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3月26日

グロ表現注意。

 試験前はどうもソワソワしてしまう。

 マティアスはソファーでせっせと物書き。


 隣に座って容量計測、何で上がらん。


「何で容量上がらんのかしら、筋トレのせい?」

《あー、そうかも。内部循環が多いままなんだろうね、病弱な子とか怪我が多いとなるんだ。修復に多く使うシステムになっちゃってるのかも》


「マジか、ロウヒ」


 ロウヒへ空間を開き事情を説明。


 常識らしい。


『本来はな、余力あっての傷の回復経路だからな?』

「でも前はそうならなかったじゃない?」


『容量が大きく外部からの吸収も多かったのだ、それがあの状態に置かれ生命維持ギリギリまで急速に収縮し昏倒。だが今は安定したんでな、前の状態から転化し、内部循環へ移行したんだろう』

「サウナにエリクサー撒いたり、エリクサー風呂に入浴しようかと思ってるんだが」


『良いだろう、外部からの吸収は容量拡張に繋がるだろう』

「良かった、試す前で」


『それで、どうしてこの話しに?』

「プール行きたくて、筋肉痛が邪魔なんだけどね」


『ズルをして治せば良いものを』

「あぁ、その発想は無かった」


『ワシ、エリクサー風呂とか入りたいんだが』

「じゃあ、感想宜しく」


 コートを着てロウヒの家に入り、ストレージから浴槽に蒸留エリクサーを注ぎ。

 サウナストーンへもエリクサーを注いで、自分の家へと逃げ帰った。




《聞いて無いんだけど》

「どれの事だろうか」


《昏倒したとか、容量縮小とか》

「マーリンに怒って、ワシの案違う」


《ふーん、それを呑んだんだ》

「ヤベっ」


《どうしてそんなに無茶するの、間違えたら死んじゃうって前に言ったでしょ》

「監督官が、基地にマーリン居たし」


《え》

「兵士に化けて、初日に居た」


《じゃあ、そこでもう知ってて》

「あー、はい」


《もー》

「無駄な時間を過ごさせてごめんね」


《コレから先も、こういう事って》

「有るでしょうね、撤退したら?」


《ううん、レーヴィの立ち回りもだけど、今となっては正しかったと思うから。無駄じゃ無いよ、犯罪者の心理も少し分かった気がするし、良い勉強になった》

「ポジティブ」


《マイナス思考になったら切り捨てちゃうでしょ?》

「まぁ、プール行くかな」


《エリクサーに余裕有るの?》


「おう、余裕だが」

《そっか、なら少し相談があるんだけど》


「ほう」

《この前の丸薬、トールに話したら許可出ちゃった》


「なん、それは良い事なんだろか」

《シオンの名義予定だけど、効力弱いし、なんならコレしか特技が無いかもって方向でって。そしたらそのまま、治療師見習いで雇用してはって》


「雇用かよ、無能でフラフラすんじゃ無いのかよ」

《そこはまだ断れる段階だから大丈夫、ただ純粋に丸薬は欲しいな。保存が利くし、プールしてるエリクサーを他に回せるし、軍が特にね、マーリンとも繋がりが出来るかもって期待してる面も有るみたい》


