第九話 bestia…!
日本 神奈川 地下基地内―― A.M11:48 11月 28日
「俺が死んだ筈の人間?」
「……」
冗談? そう感じている。そうであってくれ。そう願っている。
しかし、不思議と…もう驚きもしない。寧ろまだマシに感じる…。
「俺が仮に死んでたとしたら……」
「俺の体は天使、なのか?」
率直な疑問。俺が死んでいるんならば…当たり前だが俺は孤児院にも、今、此処にもいない筈だ。
なのに…俺が生きている? おかしな話では無いだろうか?
俺は、少し間を開け、違う問いをした。
「俺が死んだって証拠……あるんだろ?」
「……勿論だ」
俺の心臓の鼓動が早まる。呼吸も荒くなってくる。
“もし、本当に死んでいるなら、今の俺は、誰なんだ?”
その疑問が思考を駆け巡り、より気分を気持ち悪くさせる。
今思えば…この事実ような嘘かもしれない話を…俺は耐えている。
厳しく、おぞましい真実を、受け入れて尚且つそれに抗う。
……考えてみればそうやって人間は強くなっていたんだろう…先人達は…そうやって生き、朽ちていった。
一人で思考の渦に入っていれば、彼から声が掛かる。それに反応する。
「これは……?」
「かつての“災厄”の死傷者、及び行方不明者のリストだよ」
おぞましい数の資料のページ数。
その上、開いて見れば、死因と名前、生年月日、そして顔写真と遺体が貼られた物であった。
「……君の名前は確か、加賀リョウだったか」
ピラピラと一枚一枚ページをめくる。
そうすると……やがて一枚のページに辿り着いた。そこには……
「……!?」
――――自身の生年月日、及び当時…十四歳であった時の顔写真、そして、『加賀 リョウ』と書かれ、死因が書かれた1行と“遺体の写真”が貼られてあった…。
――死因・全身の皮膚を貪り食われたと思われ、死亡。
「……!」
本当、だった。辿り着いた真実は余りにも酷く、残酷である。
心が砕けそうになる。
(心が人間でも、体は……)
そう考えていると…死にそうになる…。体が震える。呼吸がおかしくなる……。心臓の鼓動がより早く…
「グゥッ……!」
耐える。耐える耐える耐える耐えろ。
必死。その一言。胸を押さえ、蹲る。
「ハァッ……! ハァッ……!」
何とか耐えた。何時の間にか手を床につけていた。汗もかいている。
「大丈夫かね?」
「大丈夫だ……」
「では、続けよう……」
遠のきそうな意識。止まりかけている思考回路。最早意味を成さない心のタガ。
それでも、聞く。真実は、知るべきなのだから、何とか聞く。
「“特異天使”……その存在は、“使人”の逆に至る……」
「使人になるのは、天使が人間を食らって直ぐに意識があれば、何万分の一の確率でなれる物だ」
「“特異天使”は逆、天使が人を完全に、骨も食らい、取り込んだ後になる可能性がある」
「そうなる理由は、人を食らいきった、或いは取り込みきった天使は稀に“暴走”するのだよ……」
「そして暴走を終えた結果、そこに天使の意思は無い例がある。食われ、取り込まれた筈の人間の意思で動く天使……。それこそが“特異天使”」
「これに至る可能性は……恐らく、何億分の一位だろうな……」
この話が本当ならば、自分の本来の体は、無いのだろう。
なら、この体はやはり天使……いや待て、それだと辻褄が合わないでは無いか?
「ま、待ってくれ!」
「……。」
「おかしいだろ……」
「……と言うと?」
疑問と言う疑問を彼に伝える。
「……“特異天使”になった人達の確認はしてるって事だよな?」
「そうだが?」
「何でこの資料に……」
「……俺の遺体の写真が付いてるんだ?」
「……」
俺は、死者・行方不明者及び使徒化・特異天使化した人物リストを彼に見せた。
事実、特異天使と化した人物のリストには遺体写真が“貼られていない”のに対し、
リョウの所だけ、骨だけとなり、肉の一部が付いた遺体写真が貼ってあるでは無いか?
――その答えは
「……フフ……そうだな、その通り」
「?」
「君は…何故人間であれるかと言うその意味……」
「その遺体こそ、君が人間である証拠だよ……」
人間であれる、証拠。
その言葉に、戸惑いと、喜びが入り交じった変な感情が湧き上がる。
「そして……君は――」
刹那、その瞬間、サイレン音と共に警報ランプが一斉に光り、音が鳴り出す。
『警告! 警告! 地上にて天使を2体観測!』
『迎撃隊、及び、“使人部隊”は、直ちに戦闘準備に移れ! 繰り返す!……』
甲高いサイレン音と女性の声が耳に響き、トウマは耳を押さえている…。
アスカ達は、意気揚々と、戦いに備えて準備運動……? をしている。
俺は、彼を見つめる。
「……天使!?」
「どうやら……」
「“真実”を告げるのは、戦いが終わってからのようだな……」
『天使の認識名、階級、判明! 一体は“バルディエル”!』
『もう一体は、“ガギエル”と判明! 階級は何方も“中位三隊”、“力天使”と判明!』
狂気は満ちた。
新たなる争いを始めよう。




