39:文化祭を楽しもう!(1)
文化祭満喫中の一途と遥の二人は、同じく満喫中の一途のバイト先の店長と鷹野仁と出会う。
まさかの店長、謎に包まれた過去にせまる!?
文化祭だけに作られた特設ステージでダンスサークルが華麗にストリート系ダンスを踊っている。
明日はここで押崎さんが活動してる吹奏楽部のステージになるのか。楽しみだな。
「なあ、一途。展示の方も行こうぜ」
ダンスナンバーが大音量で流れる中、自然と遥と距離が近くなる。
吐息とともに彼の飽きっぽさが顔に出ている。チャイナで女装しているのも相まってメイクもばっちり決めている。ただ、こいつ素のままでも可愛いと言うのもやっかいなところだ。胸の高鳴りを抑え大学の正門で配られていたマップを開く。
「ああ、そうだな。美術部と、文芸部、おいおいジオラマサークルなんてあんのか!?」
「興味あるなら行ってみる?」
別にそこまでじゃないが、こいつと一緒に見にいけるならどこでもいい。
「ああ、特に用事もないし行ってみるか」
ステージが見れる広場から人込みをかき分け、自然と手をつないでいつも講義をしている教室へと足を運ぶ。
夏コミの迷子の時のノウハウが生きたのか、俺たちははぐれずにすんだ。
「もう、人少ないんだしさ。手、つながなくてよくないか?」
「悪い。つい......。ていうかさ最近、俺らこういうの多くね?」
自分でも話題に出してしまったのはおかしいと思う。それでも、今まで以上にあいつの手に触れている気がする。まるで、自分たちが友人以上の関係を望んでいるかのように......。
「知るかよ......。ほら、早くジオラマ見に行こうぜ」
「おう」
遥にせかされて教室棟2階への階段を上っていく。いつも押崎さんと韓国語の授業をしている教室だ。
ドアの前には「ジオラマサークル」としっかり銘打ってあった。いつも通りの教室のはずなのに文化祭という非日常が溶け込んで雰囲気ががらりと変わる。
「それでは楽しんでいってください」
といって、名前を書いて行った俺たちに爽やかに案内するお兄さんに誘い込まれて中に入ると、そこには大学から最寄りの駅までの街並みが再現されたジオラマが広がっていた。
「ジオラマって言うからロボットアニメの背景とかそんなんだと思ってた......。こんなリアル路線でくるとは......。あ、一途のバイト先発見」
「ホントだ。俺らの住んでるアパートもあるぜ?」
「これじゃあ、プライベートもへったくれもったもんじゃないわね。いっくん」
どこか聞きなじみのある第三者の声に勝手に俺の言葉が紡がれていく。
「こんなの地図アプリとなんもかわんないすよ、店長。え、店長!?」
振り向くとそこには白シャツにライダースジャケットといういかつい私服を着こんでる店長がいた。
光る頭部も相まってまじでいかつい。
「ハァイ、いっくん。それに、あなたはいっくんの例のお友達ね」
「どうも......。どうして、店長さんがここに?」
「こうみえてもこの大学のOBでもあるし、あたしのお気に入り店員のいっくんの大学先だから久しぶりに見に来たくなっちゃった」
「そうだったんすね。入学からお世話になってたのに全然知らなかったすよ」
店長と話していると周りがざわめきだす。展示警備をしているジオラマサークルの何人かが耳打ちしあっている。すると、一人が店長に話しかけてきた。
「あの、もしかしてジオラマサークルの伝説、鬼頭さんですか? 昔、白シャツにライダースジャケットを着てるけど緻密で繊細な作品を作るって言う先輩がいたって話を聞いて......」
「懐かしいわねぇ......。鬼のような形相でジオラマを作る主将だからジオラマの鬼頭......。ホントの名前は藤宮虎徹っていうんだけど......」
藤宮って名前はコンビニの名札で何度も見たけど、下の名前まじでいかついな。
「ああ、ここにいた。藤宮さん、言われてたポップコーン買ってきましたよ......ってあれ、君たちは」
藤宮店長を追いかけてきたのか、少し汗ばんだ表情でポップコーンを二つ抱えるきれいに整った下あごのひげが特徴的な大人のイケメン、鷹野仁が俺たちを見つめる。出来立てのポップコーンの入った陽気な袋とは真逆で、鷹野仁はとても冷たい顔をしていた。
「ひとしちゃん! ごめんね、勝手に回っちゃってて」
「いえいえ、いつものことですから......。小田倉くん、だったよね? 君、この学校なの?」
「まあ、そうです」
「藤宮さんと同じだなんて面白いね。可愛がられるわけだ」
「鷹野さんは違うんですか? たしか、後輩って言ってた気が」
「それは仕事のね。大丈夫だよ、君たちを取って食おうだなんて思ってないから。怖がらないで」
怖いわけじゃない。ただ、独特の不気味さがそこに合って彼の感情が読めないんだ。ハルも俺の腕にしがみついている。こんなところで鷹野仁、いやジンさんに出会うとは思ってもみなかった。まあ、この大学の講演会イベントに参加するって話を押崎さんから聞いて、来るかもしれないとは思っていたけど......。
考えていると、鷹野がこちらに近寄ってきて耳元でささやく。
「君にハルちゃんは絶対渡さない。俺は、ジン。彼の恩人であり、一番のファンだ」
「ファンなのは、俺も同じです。俺が、『一途な一号』として推してきたハルを、あなただけのものにはさせない」
俺たちは互いににらみ合い、その存在を確かめ合う。
初めて現れた恋敵であるかのような感情がそこにはあった。
鷹野仁が直接敵対宣言をふっかけてきた。
そして、物語は急展開していく。




