66:タバコのにほいのするお姉さん
ある日、一途が遥の家に遊びに行こうとしたところなぜか彼の家に行き来する女性の姿を目撃してしまった。動揺した一途は、ひっそりと探索を続けるのだった。
今日はせっかくの休みなので、遥の家へ遊びに行こうとしたとき俺はとんでもないものを見てしまった。それは、遥の家に入る女性の姿だ。しかも二人別々で......。
「あいつ、もしかして女遊びでもしているのか? まさかな」
しばらく少し離れた外で遥の家を見張っていると、分かったことがある。
遥の家に出入りしていた女性の一人は以前、俺たちに話しかけてきた有名人の後輩『夢野舞華』。
彼女は、Vtuberとしても活動しているからあいつの家に行くのは想像がつく。前の時も押し入って配信したらしいし。
「それにしてもあいつ、大胆に中身の性別公表したよな。なつきさん大慌てだったろうに」
犯人の家に張り込む刑事のように息をひそめしばらくすると、もう一人の女性が現れた。
外でもなりふり構わずタバコをふかせて、その長くウェーブのかかった髪をなびかせカツカツと音を立てて階段を上る。
「誰だ、あの女......。やたらといい女感出してるけど」
「なーにしてるの」
「張り込み中だから静かにしてて、押崎さん。え、押崎さん?」
横にちょこんと立つ押崎さんを横目に見る。どうしてこんなところにいるんだ?
「そっちこそ、何してんの」
「ちょっとだけ、遥くんが気になって......。ほら、性別公表してたじゃない? それで、ほとんどの人たちは受け入れてたし笑ってくれてたじゃん?」
「まあ、みんな分かってて推してた人がほとんどだったみたいだし。でも、それがどうかしたの?」
そういうと、俺に自分のスマホの画面を見せた。これは、エルちゃんに対するコメント? なにやらあまりよくない言葉が散見されているように見える。
「これは......ちょい炎上してるっぽいな」
「うん。女性として見ていた人たちが夢を壊すなって。でも、こればかりはしかたがないよね......」
「俺も、あいつのこと知らなかったらそうなっていたかもな」
多くの批判と悲しみの声は、分からなくもない。俺も神野エルの中身はエルちゃんと同じく可愛らしい女性とばかり思っていた。でも、現実は違う。遥は男だし、高校生でもなくなった。
「あいつより、正直夢野舞華が心配だな。彼女がやり玉に挙げられていなかったらいいんだが」
「以外。でも、そういう優しさも一途くんらしいね」
「そう、かな」
次々と出入りする女性に違和感を覚えながらも遥が一人になるを待つ。押崎さんも少し気になるようで、二人一緒に張り込むことになった。
「うーん、遥くんに彼女がいるとは思えないし、やっぱりV仲間が家にきてるだけかな?」
「夢野の言葉を忘れたのか? 誰かが、あいつの個人情報をすべて知っているとしたら厄介だぞ。ファンやアンチが湧いて出てくるぞ」
夢野は、遥についてすべて知っているという雰囲気ではなかったものの、俺と同じ大学にいるというところまで特定されていた。そうなってくると、住所や本名がバレるのも時間の問題だろう。
「あ、今女の人出たよ。多分、今なら遥くん一人じゃない?」
「よし、行くぞ押崎警部。乗り込みだ」
「はいよぉ! 刑事殿」
俺たちは女性が階段を降り切って彼方に消えたのを確認した後、素早く階段を上り遥の住む部屋の玄関をノックした。
「開けろ! 開けないと死刑だ!」
「んだよ。っっせえな。押崎さんまでなにしてんの」
遥は少し肩の出たシャツを着てドアを開けた。少しドキッとしたが、たじろいではいられない。俺は、彼に問いたださなければ......。
「少し、入っていい?」
「まあ、ちょうど暇になったし。入んなよ」
すんなりと部屋に入れてkれ他事には驚いた。先ほどまで女性がいたとは思えないほどのこざっぱりとした部屋の中、少し違和感を覚える。でも、この違和感がなにかわからない。
「ちょっと、待ってろ。お茶入れてやるから......。その辺座ってて」
少しぶっきらぼうに言いながら彼は妖艶な仕草で冷蔵庫のドアを開ける。あいつの尻、あんな綺麗......。いや、俺はなにを考えているんだ。 横でみる押崎さんはなにかを察したようににんまりとしている。なんなんだこの人は......。
「はい、お茶」
「さんきゅー」
「ご丁寧に、どうも」
「そんで? なに急に二人で押しかけてきたわけ? まさか私たち、付き合いましたってか?」
「「んなわけ!」」
急にどうしたんだ、遥。
いつもより、なんだか色っぽいような感じもする。メイク変えたか?
