41:推しが推しでいるために
連投だぞ!
そして、ジンさんとの決着!?
ジンさんの提案で俺たちはボドゲで遊ぶことにした。
だけど、あの人の盤面を見る限り、単なる遊びで終わらそうとしていない。
お互い知らないゲームという双方に平等なハンデを利用したプレイング。いや、ジンさんのゲーム把握能力は知ってるからこっちが不利と思ってもいい。しかも一回勝負。
勝負となったら勝ちたいところだけど、勝ってどうなるってんだ。負けてどうなるってんだ。
「あ、そうだ。これ勝った方が今日一日相手の言うこと聞くってのどう?」
「俺があんたの言うこと聞くんすか? ハルじゃなくていいんすか?」
「いや、君に『ハルちゃんを文化祭の間デートさせて』って言えばいいんじゃん」
「俺は言うこと聞くかもしれんすけど、肝心のハルが効くか知らねえすよ」
こいつ、頭のネジ吹っ飛んでんのか? それとも俺のプレイミスを狙ったブラフか?
「ハルちゃんはどうする? 君はどうしたい?」
遥は少し困惑していた。そらそうだ。蚊帳の外の二人のゲームに巻き込まれちゃ目が点になる。
「一途が勝てばいい話でしょ。オレは一途を信じます」
「遥......。余計にプレッシャーな感じするけど、やるわ」
遥は俺に頷いて見せた。はぁ......。こいつが意志を固めてるってんなら俺は全力でジンさんにぶつかるだけだ。
「先行は僕からにするね。多分このゲーム後攻有利だと思うし」
「別に構いませんよ。どうぞ、お先に」
ふぅよかった。後攻なら戦略を立てやすい。ジンさんは初めの一手として、一番前で俺から見て右端のウィザードをそのまま前に進ませた。
「自分の手番時に一回しかモンスターは動かせないから僕はこれで手番終了。君の番だよ」
俺の前列はウィザード。前に進ませた意味はなんだ? 相打ち狙い? まあいいや。俺は左端のウィザードを進ませて目の前のドラゴンを取ることに集中しよう。
「ジンさんにはガッカリすよ。てっきり左のドラゴン逃がすと思ったけど......」
「別にあれは取られてもいいしね。目の前の利益だけ見てちゃ、だめだよ」
わかったような口聞きやがって......。だが、俺は前に進む。 そして、ジンさんは左端のドラゴンをさらに左に寄せた。やっぱ、取られたくないんじゃん。延命しても無駄なんだよな......。
「俺はそのまま左端のウィザードを前にするっすよ」
「他の駒、動かさなくていいの?」
「動かしても旨味ないっすから」
「そっか。馬鹿だね」
バカだねって......! こいつ、調子に乗りやがって。すぐにほえ面かかせてやる。
「じゃあ、僕は君のウィザードと僕のウィザードを斜めに動かしてバトルしようかな。裏返して」
は? いきなりあいこ狙い? こんなん、半分博打みたいなもんだろ。それともあの駒が裏面ありってのを見込んで誘ったのか? 俺の駒は裏がない。左2つがなしで、右2つが裏面ありだ。
「裏面なしっす」
「だろうね。僕は裏面ありだからもらうね。やっぱ君って安直だね。名前の通り一途ないい子だ」
「まじかよ......。おい、一途大丈夫かよ」
遥が俺の顔を見ながら肩を揺らす。確かにまずい。次のターン、どのウィザードを出しても正直勝ち筋が減るだけだ。ドラゴンを動かしてもネザーに行き着くころにはウィザードに全部殺されてる。
あれ......詰んでね?
「今更自分の動かし方を反省しても仕方ないよ。どうせ無策でしょ? 諦めたら?」
「諦めてたまるか! どこかに道筋があるはずだ。細くても光輝く勝利への道が」
「一途、俺はお前が負けても恨まない。だから、もうやめよう。ジンさん相手じゃ勝ち目ないって」
「お前は黙って見てろ! これはゲーマーとしてジンさんを尊敬しているからこそ、このゲームは降りない! 遥、俺はゲームは勝ち負けじゃないと思う。俺は、このゲームを楽しむ!」
俺は右端のウィザードを前に進ませた。これは賭けだ。さっきの左から2番目にあったウィザードが裏面ありだった。ということは初めに進ませたウィザードが裏面なしである確率は3分の2。確率は高い。
「うーん......。なるほどね。じゃあ、僕はこっちに」
右に逃げた。ブラフかもしれないけど俺には次の一手がある! 俺はドラゴンを右斜め前に動かした。これで直線にウィザードを捕らえた。あいうちになってもいいし、普通にドラゴンで取ってもいいようにしておけば逃げにくいはず......。
「ハルちゃん、ごめんね。つまんなくて」
「え? いや、二人の盤面見てるだけで楽しいですよ! だって、生のジンさんのプレイングみれるんですから」
「そっか。それならよかった」
「......」
それから一進一退の攻防が何度もあり、何回か除外されたこともあったけど、俺はジンさんの駒を3つ保有している。ジンさんは逆に2つだけ。特殊勝利は初めの時点でジンさんには起こしえない。俺も逆にネザーのドラゴンの方を取られているのでない。場には相手のドラゴン1枚と俺のドラゴン1枚とウィザード2枚だ。俺のドラゴンは裏面がある。相手がどっちだったとして相手に勝ち目はない。
「僕の方が詰んじゃったね、いわゆる王手だ。僕は策を弄した。だけど、策士は策を弄すれば弄するほど策に溺れる。終盤は端に追いやられて取られるしかない場面が多くなって返せなかったよ。完敗だ」
「じゃあ、最後の駒もらいます」
長い戦いはこれで済んだ。なんだか、この人の人となりがなんとなく分かったような気がする。この人はやっぱり細かい気配りができる人だ。俺が考えに浸っている間、ハルにもしっかり気配りをしていた。さらには勝てそうな場面でもあえて外してきたり、中盤は逆に俺が彼の台本通りに勝ったような感じさえした。それでも、勝ちは勝ちだ。
「それで、僕は君の言うことを聞くことになるけど、なにすればいいかな? 一生ハルちゃんと関わるなって言っても僕は受け入れるし......。いや、でもVtuberとしては痛手かなぁ。コラボ禁止ってなったら噂立っちゃうし」
「いや、そんな重い処置しないっすよ。じゃあ言うっす。これからもハルと良い友達として付き合ってほしいです。後、よかったら俺も友達になってほしいです。だって、こんなゲームできるお兄ちゃんいたら誰だって構ってほしいっすよ」
俺自身でも意外なことを言ったと思ってる。でも、やっぱり彼はハルの大切な友人で、尊敬する人でアイドルなんだと思う。俺も、押崎さんのスパルタ推し事があったからこの人の面白さがわかったのかもしれない。
「ははは......。友達、ね。 いいよ。君たちとはもう知らない中じゃないからね。二人とも、よろしく! というわけで、一号氏。写真撮影大会をしましょうゾ。ハルちゃんのチャイナ服を美しく取れた方が出店おごりで」
「俺をなんだと思ってんすかぁ? 拙者、写真撮影には少々腕がありますゾ」
俺たちはハルを置いてけぼりにして撮影大会に没頭した。
なぜか、撮影大会は俺が負けた。 けど、全然悔しくなかった。......いや、心の中で俺はあいつの一番になりたかったと内心思ってしまった。
鷹野仁はあくまで同じ推しを推す同志。
彼もまた、ともに神野エルを陰ながら応援してくれると信じて......。