「うーん、マーリンは?」

《乗り気、トールは任せるって》


「コレだけしか出来ないってのは、本当に承知してくれてるんだよね?」

《うん、特に医療部と教育部が欲しがってる、試したいって推してくれてる》


「それはもう、君のせいでは?」

《ごめんね。ラウラのは別だけど、エリクサーの濃度って基本はバラバラだし、放置すると気化しちゃうし、子供に与えるには難しくて》


「あぁ、時期は?納品の契約とか」

《先ずはどれだけ不味いか試したいって、もし契約になっても、納期とか下限は決めないでくれるって。早々には命に関わらないし》


「技術を盗む気?」

《まぁ、それもあるだろうけど、難しいでしょ?》


「まぁ、ココでどう手に入れれば良いかちょっと分からんしな」

《だよね》


「盗むのは、まぁ、良いんだが」

《出来るだけ無能だってアピールしてあるし、軍も好きじゃ無いから基地には来ないよって話してある》


「それもなんか、まぁ良いか。ユスラウメさんや、どう譲渡したら良いか、保存とか」

《暑さや湿気に弱いでな、油紙を敷いた木箱に入れると良いのだが》


「無いよぉ」

《良く粉をまぶし、瓶で冷暗所保存だ》


《じゃあ、この薬瓶とかは?》


《良いな、色も付いて良いだろう》

「用意が良いな」

《エリクサー節約は何処でも課題だから》


「そうか、無くなる前に言って」

《そんなにあるの?》


「作れば有る」

《じゃあ、たっぷりお願い》


「マジかよ、事故でもあった?」

《違うよ、エリクサー確保に予算が追加されただけ》


「トールか」

《それもある、備えを完璧にって、あの迫力だもの》


「あー、煽るだけじゃ無いのね、少しは役に立ってる?」

《うん、でも肝心のラウラが居ないから。この基地では、どう補給するかって話しになってる》


「マーリンは何だって?」

《丸薬次第だって。ごめんね、勉強もあるし、絵本もまだ読んで無いんでしょう?》


「勉強は平気、それよりマーリンだな、ちょっと寝るわ」

《うん》


 透明な鍵を出し、先ずはシバッカルの元へ。






 目の前にはマーリン。

 爽やかだが、憎らしい。


『やぁ』

「やぁじゃない、エリクサーと受験の事なんだが」


『嫌なら止めて良いんだよ?どっちでも動ける作戦は立ててあるし』

「トールが可哀想だぞ、見たかあの老けっぷり」


《あの、ケンカは止めてたもう?》

「ごめんごめん、ケンカじゃ無いよ」

『あの老けもフェイクでしょう、そんなか弱く無いよ彼は』


「は、心配して損した」

『でも心労はあると思う、だから蜂蜜酒を納入してあげて欲しい』


「どゆこと」

『トールが紹介して納入。マーリン印じゃ無くて、トール印になる。納入も使用も軍が完全管理出来る、教会の圧力からの解放』


「どの名前で出す」

『ラウラで、あ、丸薬はシオンで大丈夫』


「はー、どっちが役に立つ」

『それは動いてくれた方が助かるよね』


「何か、コントローラーだな」

『あ、不信感が見える』


「おう、こういう奴には気を付けましょうねって話しが出たばっかだし」


『そっか、まだ見せて無かったね、私の領域を』

「おう、向こうのは少し知ってるが」


『うん、なら私も見せないとね。どうぞ』




 手を引かれて案内された先は、薄暗くジメジメした塔の中。

 円形の塔にへばりつく様な螺旋階段、手を引かれ登って行く。


「生まれたのは」

『そう、ココで生まれた』


「誰と」

『妹と、母と3人』


「知ってるのと違う」

『そっか、なら向こうは少し幸せかもね。ココから先は少し大変だけど、大丈夫?』


「大丈夫、最近身体鍛えてるし」


 塔の最上階には、美しい親子が居た。

 母親に、幼い妹とマーリン。


 その母親から物語でも語る様に、優しい口調で言葉が紡がれる。


 愛らしい、男女の双子が生まれる迄のお話。


 彼女が湖で1人遊んでいると、甲冑を身に纏い怪我をしている男に出会った。

 酷い傷で何とか立っていたのか、彼女を見て倒れてしまったので、泉から急いで上がり手当をする。


 だがそれでも男は動けないまま、指笛で馬を呼び寄せながら甲冑を脱がせ、男を何とか乗せると、自分の家まで連れて行った。


 質素ではあるが、食料も何もかもが揃った家。


 木工職人の夫と共に手厚く看護していると、3日目にやっと男は目覚めた。

 男はとある国の王だと言う、礼をするから先ずは女と同行したい、そう申し出た。


 だが夫は妻を深く愛し、妻もまた夫を深く愛していた。

 夫が言う「礼には及ばないので、どうか遠慮無しに帰って大丈夫だ」と。


 その言葉を聞き、男は手近に有った木の棒で夫を殴り殺した。

 彼は本当に王で、とても我儘な性格だった。


 人生で初めて申し出を断られた男は、怪我もお構いなしに夫を殴り殺した。

 妻は止めた、必死に止めた。


 だがその甲斐も無く、あっという間に殺されてしまった。


 そして再び王は言う。


「来るか死ぬかの2つ」


 妻は躊躇いも無く断ると、頬を打たれ意識を失ってしまった。


 そして目覚めた頃、王の馬車で目覚めたのだった。

 窓から見えたのは焼かれてゆく家、そして自身には口輪に手錠。


「自死すべきだったな、もう来るしか無い」


 それからは王の妾となり、城で暮らすしか無くなってしまった。

 王に逆らい、食事を取らないでいると、医者の格好をした魔女が来た。


 お前のお腹に居るのは前の旦那の子、どうか大事にすると良い。

 嬉しさの余り泣きだした彼女は、もう逆らう事もなく食事をする様になった。


 そして出産、生まれたのは双子の男女。

 夫と、そして王にそっくりな子供。


 それでも彼女は2人を愛した、王に似た男の子も愛した。


 だが2人を同じ様に愛した事が、王は許せなかった。

 そしてついに塔に閉じ込めた。


「だからもう、お前たちを自由にして貰おうと思うの、魔女の先生にはもう言ってあるから、2人は外で生きられるのよ」


 幼い妹は喜んだ、幼いマーリンは悲しんだ。

 彼女が、母が死ぬと分かっていたから。


 そして2人が寝入った頃、彼女は首を掻き切った。

 マーリンは、最後まで手を握っていた。


 それでも母は、彼女は微笑んでくれた。

 妹はそのまま魔女の元へ。


「マーリンは置いてかれたのか」

『いいや、私がお願いしたんだ。妾の子と言えど跡継ぎだし、彼女の遺体を手厚く葬りたかったから』


「えらいな」

『それは彼女だよ、私まで愛してくれたんだ、守って、自由にしてくれた』


「こんなのは、感情を切り離さないとやってられんな」

『そうだね、だから軽薄なんだ』


「別にそこまで言って無いだろ。それより、この先は」

『向こうの、窓の外』


 魔女の使い魔によって、王へと彼女の死が告げられる。

 流石の王も自分の子供が気になって塔へ来た。


 塔の下には血塗れの息子と女、王は一瞥すると。

 泣きもしない男の子を城で面倒を見る事にした。


 王は自分の様な人間か、美しい者にしか興味が無い。

 もしお前が泣かずに居られるなら、お前の母を正しく弔えるだろう。

 魔女の言葉を守り、王の前で彼は泣かなかった。


 王が来るまでに、散々泣いたのだから。


 それからは、王の化身の様に育つだけ。

 王の様に振る舞い、王の年の頃を真似る。


 そうして青年としての時期も終わり、大人になりかけた頃。

 国の内部で戦争が起きた。


 老いて我儘で、国民を顧みる事も無い贅沢な暮らし。

 当然、貴族以外全てが敵となっていた。


 そしてその内乱に乗じて、他国までもが戦争を仕掛けて来た。

 ブリテン王国が、アヴァロンへ侵攻して来た。


 ようやっと復讐の機会を得た彼は、真っ先に王の首を切り落とし。

 ブリテン王国へ献上した。


 そして王の前でなお、眉1つ動かさない彼にブリテン王は感服し、右腕に据える事にした。

 血塗れの美しい彼に、だれもが見惚れ、恐れ慄いた。


 そしてアヴァロンの人間もまた、彼に恐怖した。

 王の首を掲げ、血塗れのままに身1つでブリテン王の元へ行き、そして無事に帰って来たのだから。


 そして彼をアヴァロンの城主にし、収める事を許した。

 魔女も妖精も精霊も、命を落とす事無く戦争を終わらせた。


 だが残っていた城の者が、魔女の子、サキュバスの子と噂をし。

 果てはアヴァロンの民までもが彼を畏怖し、忌み嫌った。


「英雄なのに、無血開城凄いじゃん」

『人間には少なからず犠牲が出たから』


「でもだ、凄い」

『ありがとう』


 そうしてブリテンの属国になると。

 外の世界を知った人間達は本国へ渡り、とうとう人間はマーリンだけとなってしまった。


 そして僅かな魔女と、妖精、精霊、エルフ達と共に天へと登ると。

 島を丸ごと消し去った。


 その知らせを受けたブリテン王が、慌てて船を出し、島のあった場所へ赴くも。

 島は跡形もなく消え、海原だけが広がっていた。


 王は焦った、国が危機に瀕している最中。

 島を、人材を失ってはもう後が無いと。


「どうか助けてくれ、マーリン。どうか、せめてお前だけでも」


 初めて人に請われたマーリンは、1度だけ手を貸そうと囁いた。

 その声が王の耳に届くと同時に、マーリンが目の前に現れた。


 そして、彼の子供の誕生を見守り、彼の国を見守り。

 彼の死を見守った。


 そして永い眠りについた筈が。

 かつての王の墓の前に立っていた。


 アヴァロンへ戻るも、自分を助けてくれた魔女も居らず、妖精女王がただ泣いているだけだった。


「面倒で逃げたか」

『正解。だってオベロンが居ないのは分かったし、妖精やエルフが何とかするかなって』


 そうして老人の姿を取り、かつてブリテン王国と呼ばれていた地を巡る事にした。


 見慣れぬモノが街を走り回り、人々は見慣れぬ服を着ていた。


 魔女も妖精も精霊も、エルフまでもが人と混ざり合った世界。


 そこに自分の居場所は無いと思った、何故なら魔法が無い世界だから。


 それからは気の赴くままに世界中を見て回った、その中でロキも見かけた。

 自分と同じ様に、宛もなく無く彷徨う彼を見た。


 方々を彷徨い歩く中で、ウッコと言う神が生まれ、そして天に帰った事を耳にした。

 そしてイギリスにも、魔法に目覚めた者が居ると。


 堪らず本国に戻り、その子供を探した。


 妹に良く似た可愛い女の子だった。

 嘗て魔女が言っていた、人と共に本国へ渡ったと聞いていた妹に、良く似ていた。


 だからかも知れないが、妹の子孫だと思った。

 可愛がれなかった妹の分まで世話をしよう。


 水の魔法の習得も早く、そして上手だった。

 直ぐに教える事も無くなり、マーリンは彼女から去ろうとした。


 そして離別の気配を感じた彼女は、愛していると言ってきた。

 妹の様に可愛がっていただけなのに、彼女は愛と誤解してしまった。


「若い姿は不味いな」

『あぁ、今思えば本当に。人生最大のミスだった』


 絶望した彼女は、何を思ったのか彼を訴えた。

 家族へ、国へ、乱暴されたと。


 だが魔女の子孫も又、生きていた。

 彼女の嘘を、恋心を暴いた。


 そして彼女は森へと逃げ込み、泉に身を投げ、精霊になってしまった。

 マーリンも再び老人へ戻り、森を彷徨うだけの呆けた奇人となった。


 ただ、どうしても人に助けを請われると助けてしまう。

 道行く先でケガした者、戦火に追われる者を助けているウチに、ある人間に見付かった。


「マーリンでしょ、俺、知ってるよ」


 悪気も無しに話し掛けて来たのは、タケちゃんとエミールを足した様な中年男性。

 彼はそのまま話を続けた、ティターニアと会った事、女王が仲間を探していると聞いたんだと。


 だから来て欲しい、少しでも良い。

 後は俺が面倒を見るから。


 そうしてアヴァロンへ帰ると、笑顔を見せるティターニアが居た。

 オベロンが居ない事も、少し変わってしまった世界である事も、彼女はとっくに承知していた。


 その話を聞いているウチに、その人間が消えていた。


 ティターニアの願いもあって探し回ったが、彼の痕跡は消えてしまっていた。


 そしてまたティターニアが泣き出した、だが今度はそのまま。

 彼女の側に居て、話しを聞いた。


 彼との出会い、今までどうしてきたかを。

 自分が世界と関わる事を投げ出してる間、彼女は頑張っていた。


 そして妹の子孫の事までも、人間の女王と共に支えていてくれた。

 だがそれでも、人間と決裂してしまったと。


「彼の処遇でか」

『そう、彼を閉じ込めて使い走りにするってね。だから一種の愛の逃避行だよね、彼にその気が無くても』


「それで、何で君が国連に」


 決裂したのは自分の至らなさだから、後はもう任せたい。

 ティターニアに見事に押し付けられ、断れなくなった。


 人と神と、精霊、妖精、エルフ、魔女。

 それらを繋ぐ役割、途絶えさせぬ役割。


 人間の女王の言う事も、ティターニアの理想も理解した。


 それが実行出来るのが自分である事も、彼女達の理想は、相反する様で先は同じである事を。


『女王はね、本当は御使いを認めているんだ。だからこそ自由に生きられる世界にする為に、今は居ないとしている。居ると認めれば、役割を背負わせてしまうからって』


「極端なんだよなぁ、他の勢力との絡み合いもあってだろうとは思うけどさ」

『そこなんだよね、ぶっちゃけ国同士の争いは続いてるから。どの国が御使いと認めようとも、自国民が、御使いでは無いと言い張る限り、ただの人であるって言い張ってるんだけど。そういう意図だって事は、伝わり難いよね』


