1.きっとお父様が、正しいから。
甘々になるまで、少しずつです。
二人の距離を縮めるために、応援よろしくです!!
――時間はさかのぼって、昨夜。
ボクたち九条家と、篠宮家は食事を共にしていた。
合流した円も席について、楽しく談笑する。とはいっても、場慣れしているのは篠宮家の二人だけ。ボクを含め、九条家の三人は高級料理に震えていた。
「ヤバい。肉、柔らかぃ……」
なにこれ、本当にお肉ですか?
そう言いたくなるほど柔らかいステーキを口に入れながら、ボクは両親たちの話に耳を傾けていた。するとその時、会話に入れていなかったもう一人が話しかけてくる。
「あの……リュウヤさん。先ほどは、その……」
か細い声でそう言った円は、ゆっくりと頭を下げた。
どうやら、改めて感謝を伝えてくれているらしい。律儀な子だ。
身近な同年代の女の子、といったら明日葉みたいなガサツなタイプしか知らない。そんなボクにとって、円の対応はとにかく新鮮だった。
「うん、どういたしまして!」
なので、最大限の笑顔で応える。
すると円は顔を赤らめ、小さくうつむいてしまった。
どうにも恥ずかしがり屋な印象を受ける、というよりも自信が感じられない。なにかを口にしようとするのだけれど、適切な言葉を常に吟味しているようだった。
瞬きが多くなっている彼女を急かすような真似はしない。
ボクは、笑みを絶やさずにこう伝えた。
「大丈夫。ゆっくりでいいからね?」
「え……」
その言葉に、円はびっくりした顔をする。
でもすぐに意味を理解したようだ。また顔を赤らめて小さく、
「あ、ありがとう、ございます……!」
消え入りそうな声で、そう言うのだった。
でも今回はうつむくことなく、ボクに向かって儚げな花のような笑みをみせる。吸い込まれそうなその表情に、ボクは思わず息を呑んだ。
――可愛い。
その言葉が脳裏に浮かび、そして埋め尽くしていった。
それほどまでに、円の柔らかな微笑みは魅力的。
「あの、リュウヤ……さん?」
「あぁ、うん。大丈夫」
「……?」
しかし、本人はそのことに気付いていないらしい。
無自覚な魅力に撃ち抜かれそうになるのを必死にこらえて、ボクはまた笑った。すると、そんなこちらの会話を聞いていた人物が一人いたらしい。
それは――。
「ふむ。円が心を開くとは、珍しいな」
彼女の父――篠宮源三郎だった。
髭を撫でながら、どこか悪役っぽい笑みを浮かべて彼は言う。
「面白い少年だ。……どれ、一つ提案しようか」
「提案、ですか……?」
反応したのは、父さん。
というか九条家の三人はみな、首を傾げた。
そんなボクたちに源三郎さんは、ニヤリと口角を歪めて告げる。
「リュウヤくんと娘の円、将来は二人に婚姻を結ばせよう」――と。
◆
「許婚、って本当にあるんだ……」
ボクは昨夜のことを思い出して、思わずそう呟いた。
源三郎さんの突飛な提案だったのだが、うちの両親は二つ返事で了承してしまったのだ。もうノリノリで。こちらの意思など関係なく。
当然ながら、円も寝耳に水だったわけなのだが……。
「円は、意外と冷静だったよね……?」
ボクは人気のない校舎裏で、件の彼女に問いかけた。
時季外れの転校生――どうやら篠宮家が働きかけたらしい――こと、円は緊張した面持ちでボクのことをジッと見つめている。
いや、冷静というのは少し違うのかもしれない。
ボクは言葉を探して、少女にこう訊ねた。
「えっと、円は嫌じゃなかったの?」
「…………」
すると彼女は、ほんの少しだけ考えてから。
「分かりません」
短く、そう言った。
分からない、とはどういうことだろう。
ボクは思わず首を傾げてしまった。すると、
「きっと……」
服の裾をキュッと握りしめて。
円は、小さな声で――。
「お父様の方が、正しいから……」
そう、漏らすのだった。
「正しい、から?」
その言葉に、ボクは違和感を覚える。
正しいとはどういう意味だろう。
誰かと付き合う、結婚する、というのに重要なのは本人の気持ちではないのか。たしかに昔は両親が決めた結婚相手、という話も多かったかもしれない。
でも、なんだろう。
円のいう正しい、という言葉。
それは、婚姻を容認していることとはまた別の意味がある、そんな気がした。
「えっと、まど――」
「あ、チャイム……」
だけど、それを確かめるより先。
休み時間の終わりを告げるチャイムが、校舎に響き渡った。
「あ……えっと、失礼します……!」
それに呼応するように、円は慌てて戻って行ってしまう。
ボクはそんな彼女の後姿を見送って、少し考えた。
円のいう、正しい、という言葉の意味を。
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