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32:2人で一途を祝おう!

遥は自分の家になにげなく一途を招き入れる。

実は小田倉一途の誕生日が今日である9月20日ということだった。

久しぶりにオレの家に一途を遊びに誘った。

配信道具とか隠したい一心でいつもあいつん家で遊んでいたけど、もうその必要もなくなった。


「おまえ、エルちゃんっぽい服しか持ってないんだな」


「最近は外出ても変じゃない服も買ってるし」


「はい、メテオぉー」


オレの使っていたキャラがゲームの画面外に消えていく。一途は話しててもキャラのコントロールさばきは途絶えない。逆にオレは話しかけられると少しトチってしまう。


「一途、おまえオレより配信者向いてんじゃね?」


「いやぁ......。エルちゃんに褒められるなんて照れますなぁ」



俺の何気ない一言でも一途はなんでも喜んでくれているように感じる。俺と「神野エル」、二人は同一だけど全然違う。それでも、あいつにとっては俺=エルなのかもしれない。もやもやした感情を晴らすためオレはもう一度一途に挑戦することにした。


「もう一回だ!」


「受けて立とうじゃないの! 今度はピンキィつーかお」


「丸いピンクの悪魔だけは勘弁してくれ」


「そういえば遥、今日はやけに誘ってきたけどなんかあんのか?」


「ん? ああ、まあな」


今日一途を遊びに誘ったのは理由がある。なにを隠そう、一途の誕生日である。あいつもああやってとぼけているが内心分かっているはずだ。そして誕生日プレゼントとしてサプライズも用意してある。押崎さんにも協力してもらってる。大丈夫、きっとうまくいく。


ゲームが再開されて何度も何度も一途の使うふわふわ浮かぶピンクの悪魔を切りつける。ブーメランを投げても回避されるし、弓を打っても避けられる。


「こいつ、戦いの極意を知り尽くしている!?」


「まだまだだね。体当たりからの吸い込みぃ~!!」


自分のキャラが吸い込まれていく。吐き出されると一途のキャラの形態が変化して俺の技をコピーしていた。これが一番厄介だ。どれだけ頑張っても天才的なゲームセンスは努力ではどうにもならない。小手先の操作では補えない才能......。やっぱり一途はオレより光るものがある。オレは顔がいいだけでいろんな人にちやほやされてきた。それは自分でも分かってる。それ以上に一途は友達の数は少なかったけど、常に笑顔が絶えず、面白いやつだと話題になっていた。


「はい、また俺の勝ち~」


対戦終了画面と共にオレの使っていたキャラが一途いっとのキャラに拍手を送っていた。ほんと、こいつの強さの秘訣はなんだ? 少し嫉妬してしまう。


一途いっと、おまえなんでそんな強いんだよ。友達いなかったくせに」


「ちゃんといたわ。お前より少なかっただけだし! でも、お前が引っ張り上げてくれたから高校で腐らずに済んだのかもな」


「うれしいこと言ってくれるじゃねえか、このぉ!」


オレは一途の頭をクシャクシャと犬のように撫でた。一途との最初に出会った時もこんな風にスキンシップから始めたっけ。一途は嬉しそうにしながらもオレの手を掴んで嫌がる。


「やめろって! 俺は犬でもなんでもないぞ!」


「これがオレのコミュニケーションなんだよ。 おまえはそして脇が弱い! いっけー!!」


オレが一途の脇をくすぐると一気に形成が逆転、一途の力が抜けてオレが彼を押し倒す感じになってしまった。


ガチャ......。


唐突に扉が開く音がした。あ、もしかして押崎s......。


「あ、あ......。お楽しみ中すみませんでしたぁーーーー!」


「え? 押崎さん、なんで?」


「違うって! 誤解だって押崎さん!」


オレと一途は勢いよく飛び出していった押崎さんを呼び止めてとりあえず家に入れて気持ちを落ち着かせた。


「すみません、ごちそうさまです......。あ、いや何も見てないです」


「まずは落ち着いてくれる?」


俺はケトルに入ったお茶をコップに入れて押崎さんに手渡した。隣にいる一途も少し混乱しているようだ。二人で遊ぶ約束だと思っていたところに突然押崎さんが来たのだから当然だろう。


「ふぅ......」


「なんか嫌な落ち着き方だけど、なんで押崎さんが来てるの? 俺聞いてないんだけど」


一途が可愛げもなくふくれている。こんな変な感じ誕生日だなんていいにくい。


「それは......。もう言ってもいいよね、遥くん?」


押崎さんはコップを両手に持って目を潤ませていた。確かにもう「サプライズ大作戦」どころじゃないもんな......。


「オレから言うよ。一途、今日お前誕生日だろ。だから3人で祝おうと思ってサプライズしようと思ってたんだ」


「ええ? そうだったのか!? 自分一人でケーキでも買って帰ろうかと思ってたけど、そんな寂しい思いをしなくてすみそうだな」


「一途くん、お誕生日おめでとう!」


押崎さんから平べったいプレゼントとケーキが渡された。プレゼントの包装を開けるとそこには見たことのない衣装を着たエルちゃんとエルちゃんのサインが入っていた。


「これって、新衣装?」


「そう! 私が衣装考えたんだ! どうかな、猫耳アイドル系にしてみたけど」


「素晴らしい!! 初期からあるネコのイメージを踏襲しつつ、エルちゃんのより輝かしい可愛さが映える赤系にまとめている。赤は割とキャラのカラーで描かれることが多いからね。後はスカートの長さもちょうどよくエッッな感じでよきですね。こんどの配信はこれで行くの?」


長文お気持ち表明がくるとは思っていたけど、意外と控えめだったな......。正当な評価をしているみたいでよかった。誕生日プレゼントも喜んでもらえてよかった。


「ああ、友達特権の先行お披露目だ。サインはオレ直筆だからな」


「そっか......。鷹野って人にはまだ見せてないのか?」


一途が少し顔を近づけて話をしてきた。

鷹野? もしかして、ジンさんのことか?


「鷹野って鷹野たかの ひとし?」


「ああ。コンビニで一緒に働いてて、話聞いたらお前のこと知ってるみたいだったから......」


なるほど、別にジンさんということは知っているわけじゃないけど探りを入れたいみたいだな。


「いや、その人にはまだ見せてない......。そっか、あの人が」


少しほっとしたような顔つきになったと思うと、今度は押崎さんがオレ達に近づいてきたので一途は顔をこわばらせていた。ほんとこいつ、コロコロ表情変わって面白いやつだな。


「何の話? もしかして、私抜きでお楽しみしようとしてた?」


「いやいや、誕生会は3人でやろうよ。ケーキもあるし!」


一途に彼のことを言えるわけもない。当然、押崎さんにもだけど......。あのコミケで出会った人がオレの憧れで恩人のVtuberジンさんだってことなんて言っていいわけがない。オレは押し黙るしかなかった。あの人が、この街にいる、そう考えると胸の高鳴りと不安が同時に襲ってきた。

二人の関係やいかに......。

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