「分り難い、凄い分り難いんだよ、絵本の禁止とかさ、もう警戒心バリバリだったもん。って、じゃあ人間の女王は分かってて?」

『うん、コレは人間の女王だけ、彼女1人が知ってる事、荷担してくれてる』


「まー、縁があんなぁ、自国のには会った事も無いのに。向こうでも会ったんだよ、代理で行ったら女王で、マジでクソビビったわ」

『へー、やっぱ直々に会うもんなんだ』


「その国で召喚者を保護したからね、目が悪い子で、治してる最中だったから」

『ハナが?』


「おい止めろ」

『ごめんて』


「まだ治す能力無かったから、ヴァルキリーのエイル先生が治した。綺麗な手術の光景だったな」

『本当にね』


「勝手に人の記憶を、遠慮せんなぁ」

『だって、もう分かってくれたでしょ?』


「そうだが、気安い」

『えー、だって久し振りに普通に話せるんだもの、もっとさ、本当は色々話したいけど』


「見張られてたのは、伝書紙関連かも知れないって思ってる?」

『うん、魔法のお零れが欲しいバカが仕向けただけかも、って思ってたんだけど、その可能性もあるかなって』


「フィンランドもイギリスも汚染されてる可能性があんのか」

『他の国もそうかも知れない、だから炙り出して根本から解決したい』


「おう、頑張れ、少しは手伝う」

『知ったからには、手助けせずに居られないくせに』


「君は、本当にマティアスに似て気に食わんな」

『まぁまぁ、でも、本当にごめんね。私の事を知ってるものだと思い込んで、きちんと話して無かった』


「言い触らしてやる」

『えー、トールにだけは止めて、本気でケンカになるから』


「ケンカさせたくなったらバラすか」


《あの、ケンカは止めてたもう?》

「ごめんごめん、ケンカじゃ無いし、早々させないよ」

『ふふ、やっぱりココが落ち着く?』


「だね、良い子だって分かるから、シバッカルは」

《そうか?良い子に見えておるか?》


「おう、良い子良い子」

『そんなに彼女を猫可愛がりするもんじゃ無いよ、仮にも神なんだから』


「そうだった」

《良いのじゃ、どうせ誰も来ぬのだし》

『ならせめて、他の人が居ない時だけにしてよ』


《約束するが。余り悲しいのは見せて欲しくは無い》

『分ってるよ、暈してくれてありがとう』

「さっきのに介入させたんか、なんて奴だ」


『だって、もっとハードなのになっちゃうよ』

《じゃよ、我らなりの配慮じゃし》


「仲良しになれたか」

《うむ》

『うん、じゃあもう良いかな?』


「まだだ、入試の話が」


『それなら、朝一で迎えに行くから、もう目を覚まして』






《大丈夫?》

「ちょっと殴って良い?」


《え、やだ、なんで》

「マーリンが、マーリンがムカつくので。君みたいに同情を引いて協力させようとしてさ、ズルい」


《ごめん、こんな事になったのも、私、荷担してるよね》

「全然、全然切り捨てられるし、余裕っすよ、ただね、ズルい」


《ごめんね、嫌な夢だったの?》

「良い夢じゃない、つか、コレ、点滴か、今何時よ」


《15分しか経って無いけど、念の為に、怖かったから》

「顔色悪いな、朝食は?」


《こんな状態の見て、食べれないよ》

「食欲無いなら丸薬飲む?」


《やだ、作って》

「やだ、作り置きな」


 キッシュの盛り合わせを半分こと、カリフラワーのスープを暖めて牛乳でのばして頂く。


 直ぐに顔色は戻ったが、落ち込んでしまってる。

 八つ当たっちゃったからな。




《美味しいよ?》

「君は、こうなるとは想像してたか?」


《いや、少し関われたらって、少し世界が良くなればって思ってた。だけど、誰かが犠牲になって世界が変わるかもなんて、思ってもみなかった》


「じゃあ君は無罪だな、マーリンは有罪だ。アレは全部想定してやってやがる、絶対にだ」


《悪い神様なの?》

「いや、違うのがまたややこしい、こズルい神様なんだよ。ずる賢い、人の心を良く分かってる。どうなるか、どうすべきか。善意でやってる、しかも、しっかり心を痛めるタイプ、ぶっちゃけバカだ」


《私もそんな風に見えてるって事?》

「いや、君は周りを大事にするし、レーヴィが居るから大丈夫。ただ、君がレーヴィを失ったらどうなるかだ」


《なんか、分かったかも》

「そう察しが良いのが似てるんだよなぁ、なんだろうか、実はマーリンの子か?」


《実は》

「聞かないでいさせて下さい、生々しいのはもう良い」


《へー、マーリンの話し聞いてみたいな》

「受験の時に迎えに来るかもだから、許可を得ないと」


《でも、世間に伝わってないって事は、秘密にしたい部分も有るって事よね》

「だな、トールには言うなって言われてるし」


《じゃあ、遠慮しとこうかな》


「実は」

《あー、あー》


「珍しく日和ってんな」

《自衛してるだけだし。もー、折角聞かないを覚えたのに》


「偉いな、守ってるんだ」

《神様の声が聞こえない時ね、安心したんだ。聞きたかったけど、聞こえない方が良いとも思ったし》


「聞こうとするのがそもそも凄い度胸よな、恐れ多くて向こうじゃ考えもしなかったし」

《必死だったから。でも冷静に考えたら、偽の心の声を聞かせられたりとかも想定すべきだったなって、それで安心したら。きっと呆れられてたかもって》


「面倒臭がりなだけだって事にしとこう、神のみぞ知るのです」

《うん》


「にしても長かったのにな、15分て」

《どんな感じ?そんな長い夢って、覚えて無いから》


「今回は、ずーっと映画を見てた感じだったな。少し動きながら、匂いも風もあって、気持ちがそのまま伝わってくる感じ。だから、嘘じゃ無いって分かる。悲しいとか、寂しいとか、どう寂しかったかが分かる感じ」

《大変じゃない?同調しちゃうって事でしょう?》


「そうなんかな、あくまで疑似体験だから。それに少し暈してくれたらしいし、そんな影響して無いと思う、寝起きは八つ当たりしたけどね」


《八つ当たりじゃ無いよ、ラウラの立場になってみたら、少し手助けするつもりが大事に巻き込まれてるんだから。その切っ掛けは、私が引っ掛けて御使いだって暴いたのもあるだろうし、引き留めて、手伝わせたから》


