93:すれ違い、恋。 さりてもめぐりあい
遥パート:ミアとの会話で、一途への思いを再確認しようと映画のチケットを買った遥。
彼の、一途のための癒しデートが始まっていく。
大学の授業は、2年生になると緊張感が教室を覆う。
オレと一途は、そんな中Vtuberとして活動するというもう一つの生活がある。
そうなると、かなり体力的に問題が出てくる。というより、こいつの居眠りは1年からのオハコだがな。
「起きなさい、一途」
「ああ? もう、授業終わり?」
ぐぅっと背伸びをしてとぼける一途。
1年の時の余裕さはなく、ぐったりとした顔にオレは手を添える。
「終わり? じゃねえよ、ちゃんと寝てるか? Vも大変だと思うけど、こっちが本業だろ。一緒に卒業するならしっかり頼むぜ?」
一途は、オレの手を受け流して取り払う。
「寝てるって......。ただ、それ以上に体力いるってことってわかったよ。Vtuberの活動ってのはよ」
「ちょっとお休みして、自分の時間作ってみたら?」
そういうと、一途は立ち上がって一人講義室を去ろうとする。
「できてたら苦労しねえよ。これ、見てみろよ」
講義室を後にしたオレたちは、近くのベンチに座り、炭酸ジュース片手に一途のスマホを共有する。
そこには、次のコラボ相手であろう「きりぱんずー」の山茶花ぱんだからのDMがあった。
「人気者に休みなしってか......。それでもなぁ、人間休まなきゃだろ。特にオレらは学生だろ。大学生とはいえ本業は学業だろ」
「休みねぇ。休みってなにしたらいいんだ?」
休みになればいいなとオレは、今日映画のチケットを2枚持ってきた。
水族館だとか歩いてどこかへ行くよりも鑑賞で楽しめる娯楽をと思ったんだが......。
オレはカバンから財布を取り出し、さらにその中から映画のチケットを取り出した。
「ここに2枚のチケットがあるじゃろ?」
「映画か? 悪くないな......。何の映画?」
「さぁ? 人気そうなタイトルだったけど......。戸締りがどうのってやつ」
なんでもいいから、きっかけが欲しかった。二人きりになれる雰囲気作りであれば部隊はどこでもよかった。だから、特に映画のタイトルなんて気にしてなかった。これで、オレの気持ちも整理できる......はず。
「なんもわからんとチケット買ったのか? しかも二人分」
「別にいいだろ。どう? 一緒に行ってくれる?」
オレは最大限の甘え顔を一途に見せる。一途はそれに対して嫌そうにも照れながら答えた。
「ああ、仕方ねえ。今日なら特に用事ねえから付き合ってやるよ」
今日の講義は、お昼までだったな。映画は午後からだからお昼食べてからでも間に合うはずだ。
「いいねえ。そうでなくちゃ! じゃ、お昼食べてからいこっか」
お昼を食べに食堂へ向かい、トレイに乗った定食を持って座る場所を探していると、押崎さんが手を振ってきていた。人も多いことだし、彼女の好意に甘えるとしようか。
「一途、押崎さんんとこいこ」
「おお」
押崎さんの向かいに座ると、彼女の隣には例の高知瑠衣さんがいた。
そういえば、彼女もここの生徒だったな。
「どうもっす」
「お久しぶりです......」
「あれ、瑠衣先輩と遥くんたち知り合いなの?」
そういえば押崎さんは、瑠衣さんがVtuberジル・デ・ジルコニアの双子の妹だって知らないのか。
彼女は、俺たち二人に「私のことは彼女に言うな」という強い無言の圧力を発していた。
一途も気づいてか、開きそうになった口をつぐむ。
「さ、さっさと食べて映画見に行こうぜハル」
割り箸を割って、一途は変なことを口にしないようにうどんを口に入れていく。
オレも、少し早めに定食を口にしていく。
「どうしたの二人? 映画って、もしかしてデート?」
「「違うって」」
オレ達は口にものを入れたまま、同じタイミングで否定してしまった。
まるで、デートするのを意識してるみたいじゃないか......。
「ふーん......。仲、いいんですね」
