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4/10

1.きっとお父様が、正しいから。

甘々になるまで、少しずつです。

二人の距離を縮めるために、応援よろしくです!!







 ――時間はさかのぼって、昨夜。

 ボクたち九条家と、篠宮家は食事を共にしていた。

 合流した円も席について、楽しく談笑する。とはいっても、場慣れしているのは篠宮家の二人だけ。ボクを含め、九条家の三人は高級料理に震えていた。



「ヤバい。肉、柔らかぃ……」



 なにこれ、本当にお肉ですか?

 そう言いたくなるほど柔らかいステーキを口に入れながら、ボクは両親たちの話に耳を傾けていた。するとその時、会話に入れていなかったもう一人が話しかけてくる。



「あの……リュウヤさん。先ほどは、その……」



 か細い声でそう言った円は、ゆっくりと頭を下げた。

 どうやら、改めて感謝を伝えてくれているらしい。律儀な子だ。

 身近な同年代の女の子、といったら明日葉みたいなガサツなタイプしか知らない。そんなボクにとって、円の対応はとにかく新鮮だった。



「うん、どういたしまして!」



 なので、最大限の笑顔で応える。

 すると円は顔を赤らめ、小さくうつむいてしまった。

 どうにも恥ずかしがり屋な印象を受ける、というよりも自信が感じられない。なにかを口にしようとするのだけれど、適切な言葉を常に吟味しているようだった。


 瞬きが多くなっている彼女を急かすような真似はしない。

 ボクは、笑みを絶やさずにこう伝えた。



「大丈夫。ゆっくりでいいからね?」

「え……」



 その言葉に、円はびっくりした顔をする。

 でもすぐに意味を理解したようだ。また顔を赤らめて小さく、



「あ、ありがとう、ございます……!」



 消え入りそうな声で、そう言うのだった。

 でも今回はうつむくことなく、ボクに向かって儚げな花のような笑みをみせる。吸い込まれそうなその表情に、ボクは思わず息を呑んだ。


 ――可愛い。


 その言葉が脳裏に浮かび、そして埋め尽くしていった。

 それほどまでに、円の柔らかな微笑みは魅力的。



「あの、リュウヤ……さん?」

「あぁ、うん。大丈夫」

「……?」



 しかし、本人はそのことに気付いていないらしい。

 無自覚な魅力に撃ち抜かれそうになるのを必死にこらえて、ボクはまた笑った。すると、そんなこちらの会話を聞いていた人物が一人いたらしい。

 それは――。



「ふむ。円が心を開くとは、珍しいな」



 彼女の父――篠宮源三郎だった。

 髭を撫でながら、どこか悪役っぽい笑みを浮かべて彼は言う。



「面白い少年だ。……どれ、一つ提案しようか」

「提案、ですか……?」



 反応したのは、父さん。

 というか九条家の三人はみな、首を傾げた。

 そんなボクたちに源三郎さんは、ニヤリと口角を歪めて告げる。





「リュウヤくんと娘の円、将来は二人に婚姻を結ばせよう」――と。









「許婚、って本当にあるんだ……」



 ボクは昨夜のことを思い出して、思わずそう呟いた。

 源三郎さんの突飛な提案だったのだが、うちの両親は二つ返事で了承してしまったのだ。もうノリノリで。こちらの意思など関係なく。

 当然ながら、円も寝耳に水だったわけなのだが……。



「円は、意外と冷静だったよね……?」



 ボクは人気のない校舎裏で、件の彼女に問いかけた。

 時季外れの転校生――どうやら篠宮家が働きかけたらしい――こと、円は緊張した面持ちでボクのことをジッと見つめている。


 いや、冷静というのは少し違うのかもしれない。

 ボクは言葉を探して、少女にこう訊ねた。



「えっと、円は嫌じゃなかったの?」

「…………」



 すると彼女は、ほんの少しだけ考えてから。



「分かりません」



 短く、そう言った。

 分からない、とはどういうことだろう。

 ボクは思わず首を傾げてしまった。すると、



「きっと……」



 服の裾をキュッと握りしめて。

 円は、小さな声で――。





「お父様の方が、正しいから……」





 そう、漏らすのだった。



「正しい、から?」



 その言葉に、ボクは違和感を覚える。

 正しいとはどういう意味だろう。


 誰かと付き合う、結婚する、というのに重要なのは本人の気持ちではないのか。たしかに昔は両親が決めた結婚相手、という話も多かったかもしれない。

 でも、なんだろう。


 円のいう正しい、という言葉。

 それは、婚姻を容認していることとはまた別の意味がある、そんな気がした。



「えっと、まど――」

「あ、チャイム……」



 だけど、それを確かめるより先。

 休み時間の終わりを告げるチャイムが、校舎に響き渡った。



「あ……えっと、失礼します……!」



 それに呼応するように、円は慌てて戻って行ってしまう。

 ボクはそんな彼女の後姿を見送って、少し考えた。




 円のいう、正しい、という言葉の意味を。



 



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