「それを良しとしたんだから、おあいこだ。八つ当たりしてごめんよ、マジ似ててムカつくんだもの」

《全然怒ってるじゃない》


「怒ってないし、ムカつくだけだし」

《ふふ、実はマーリンが加護をくれた、とかだったら良かったのにね》


「あー、トールを動かす為に偽装したってか、それならもう、全部マーリンのせいだな」

《怖いなぁ。でも私、そんな人間じゃないのに》


「だな、頭の中綺麗だもんな」

《何か素直に受けられないんだよね、その言葉》


「素直で綺麗だったよ、本当に、そのままが良い。マーリンはきっと凄いんだろうな、今度見させて貰おうかな」

《神様の頭の中を見ようとする方が、恐れ多いと思うんだけど》


「そうか?理解しやすいよ、嘘を見抜くとかより、もっとその人が分かるし」

《何か、自分のして来た事が本当に分かったかも、考えが知られてるって恥ずかしい》


「ほれほれ、悪い子には雷がくるぞー、落とすかー」

《やめて、本当に雷嫌いなんだから》


「何でよ、綺麗なのに」

《火事が怖い、秋に雷が落ちたら大変でしょう?森も家も燃えちゃうじゃない》


「不意に、突然訪れる不幸に対する恐怖心。そうして大事な人や物を突然失うのが怖いから、心配性になると」

《もー、分析しないでよ、自分でも分ってるんだから》


「ワシも、自分のは分ってるつもり、でもつもりが怖いよね、そんなつもりが無かったとか、つもりだったとか、それが1番怖い」

《誤解や曲解、捻じ曲げられるのって怖いものね》


「相性悪くない?分析し合うってどうなのよ」

《それはお互いに精神科医じゃ…》


「ふふふ」

《まさか》


「もしそうなら?」

《今までの事すら、全部逆手に取られて操作されてた、って事になりかねないんだけど》


「なー、そう頭が良かったらなぁ」

《だよねぇ、どこか直情的だもんねぇ》


「お、やんのか」

《やんなーい、さ、片付けちゃおう》


 点滴の針を抜き、傷を治し、洗い物をする。

 マティアスが洗ったのを手渡してくるので、それを洗い流し立て掛ける。

 兄弟より兄弟してる感じ、皆もう殆ど家に居なかったから。

 これって、初めてかも。


「兄弟で、こうして並んで家事するの初めてだ。お兄ちゃんと、こんな事した事無い」

《私も妹とこんな事した事無いよ》


「レーヴィはあるでしょ?」

《うん、だけどどうしてもね。ちょっと、寂しい》


「ウチの兄ちゃんも、そう思ってくれてたんだろうか」

《かもね、それを言うタイミングだって早々あるワケじゃ無いし》


「楽しいぞ、マティアス、だから心配すんな」

《うん、ありがとう》




 マティアスを見送り、ソファーへ座った。


 やはり夢の余波もあってか、全く勉強が頭に入らない。

 思ったより影響している、暈してくれてありがとうシバッカル。

 心の中でお礼を言って、プールへ向かう準備の開始。


 先ずは庭の氷、今日は午後から雨が降るらしいのでそのまま回収。

 戸締りをしてから、今日はバスに乗った。




 30分もしないでプールへ到着。

 着替えてから水筒のエリクサーを飲み、先ずはサウナ。

 身体を温めたら、次は入念にストレッチ。

 気のせいか少し柔らかくなった気がする、思い込み大事、柔らかくなってる。


 それからフィンを借り、何回か往復していると声を掛けられた。

 フィンのレンタル場のお姉さんだ、ナイスおっぱい。


『あの』


「はい、なんでしょう」

『もし良かったら、マイフィンを検討してみない?』


「あぁ、そのつもりでは居ます。ただ基地のレーヴィ兵長に色々試せと言われてて」

『そうなんだ、あの人って上官なの?』


「いや、友人です」

『そうなんだー、良いなぁ、彼って恋人は?』


「あぁ、気配すらありませんよ」

『そうなんだ、あ、友達がね、気になるって言ってたから』


 久し振りの嘘の音だ、低く震えて不快なのに。

 久し振り過ぎて、逆に愛おしい。


「お気遣い無く、彼ってモテますから」

『あー、ごめんね、でも本当にフィンを作る相談には載るから』


「なら、お姉さんの限界ギリギリのフィンってどんなヤツなんです?どんな感じがするんですかね?」

『そうね、私はノーマルフィンだけなんだけど、欲張って少し長くて硬いのにしたら、もう今までの半分の距離しか泳げなくって、でも折角作ったから、鍛え直して再挑戦したわ』


「筋トレを?」

『そうそう、腿がキツかったから、スクワットと自転車で負荷掛けて、今はもうそのフィンで泳げるけど、やっぱり今でも前ので泳ぐ方が多いかな』


「少し無理しない事には分らないんですね、泳ぎ初心者なんで、ありがとうございます」

『良いの良いの、なら腿の太さ的にコレが限界かなって思うんだけど、試してみない?』


「はい、ありがとうございます」

『いえいえ、ただ無理はしないでね、無理かもって思ったら直ぐに上がって』


「はい」


 脳筋だけど良い人だった。

 あれ位の嘘は皆つくだろうし、後でレーヴィに言っといてあげよう。


 少し重さもあって、今までで1番長くて硬いフィン。

 少し泳いでみると、ダイレクトに水が動く感じ。


 重さがあるので、丁度沈んでくれるのが泳ぎ易い。


 慣れたのもあってか良く進む。


 他と比べると、無重力的だったのに対してコレは泳いでる感じ。

 推進力だとか、水の流れに簡単に逆らえる。


 楽しい、小まめに休憩しとこう。




『どうだった?』

「何だか少し世界が違う感じです」


『でしょう、少し大変なのって楽しいのよね。あーあ、早く夏にならないかな』

「夏なら、何処に泳ぎに行きたいですか?」


『理想はオキナワよ、1番魚の種類が見れるんだって』

「また日本、そんな良い所なんですか?」


『アナタ見た目は東洋人なのに、ふふ、ダイバーの憧れよ、ウェットスーツを着れば、冬でも楽々泳げるって言うんですもの、行きたいに決まってるじゃない』

「へー、でも寒いのは嫌だな」


『お肉が無いから寒がりなのよ、こういう休憩でも小まめにタンパク質とらないと、後、電解質もね』

「ですよね、ありがとうございます」


『うん、じゃあ楽しんで』

「はい」


 取り敢えずは水筒のエリクサーを飲んで、再び泳ぎ始めた。


 いつも時間が良いのか、レーンを自由に泳げる。

 誰に遠慮するでも無く、自分のペースで動ける。


 全てをコントロール出来ている感覚。


 コレか、タケちゃんもエミールも、コレが好きなのか。

 マサコちゃんも、皆が、運動の良さを知っているのかも。


 自分は今やっと分かった。

 これなら、少しは身体強化も操れるだろうか。


 ほんの少し、疲労感を感じてフィンを外しサウナへ。


 サウナで身体を温めていると、休憩のベルの音。

 もう少し暖まりたかったけれど、ご老体達に席を譲り、更衣室でオヤツを食べる。

 体にタオルを巻いて、梅肉ソースを付けたパリパリチキンを頂く。

 我ながら美味い。


 休憩終わりのベルが鳴り、プールが少し騒がしくなった。

 今度はココアを飲んで再度サウナへ。

 身体を温めてからまたストレッチ、柔らかくなっている、頑張れ筋肉。


 また泳ぐと、少し違う感覚。

 重くて上手く泳げない、もう体力が尽きたか。


 早々に上がってフィンを返す、もう今日は終わりか。


『じゃあ、次はスプリットね』

「凄い重く感じたんですけど、大丈夫ですかね」


『大丈夫。また2、3回往復したら感想を聞かせて』

「はい」


 泳いでみると、さっきまで重かった感じが和らいでいる。

 確かに少しは重いけれど、まだ泳げる。


『どう?』

「使う筋肉が違うんですかね」


『少しね、だけど鍛えたいなら、コレで疲れる一歩手前まで頑張ってみて』

「はい」


 その一歩手前が難しいのだが、前回の筋肉痛もあってかも、もうそろそろ疲れるかも、という感じは掴めてきた。


 限界まで泳いでみたいが、溺れるのだけは嫌だし。




 6往復目で、もう終わりだと分かった気がした。


 でも悔しいのでもう少し。

 一旦休憩し、サウナへ行ってみる。

 エリクサーが頗る美味しい、だががぶ飲みしては泳ぐのに問題が出そう。


 後はもうストレッチ、そしてフィンを付けて反対側まで。


 もう最後だと思ったからか、泳ぐのが楽になった気がする。

 何処かで緊張してたのか、やっと慣れたのか。


『良い感じ、じゃあまたコレね』

「そろそろ限界かも」


『じゃあ、付き添うから少し泳いでみて、きっとさっきより泳ぎ易くなってるから』

「じゃあ、お願いしますね」


 隣のレーンにお姉さんが入り、同時にスタートする。


 確かに余分な力が抜けて泳ぎ易い、泳ぎ易いけど、フィンが重い。


『フィンを意識し過ぎ、素足だと思って、もう少し』

「はい」


 素足っても、人魚かよ。


 人魚、マーリンの浴槽でなったな。

 二股の人魚か、情緒が無いけど泳ぎ易いんだろうな。


 こうか、こんな感じか。


『そうそう、良かったよ』

「二股の人魚は情緒が無いなと思います」


『ふふふ、一体型のフィンもあるけど、まだ体力的に無理そうだし、もう少し練習したら貸して上げられると思う。今日はココまで、後は筋トレね。人魚になれるまで頑張って、人魚の稚魚さん』