対照的にゆっくりとコップを口につける瑠衣さん。その目はどこか、凍てついたものを感じた。
オレは目をそらし、定食と一途を往復する。 一途は、みるみるうどんを減らしていく。
「ごちそうさん!」
少しした後、オレも食べ終わり片づけを始める。
押崎さんは、寂しそうな顔をしてオレたちを見つめる。
「えー、もう行っちゃうの?」
「映画があるしね。 じゃあね、席ありがとう! 行ってきます」
笑顔で見送る押崎さんとは対照的に、瑠衣さんは表情変えずにオレたちの行く方向をずっと見つめていた。その目はどこか、獲物を捕らえんとする獣のようなものを感じた。身震いしつつ、一途と共に映画館へと向かう。ショッピングセンターのエスカレーターの最上階を押してたどり着いた異空間。
「お、あれだ。オレたちの映画。ちょうどいいじゃん! はいこれ」
オレは一途にチケットの片方を渡して映画館へ向かう。大きなスクリーンと、ずらりと並ぶ座席に時折り匂うキャラメルソースがオレ達を高揚させる。席に座り、軽く雑談しているとすぐにスクローンが広がっていく。準備の合図だ。まもなく、映画が......始まる。自然と、手すりに手を置くと一途の手と重なったのが感じた。一途はどいたりしなかった。逆に、オレの手をギュッと握ってくれたりもした。
......。おじさんが、家の戸締りし忘れただけ?
たったそれだけで、スワットとか呼ぶなよ......。
なんだこの映画は......。頭痛くなってきた......。
長い、長い2時間が過ぎ、オレはやっとこの拷問椅子から逃れられると伸びをしていると、一途は頭を抱えていた。そうだよな、こんなの見せていい雰囲気になんてなれないよな......。オレはなんてリサーチ不足なんだ。
「ごめん、こんなクソ映画とは知らなくてさ......」
「......。いや、何言ってんだよ! 確かにくそつまらなかったけどよ、俺は好きだぜ? こういうの」
逆に元気そうな一途にオレは少し安堵していた。元気を取り戻すことができて本当に良かった。
こいつの好みはよくわからないけど、好きと言ってくれるならオレもこの体験を嫌いにはならないだろう。
「おっと、もうそろそろ準備しないと! ありがと、おかげでリフレッシュできた!!」
「あ、ちょっと......」
もう少し、映画の感想を語りあったり、お茶とかしてくれてもいいのに一途は活動のために姿を消していった......。忙しすぎる......。オレが簡単にコラボを言えるような相手じゃなくなったようで、少し苦しい。もっと、二人でいろんな場所に......。
「物足りないみたいですね」
「うわっ! びっくりした!」
後ろを振り向くとそこには、高知瑠衣さんがいた。彼女は、大学でいたときのままの恰好で佇む。
大学から、ついてきたのか? 全然気づかなかった......。彼女は眉を上げて、一途が立ち去った方を向きながら
「小田倉さんて、とても忙しい人なんですね。ま、人気Vtuberだから仕方ありませんね。でも、姉には及びませんけどね」
「何が言いたいんです? ていうか、オレ達のことつけてきたんですか?」
そういうと、彼女はオレの手を握る。
オレはびっくりして放そうとするも、力強く握りしめてくる。
「自分なら、あなたのことを絶対に傷つけないし独りにしない。悩みがあるなら、自分でよければ聞きます......。それだけでいいんです。だめ、ですか?」
女性的な柔らかな感触と、においがふわりと頭を惑わす。
一人で、抱え込んでるこの気持ちを、誰かに知ってほしい。
「ちょっと、聞いてほしいことがある......の」
マヒした頭の中、言った言葉は自分でも理解しがたいものだった。
でも、誰でもいい、オレのことを教えてくれる聞き手が今は必要なんだ......。
なにもわからないまま、遥の心には隙間風が吹くばかり。
その心に寄り添うように瑠衣は彼をいざなう。
そんなことも知らずに一途はコラボ先のきりぱんずーたちの元へ向かっていってしまう。




