69:配信は後輩に任せろ......ってこと!?
神野エル、むま・むうま、シスター・ミィアそして冥土みやげの4人で配信することになった。
ゲームのジャンルはスポーツ! 彼らは汗をかきながらそのコントローラーを握る!
配信はスポーツを題材にしたゲーム、「みんなでe・スポーツ」をプレイすることになった。
ミィアを軸に配信が進行していく。私たちの方が先輩だというのに、彼女の方が進行役という作業において異常に私たちより小慣れているようだ。
『じゃあ、次はボクシングでタイマン張ろうぜ?』
シスターミィアはヤンキーのような口調で俺たちに拳を向ける。
カメラ越しには彼女のアバターがフリフリ動いている。......こいつ、後輩のくせにめちゃくちゃ回すな。舞華も声色を変えてむうまになりきりあざとい動きをしている。オレも学ぶところが多いな。
『いいな! サキュバスとシスター、因縁の勝負に決着をつけてやる!』
「トーナメント方式でやる感じ?」
オレが大げさに首を傾げると、みやげちゃんが縦に首を振る。
『そうしよっか! 私とエルちゃん。そんで、ミィアちゃんむうまちゃん組で!』
コメントが颯爽と流れだす。中にはスパチャしてくる人も現れる。ハァハァ言ったり、オレら4人がいちゃいちゃするのがとても体にいいということだ(?)
そうこうしているうちにミィアとむうまの試合が始まった。
『やんのか!』
『こいよおらぁ!!』
二人の操作するキャラクターがジョイコンの持つ手とシンクロして動き始める。
むうまの動かすキャラの拳がミィアのキャラのボディにヒットしていく。
『オラオラオラオラ!!』
『なんのぉおお!!』
「うおおおお! いいよ! しっかりボディとらえて!!」
むうまのラッシュがミィアのHPを削っていく。そして、フィニッシュしむうまが勝利を収めた。続いてはオレとみやげちゃんの番だ。みやげちゃんはむうまからジョイコンをもらうと素振りでシュッシュッと拳を打ち始めた。
なんか、ガチじゃない? オレは、ミィアからジョイコンを受け取り、試合に挑む。
『よろしく、お願いします』
「うっす。お願いします」
スタートの合図であるゴングの音が鳴り、拳と拳、グローブとグローブがこすれあう。
画面上の出来事だというのに、気迫が肌までピリピリと感じる。オレはなぜかその気迫に押しつぶされそうになりながらも必死で抵抗する!
「うおおおおお! ここで終わってたまるかぁ!」
『無駄です。あなたの拳はあまりにも大雑把すぎます。だから隙が生まれるのですよ』
ボディブローが何度も決め打ちされていく。ガードボタンを押す隙も与えられずに体力はどんどんとすり減っていく。彼女の観察眼は鋭い。オレの動きを先読みするかのごとくひらりとかわしては強く拳を押し付ける。自分も負けていられない。
『もう、おしまいですか? どうですか、女の子に負かされる気分は』
「ははは、楽しいよ。このまま負けるのは嫌だけどね!」
白熱した戦いはなんとかオレの粘りでもっているようなものだ。始めはやられてばかりだったが、見ていくうちにみやげちゃんにもちょっとした癖があるのが見えてきた。今度こそ、カウンターを狙える!
「今だ!」
『なっ、腕が伸びっ ぐへ......。結構削られちゃった。中々やるね、エルちゃん! どうやらみやげ戦法を読めるようになってしまったようだ。なら、ここ一気に決めるわよぉ!』
みやげちゃんのいつもの冷静さはなく、そこには一人の孤高の戦士がいただけだった。
そして、最後の攻撃がオレが操作していたキャラの顔面を捉えた。 画面には『K.O』の文字が出てきた。オレは、負けたんだ......。
「めちゃくちゃすごかった。完敗だよ」
『いえいえ。エルちゃんこそ、最後はいい戦いぶりでしたよ』
戦いは、決勝戦むうまVSみやげちゃんとなった。むうまが先制攻撃を仕掛けていくも、やはりみやげちゃんの卓越したセンスが光り華麗に躱していく。だが、むうまはその先を行っていた。先ほどの戦闘を見ていたからか、逆にみやげちゃんの動きを先読みして次々とクリーヒットを打ち出していく。
「やっぱりゲームがうまい人同士だと白熱するなぁ。お互い体力が並んできた。全然勝敗わかんないよ」
『むうちゃんもうまいけど、みやげ先輩も引けを取らないねぇ。そそるわぁ。こうやって横を眺めるだけで二人ともイケメンだもん。えっちだわぁ』
「ん? どゆこと?」
『うーん、スポーツ女子はエロいってことかな。そんなこと言ってたら見て! むうちゃんが押してる!』
ゲームの画面を見ると、そこにはへとへとになっているみやげちゃんの操作キャラがあった。みやげちゃんも少し息が荒くなっている。結局勝負はつかず、終わりのゴングが鳴り判定に持ち込まれた。結果、AIのジャッジにより、むま・むうまの勝利に収まった。
『いやー、すごい試合だった。正直、私らの3位決定戦なんていらないんじゃない?』
ミィアが茶化すとむうまが余裕そうに切り返していく。
『いやいや、私はみたいよ? ミィアちゃんとエルちゃんのバトル。みんなも見たいよね?』
オーディエンスに振ると、コメントが湧き始めて『見たい』という声が多くなっていった。だが、その熱狂は冷めるように3位決定戦は特筆することなく、オレの圧勝だった。すごい、申し訳ない。
たくさんゲームを遊び、沢山いいものを学んだ気がする。後輩と言っても侮れないものがそこにはあった。オレももっと頑張って登録者100万人目指したいな。 そう思ったころ、配信は満足な状態で終わりを迎えた。 シャツの上にフルトラッキングスーツを着ていたせいで少し蒸れる。みんな、少し汗をかきながら疲れを労い始める。
「お疲れさまでしたぁ」
むうまが、水を飲んだ後みんなの方を向いてお辞儀をしたのでオレも習ってお辞儀した。
「おつかれ様、です」
息を整えながらみんなバラバラに帰ろうとしたとき、ミィアこと鬼灯ミアが口を開いた。
「このまま解散ってのもなんかあれだし、みんなでご飯いかない?」
年齢的にお姉さんっぽそうなミアさんが音頭をとると、舞華がそれに乗っかった。調子よくて、ぐいぐい行くのが彼女の長所かもね。
「行く行く! ハルとみーちゃんは?」
すると、みやげちゃんは驚いた顔をした後、うつむく。
「え? みーちゃん!? いや、えと、あの......」
「陽キャノリやめなさいよ、マイ。ごめんね、でも私はみんなと仲良くしたいんだけど」
そういうも、みやげちゃんの意思は固かったようで、彼女は首を横に振った。
「やっぱり、まだ難しいです。嬉しいですけど、今日はゆっくりしたいです」
「ま、そうだよね。じゃ、私とマイとハルで行くか」
「いや、なんでオレは強制?」
「だって、あんた暇そうじゃん。それに聞きたいこといっぱいあるし」
「うんうん」
なんだこの、いじめグループみたいなノリは......。まあ、暇だし付いて行ってもいいとは思ってたけどさ。もうちょっとオレの言い分も尊重してほしいよ。そう思いながら心のどこかでウキウキしながら二人の後をついていくのだった。
みやげちゃんの真意はまだ不明だが、大勢の視聴者が満足した配信となった。
4人の人気は今よりもずっと強く、固いものになった。
※次回も遥視点で続く!!