「おっす、ありがとうございました」


 人とやるのは楽しい、お姉さんはプロなのだろうし。

 プロの指導は何でも楽しいな。


『良かったよ兄ちゃん』

 《あぁ、あのねーちゃんの指導も良いんだろうな、後半は特に動きが良かった》

「あ、ども、ありがとうございます」


『俺も練習したんだがな、どうも身体1つで泳ぐ方が良くてな』

 《おめーは不器用なだけだ、東洋人てのは器用って聞いてるしな》

「そうなんですかね、溺れてる様に見えてなくて安心しましたよ、カナヅチなんで」


『マジか、泳げないとか損しか無いぞ』

 《こんななまっちろくてヒョロヒョロなんだ、長く病気でもしてたのか?》

「そんな感じです、昔から虚弱で、泳ぐ機会が無かったんですよ」


 《やっぱりな、俺も昔はそうだった。でも兄ちゃん、楽しいだろ?》

「はい、とっても」

『そうだそうだ、楽しめよ小僧、じゃあな』


 フィンを外している最中、初めて話し掛けられた。

 お姉さんの仲立ちもあって警戒心が解けてくれたんだろうか、良いか悪いかは別として、全部楽しかった。

 利害関係無しに褒められるのは楽しいのかも。


 サウナへ入り、シャワーを浴びてバスへ乗る。




 今日はこのまま入浴して、エリクサーとストレッチと入浴を繰り返してみようか。

 ズルは何か気が引けるし。


 目指せ、脱寝たきり老人体系。


 だが、そう意気込んだものの、妖精の報告により窓の外を見る。


 ルーカスが家の前に立っていた。

 お供も無しに、どうした。


「どうしたルーカス、何があったの」

『ラウラ?』


「違うけど、兎に角入れ」

『うん、ありがとう』


「で、何呑む」

『なんでも良い』


「じゃあココアで」


『ありがとう』


「シーリーに何かあった?」

『大丈夫、それより、君が囮になるって』


「なんだその事か。大丈夫、私は強い」

『でも、心配で、近くの村の子に送って貰ったんだ』


「その子は?」

『買い出し中、もう少しで帰って来る』


「なー、ややこしい事を」


『ごめん』


「それに、どうして家が分かった」

『トールにラウラの事を聞いた時に、見えた』


「そうか、よし、トールが悪いな」

『本当にラウラ?』


「あ、ほれ、今はシオンって名前」

『本当だ、すごい、ラウラだ』


「それで、家の前で待ち合わせ?」

『うん、後3分』


「伝書紙、ロウヒのがあるでしょ」

『それも届かなかったら、誰も信じられなくなるから書いて無い』


「甘ちゃんのビビりめ、向こうに着いたら書け」

『うん、ごめん。もうケガは大丈夫なの?』


「トールめ、いよいよ殴るか」

『違うんだ、不安定で、少し制御出来なくなってる』


「どうしたら落ち着く」

『分んない、こんな事初めてだから』


「あ、もう居るじゃんよ。何を言って来たか知らないけど、間違いだったって言うんだよ」

『うん、ごめんね』


「じゃあほれ、ハグだ、がんばれ、もう少しだから」

『うん、ごめんね、ありがとう』


 隠匿の魔法を使って窓から外を見る、以前にウツヨキで見た彼が帽子を深く被っている。


 何か気になるな。




 心配なのでウツヨキに先に向かい待っていると、素知らぬ顔で家に向かっている。

 そして例の彼も、何食わぬ顔で隊に戻っている。


 大丈夫そうだが、何か気になる。

 家のドアをノックして、暫くするとラルフがドアを黙って開けたので中へ、そして暫くしてドアを閉じた。

 ラルフに付いて2階へ上がると、ルーカスが頬を赤くしてベッドの横に立っていた。


 オロオロする老人と、怒り泣きするシーリー。


『治療師様、少し、家族だけに』


《あぁ、はい。何も出来なくてすまないね坊や、後で治してやるから、良く話し合うんだよ》

「マーリン、化けるのやめれ」

『早い、もうバレちゃったか』


「そっちか」


「ラウラ?」

「今はシオン」


「ごめんなさい、きっと心配で来てくれたのよね、迷惑掛けてごめんなさい」

『私も謝るよ、彼を不安にさせてしまった。すまない』

『ごめんなさい』


「それよりシーリー、落ち着いた?まさか折れて無いよね」

「ふふ、そんなに弱く無いわよ」


「ほら、少し痛めてるじゃんか、治すよ」

「あら、そんなに痛くないのに」


「興奮してると痛みって余り感じないんだよ」

「そうなのね。本当にごめんなさい、家族で迷惑掛けてばかりね」


「良いの良いの、良い家族なんだから、気にしないで」

「髪を切ってしまったのね、似合うけど、少し残念」


「直ぐ伸びるから大丈夫、この前はココまで有ったんだから」

「本当に?ふふ」


「だから楽しみにしてて、直ぐシーリーの長さにに追い付くから」

「うん」


「少しまだ脈が早いね、少し楽しい夢を見てみない?」

「どんなのかしら?」


「可愛い猫の女神様が居る部屋」

「あら、すて」


「よし、さぁ事情を話せ、コレはシーリーが怒って骨折したから怒ってる、何でこうなった」


『君に、ラウラに会ったのが秒でバレた』

『だから直ぐに君が来るかと思って、扉の前で待ってた。ラルフは今、証人として本部に赴いてる、トールとレーヴィと一緒に』


「おい、何でこうなると見抜けなかったマーリン」

『彼らの気持ちを見抜くのは少し、難しいんだよ』

『でも、安心してガードが下がって、母さんに見抜かれた』


「母親の勘も相まってだろうに。馬鹿共が、誰が今1番弱いと思う、シーリーなんだよ、バカか。何処の普通の人間が、息子をビンタしただけで骨折するよ。良く考えろ、シーリーは色々な意味で怒ってんだ。ルーカス、分ってるって言うなら、全部ちゃんと答えてみろ」


『ラウラを更に巻き込む様な事をした、ラウラを危険な目に合わせた、巻き込んだ隊の子も危なくなるし、制御出来ない不安から自分勝手で、思いやりも後先も、何も考え無いで行動した。母さんをケガさせる程に怒らせた、短慮で馬鹿な事をした』


「よし、そのまま反省文書け。マーリンは顔を貸しなさい」

『うん』

『はい』


 ルーカスはラルフの部屋へ。

 廊下に出てから深呼吸、静かに話す努力をする。




「でだ、これも作戦なら怒る」

『違う違う、こんな子だと思わなくて、マジで本当にミス』


「ハンナは?」

『業務に戻らせちゃってる、少し動いて貰わないと困るから』


「それでか」

『みたい、会わせて引き離しての繰り返しになったから、ストレス過剰になったのかも』


「本当に?」

『私のもロウヒの先見も、万能じゃ無いの。それに君の周りは見難い、全部不安定、虚像がブレる感じ』


「なんだ、ワシのせいか」

『違うけど、君は分かり易いよね』


「ケンカ売ってる?」

『売って無い売って無い』


「あ、基地のエリクサーなんだけど」

『今日か明日にでも一緒に、ラウラとして基地に行って欲しかったんだけど。変更、私が迎えに行くから、シオンで行って欲しい。預かってたって事で』


「どっちが安全かで言ったらシオンか、別にラウラで行っても良いぞ」

『良いの?』


「良いよ」

『でもなぁ、シオンでお願い、明日迎えに行くね』


「おう、にしても、胃が痛い」

『お昼ご飯食べた?』


「食べようと思って家に帰ったらコレなの、プール楽しかったのにさ、台無しだ」

『ごめんよ、そんなにラウラに執着があると見抜けなかったんだよ』


「何でだろな」

『何か優しくした?』


「いや特には、ビンタはしたけど」

『マゾ?』


「マジ?」

『いや、冗談じゃ無くて。苦痛って快楽に変換され易いから』


「いやいや、理屈は知ってるが、ココはそんな暴力的な家じゃ無いだろうよ」

『生れ付きで、目覚めたとか』


「どんなギフテッドだよ、アホか」

『無くは無いでしょう』


「2つも?」

『複数の事例はあるみたい、特にルーカスの世代で増えてる』


「例の、大人の絵本のか」

『そう、掛け合わせ』


「マジか、まじか」

『有り得無くは無い、調べたら2人の父親は不明ってなってたし』


「マジかよ」

『私なら、そうする』


「信じるって言って悪かった、マティアスに加護与えたでしょ、ロキのフリして」

『それは無いってば、そんな、ロキはチラッと見ただけで、それを真似るのは無理だし、気配なんてもっと無理だよ』


「でもなぁ、ルーカスの事が有るしなぁ」

『えぇー、恋愛は苦手なんだよ、ごめんって』

《あのぅ、マーリン殿、ソチラはもしかして》


「どうも、お世話になってます」


《いえいえ、この度はマーリン様のお役に立たせて頂ける機会を授かり、誠に感謝しております》

「いえいえ、ヤバいのに付き合わされてお互いに大変ですけど、がんばりましょうね」


《いやはや、それでその、ルーカス坊やの事なのですが、1つ言わせて頂いても?》

「お、是非お願い致します」


《お二方の出生は存じ上げませぬが、男とは父親の背を見ずには上手く育たんのです、全ての人間がとは申しませんが、大概は、私がそうなのです。父が居りませんでした》

『若い頃は随分だったものね』


《はい、兎に角、支えや見本が欲しかったのです、どんな者でも。弱いのです、彼もまた支え無しに生きるには不器用な子、まして今は特に、お姉様も父親代わりのラルフ様も居りません、ですから、男親の居ない不安も、どうか考慮してやって下さい》


