも避けてたんだから、防御反応で自分に効かない様にしてるとか》

「かもな、1人位は素面で無いと」


《もし、向こうで平和になれたら、どう生きてくの?》

「出来るだけ能力を返上して普通に暮らしたい、引き籠って。農家かトラウマ治療でもして過ごそうかな、サフランか綿を売り捌くとか、研究用の作物増やすでも良いよね。兎に角、程々に食えたら良い」


《夢も花も無い事を、欲しいモノは無いの?》

「自由、予定とかむり、公務みたいなのは有るだろうけど、出来るだけ好き勝手させて欲しい」


《それって病弱時のトラウマみたい》

「だな、予定が崩れるのって凄いストレスだから。特に自分の体のせいで予定が崩れると、自分に怒りが込み上げる」


《親には怒らなかったの?弱く産んだ憤りとか》

「病弱に産もうとして産んだんじゃ無いのは知ってるから、そうは怒らなかったけど。産むか迷ったのを言ったのと、不仲を子供のせいにするのは怒った、でも反抗期だとかで取り合っても貰えなかった」


《不真面目な親だね、向き合うのが恐かったのかな》

「でしょうね、バカで弱いから無理なんでしょう」


《ふふ、ルーカスに怒ったものね》

「おうよ、バカで弱いは嫌いだから、自分がバカで弱いは許されない。だから悩む時は沢山悩むし、神経質になる」


《誰も怒らないのに》

「怒れる?君より強いんだよ?」


《そりゃ怒るよ、間違ってたら。向こうでは怒られなかったの?》

「怒られましたよ、神獣に、理由は言わぬからな」


《気になるなぁ、ヒントは?》

「人間関係」


《あ、逃げ出そうとしたか置いてけぼりにしようとしたとか》

「ほぼ正解。そんな単純か、複雑性皆無かよ」


《きっと遠ざけるだろうなって、大きい戦い程、人を遠ざけそうだから》

「身近に置いて守った方が逆に安全だろうって説教された。まぁ、それもそうだなって思って謝った」


《お説教かぁ、神獣ってやっぱり老いた竜とか?》

「生まれたてホヤホヤの竜、生後1ヶ月に説教された」


《じゃあ、心配だね》

「それがさ、向こうの時間の流れが分らないから、考えない様にしてるんだ。居なくなって数秒経ってるだけかも知れないし、戦後に戻されるかも知れない。だから、そこは頑張って考えない様にしてる」


《探してるとか、寂しがってるとは思える?》

「それはね、居なくなろうとしたら何としてでも探し出すって言われたし、寂しがるとも言われたから」


《凄い執念、従者は?》

「仕事でもあるからね、保護も仕事のウチよ。戦後の世話も国から任されてるから」


《友達は出来た?》

「同じ世界から来た先輩が居て、小さい可愛い女の子なのに中身おっさんなのよ、趣味が合ってさ、マンガの最終回の話しとか、まだ連載してる話しとか、凄い気が楽で楽しかった」


《他には?》

「1ヶ月で出来るワケ無いべや、君なら100人出来るかも知れんが、ワシ無理」


《そうじゃ無くて、色々話せる人は多い方が良いじゃない?》

「エルフのイケメンカウンセラーだな、専属の。マーリンの不幸本も読む感じで、中立的って言うか、少し離れた所で聞いてくれるから好き、自分の話しで心を痛められても困る時があるから」


《マーリンの不幸本?》

「マーリンが言い寄られてその気になったら捨てられた、それを自慢しまくった女の暴露本らしい。少し世話になったのに、読み物として面白いとか言っちゃうのが客観的過ぎて、見本にしなきゃと思った」


