80:動きだす秘密どうし
遥と共に一途は下ネタヘイヘイこと木下に会うことにした。
お腹の周りになんとなく重いものを感じて起きてみると、どうなったらそうなるのかわからんが遥が俺を枕にして寝そべっていた。起こさないようにゆっくりと彼を下ろして俺はパソコンの前に立った。
「昨日はいろいろ大変だったからな」
念のため公開停止にしていたこの間の配信を編集ソフトで切り抜いた後、SNSでの謝罪文を作成しつつ動画として投稿した。休みだからか、朝早めの投稿にも関わらずSNSではハートマークが飛んでくる。
投稿した動画にはいいねが増えていく。
「これでよしっと」
しばらくパソコンとにらめっこしていると遥が起きてきた。隣であいつが寝てるだなんて初めてではないのに、昨日は少し変な緊張をしてしまった。今でもそうだ。俺の寝巻を着ているというだけでも変な気分になってくる。
「ん、はょ」
「おはよ。朝ごはんは俺食わねえから、食いたきゃ勝手に冷蔵庫あさっていいぞ」
「んにゃ......。そうする......」
すると、すぐに彼は風呂場に行った。
すぐに戻ってきた遥の顔は先ほどと打って変わってすっきりとした表情だった。
「なにしてんの」
「うん、昨日言ってた親衛隊員に連絡取ってるところ」
今の俺はエル親衛隊としては失格だ。だけど、それ以上に俺自身が遥とともにVtuberとして並びたいという気持ちが強い。だからこそ、今はエルがもっと活動できやすいように切り抜きチャンネルの統一化を図らないと......。
「オレも行っていいか?」
遥は再び俺の隣に座り込み、こちらを見つめ続ける。
俺は遥の方を向いた後、ぽつりと
「おい、ファンにお前の姿みせんのか?」
「いやぁ、でもオレもお願いする立場だしさ......。ちょっと、いろいろルールとか決めたいし」
「わかった。お前も連れてくって言っとく」
そういって、俺はパソコンの方に向きなおして確認を取りなおす。
連絡をしているのは、下ネタヘイヘイというアカウントでいつも俺たちとともにエルちゃんを応援している高校時代の友人、木下だ。あいつも切り抜きチャンネル作ってるみたいだし、きっと俺たちのいい相談相手になるはずだ。
すると木下から返事が来た。
『なんと! エルたそ直々にあってくれると! 小生感動ですぞ。ぜひいらしてください』
いつも通りの古典的なオタク口調で二つ返事を返してくれた。
まあ、エルちゃんの中身が男って知っているから幻滅することはないとは思うけど......。
「連絡も取れたことだし、行くか!」
そう言って俺が着替え始めると、遥は昨日の服に着替えなおして
「オレはこのままだと気持ち悪いから一旦帰るわ」
「おう」
俺は、するりするりといつもの青のジーパンに白黒のボーダーシャツで遥の家の前に待機する。遥が飛び出してくると少しタイトなパンツと少し首元のはだけたポロシャツを着て出てきた。
「妙にめかしこんでんな、お前」
「初めて会う人だし」
ゆっくりと階段を降り、坂を下りて駅の方へ向かいながら話を続けていく。
「別にそこまで初めてじゃないと思うけど」
「は?」
改札を通り、木下に言われた駅近くの喫茶へと向かっていく。
木下はそこでバイトをしながら漫画家を目指しているらしい。以前に見た彼の描いたエルちゃんが、あまりにもえっちなのを今だに覚えている。特に談笑もなく、それぞれにスマホを取り出し揺られていると目的の駅の名前が読み上げられた。
「よし、降りるぞ」
「もう? 一駅じゃん」
そそくさと降りようとする俺に、ついて行こうと遥が小走りしているのが見えた。
駅から少し歩くと、古風な喫茶店「うさぎ日和」という店にたどり着いた。ここがあいつのいる場所か。てか、まじでここで働いてんの?
「お、きましたな! 小田倉氏! こちらです!」
そこにはメガネをかけた好青年が座っていた。見ないうちに大分変ったな......。
こじゃれた服装を着こなし、タブレットをバッグに詰めてこちらに手招きした。
「ずいぶんとイメチェンしたな」
俺が木下の向かい奥に座り、笑いかけると木下は頭をかきながら苦笑いを浮かべる。
「漫画家といえど、コミュニケーション能力や身だしなみは大切ですからな。そのためにもここで働いておるのです。今日は非番なのですけども」
「そうだ、紹介するよ。神野エルとして活動してる......」
「霜野遥です......。ってどこかでお会いしましたっけ?」
遥が首をかしげながら、俺の隣に座ると木下は顎に手を当てた後、俺に振ってきた。
「小田倉氏、この方もしかして私たちのご学友でしたかな? 見覚えがあるのですが」
「そうそう。高校一緒だったぞ、俺たち三人」
「そうだったっけ? ごめん、おぼえてなくて」
遥が軽く謝ると、木下はまったく気にしているわけでもなさそうだった。
「小生、高校時代は霜野くんのような人間とは関わらないようにしていましたからね」
切り替えるように、木下は俺たちにメニューを見せた。
俺たちはそれぞれに飲み物を注文し、しばらくすると俺の元にカフェオレが届いた。
そのタイミングを見計らったように木下は口火を切る。
「それで、二人とも、切り抜きチャンネルの件ですが」
「おう、引き受けてくれるか?」
「ええ、問題ありませんよ。小生筆頭にネットで知り合ったエル応援隊で運営しますぞ。何かご要望があれば小生までご連絡くださいませ。あ、ライン交換する?w」
そういうと、スムーズに遥はスマホを取り出して二人で連絡先を交換しあった。
これでエルちゃんに興味を持ってくれる人も増えてくるだろう。
「ありがとう、これからも応援よろしくね♪」
「おほー-! 推しに言われるとは小生やる気が出て参りましたぞ!! いや、まさかエルたその魂が知人だったとは......。なるほど、あの人はそれで小生に......」
急に木下は一人でに納得し始めた。
俺は頼んだカフェオレを口にした後、木下に聞いてみた。
「なんかハルについて聞かれたのか? 誰かに」
「ええ。どこからかネットの波に乗ってきたのですよ。単純に私がエルちゃんのファンだっただけで狙われたのかもと思ったのですが、どうやら聞いていたのは小生だけのようでした」
「どんなやつかわかる?」
遥は真剣なまなざしでその人間について話を聞く。
そういえば夢野がハルを知っていたことに関してはなんも解決してなかったな。
もしかしたら木下に接触した人間と夢野にハルのことを話した人間とがかかわりがあるのかもしれない......。
「捨て垢でかなり特定は難しかったですが、おそらく昔エルちゃんの応援隊をしていた人間かと......。文面でもかなりの古参であることがわかりました。もしかしたら、昔ファンの間で問題視していた『らぴす』という方かもしれないです。あくまで憶測ですが」
「らぴす......。エルちゃんにかなり粘着してた人か......」
俺も少し絡みのある人だったから覚えている。エルちゃんもといハルがブロックしてからてっきり見なくなっていたが、まだ執着心があるのか。 遥の顔が青ざめつつも冷静になろうとコーヒーをすする姿は、俺のカフェラテを苦くさせた。
木下から明かされた「らぴす」という名のファン。
らぴすは遥たちにどんな影響をもたらすのか!?