「でも、またこんな事があったら困る、いよいよ身動きが取れなくなる」

『姿形を変えちゃったら?』


「相性悪いんだ、察しろ」

《そこなのですが、髪の色を変えるのはどうでしょうか?》


「は、やる」

『やっぱり金?』


「もちよ、なんなら白髪とかプラチナが良いな」

《白髪は簡単ですが、目立ちますぞ》

『たしかに』


「じゃあ金で良いですぅ。でもさ、何でマーリンと離れたの?」

《マーリン様に良い寄る女を、マーリン様に変身して少し頂いておりました》

『それは見逃してたんだけどね、二股して大喧嘩になって』


《マーリン様に女2人の目の前で暴かれ、恥ずかしくて逃げてしまいました》

『私に被害が来なかったら、ずっと見逃してたんだけどね』


《それがもう、罵られた事が悔しくて恥ずかしくて、女を悔しがらせる為に、そのまま旅に出たのです》

『理由が面白いから、放置した』


《それでも、基地へ配属されるまでは良かったのですが》

『また女問題を起こして』


《丸ごと切り取られてしまいました》

『もうくっついて治ってるんでしょ?』


《それでももう、血塗れのアレを思い出してしまって。それからは女を断ち、マーリン様ならどうするか真剣に考えて、行動させて頂いてました》

『30年前位だから、今は60だっけ?』


《はい、29で出て、今は60でございます》


「ぅん、ごめんな、ちょっと面白い生き方をしなさる」

《笑って下さい、失いかけて初めて、私は大切なものを見付けたのですから》


「真剣な顔で、勘弁してくれ」

『ね、彼は真剣なのに、悲惨な話をすればする程、どうしても面白く感じてしまう』

《今ではある意味、ギフテッドだと思っております》


「もー、頑張れば良い話しの筈なのに、なんで笑いそうになるんだろ、ごめんね、本当に」


『絶妙な間と言葉のチョイスだと思うんだよね』

《そうなんでございましょうか、いやはやもう自分でも良く分らないのですが、喜んで頂けましたなら、悔やまれる人生が少し、晴れやかになる様です》

「あ、アレだ、活弁士とか無声映画の横に居る人だ」


《良くご存じで、育ちは劇場でした、流石です。良い知識をお持ちでらっしゃる》

「よし、ちょっと慣れて来たぞ。うん、頼もうかな」


《では、全て金色になさるんで?》

『かな』

「染め放題だ」


『でもどうだろう、君は多分早いから2週間もしないで黒が生えてきちゃうんじゃ無いかな』

「えー、でもまぁ、後は染めるか。でも軍で評価落ちない?ラウラの方も」

『大丈夫、そんな事で落としてたら逆に目立つから問題無いよ』


「それでもだ、何か有ったら救済してくれよ」

『勿論、不当評価は取り下げさせる』


「じゃあ、お願いしますね」

《ええ、ではでは、少し目を瞑っていただいて》




 少し頭が暖かいと思うと、もう終わりを告げられた。


 髪どころか眉もまつ毛も金になっていた。

 凄い印象が変わる。


「ふぇー、いよいよ他人だ」

『あまり乖離しないでよ、戻れなくなるかも知れないんだから』


「指輪で戻してくれ、人魚から」

『分かった、見本を見せてね?』


「許可する。ありがとう爺や、これからもよろしくお願いしますね。くれぐれも昔の病気が再発しない様に気を付けて、何かあったら、今度は口と繋げますからね」

《はい、承知致しました》


『あの』

「もう書けた?」


『うん』

「じゃあ起こすか」


 お爺さんには一旦引いて貰い、マーリンとルーカスと共にシーリーの部屋へと戻った。

 幸せそうな顔をコチラに戻すのは忍びないが、鍵を差し込み戻した。


「あら、あらら」

「ごめんね、どうだった?」


「凄い楽しかったわ、スパがね、良い気持ちだったのに」

「中断させてごめんね、ルーカスが反省文書いたんだ、読める?」


「ええ、ココの字は習得したわ、読ませて」

『はい』


 この沈黙が当人にしたら最も嫌だとは思うが、こう馬鹿だと効いてくれてるかどうか。


 馬鹿で無い事を祈るしか無い。


「分かったわ、許します。でも今回だけよ、シオンに免じて今回だけ。何でか分かる?」

『周りが、シオンがフォローしてくれたから。シオンに気を使っての事』


「そう、そしてアナタが巻き込んだシオンが、フォローしてくれた事を忘れないで。団体行動が大事な時に、もう決してどんな時でも、自分でリカバリ出来ない事はしない、他人を巻き込む自分勝手な行動はしないで。いつか人が死んでしまうから、お願い」

『うん、本当にごめんなさい』


「分かったのね、うん、良かった」


「シーリーは、亡くしてしまったのか」


「尋問の帰りに魔獣に襲われて、護衛の兵士さんがね、上官の言う事を聞かないで亡くなってしまったの。認められたいって、彼の最後の心の声が聞こえたの。しかも帰り際に、そのご家族が上官を責めてる所に出くわして、彼は口答え1つしないで、ただ謝ってたの。もっと言い聞かせてればって、悔やんでた。でも、言ってもきっと彼は聞かなかった、私は、それすら伝えられなかったのが、凄く悔しい」


「つらいね」

「1番辛いのは、上官と家族。だって、彼はもう死んでしまっているから」


『ごめんなさい』


「シオン、アナタが心配する程じゃ無いみたい、だから少し、許すチャンスを上げてくれないかしら?」

「そういう言葉は、本来は君が自主的に言うべきなんだが」


『ごめんなさい、挽回出来る様に頑張らせて下さい』


「考えます。シーリー、また夢の続きが見たかったら」

「ええ、彼女の名前を思い浮かべるわ」


「おう、じゃあね」

「うん、またね」


 消耗したシーリーが鍵も無しに眠ったので、爺さんを呼び寄せて点滴を追加して貰った。

 そしてすっかり意気消沈のルーカスの対応に、面倒だ。


 ダメだ、マティアスみたいになっちゃ不味い。


『ごめん、呆れてるんだよね』

「そらもう、バカは大嫌いだから」


『バカな事して、ごめん』

「そもそも君がバカだと言っている、もう帰る。それとだ、もう2度と関わってくるな」

『シオン』


「命張ってんの、コッチは。生半可なお遊びで関わられて死にたく無い、命張ってても死にたくは無い。それが何の理由か知らないけど、会いに来て秒でバレて、しまいにはあんな良い母親の腕を折るとか。父親が居ない?だから何?ラルフが居るのに、クソが、2度と関わるな」


『ごめん』

『シオン、待って』

「取り持ったら殺す」


『しないよ』

「ならなに」


『コッチ来て』

「なに」


『君は、家族の事で何かあったんだね』

「見て無いのか、記憶」


『ロックが強いんだもの、君が拒絶してる事柄には触れられもしないんだ』

「そうか、もう見ても大丈夫だと思うけど、それとも言葉で説明すれば良い?」


『ううん、なら今日の私の夢はきっとキツかったよね、ごめんね』

「当事者じゃ無いし、そうじゃ無い、そこまでじゃない」


『それでも、ごめんね』

「それでもアレはダメだ、あんな良い母親を傷付けた、ワザとじゃ無くても」


『そうだよね、本当にごめん』

「マーリンが羨ましいと思った。マーリンは良くやってる、良く看取ったし、そして復讐が完璧だった。それが羨ましい、凄い、偉い」


『ありがとう、そんな所を褒められたの初めてだ』

「そらそうだ、そんな事を初めて褒めたもの」


『疲れてお腹も減ってるよね、送らせる?』

「余裕よ、じゃあ帰るね」


『うん、気を付けて』


 隠匿の魔法を掛け、ラルフに化けたマーリンが開けたドアから出た。

 後ろでは例の隊の子が呼ばれていた、彼には少しだけ同情する。




 でもルーカスはダメだ。

 折角、可愛い子だと思ったのに、余裕が無いこの状態で。

 シーリーに手を上げさせた。

 どうしても許せない、許せるとしたらシーリーが悪い母親であった場合だけ。


 コレが、屈折した家族への思いなんだろうか。

 ネイハム先生は元気だろうか。


 寂しさより悲しみより、怒りが強い時こそ誰かと話すべきか。


 でも誰と、ロウヒと?