「冗談だよ、冗談。 ほんとはなに?」
「私は、そのSNSで結構炎上してたから遥くんの生存確認に来ました。そしたら家の前でばったり一途くんに会って。それで二人で押しかけちゃいました」
遥かは机に肘を付けて手のひらに顔を乗せた。憂いの眼差しで俺を見つめた後、
「それで、君はなんのようだい?」
「俺は、遊びに行こうとしたら女の人が出入りするのを見て、気になって見張ってた」
「見張ってた? ふ、妬いてんの? その女性に」
「そういうわけじゃない。でも、押崎さんの話聞いたら心配になった。お前、なにもないよな」
そういうと、バカみたいな表情になった。急にどうしたんだという感情より、笑いの方がすぐにこみあげてきた。こいつににらめっこで勝った覚えがないほどにこいつは変顔の名人だと改めて知らされた。
「なんだよw 急に」
「二人とも気にしすぎだって! オレなら大丈夫!! なつきさんには超怒られたけど、心機一転頑張りましょうって言ってくれてるし。舞華も気遣ってくれてた。こんど、別の人とコラボしようって話にもなってる。きっと、一途が見たのはその人じゃないかな?」
やっぱり、同業者の人だったか。でも、こうやって家に呼ぶ機会が増えるってことは簡単にはもう遊べないってことか。それはそれで嫌だな。でも、どうしようもなくないか?
「そっか。でも、家に呼ぶとなると、遊んだりあったりするのも大変になるかもな......」
「それは、断じて避けたいね。同じV好き同志なんだしさぁ。遥くんとも少し仲良くなれたと思ったのに......。 ねえ、一途くん! 私ママになってあげるからVにならない?」
「はぁ?」
俺が、Vtuberに? そんなの考えたことなかった。でも、そうしたら、配信だろうとなんだろうと一緒にいられる時間は増えるかもしれない......。でも、夢野みたいに元から有名な人がVになる方が圧倒的に多い中、なにもない俺が......。なれるんだろうか、Vtuber。
「ね? 私、一途くんにぴったりなガワ作ってあげるから。そしたら、みんなとこうしてまた遊べるでしょ」
「いや、でも......」
「押崎さん、そんなの言っても無駄だって。どうせ、こんな不器用な一途にはなにもできやしないって。それに3人との時間は絶対に作って」
「いいや、それだけじゃだめだ。それに、俺に不可能なんてない! 不器用でもやってやろうじゃねえか! お前の立つステージで俺もできるってことを証明してやる」
「てめえになにができんだよ! Vtuberなめんな!」
「なめてないからこそ、俺は避けてきた。でも、それじゃだめなんだ。いつか、俺たちとの時間を作れないときがやってくる。同じステージに立たなくちゃ一緒にいられないのなら俺が這い上がってやる。意地でもな」
「じゃあ、やってみせろよ! 一途ぉ!」
俺は、遥に拳を突き出した。それに呼応するように遥はクロスするように拳を突き合せた。これは男同士の約束だ。俺は絶対に、この三人が仲良く楽しく青春するためにVtuberとして駆け上がってやる。そして、あいつ自身に認めてもらうんだ。遥にふさわしい男になって見せるために!
突然に啖呵を切り始めた一途。Vtuberとして、遥と同じ世界を見たいという思いを胸に押崎と人知れず準備を進めていく。一方、遥は自分が軽んじていた問題に再度直面していくことになる。




