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95:恋心と友情と

遥パート:一途が配信に夢中になる中、遥は深く悩んでいた。

彼の心はどこへ向かうのか......。

 高知瑠衣の誘われるまま、オレは映画館近くの喫茶店にいた。

目の前には飲めるはずのないブラックコーヒーと、高知瑠衣が座っている。

自分が彼女の言葉に乗ってここに来ているのに、自分はここにいないような不思議な感覚がのっそりと襲い掛かる。数分ほど、机の上のコーヒーを見つめていると一途の顔が浮かび上がってきた......。


「いまごろ、一途はまた誰かとコラボ配信してるんだろうな......」


「どうですかね......。 あ、どうやらコラボでVRホラーを体験してるっぽいですよ? 見て見ます?」


瑠衣さんがスマホをこちらに見せるも、オレは見る気も失せていた。


「いや、いい......」


自分とコラボしたい、っていうことだけで始めた一途が遠いところいったなんて感じたくない......。思いたくない。


「やっぱり、一途さんのことで悩んでるんですか? さっき、『聞いてほしいことがある』と言ってましたけど」


オレは黙って頷く。ゆっくりと出されたコーヒーを口に含んだ後、オレは彼女に自分自身について話してみることにした。


「1年の頃、オレ達は互いの『好き』は友達としての好きだってことにしてた。オレが勝手にそうしてたのかもしれない。でも、それじゃどうしても抑えられないものがあって......。男同士なのに変、だよね」


そういうと、瑠衣さんは首を横に振る。

さらに、彼女は机の上のオレの手をそっと握る。


「遥さんが気にしているのは、同性同士がとかじゃなくて、『相手を傷つけて元の関係ごと終わらせたくない』ということなんだと思いますよ? 恋愛というのは、『好き』から一歩前に出ることです。だからすごく、気持ちわかります」



彼女の優しい言葉が心にしみる。

......そうだ。オレは、怖いんだ。今までの関係を終わらせてしまうんじゃないか? 本当にオレ達はありのままを好きでいられるのか......。それが怖くてたまらない。でも、オレは......。


「遥さんの恋する姿は可愛いです。そして、改めて実感しました。あなたが愛おしいということに」


瑠衣さんの目が輝きだす。彼女の言葉に困惑するも、久しぶりにかわいいと言われたのが恥ずかしくも嬉しいと感じた。するとさらに、瑠衣さんはオレの心に触れてくる。


「でも、こんなに可愛らしい方を放っておくだなんて一途さんという男は何をされてるんですか?」


ドキリとした。オレのもう一つの感情を読まれた気がしてならなかった。ドキドキと心音が今にも彼女に届きそうだ。


「い、いや......。あいつもあいつで忙しくなったから......。オレとの時間を作るために忙しくなるなんて矛盾してるんですけど」


「いや、もしかしたら他の人と浮気するのに忙しくなったのかも?」



いや、そんなはずがない。あの一途が浮気? 

てか、付き合ってもないのに浮気って意味わからんけど。

そう思っていると、喫茶店に騒がしく数人が入店してきた。

ふと見ると、一途だ。それに2人ほど連れている。誰だろう......。まさか、浮気?

一途達は、店員に言われるがまま自由に席を探し、オレ達を見つけてきた。


「あれ、遥に瑠衣さん? こんなとこでなにしてんの?」


「おまえこそ、配信してたんじゃないのかよ」


「いや、終わったけど?」


終わった? そんな短い時間でか? 怪しい......。

いや、でも瑠衣さんが言うには配信は本当だろうし、理由もなくどこかへ行かないだろう。

時計を見て見ると、どうやらこちらが1時間半以上もここに滞在していたらしい。


「まあ、そんなもんか......」


「なにむくれてんの? こっちは大変だったぜ? なぁ」


一途が男女二人と向き合うように、オレ達の席の向かいに座り始める。

男女二人は、ゆっくりと首を縦に振る。ていうか、この子たちは誰なんだ?

もしかしてコラボ相手か?


「その人たちは誰?」


「ああ、この人たちは」


というとすぐさま、一途の向かいの席にいた女性が一途の言葉を遮りながらこちらを向いた。


「か、彼女です! で、こっちは......私の兄です! ね、お兄ちゃん?」


一途の彼女? そんな話聞いてないぞ! やっぱり、裏で女性といちゃいちゃしてたわけか。

一途の彼女と称する女性の隣にいた兄も、少し間を開けてうなずいた。


「一途......。説明してくれる?」


一途は、焦っているように見えたが若干混乱していた。



「いやいやいや! 彼女じゃねえよ! ちょっと待てよ。説明も何もないって遥! なに、言ってんだ?」


「ひどい! 名前の通り、一途に愛しますって約束は嘘だったんですか?」


「は? え?」


女性の目には少し涙が浮かんで見えていた。

そうか、そうだったのか......。邪魔なのは、オレの方だったってことか......。


「いいよ、一途。無理しなくて......。オレのために彼女を傷つけないで。 行こう、瑠衣さん」


オレと瑠衣さんはそこから逃げるように会計を済ませて店を出た。

瑠衣さんは、慰めるようにオレを見つめる。


「よかったんですか? 一途さんのこと」


「よくはないです......。でも、今日はもう忘れたいです......」


「そっか......。じゃあ、忘れるまで自分が付き合いますよ? 今日一日」


 なに勝手に傷ついてるんだろう。一途だって普通の男の子なんだ。恋愛くらい、男より女の子とした方が楽しいよな。オレも彼女についていってるってことは、自分が好きと言ってくれる人なら誰でも良いんだな......。最低だと分かってはいても、オレは両手で体を抱えながら瑠衣さんの背中を追っていく。

心ここにあらずな遥と、なにも理解できないでいる一途。

二人はまた同じ道を歩くことはできるのか......。

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