 納得はさせてくれると思うけど、納得したいんじゃ無い。


 どうしたいんだろうか、怒りをぶつけたいんだろうか。


 ストレスか。


《大丈夫ですか?》

「あ、大丈夫、ただいま」

《どうした、怒りに満ちて》


「分かっちゃうか」


《オーラが見えぬ子も居るそうだが、妖精は全て感情の揺らぎが見えてしまうらしい》


「さっきのルーカス居たでしょ?母親に秒でバレて叩かれた、でもその母親の身体は脆くて、叩いた拍子に折れてた。急いで駆け付けたから何とかなったけど、利き手を骨折って弱ってる身体には良くないのに、分かってるのに、バレて怒られてケガさせた」


《そう馬鹿な子には見えんかったが、そも来た理由は不安だけなんだろうか》

「知らんけど、どんな理由であっても、許せない。自分の生い立ちがルーカスを許せないのもある」


《許さないといけない場合以外、許さなくても良いのでは?》

「普通は、ココはどうか知らないけど、謝られたら許せと教えられた。許さないのが悪いと」

《なんだそれは、加害者の言い分ではないか》


「やっぱそう思う?自分でもそうかもって思うけど、宗教でもさ、許せって」

《その、許せない心への救済は無いんですか?》


「どうなんだろ、神様は好きだけど、そういうのは詳しく無いんだ」

《なら誰かに聞けば良い》


「どうしたいか分からんのに?許さなくても良いとすら思ってるのに、ただ肯定が欲しいかも分からないし」

《僕には怒りをどうにかしたいと思ってる様に見えますよ》

《だな、怒りで無くとも、どうにかしてくれそうな者に心当たりは?》


「うーん」

《どうにかで無くとも良い、こういった問題にいくつかの答えを持って居そうな者だ》


「ミア達だな、でも、連日は」

《他に居るのか?》


「マティアスには申し訳ないけど、マティアスかな」

《待てるのか?》

《ごはん食べれます?身体が持ちますか?》


「ぐぬぬ」

《片手間に愚痴でも聞いてくれと言えば良い、それがダメならまた考えよう》


「君もそう思うかね」

《初めてそんなに怒ってる所を見ましたし、結構大事な事だと思うので、オススメです》


「じゃあ、少しだけ」




 ドイツへ空間を開く。

 ノックをして暫くしても応答は無し。


 諦めて閉める直前、声が聞こえた。


「もう、もうちょっと待ちなさいよ、トイレに行ってたの」

「ミアは?」


「買い物だけど、ミアに用事?」

「違う、少し愚痴を言いたくて、でも忙しいかなって」


「は、何遠慮してんのよ、なになに、コイバナ?」

《そうじゃな》

《あら》

「いやいや、違うって。知り合いに、知り合いの息子にブチ切れた、人がケガをしたから。杞憂だけど、非常に危ない事をした。謝って反省してるんだけど、許せなくて」


「そういう事ね。本当に1歩でも間違えたらアナタが危ないのは私も分かってる、それなのにその子は迂闊な行動をして、怪我人も出たと」

「うん、それがその知り合い、母親の方」


「大事なのよね?そのケガした人が」

「うん」


「じゃあ許さんで宜しい。優しいから葛藤するのは分かるけれど、2人も危ない目に合わせたんだから地獄に落ちたら良いわ」

「そこまでは」


「ほら、私は知らないから地獄に行っても困らないけれど、アナタは2人と知り合いだから困るのよ。アナタがミアをケガさせたら、私もどんなに謝られても完全には許せないし、モヤモヤすると思う、逆でもよ。私も優しいから、そうなったら葛藤するわ。でもアナタなら、ケガさせたら許して貰おうと思う?」


「努力はするけど、相手に委ねる」


「その子はそう思う子?」

「分からん、もう馬鹿としか思えなくて」


「仮に馬鹿なら、許す必要すら無いじゃない、だって自分の為に謝ってるんだから。許すのも許さないのもアナタの自由、またそれを許すのも許さないのも相手の自由。許さない事を許さない人は許さなくて良いわよ、時間の無駄だし。でも、許さない事を許して、許して貰う事を諦めない人は応援しちゃう」

「直ぐ許さなくても良い?」


「だって、間違えたら命の危機になるかもだし、それをホイホイ許すなんてそれこそ馬鹿よ、危機感無さ過ぎ。ちゃんと危機感持ってて偉い」

「そこまで肯定して貰うつもりは無かったんだけど、ありがとう」


「怒り慣れて無いのね、怒って良いのよ。被害者は被害者なんだから、加害者の気持ちを抱くと付け込まれるわよ」

「昨日もそんな話しになったな」


「犯罪者って巧妙なの、お前が悪いって仕向けるの、どんな事でも、本人が悪い事でもね。それから抜け出すには凄い時間が掛かるって、それこそ学校でも、親にもみっちり教えられたし」