《余り離人症みたいに客観的になられても困る》

「それでも、なれたらとは少し思う、客観的で居ないとミスしそうだから」


《程々でお願い、そっちの離人症はどうか知らないけど、コッチは年々増えてる》

「治させろ、それはリハビリと薬物だけで何とかならんだろう、しかもその治療に時間が多く取られたんじゃ可哀想だ」


《そこは医療の進歩の心配はしないんだ》


「基本は最初の世界を軸にしてる、そこを正史として遅れさせるのを避けたいだけ。逆に進歩が早くなるなら、ガンガン進めさせるよ」

《魔法は直に影響を及ぼせるものね》


「そう言うのもぶっちゃけ分らん、そもそも病気の名前と症状を知ってるだけだ。ココの治療法も魔法での治療に悪影響が有るかも知らん、知らんけど思い付いてる方法は試したい」


《そっか、そうなんだ。でも大丈夫、エリクサー納入して貰っ。もう、マーリン達と相談中?》

「するか、一応」


《また私も行きたいな》

「もしかしてシーリーやレーヴィに会えるかもね、たまに勝手に居るみたい。プールも増設したし」


《なにそれ、絶対行きたいんだけど》

「そうホイホイと、この魔素で眠れたら行けそうよな」


《あー、少し目を閉じてみようかな》

「おうおう、あの宮殿と彼女の名前を思い浮かべて」


 数分も放っておくと、寝息が後ろから聞こえて来たので放置。

 勉強する脳にならないので新しいハンカチを出し、刺繍を始めた。




 少しは早くなっただろうか、暫く縁取りをしているとマティアスが起きて来た。

 魔素の影響か、夢の影響か目をキラキラさせて凄く嬉しそう。


《楽しかったぁ》

「そりゃ良かった、夢見て熟睡感あるん?」


《うん、お昼寝したって感じ。楽しかったよ》

「魔素の影響はどう?」


《うーん…この場の魔素も薄れてるし、効果も薄まってる感じ》

「濃度か、魔素の感受性もあるんだろうね」


《うん、それに依存度も夢の方が凄いかも、また見たいもの》

「体感型アトラクションよりは弱いか」


《それこそ、その時の感情とか性格によるかも知れないから、もう少し数はこなしたいよね》

「そもそも常時曝露が前提じゃないから、亜人には直ぐに害が無いってだけかもよ、ロウヒはある意味ハーフだから実験には不向きだし」


《じゃあレーヴィ、でも今は居ないからなぁ》

「作用が逆だってだけでも安心したし、一旦は良いかな」


《ラウラの方は、そんなに危ないの?》

「実際は分らんが、その時の感情が増幅されるっぽい。大罪の時も、騙し討ちで出掛けたらめっちゃ怒られたし」


《大罪の嫉妬だっけ?》

「そうそう、従者に怒られた。平気だと思ったし、実際に平気だったのに。まぁ、少し無謀だってのは謝った」


《さっきまでの慎重発言からは想像出来ない位に雑》

「出来ると思ったらしたいじゃん、待つの苦手」


《じゃあ、夜食も待たせない様にしないと、他に何か甘い物のリクエストは?》

「無い、パンケーキにはバターたっぷりのせたい」


 夜食の時間になったので、パンケーキにバターをたっぷりと乗せて溶かしこんでから、メープルを掛けて食べる。

 飲み物はホットミルク。


 マティアスはメープルに生クリーム、そしてホットココア。

 脳を良く使うから、こうも甘い物が好きなんだろうかしら。


 なら油を蓄えるのは、冬眠か越冬か、寒い海にでも潜る準備か。


 夜食を食べ終え、片付けも終えると早速マティアスは執筆を始めた。


 コチラは暖炉の前で休憩し、妖精達とストレッチ。

 寒さを感じないで居てくれるのは有り難い、どうやら氷で遊んでたらしく冷たい体で触って来た。


 そして眠くなってきたので、ベッドへ潜り就寝。

『レーヴィ』『マーリン』《シバッカル》

《マティアス》《ユスラウメの妖精》《スズランの妖精》『ロウヒ』

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