「無い無い、箱入り息子」


「そうよねぇ、本当に箱入りで心配。馬鹿の事で気に病むなんて、犯罪者の良いカモだわ」

「気を引き締めます」


「うん。で、その髪とかは美容室?魔法?」

「秘密、本当はプラチナブロンドにしたかったんだけど」


「えー、黒髪は黒髪で良いのに、あ、今回の事で?」

「まぁ、少し」


「クソ馬鹿ね、髪まで染めさせるなんて最悪、アホよ」

「言うなぁ」


「にしても、そんなに怒ってたの?」

《凄かったぞ、真っ赤で大きくて》

《トゲトゲで、近寄るのが大変でした》

「すまんね、今はどう?」


《黄色だ》

《そうね》

《少し楽しくなってますね》

「だって、ココまでメタクソに言ってくれるのって、嬉しくて楽しいなと思ってしまった」


「まぁ、私って大人だから、もし会う事があればそつなく対応するけど、もう心の中では」

《ふふふ、凄いのよ、嫌いな人間が来た時なんかはもう》


「心は自由なんだもの、好きにさせて貰うわ」

「ありがとう、何か、何で怒ってたか吹っ飛んでったかも」


「私をもっと見習って、腹黒く他人に厳しく生きないとね」

「見習わさせて頂きます」


「それと、少しでも良いから、許せない自分を許すのよ」


『ただいま帰りました、どうしたんですか?』


「ムカつく奴の対処法よ、お帰り」

「お帰り、相談にのって貰ってました」

『ふふふ、ただいま。素敵な髪色ですね。私は、ムカつく人にはお腹を下して貰うのが1番ですよ、あの可哀想な姿を見ると、許してあげたくなっちゃいますからね』


「こわっ、ミア怖いわ」

「やべえ回答きた」

『冗談ですよ、でも何かされても、相手がお腹を壊してたんだと思えば、大抵の事が私は許せるってだけですから。実は盲腸で痛いとかでも良いですし』


「そういうのも有るのか、為になります。忙しいのにごめんね、ありがとう」

「この位、良い息抜きよ、遠慮しないで」

『そうですよ、処世術なら任せて下さい』


「うん、マジで楽しかった、またね」

『はい』

「またね」




《どうでした?》

「お腹下してると思えばって、中々良いと思った」


《ですね、びっくりしましたよ、てっきり》

「毒でも盛ったかと」


《いっそ盛ってはどうか》

《それはちょっと》

「そういうのより、ラウラの訃報が1番効くだろうから、そっちの方が良いな」


《毒を盛るよりエグい》

《分かって言ってます?》

「なにがよ」


《男心をだ》

「こんな立派な」

《止めて下さい》


「冗談、飯食うべ」

《スープからの方が良いですよ、きっとお腹がビックリしちゃいますから》


「そうだね、ありがとう」


 ブロッコリーのスープを牛乳でのばし、温める。

 それをゆっくり飲んでから。


 何を食べようか。


《どうしました?痛いですか?》

「なに食べたら良いかわからん」


《胃に優しいのはあります?リゾットとか》

「まだある、それにします」


《はい》


 この前作った温泉卵を落とし、リゾットをゆっくり食べる。

 どうしても早食いが直らないので意識的に遅くしてみる、咀嚼までは面倒なので考えないが。


 そこそこ、八分目まで食べたら今度はボーっとする。


 歯磨き。

 湯船に浸かる。

 最初はぬるめのお湯で半身浴、徐々に量を増やし熱くする。

 そして定期的に休憩して、ストレッチ。

 エリクサーは無制限、冷えてないのをがぶ飲み。


 温めてはストレッチを繰り返し、すっかり疲れた頃にベッドでお昼寝。

 もう時間が狂うとか気にしない、たっぷり寝てやる。






 マティアスが脈を測り、妖精と相談しているタイミングで目が覚めた。

 死人が生き返ったみたいな顔をして、何さ。


《夕飯の時間なんだけど、起こそうか相談してて》

「すまんな、ストレスで過眠したかも」


《何かあったの?》

「色々、ご飯あるの?」


《うん、ピザ買って来ちゃった》

「マジか、パーティーだな」


 起き抜けに炭酸エリクサー、一気に胃が目覚めた。

 タピオに買って貰ったピザだ、心配して無いかね。


《シーフードとキノコ》


「タピオ、心配して無いかな」

《大丈夫、直ぐに治して戻ったって言って有るよ。家も、また来るなら借りてくれって》


「ありがとう」

《で、ピザ、コレで良かった?》


「最高です」

《でしょ》


「うん、いただきます」


《うん、おいしい》

「だね、ありがとう」


《それは良いんだけど、何があったの?》

「ほぼ解決したんだけど、ルーカスが急に来て、直ぐに帰って秒でシーリーにバレて叩かれて、シーリーの骨が折れて、治した。ルーカスに説教して絶交した」


《なんでそんな事を、ラウラもシオンも危なくなるのに》

《コイバナじゃ》

「もう、そうやって茶々入れて、理由は知らん。シーリーは納得したらしいけど、シーリーが怪我したから許せん、絶交です。マーリンのちょいミスもあったけど、あんな脆くて馬鹿だとは普通思わんから、マーリンは実質無罪」


《何でそんな事をしたか理由は分からないけど、怒ったと》

《トゲトゲの》

《真っ赤っかでした》


《珍しい》

「家族の問題に敏感で、理由は歪曲した概念がほにゃらら」


《そこなんだね》

「コッチの命を危険に晒した事も、シーリーの腕が折れるのも構わず叩かれるままだった事も、均等にムカつく感じ」

《ほれ、めらめらだ》

《誂うと怒られちゃいますよ》


「怒らんよ、君らは頭が良くて良い子だから。ルーカスにはボロクソ言ってやったけどな、でもそれを後悔してないのが、逆に良心の呵責を生んでるっぽい」

《そんなに、じゃあ絶交って》


「マジで言った、2度と関わるなと2回言った。そしてお前は馬鹿だ、馬鹿は嫌いだとも言った」

《怖いんだろうなぁ》

《凄かったですよ、泣くに泣けない感じで完敗って雰囲気です》


「あ、付いて来てたの?」

《お家はユスラウメさんが居ますから、僕は子守りをしないと》


「あら、見られたか、ごめんな」

《で、どうだった?》

《それはもう怖かったですよ、無関心になるギリギリで、でも冷静さもあって、純粋な怒りで》


「怒ってる時の解説って凄い恥ずかしいから止めて」

《だって、貴重なんだもの。私達は同じ轍を踏まない為にも、学習すべきだと思うんだ》

《良い心掛けだ》

《怒らせてはいけないって事は良く分かりましたね》


「後先考えないで、巻き込まないで、自分の尻拭いが出来ない事はしないでくれれば良い」

《団体行動時は特に和を乱すなって、シーリーさんが言ってましたね》


「だから余計に、こんな良い親なのに何でお前は馬鹿なのかと、ふつふつと怒りが込み上げた」

《良い親だから、適当で馬鹿で生きてられるんだよ、私みたいに》


「君が思うより君を高く評価してる、こうなって特に君のランクは上がってる」

《ありがとう、でも私もこの能力が無かったら、ルーカスみたいに自分勝手で周りの事を考えない人間になってたと思う、本当に》


「曲がりなりにも似た能力があって馬鹿なんだぞ、始末に負えんよ」

《君の怒りは最もだと思うけど、どんな理由なら許せる?》


「ワシの所在地を知らないと、誰かが死ぬ」

《じゃあ、死ぬほど寂しかったとか》


「ころす」

《あー》


「報復行為は既に考えてある」

《凄い不穏》


「ラウラの訃報」

《それはショック死しちゃうんじゃないかな》


「その程度で死ぬなら死んどけ」

《根深いなぁ》


「それでも許さなきゃいけなくなった時の事を考えて悩んで、ミア達に相談した」

《どうだった?》


「楽しかった、腹黒く他人に厳しく生きるか、毒を盛ってお腹を壊して貰うかって」

《ふふふ》

《くすくす》

《毒を盛るって、シオンでもその位は出来るでしょうに》


「まぁね、でもお腹を壊してるに等しい程度の事では許せないし、許す必要が無い限りは考えるのを止める努力をする」

《勉強があるものね》


「それなー、それなのにさ、少し気分転換にプール行って楽しく帰って来たらルーカスで、お昼ご飯が少し遅れた」

《胃が痛そうでした》

《こやつがスープを進めていた》

《今は大丈夫?》


「寝たら治った、かなり泳いだのに筋肉痛もあんまり痛く無いし、元気」

《やっぱり、内部循環してるよねぇ》


「よし、もっと水泳がんばろ。あ、レーヴィファンのお姉さんに声掛けられたよ、指導してくれて良い人だった」

《お、今度言っておかないとね》


「うん、それから常連のおじさん達にも、お姉さんが声掛けてくれたから話し掛けてくれたみたい、褒められた」

《あー、分かったかも、結構筋肉ある人達じゃ無い?》


「そうそう」

《泳ぐの早いんだよね、従兄弟らしいよ》


「はー、にてない」

《そうなんだよ、それなのに似てるだろって言い張って来るんだよねぇ》


「今度話し掛けられたら言ってみよ」

《気に入られちゃうかもよ》


「気に入られちゃうか」

《ふふ、所でその髪の話しは、いつしてくれるのかな》


「あ、忘れてた。ロウヒ以外にしてもろた」

《そっか、心労で白髪にでもなったのかと思ったよ》


「そういう見方か、おばあちゃんかよ」

《だって、寝込んでるし、もしかしてルーカスの事で?》


「まぁ、目くらましになるか怪しいけどね」

《随分変わったよ、不思議》


「そうか、甘いの欲しいな、甘じょっぱいのが良い」

《じゃあパンケーキ作ろうか》




 炭酸エリクサーとピザで腹八分目までにして、後はマティアスが作るパンケーキを待つ。


 メレンゲを作ってから焼いたフワフワパンケーキ、バター多め、生クリーム盛り盛りにしてメープルシロップを掛ける。

 生地に少し塩を入れたのか、バターをたっぷり使ったからか、甘じょっぱくて美味しい。


「たまらん」

《この甘じょっぱいは良いんだね》


「コレだけかも、無限に食える」

《ふふ、もっと焼くね》


 皿いっぱいにフワフワパンケーキを載せて、ストレージへしまった。

 その序に樽の中も回収へ、マティアスが洗い物をしている間に済ます。


 温めたミルクを飲みながら、お腹がこなれるまでマティアスが持って来てくれた塗り絵を塗る。

 海の中の塗り絵、海藻や魚、貝に色を入れていく。


 寒色系の中に、刺し色的にヒトデや魚を赤く塗る。

 この位の赤ならね、良いのよ。


「悪夢を見た時は、どう切り抜けたら良いと思う」

《逃げるのは遅く感じるって言うし、火炎放射器で迎撃とか?》


「汚物は消毒か、良いな、赤で赤を塗り替えるか」

《塗り替えるのは良いかもね》


「おう、ありがとう」


 机を占領している事もあって、マティアスは妖精のスケッチを眺めている。

 妖精達は絵の横で同じポーズをしたり、絵の裏で影絵の様に遊んだり。


 それから次は丸薬作り。

 マティアスが手伝ってくれたので、かなり量産出来た。


 台所いっぱいに丸薬を広げた所で眠気、就寝。

《マティアス》『ロウヒ』『マーリン』《シバッカル》『ルーカス』


《爺や》


久し振りの「シーリー」

《スズランの妖精》《ユスラウメの妖精》「イデリーナ」《ドイツの妖精》『ミア』



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